表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リシアンの契約 ~呪われた世界と聖なる夜の仔~  作者: 水森已愛
第二章 『リシアンの契約Ⅱ』
12/51

第0話 ~夜色の来訪者~

あれは、いつの誕生日だろう――。


ぼくは泣き疲れ、壊れた人形のように座っていた。


お母さんも、お父さんも、

帰らぬひととなったことを、すでに聞いていた―。


亡くなったわけは、幼いぼくにショックを与えないためか――、

聞かされなかったし、どうでもよかった。


ぽっかりと空いた穴は、ぼくのたましいさえ飲み込んで、

疑問と正気の代わりに、絶望と虚無きょむをもたらした。


やがて、ぼくという抜け殻に、黒々とした恐怖が満ちるころ。


その扉は叩かれた。



どんどん! どんどん!



木造の扉は大きくきしみ、悲鳴のような激しい音を立てた。


とうとう、死神がやってきた!


ぼくは、がたがたと震えた。


どんどん!



どんどん!



どんどん!




……ぎいい。



ドアが開いた!


ぼくの足は震え、もう立つこともできない。


死神は、夜色のフードを深く被り、ぼくに近づいてきた。


死神は言った――。







「――おまえを迎えにきた。遅くなってすまない。

 ずっと、探していた……おまえは、わたしの子だ、リシアン……」


言って、死神は…・・いや、そのひとは、ぼくを抱きしめた。


夜色のフードから、長く艶やかな漆黒しっこくの髪がのぞいていた。


その瑠璃色の瞳は潤み、星のように輝いていた。


それに呼応するように、フードの表面が、きらきらとまたたく。


(きれい――……。)


夜空を写したような、それをしばらくみつめたぼくは、そっと目をとじた。


ぼくに伝わるわずかな震えが、そのひとのおそれを伝えていた。



きっと、このひとは、ほんとうのことを言っている。


ぼくを、探してくれた。求めてくれた――。


幼心おさなごころに、そう思った。


フードからこぼれ落ちた、つめたい雨の雫が、ぼくの肩を濡らした。


ぼくの両目からも、生暖かいなにかが溢れ、

そのまま、つうっとほおを伝った。


「うん――……」


ぼくは、ずっとずっと、このひとを探していた――

――そう思ってしまうほどに。





 『悲しみの夜明けは、ぼくにしあわせというマナをそそぎ、

  その手のひらからこぼれ落ちたものでさえ、

  きらきらとぼくの胸を彩った。


  ああ、運命とはぼくのなかに満ちた、愛と嘆きの序章にすぎない。

 

  幼きぼくがまだ知らないものがたりが、

  今、ひそやかな産声をあげようとしていた――』



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ