番外編 ~DAWN WORLD - やがて夜明けは訪れる~
……シ……
ーーシ……
なんや…?
なにかが聞こえる。
暗闇を裂くような、鮮烈な光が差し込んだ。
――……“ヒガシ”!
勢いよく差し出されたその手を、俺は取った…
「“俺”……?」
目の前に飛び込んできたのは、必死な顔をした、青年だった。
その顔に覚えがある。
「せつや……?」
せつやは、泣き出すのをこらえるように、眉をしかめると、
俺の頭をばしん、と叩いた。
「……っテ」
「……“ッテ”じゃねえよ……」
ばかやろう、とせつやは言った。
懐かしい顔。もう何ヶ月も――、
何年も会わなかった気さえする、俺の親友。
俺は、この世界にかえってきたんだ――。
「……夢をみたんだ」
「……は?」
目の端を、ごしごし拭っていたせつやは、問い返した。
夢をみたんだ。
その世界では、12の色の国と、12人の王がいて。
そこに迷いこんだ俺は、いつしか琥珀の機械王と呼ばれ。
現実世界で培った科学技術で、
動物たちと水晶の国を、最先端の機械で彩り。
生きて、生きたのだ。
「……はは」
帰ってきたことが、“残念”だなんて。
――傑作だな。
戻ってきたいとは、不思議と思わなかった。
俺は……確かにあの世界で生きていたのだ。
王としての生活は、
俺のすべてを塗り替えるように眩しく、その心を高鳴らせた。
たくさんの人々と話した。
あの常闇の世界を、少しでも暮らしやすくするための、
千もの策を、夜通し討論した。
酒を酌み交わし、未来を語った。
この世界の技術を、あの世界でも使えるモノにしたい……。
その情熱が、俺を高ぶらせた。
どこまでも、どこまでも飛べる気がした。
……あの世界は、もうないのだ。
俺は、自分の手を仰ぎみた。
指先からこぼれる光の粒。
俺の希望、俺の望んだもの。
それは――。
「……せつや」
「……なんだよ」
「会社を作ろう。俺とお前、そしてみんなで。
最先端の技術を途上国にも行き渡るようにしたい。
――できれば、10年以内に」
「――いきなりだな。……まあ、お前らしいぜ」
苦笑したせつやは、俺のこぶしに、
その一回り大きなこぶしを合わせた。
夢をみていたんだ――。
その世界には、俺の求めたすべてがあって。
そこに紛れこんだ俺は、魔法使いと約束をした。
『――契約をしないか。
貴方はきっとわたしの国を、朝焼けに導く王になる。
呪いのない、平和で、豊かな国にすることができる。
魔法など、なにひとつ必要ない。
なぜなら、貴方の、その新しい発想と、
繊細な指先こそが、ひとつの魔法なのだから――』
俺は、こぶしを握った。
続きは、この世界にある。
なぜなら、きっと、あの常闇の世界こそが、
この世界の真の姿<リアル>であり、
もうひとつの顔<ダブルフェイス>なのだから――。
俺の、太陽の国は、終わりはしない。
長い夜の物語の、続きをみよう。
やがて来る朝焼けを、この世界に咲かすのだ。
そう、あの少年のように……。
俺も、この世界に火を灯すのだ――。




