第8話 ~ナイトメアは語らない~
すべて、すべて思いだした……!
ぼくの涙は溢れた。
思い出してしまった……もうひとりのぼくのことを……。
涙を拭うと、そこは病院のベッドだ。
ネームプレートには、ああ――ぼくの名前が書いてある―。
<夜宮涙花>。
それが、ぼくの、この世界での名前――。
目の前のひとが、慌てたように話しかける。
「お前、どうしたん?!」
太陽を集めたような、明るい琥珀色の髪に、
ひとなっつこい丸みを帯びた、コンタクトレンズの青い瞳。
背は小さい。年齢は、確か大学生ぐらい。でも、かなり、童顔だ……。
琥珀の機械王――リク・アズマ……、――いや、東山陸さんだ。
「なんでいきなり泣くん? 俺なんか変なこと言ったか?!」
困惑のあまり、わたわたとしている彼をよそに、ぼくは言う。
「思い出してしまったんです。
宵闇の世界に火を灯す、蝋燭の灯しびと、リシアン。
そんなの、最初からいなかった。ぼくは、ただの夜宮涙花――。
先月骨折して、この夜ヶ丘病院でお世話になることになった、
ただの12才。
なにひとつ、力を持たない、強いていうなら自閉症の子ども。
気づくんじゃなかった……蝋燭の灯しびと? 魔法使い?
――誰がだよ!! ぼくはただの涙花なのに――!!!」
悔しさのあまり、掴んだシーツをぐしゃぐしゃにする。
あれも嘘だった。
これも嘘だった。
ぜんぶぜんぶぜんぶ、ぼくの妄想だったんだ……っ!!
「――違うで」
「……っ?!」
「それは違う。リシアン、お前のみたものは幻なんかじゃない。
夢でも、妄想でもない。あの世界は、この世界の裏側や。
宵闇の世界、終わらない夜の物語……。
あれは、この世界のもうひとつの顔で、真実の世界や。
俺もそうだった。あの世界で生きていた――。
王として。男として。ひとりの人間として――。
そして、お前がここに帰ってきたんは、自分の使命を果たすためや。
この昼の世界、現実の世界にもある――
夜の呪い<ナイトメア>を解くため……。
――もうわかるな? お前は、この世界でも火を灯すんや。
蝋燭の灯しびと、<涙花>として……」
そう静かに語ったリクさんは、
破顔して、ぼくの髪をくしゃくしゃにした。
「――がんばりぃや。俺も、見守っとる。
なにせ俺は、琥珀の機械王<お前の友達>やからな――!」
ぼくの心のなかに、すとん、となにかがおちた。
それは、やわらかにその衣をとかして、
やがて、花火のようにはじけた。
赤い、赤い、閃光をまいて――。
ぼくのこころには、蝋燭が灯った。
それは、真青いほのおを弾けさせ、ぼくに教えてくれた。
――まだ、物語は終わっていない。
決着を、つけよう。
終わらない夜の世界に、さよならのキスを。
そして、はじまりの鐘を鳴らし――、
ぼくは、立ち向かう――。
残酷な現実に。
そして今度こそ、取り戻す――。
ぼくたちの未来を。




