前編
私には面倒くさい幼馴染、翔がいる。見かけは爽やか少年なんだけどね、中身がいかんせん……残念だ。
「ちぃちゃん、今日も可愛いね!」
「あ、うん。どうも。鼻血ふけば?」
今日も来た。毎朝家の前で待ちかまえてご苦労なことだ。とりあえず、つぅっと垂れている鼻血が目障りだ。翔は鼻が弱いので、あらかじめ用意していたハンカチを渡す。すると翔はすんすんとハンカチを匂い始めた。うわぁ……、毎度これは引く。
「はぁ、ちぃちゃんの匂いがする」
「や、やめてよ前かがみになるの!」
「俺がちぃちゃんを思う気持ちに嘘をつけと!?」
「分かったけど、前かがみになる必要はないよね」
翔は舌を出してウィンクした。これはあれか、てへぺろのつもりか。
「自然現象です」
あー、もうヤダこんな幼馴染。それなのに、なんだかんだで翔をかまわずにはいられない。翔がいる生活が当たり前なのだ。
「ちぃちゃん。このハンカチ、今日のおかずにしていい?」
「うっわ、ひくわー。本人に聞く? もうそれ返さなくていいから」
「ちぃちゃんの虫けらでも見るような目、興奮する」
ハァハァと息荒く身をくねらせている姿にゾッとする。ドMか。いい加減鼻から垂れているものをどうにかしてほしくて、ポケットティッシュを投げつける。
「まず鼻血とめろ」
「ティッシュもくれるの!? これで夜も完璧だね!」
「違う! 今すぐその鼻血を止めろ」
どうしてすぐ下ネタになるんだ! こんな幼馴染、もうヤダ。
翌日も家の前でハチ公よろしく私を待っていた。翔のキラキラした目を見て、嫌な予感がした。これまでの経験から、それを外したことは未だない。
「ちいちゃんのソックスになりたい」
「うげっ」
なんというマニアックな願望をもってるんだ、翔は。
「なんでかって言うとね」
「理由聞きたくない」
「ちいちゃんの足をペロペロしたいからです!」
「うわー、言ったよ、言っちゃったよ、この人」
聞きたくないと言ったのに、たいした爆弾を落としてくれたものだ。
「ちいちゃんのその足に踏まれたいなぁ。きっと気持ちいいだろうなぁ」
「お巡りさんこの人です」
あぁ、もう。連行されてしまえ。想像して鼻血出すのも前かがみになるのも、いい加減にしろ!
そんな翔の話題はいつも尽きることはない。むしろ尽きてしまえばいいのに。
「昨日、夢を見たんだ。ちぃちゃんを押し倒してディープキスすると、ちぃちゃんが顔を赤らめて『きゃぁ、あ……』って言って、すごい興奮した!」
「へぇ……」
私がそんな可愛いセリフを言うと思うのか。あり得ない。
「それでね!」
またまた嫌な予感しかしない。直感が私に訴えている。
「夢精しちゃった」
「報告するな! あと鼻血ふけ!」
なぜ、私が幼馴染の夢精事情まで知らなきゃいけないのか! おかしいよね?
精通の日も同じように知らされた。その時はまさか夢精のことまで報告してくると思っていなかった。私が原因らしいが……。う、嬉しくなんかないんだからね! いかんいかん、翔に毒されてる。気を引き締めないと。