~第?話 過去と未来のぼくへ。~
「紫尾……。
ねえ、紫尾……――紫尾?」
「なんでやんすか、ひとが寝ているときに……」
「……紫尾は……。」
そう言って、ぼくは言いよどんだ。
「……うじうじしないで、ハッキリ言ったらどうでやんす」
「紫尾は……ぼくをひとりにしないよね……?」
ぽつり、と言ってしまってから後悔した。
「ごめん!なんでもない!」
泣き笑いのぼくに、紫尾は言った。
「――しないでやんす。おまえをひとりになんか」
「紫尾――、」
言いかけたぼくに、
慌てたように、いつもの「ぷふん!」をしてから、紫尾は言う。
「おまえは、まだまだ半人前で、危なっかしいでやんすからね!! 」
「――そっか。」
涙を拭って、ぼくは微笑った。
たとえ、この旅が終わるまでの――、
約束を果たすまでの関係だとしても。
ぼくは紫尾が相棒でよかった、と思う。
その思い出は、そのしあわせは、
きっと、ぼくのなかで、消えないあかりとして輝き続ける。
いつまでも、ささやかに、……ひそやかに。
「……紫尾」
「なんでやんすか」
「……“ありがとう”……」
それだけ言って、ぼくはそそくさと俯いた。
「……ふん」
紫尾は、それだけしか言わなかったけれど、
ぼくは、それで充分だった。
ぼくの頬に集まる、“うれしい”の気持ち。
なくさないように……たいせつに、この胸にしまっておこう。
いつか紫尾が、ぼくとの契約を満了したら……一体なにを贈ろう。
特別な……ぼくにしかあげられないものがいい。
これからの紫尾を、祝福してくれるような……、
この感謝を、両手いっぱいにして。
だから、未来のぼく、さびしくないよ。
きっと、思い出のなかで、ぼくの胸のなかで、
紫尾は生き続けるんだ。
そういったら紫尾は、ひとを死人にしないでほしいでやんす!!
とか言うんだろうけど。
ぼくはまどろみのなか、
もうすっかり嬉しくなってしまって微笑む。
きらきら、とその気持ちは、
夜空の星屑みたいに、心に降り積もっていった。
そうだね、過去のぼく。
暗闇にいるからこそ、星は輝いてみえるんだね――。




