第3話 ~聖夜の晩餐~
「……ふう、うまかったな」
口ではそう言いつつ、
どこか残念そうに、ナイフとフォークを置いたメイサに、
おれは疑問をよこした。
「なんだ、もう食わんのか」
「いや、もういい。これで充分だ」
「嘘をつけ。物欲しそうな目をしているくせに」
「……む。仕方ないだろう、その……ダイエット中なのだ」
「お前がダイエットだと? 嘘も休み休みいえ。
色気より食い気のお前が、なにをいう」
「……むか。失礼だな。
わたしはこうみえて、体調管理には気を使っているのだぞ?」
王だからな、と胸を張るメイサをスルーし、おれは言う。
「言うほどか? 見た目的にはたいして変わらんが」
「いや、本当に太ったのだ」
ちょっぴりしょんぼりして、小さくなるメイサ。
「何キロだ?」
「……っ、三キロほど……」
忸怩たる思いなのだろう。指先を強く握るその姿は……。
おれは溜め息をつく。
「――なんだ、じゃあみせてみろ」
「……は?」
ずい、とおれが近づくと、ずさっ、と素早く後退された。
「……なんだ。太ったのだろう?
触診してやるから、みせろと言っている」
「別の意味に聞こえるぞっ!」
「そのままの意味だが?
それとも、おれがなにか、やらしいことをするとでも?」
「絶対するくせになにを言う! もう騙されないぞっ!
あなたは、一見ストイックなようで、どエロだろう!!」
「――心外だな」
そういうつもりはないのだが……。
ふしゅー!
と野良猫のように、警戒されたので、
そうそうに諦めた。
……ふん。
まあ、身持ちがかたいのは、良いことだからな。
貞淑であれとは言わないが、
多少、恥じらってくれたほうが、そそるというものだ。
「なにを考えているのだっ! やらしいぞっ!! 」
ガードのつもりか、クッションを抱きしめてぴーぴー言っているので、
おれはちょっと意地悪を言ってやる。
「いつまでもガキみたいにわめくな。自分が何才か把握しろ」
もういい大人だろう? と囁くと、目にみてわかるほど赤面する。
「……なっ……!」
予想通りだ。
聡いメイサは、
言外の意味に思いあたったらしく、泡をくっている。
「……あっ……あなたが……わたしを大人にしたのだろう……っ」
やけくそ状態で、小声で訴えるメイサに、
おれはそれみたことか、とにやりとする。
「聞こえんな?」
「き……っ聞こえてるくせに……っ!」
いよいよ拗ねる準備に入っているので、別の角度から攻める。
「あの時お前は、すでに成人していたと思うが?」
「……くっ……いらぬ揚げ足取りを……!
だからあなたはいやなのだっ! ねちっこいし、嫌みだし!」
意地悪だし、不遜だし……、ねちっこいし!」
などと、延々(えんえん)と、抱きしめたクッションに向かって、
ぐちぐち呟いているので、
(……もはや突っ込むまい)
おれは、その身体をばふんと引き寄せる。
「――……なっ……!」
「――なんだ。やっぱり、全然太っていないではないか」
その腕も、足も。
ほっそりと、しなやかな弾力を返す。
その抱き心地と、瑞々(みずみず)しく、
吸い付くような肌を堪能してから、おれは言った。
「……これなら」
「――あと二キロぐらい増えても、問題はないな?」
「……あっ、あなたは……」
横抱きにされたまま、恥じらいからだろう、
顔を隠すメイサの頭に、キスを落とすと。
――さて、どう料理してやろうか……。
おれはさっそく、美味しく頂く算段を決めていたのだった。
――聖夜の晩餐は、これからだ。




