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リシアンの契約 ~呪われた世界と聖なる夜の仔~  作者: 水森已愛
第二章 『リシアンの契約Ⅱ』
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第8話 ~ナイトメアは語らない~

すべて、すべて思いだした……!


ぼくの涙は溢れた。

思い出してしまった……もうひとりのぼくのことを……。


涙を拭うと、そこは病院のベッドだ。


ネームプレートには、ああ――ぼくの名前が書いてある―。


<夜宮涙花>。


それが、ぼくの、この世界での名前――。


目の前のひとが、慌てたように話しかける。


「お前、どうしたん?!」


太陽を集めたような、明るい琥珀こはく色の髪に、

ひとなっつこい丸みを帯びた、コンタクトレンズの青い瞳。

背は小さい。年齢は、確か大学生ぐらい。でも、かなり、童顔だ……。


琥珀の機械王――リク・アズマ……、――いや、東山陸さんだ。


「なんでいきなり泣くん? 俺なんか変なこと言ったか?!」


困惑のあまり、わたわたとしている彼をよそに、ぼくは言う。


「思い出してしまったんです。

 宵闇の世界に火を灯す、蝋燭の灯しびと、リシアン。

 そんなの、最初からいなかった。ぼくは、ただの夜宮涙花――。


 先月骨折して、この夜ヶ丘病院でお世話になることになった、

 ただの12才。

 なにひとつ、力を持たない、強いていうなら自閉じへい症の子ども。


 気づくんじゃなかった……蝋燭の灯しびと? 魔法使い?

 ――誰がだよ!! ぼくはただの涙花なのに――!!!」



悔しさのあまり、つかんだシーツをぐしゃぐしゃにする。

あれも嘘だった。

これも嘘だった。

ぜんぶぜんぶぜんぶ、ぼくの妄想だったんだ……っ!!


「――違うで」


「……っ?!」


「それは違う。リシアン、お前のみたものは幻なんかじゃない。

 夢でも、妄想でもない。あの世界は、この世界の裏側や。

 宵闇の世界、終わらない夜の物語……。

 

 あれは、この世界のもうひとつの顔で、真実の世界や。

 俺もそうだった。あの世界で生きていた――。

 王として。男として。ひとりの人間として――。

 

 そして、お前がここに帰ってきたんは、自分の使命を果たすためや。

 この昼の世界、現実の世界にもある――

 夜の呪い<ナイトメア>を解くため……。

 

 ――もうわかるな? お前は、この世界でも火を灯すんや。

 蝋燭の灯しびと、<涙花>として……」


そう静かに語ったリクさんは、

破顔はがんして、ぼくの髪をくしゃくしゃにした。


「――がんばりぃや。俺も、見守っとる。

 なにせ俺は、琥珀の機械王<お前の友達>やからな――!」



ぼくの心のなかに、すとん、となにかがおちた。


それは、やわらかにその衣をとかして、

やがて、花火のようにはじけた。


赤い、赤い、閃光をまいて――。

ぼくのこころには、蝋燭ろうそくが灯った。

それは、真青いほのおを弾けさせ、ぼくに教えてくれた。



――まだ、物語は終わっていない。


決着を、つけよう。


終わらない夜の世界に、さよならのキスを。


そして、はじまりの鐘を鳴らし――、


ぼくは、立ち向かう――。


残酷な現実に。


そして今度こそ、取り戻す――。



ぼくたちの未来を。




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