第1話 ~蝋燭(ろうそく)の灯しびと~
ぼくのお義母さんは、魔法使いだった。
「リシアン、おまえは私の血を継いでいる。
洗礼の呪いはおまえに力を与えた。おまえは私の子だ。リシアン――」
眠りにつくぼくに、
必ずそう言って髪を梳いてくれた、やさしいお義母さん。
枯れ木に花を咲かせ、枯れ地に生命を芽吹かせ、
弱った鳥を羽ばたかせ、濁った池を美しく澄ませた 、
ぼくの自慢の義母さんは、死にゆくときにぼくに語った。
「人を呪うなかれ。 ……人を恨むなかれ。
おまえは私の子で、おまえは私の宝だ。
いつまでも、笑んでいておくれ。
病めるときも、悲しいときも……。
おまえだけが、私のひかりなのだから――……」
そうかすれ声で言うと、激しく咳き込んだ――。
「――そんな顔をするな……」
苦笑したのだろう。
お義母さんの目元と口元が、ちいさく緩んだ。
「――契約だ。リシアン。
私の探し物をみつけておくれ……。
さすれば、さすれば……」
ごぼっ。
咳をしたお義母さんの口から、赤黒い液体がこぼれた。
お義母さんの、生命はもう、その身体から羽ばたこうとしていた。
「やだ。いやだ――。ぼくをひとりにしないで……!」
ぼくの叫びは、もうお義母さんには聴こえていなかった。
お義母さんの手がだらり、と力を失ったとき、ぼくは決めた。
ぼくは、魔法使いになる。
お義母さんの……いや、お母さんの力を受け継ぐ、
蝋燭の灯しびととして、お母さんの探しものを、みつけてみせる。
喉から引き絞るような咆哮が、ほとばしり、ぼくはその瓶をたたき割った。
鮮血と混じり合い、唐紅の煙とともに生まれ出たのは――……。




