第1話 ~すべてに呪いあれ、ときみは望んだ~
「――誰もがお前みたいに、きれいでいられるわけじゃないんだよ!!」
そう叫んだリキアの表情は、悪鬼のような凄まじいものだったけど。
それでも、どこか泣いているようで。
ぼくは思った。
泣かないで。
どうか。
どうか……。
そんな悲しいことは言わないで。
言えなかった。
“しあわせの世界”を生きるぼくに、そんな残酷なことは。
そんな“きれいな”同情をしてしまったら、押しつけてしまったら。
今度こそ、リキアは壊れてしまう。
「……っ!」
ぼくは声を詰まらせ、手を伸ばし、その指を引きつらせた。
できない。
ぼくには、リキアを救うことなんて――。
「“お前なんか死んでしまえ”!!」
リキアの言霊が、ぼくに襲いかかった。
リキアの掌から飛び出た何万本もの鋭利な針が、
致死量の呪いを纏って……。
ああ、ぼくの喉笛を掻き切った――。
“お義母さん……”
「……そうは、させないでやんす……!」
ぼくを庇うように、猛然と踊り出た存在がいた。
「紫緒……!」
睨みつけるように、
その瞳孔が赤い燐光を纏ったのに、
かばわれたままのぼくは、もちろん気づかなかった。
リキアの毒針が、まるで石化するように、ひび割れてゆく。
「――ばかな……。
ぼくの魔術が……っ、ぅあぁあ゛ぁっ」
リキアの陶磁器のような肌も、みるみるとひび割れてゆく。
「“やめて、紫緒……っ”!!」
「……っ」
ちっ、と舌打ちして、紫緒はそれをやめた。
リキアの血走った瞳が、飢えた獣のように、
ぎょろり、とぼくと紫緒とを、行き来した。
「……くそ……っ、許さない、許さないからな……!!
絶対に……、絶対に殺してやる……!!」
そう吐き捨てたリキアは、錆びた赤の煙と共に、姿を消した―-。




