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リシアンの契約 ~呪われた世界と聖なる夜の仔~  作者: 水森已愛
第二章 『リシアンの契約Ⅱ』
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第3話 ~ひとつの悪が芽吹くとき~

「ぼくはただの魔法使い……<蝋燭ろうそくの灯しびと>だよ」


そういって微笑みながら、まるで誇らしげにめ事を言うように、

唇に指をあてたリシアンに、ぼくは言った。


「なにを……お前なんて、なにも知らないくせに……。

 教えてやろう。ぼくがお前の先祖にしたことを。

 ぼくの罪を知ってなお、お前はそんな綺麗ごとがいえるかな―?」



――――――――――――――――――――――――――――――







ぼくとおにいちゃんは、年の離れた兄妹だった。


ぼくは生まれつき、老人のようなみにくい白髪で、

おにいちゃんは、月の精のようなうつくしい銀髪だった。


それでも、おにいちゃんだけはぼくをあわれむことも、

気味悪がることもなかった。


いつも一緒だったし、ケンカひとつしたことが無かった。


それどころか、たまに離れたときにぼくがいじめられると、


いつだってヒーローのように駆けつけて、助けてくれた。


ぼくの自慢のおにいちゃんだった。



だけど、そんなある日、ぼくは奇病にかかった。


ぼくの体は7歳のまま育たなくなり、


おにいちゃんはぼくの体を治すため、青の神と契約し、青の王となった。


ただし、そこには致命的ちめいてき欠陥けっかんがあった。


契約の代償は、おにいちゃんがぼくを忘れることだった。


そう、おにいちゃんはだまされたのだ――。



ぼくは、その後2年、体だけはすくすくと育った。


だけどおにいちゃんは、ついにぼくを思い出すことなく、

とある孤児を引き取った。


みなしごルチア、禁じられた森に捨てられた、罪子つみごルチア。


不遇ふぐうな身の上ゆえか、おにいちゃんの愛を一身に受け、

うつくしく愛らしく育った彼女が、

おにいちゃんをひとりじめするのに、そう時間はかからなかった。



ぼくははじめて、運命を呪った。


いや、おにいちゃんを呪ったのだ。


やさしく清らかなおにいちゃんの体が、

その瞬間、ひどく汚らしいものに思えた。


一番汚らしいのはぼくだと、ぼくは素直に認めることが出来なかった。



そしてぼくは、今度こそ、運命に呪われた。



『こんな身体、時など止まったままでいい!

 ルキウス・イデアに呪いを!!

 ぼくを苦しめた青の神よ、落ちぶれて後悔するがいい!!』


そう叫んだその時、お前よ、と話しかけてきたものがいた。


『お前よ、白の王になる気はないか。

 その見事な白髪、欠落した心――。

 素晴すばらしく、我に相応ふさわしい。

 

 我はあまねく子らの父、白の神だ。

 民をたばねよ、リキア。多くの魂を支配し、存分に呪え。


 ――我は全にして不全、善にして偽善の神。お前に力をやろう――。』



白の神から授けられた力は、愚かな人々を魅了し、導く力だった。


代償は、永遠に死なず、大人にもなれないこと。


つまりは、ていのいい不老不死だった。


好都合、とぼくは思った。


ぼくは白の神との盟約めいやくにより、迷える群衆をまとめ、

白の聖王として、当時一部の地方に伝わっていた、

ゾロアシュトラ教を参考に、ひとつの宗教を作った。


それが今の帝国統一宗教、聖カトリキア教だ。


これまで散々に虐げられてきたぼくが、

がめ奉られ、ひれ伏されるのは気分がよかった。


性別を隠し、聖カトリキアの大司教となったぼくは、

少なくとも表面上は、素晴らしい君主くんしゅを務めていたと思う。


だが、心の奥底には、自分を裏切った兄や、

その原因となった、青の神への復讐心をつのらせていた。



ある日、聖ルチアなる女が、世間を騒がせていることを知った。


聞けば、


「すべての人々には聖なる星が宿っている。

 その星々を磨き、清めるお手伝いをさせてください」と神に祈り、


聖女として聖なる力を得たという。


民衆は、彼女こそが聖王女だ、メシアだ、

と感謝感激し、崇拝しはじめているという。



ぼくはいらだった。


ぼくを差し置いて、メシアだと?


気に入らない。


それにルチアという名がさらにぼくの激情に火をつけた。


兄が我が子のように可愛がっていたみなしごの、

憎たらしいほど愛らしい姿が、何度もフラッシュバックし、

何度も悪夢をみた。



兄が、ぼくを指していう。


『なんという醜い姿だ。

 老人のように白い髪、うす暗い青の瞳。

 なんでお前なんかをかばってやったんだろう。


 ――ほら、ルチア、見なさい。あれがぼくの“妹だった物”だ――』


けらけら、と兄が可笑おかしそうに笑う。

抱きかかえられたルチアが、けたけた、と人形のように笑う――。



憎い、憎い――!


この世界のすべてが。


聖ルチア。まずはそいつをぼくの前に引きずり出して、

むちで打ち、そのけがわらしい頭をみつけてやろう。


ああ、たのしい。


その日が楽しみだ――。



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