中編
本日二回目の投稿です。
それは夏のある日のことだった。唐突に翔が語り出した。
「最近壁ドン流行ってるよね。だから、ちぃちゃんが壁ドンされないか心配だよ。ちぃちゃんを守るのは俺しかいない! ちぃちゃんのファースト壁ドンは俺のものだ!」
「は? 暑さで頭おかしくなった? 頭ドンしてくれば?」
「それでちぃちゃんが喜ぶなら」
「うわぁ」
もじもじとする翔に正直ドン引きだ。頭ドンなんて、壁に頭ぶつけてこいと言っているようなものなのに。
この幼馴染は手に負えない。翔に体当たりして、壁に背を預けた彼の股の間を膝でドンと打ちつける。男性の急所が近いが気にしない。むしろ年中発情期のソコは竦めばいい。だが、さすがは翔。予想外の反応をする。
「ちぃちゃんのファースト股ドンもらっちゃった」
何故か翔は頬を染めていた。恥じらうように照れる場面だったのだろうか。
「解せぬ」
「あ、昨日の晩はちぃちゃんで抜いたよ!」
「……もげろ」
何故、私は幼馴染の自慰まで報告されなければならない。
「昨日はちぃちゃんのブラジャーが透けてたから、すごく興奮しちゃった。それを思い出しつつね。ピンク可愛かったよ!」
「え。昨日透けてたの?」
「うん! だから番犬頑張ったよ!」
昨日はやけに翔がうっとおしくまとわりついてくると思ってたら、守ってくれてたんだ。嬉しい。……いや、そもそも言ってくれたらいいじゃん。
「ちぃちゃんのブラジャー、ピンクかぁ……」
あぁ、こいつ見たかったんだな。とりあえず鼻血を垂らすヤツの頭をしばいておいた。なぜこんなヤツにドキッとしたんだ。バカ!
その上翔は、私のささやかな胸を見てキリッと言った。
「ちぃちゃんの胸は俺が育てるから! 安心して!」
「その手の動き、やめて」
モミモミと手を動かす動作にふぅとため息をついた。つくづく手に負えない幼馴染だ。
翔はよく家に来ている。幼い頃から一緒にいるので当たり前のことになっていた。もちろん今日も来ている。
私は新作のゲームを買ったばかりだ。今ゲームがいいところで非常に気になるが、今は宿題をやらなきゃいけない。そこで役に立つのが翔だ。
「ゲーム進めておいて」
「分かった! ちぃちゃんのためなら!」
「それでさっきから体そんなに傾けて何してんの?」
「ちぃちゃんが胡座してるから、パンツ見えないかなって」
帰宅して制服のまま、無意識に胡座をしていたようだ。慌てて足を直す。まったく、油断できやしない。
「ちぇ。あっ、そうか! 本人に聞けばいいんだ! ちぃちゃん、パンツ何色?」
呆れ果てて言葉が出ないとはこのことか。
「ごめん、想像したら鼻血が」
翔はティッシュを両鼻に詰める。そしてキリッとした顔で私を見る。翔がどんなに凛々しい顔をしていても、両穴からティッシュがはみ出ている。
「俺は白いパンツ希望なんだけど、ちぃちゃんが黒いパンツはいてるかもしれないと思うと鼻血がとまらなくなったんだ」
「いや、報告してこなくていいから!」
「ちぃちゃん、それでパンツは何色? 形は? レース? リボン?」
「さっきより質問が悪化してるけど!」
頭が痛いとはこのことか。もちろん、パンツを教えるつもりはない。
「あっ、ごめん! ふんどしだった? かぼちゃパンツかもしれないよね。そ、それとも大人なTバック……? 紐パン? ス、スケスケパンツ!? だめだよ、ちぃちゃん! 俺たちにはまだ早いよ!」
「……とりあえず黙ろうか」
辞書で翔の頭を殴って昏倒させる。よし、これで宿題が進む。ゲームが進まないのは残念だが、デメリットが多すぎる。翔が幸せそうな顔で鼻血を垂らしながら気を失っていたのは、見なかったことにした。