第0話 ~夜色の来訪者~
あれは、いつの誕生日だろう――。
ぼくは泣き疲れ、壊れた人形のように座っていた。
お母さんも、お父さんも、
帰らぬひととなったことを、すでに聞いていた―。
亡くなったわけは、幼いぼくにショックを与えないためか――、
聞かされなかったし、どうでもよかった。
ぽっかりと空いた穴は、ぼくのたましいさえ飲み込んで、
疑問と正気の代わりに、絶望と虚無をもたらした。
やがて、ぼくという抜け殻に、黒々とした恐怖が満ちるころ。
その扉は叩かれた。
どんどん! どんどん!
木造の扉は大きく軋み、悲鳴のような激しい音を立てた。
とうとう、死神がやってきた!
ぼくは、がたがたと震えた。
どんどん!
どんどん!
どんどん!
……ぎいい。
ドアが開いた!
ぼくの足は震え、もう立つこともできない。
死神は、夜色のフードを深く被り、ぼくに近づいてきた。
死神は言った――。
「――おまえを迎えにきた。遅くなってすまない。
ずっと、探していた……おまえは、わたしの子だ、リシアン……」
言って、死神は…・・いや、そのひとは、ぼくを抱きしめた。
夜色のフードから、長く艶やかな漆黒の髪がのぞいていた。
その瑠璃色の瞳は潤み、星のように輝いていた。
それに呼応するように、フードの表面が、きらきらとまたたく。
(きれい――……。)
夜空を写したような、それをしばらくみつめたぼくは、そっと目をとじた。
ぼくに伝わるわずかな震えが、そのひとのおそれを伝えていた。
きっと、このひとは、ほんとうのことを言っている。
ぼくを、探してくれた。求めてくれた――。
幼心に、そう思った。
フードからこぼれ落ちた、つめたい雨の雫が、ぼくの肩を濡らした。
ぼくの両目からも、生暖かいなにかが溢れ、
そのまま、つうっと頬を伝った。
「うん――……」
ぼくは、ずっとずっと、このひとを探していた――
――そう思ってしまうほどに。
『悲しみの夜明けは、ぼくにしあわせというマナをそそぎ、
その手のひらからこぼれ落ちたものでさえ、
きらきらとぼくの胸を彩った。
ああ、運命とはぼくのなかに満ちた、愛と嘆きの序章にすぎない。
幼きぼくがまだ知らないものがたりが、
今、ひそやかな産声をあげようとしていた――』




