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リシアンの契約 ~呪われた世界と聖なる夜の仔~  作者: 水森已愛
第二章 『リシアンの契約Ⅱ』
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第5話 ~愛と憎しみは果てなく~

青い羽衣をまとった、うら若き乙女のような天女……。

――それが、ぼくが青の神――

篠姫之神しのひめのかみに抱いた感想だった。


「あなたが……青の神――……?」


凛とした眼差まなざし。

薄く紅をさした頬は、瑞々(みずみず)しくて愛らしい。


唇は色づいたばかりの、花のように可憐かれんで、ちいさい。

瞳は薄紅色で、髪は鮮やかな桜色をしている。


青の神というより、花の神――春の神といったほうがしっくりきそうだ。


ぼーっと魅入みいっていたぼくは、頭を振った。


そうじゃない。ぼくのすべきことは――……。


「ルキウスさんと契約したのはあなたですか――?」



『答えは、じゃ』


どこか、からかうように、彼女は肯定こうていする。


『ただし最初の契約――……契約もどきをしたのはわらわではない。

 記憶もなにひとつ奪っておらん』


くすくすと笑いだす彼女を、はじめてぼくは、きつく見据みすえた。



「なにがおかしいのか、ぼくにはわかりません」


『おう、怒った怒った。まことわらしじゃの。

 神に善性ぜんせいを求めるか。いかにもヒトらしい考えじゃ。

 物事はすべて陽陰一体おんみょう・いったい


 わらわも例外ではない。光にして闇。

 表にして裏。陽にして、陰じゃ。

 ――なのにどうしてか、

 ヒトはわらわたちを、きものとしてしか、とらえん。


 ――なげかわしい。

 そのような理想を押し付けられて、わらわたちが黙っているとでも?


 ――白の神の話を、聞いたろう?


 あやつは、欠落けつらくの神。

 洗脳の才で、民を支配することしか能のない、阿呆あほうじゃ。


 いや、それだけではないか。

 無色の神は、それゆえ何色にもなれる。それこそ青色にも……な』


おうぎで口元を隠し、

婉然えんぜんと微笑んだ、青の神はうつくしかった。


『なるほど――……ありがたい、青の神……いや、母上。

 ご助言じょげんいたる』


『まあなまあな!! よしよし、粉雪はまこと、可愛らしい』


うって変わって、とろけそうな表情で、ルキウスさんに頬ずりする青の神。


『あの汚らしい醜女しこめとは大違いじゃ』


その瞳にあやしい光を灯した青の神に、青の王はため息をついた。


ぼくは驚きを持ってたずねる。


粉雪さん――つまりルキウスさんは青の王で、そのお母さんが青の神――?


それじゃあ、リキアは――?


『赤の他人、いや、白の他人というべきか。

 白の神の娘が、そういった名前をしていたかの』


?マークを浮かべたぼくに、青の王――ルキウスが助け舟を出す。


『初代12王たちの秘密――それはふたつの真名を持っていることじゃない。

 それぞれの神の血をひいているということなんだ。

 神の子としての名と、人の子としての名。


 だからこそ、王たちは超常の力を持ちながらも、

 現世げんせで生きることができるんだ。


 そして……リキアは――白の王により、

 記憶を失ったまま、ぼくのところにやってきた。


 泣きながらさまようリキアを、ほっては置けなかった。

 だからぼくは、妹として彼女を迎え入れ、彼女の兄でありつづけた――』


『じゃが、そなたは白の神に騙された。

 もともとリキアに記憶を抜いてよこしたのも、

 病のようにみせかけ、時を止めたのも、策略さくりゃくじゃな』


「それを知っていて、なぜ……!」


思わず感情的になったぼくに、青の神は、言った。


『――つまらなかったからじゃ』


どこか、吐き捨てるように――……。



『粉雪は、血の繋がったわらわより、そのみすぼらしい白の娘を愛した。

 わらわの怒りがわかるか?

 同じ目にあわせてやりたいと思うのも当然じゃろ?


 あんな醜い小娘が、粉雪の寵愛ちょうあいを受けるなど、

 この母の誇りにかけ、許すまいよ』


そういって唇をつりあげる青の神に、

青の王は、しかしなにも言わなかった。


「どうして黙っているんですか? ルキウスさん。

 篠姫さんもです。どうして……、そんな悲しいことを……」


『わからんじゃろうな。――無垢むくなそなたには。

 ヒトという生き物は、皆がみな、そなたのように、

 清くうつくしく、生まれ育つわけではない。


 ――ぼん、憎しみを知れ。

 愛を知るごとに、そなたには憎しみが満ちるであろう。

 それは表裏一体の、がんのようなものじゃ。

 何人なんぴとたりとも、その呪いからは、逃れられぬ……』


そういって、霧のように消えてゆく青の神に、ぼくは叫んだ。


「待って、待ってください!!

 それじゃあ、ルキウスさんはどうなるんです――?


 あなたはリキアとルキウスさんだけに、罪を背負わせようとしている――!

 それは、いけないことじゃありませんか?!」


『さあな。

 善悪など、所詮しょせんはヒトの世界の尺度しゃくどにすぎぬ。

 わらわは、わらわのしたいことだけする。

 民を導くなど、酔狂すいきょうな白の神にでも、

 任せておけばいいのじゃ――』


そういって、今度こそ青の神は姿を消した。

後に残されたのは、うなだれるように頭をれた青の王と、

ぼくと、眠ったままのリキアだけ――……。



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