第2話 ~すべての呪いが朽ちるとき~
「自分が正しいと思ってるんだろう――……?!
自分は真っ白な羊で、善人で、いい子だってな……!」
リキアが、噛みつくように――噛み殺すように言う。
「――ううん、そうは思わない」
ぼくは静かに、そう答えた。
「ぼくは確かに、“真っ白”かもしれない。
きれいで、やさしい、“善人”かもしれない。
だけど、ぼくはきみを傷つけた。
ぼくが正しくあればあるほど、きみを真っ暗闇に突き落とした。
そう、それが、ぼくの“ほんとうの罪”だ――」
リキアは、その時はじめて、声をなくした。
口を開けて、閉じた。
まるで、陸にあがった魚のように。
「だけど、“ぼくはきみに謝らない”。
“これ以上、きみに対して、誤らない”。
“これ以上、きみを傷つけない” 。
“少なくとも、なるべく”。
“きみをこれ以上、悪者にしないと誓う”。
だから、ねえ、リキア。
どうか、ぼくの過ちを許して―」
リキアは、正気に返ったように、その瞳を憎悪に染めた。
「許せ、だって? 誰がお前なんか許すものか。
お前は永遠に呪われるべき存在だ。
聖女の末裔……、
――いや、醜女の末路としてな!!」
「――ううん。ぼくのためじゃない。
きみがほんとうに許すべきは、きみ自身だ。
でも、犯してしまった罪は、けしてなかったことにはならない。
だからこそ、きみはきみ自身の手で、誰かを許すんだ。
もしそれができたなら――
“呪い”でなく“祝い”を、“憎しみ”より“慈しみ”を、
行うことができれば――……
きみはほんのすこしだけ、自分を許せるはずだ。
――それができたら、きっときみは、もう物語の悪者なんかじゃない。
普通の女の子として、生きていけるはずだ。
“白の聖王”なんかじゃない、
“呪われた姫君”なんかじゃない。
ましてや、ルキアやルキウスの偽物なんかじゃ、けしてない。
“きみは、“光<ルクス>のもとに生まれ出し、ただのリキア”だ――」
ぼくの胸から舞い出た、美しい青色鳥が、
ぴきゅるるる、と鳴きながら、リキアの頭のうえを旋回した。
宝石を砕いたような輝きが、リキアのまっしろな髪を、
冬の月のような、まばゆい銀色に染め上げる。
「“きみは、今から、誰でもない、<ほんもののリキア>だ!”」
そう微笑みながら言うと、鳥は消え、
後には、呆けたように口を半開きにした、リキアだけが残った。
「お前、これは、呪解……?!
いや、まさか、因果の上書きか…!? お前、一体何者なんだ…?!!」
混乱したように言うリキアの、
そのすっかり変わった、きれいな燻し銀の髪をみつめて、
ぼくは、もう一度微笑んだ。
「ぼくはただの魔法使い……<蝋燭の灯しびと>だよ」




