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リシアンの契約 ~呪われた世界と聖なる夜の仔~  作者: 水森已愛
第三章 『リシアンの契約α』 ~アフター・エンドロール編~
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第1話 “愛染” ~幸せの花は咲く~

「――リシアン! 」


「…うわ!」


突然の声に振り向いた瞬間、誰かが抱きついてきた!


「――なんだお前、ぼくに会いに来たのか!」


そういって、嬉しそうににっこり笑ったのは――。


絹のような白髪に、灰ががかった青の瞳。

陶磁器とうじきのようにすべらかできれいな肌――。


――もしかしなくても、リキアだった。


(ええ、え?)




ぼくは混乱する。――リキアがなんでここに?

いやそもそも、リキアってこんなキャラだったっけ?


「――ふふ、言わなくてもわかってるんだからな! 可愛いやつだ!」


そう言って、ぐりぐり、とぼくの頭に頬ずりするリキア。


びっくりしすぎて口を開いたり閉じたりするぼくに、

彼女は、うむ、とうなずいた。


「――そうだろう! 久しぶりだからな!

 ――うん、なんだ?

 鳩が豆鉄砲まめでっぽうを食らったような顔をして?


 ――ああ、そうか、説明がまだだったな。


 ぼくは、常闇の世界の過去で、ルキウスの妹として生まれ、

 仲睦なかむつまじく、平穏へいおんな日々を過ごした。


 篠姫あのおんなは相変わらず、気に食わなかったけどな。

 ……でも、ぼくはそれなりに幸せだったぞ!」


それなりに、と口では言ったものの、

ほんとうに嬉しそうに、甘い笑顔をはじけさせたリキアに、

ぼくは不覚にも、どきん、としてしまった。


同時に、花のみつのような香りが、ふわりと漂ってきて……。


――あ、あれ? リキアって、こんなに可愛いかったっけ――?!



「……? でもきみ、なんで生きて――」


確か、無事、天寿てんじゅをまっとうしたとか、

篠姫しのひめさんは言っていたような――。


「なんでとはなんだ? ぼくが生きてちゃ悪いのか?」


「……い、いや、とんでもないよ! ……そんなんじゃなくて……」


ただ、心配だった。

あれほどぼくや、お兄さんを憎んでいたリキアが、幸せに暮らせたのか。

それだけが、すごく、気がかりだったんだ――。


「……まあ、いいけどな?

 どうせぼくは、嫌われて当然のことをしたわけだから。

 ……でも、お前が望むなら……」


言って、急にもじもじとしたじたリキア。


「――? リキア、トイレ?」


「――そんなわけないだろ!! まったくお前はデリカシーがないな!

 せっかく、このぼくが、転生してまで会いに来たのに!!」


いきなり怒りだすリキアに、ぼくはまた動揺どうようする。


「――転生?!」


「――ああ。

 そもそも、こちらとあちらの世界の定義は、そんなには変わらないんだ。

 まちまちだが、色々なやつが生きたり死んだり、生まれ変わったり。

 

 お前みたいに、あちらとこちらを行き来したりできるやつも、

 ちらほらいるみたいだな。


 ――まあ、もちろん、こっちでは、

 12王なんて制度もないし、魔法ひとつ使えないけどな――」


「……いや、魔法は……あるよ」


「――なにか言ったか?」


「ううん、なんでもない。ただ、よかったなって」


この世界にもう、あんな風な呪いはないのだ――。


――でも、魔法まで、なくなったわけじゃない――。

ぼくはあの時、確かに紫緒を呼び出し、

超常ちょうじょうの力を使った。

もちろん、一回限りの反則技はんそくわざだったけれど――。


リクさんが教えてくれた。

琥珀こはくの機械王である彼の、新しい発想と指先が、

ひとつの魔法となったように……。


きっと、この世界でも、ぼくらにできることはある。


予想でしかない。ちゃんとした根拠こんきょはない。

でも、ぼくはそう信じたい……。


この世界にも、魔法は存在すると。


ぼくは、想像する。

あの世界はきっと、この世界のすべてを符号化ふごうかした世界。


あの世界での呪いは、

この世界でぼくたちの生まれもった因果いんがあかしで、


あの世界の魔法もまた、

この世界でぼくらがさずかった祝福を、わかりやすくしたもの――。


ならば、ぼくのすべきことは……。


思索しさくにふけりかけたぼくに、

リキアは、驚くほど明るい笑顔で言った。


「じゃあ、カラオケ行くぞ、リシアン!

 ちょうどまったくもって偶然、割引クーポンが手に入ったんだ!」


「……え?!」

リキアとカラオケ?!


「なんだ? 嫌とは言わせないぞ?

 これでも、今まで、色々と我慢してきたんだ。

 そのツケは払ってもらうぞ」


「……う……っ。」

そう言われると弱い。

ぼくはあちらの世界で、幾度いくどとなく、

リキアに余計よけいなお節介せっかいをしている。


上から目線で何様だ! とか思われてても、ぜんぜんおかしくない。


あの時はただ、リキアを救いたい一心で……。

そう、後先考えず、情熱のまま、突っ走っていたのだった。


「……ぼ、ぼくでよければ……」


ようするに、全面敗訴ぜんめんはいそだった――。



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