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Re:サイクル  作者: yuu
〈2.地雨〉
7/7

{マイ side}

「マイって、なんか偉そうだよね」

それは突然のことだった。



私、梶田マイがこの中学に転校してきたのは、二年の時。

私はパパの仕事の関係で、小学三年生の頃からアメリカで暮らしていた。

いわゆる帰国子女ってやつだ。

まぁ、アメリカで暮らしていたとは言っても、両親ともに日本人だったため、もちろん日本語も普通に話すことができた。



日本の中学で初めて仲良くなったのは、キョウコとメイだった。

「アメリカってどんな感じ?」

「英語ペラペラなんだね!」

最初はそんな風に、二人とも帰国子女の私に興味津々だった。

でも、どんどん日が進むにつれて、二人の態度は冷たくなっていった。

そして、修学旅行も無事に終わった秋頃のこと。

「マイってさ、なんか偉そうだよね」

トイレに入っている時聞こえた、それはキョウコの声だった。

「うん。英語の問題でも、私たちが分かんないって言ったら、バカにしてくるし。自分が帰国子女だからって、私たちのこと見下してるんだよ」

一緒になって聞こえてくるのも、やはりメイの声だ。

「そうそう。それに、これ可愛いよねって話振っても、私は嫌いとかっていうし。ちょっとぐらい話合わせなよって思わない?」

「わかる!」

私は耐え切れなくなって、トイレを飛び出した。

「ずっと私のこと、そんな風に思ってたの?」

「マイ!」

二人は一度驚いた顔をしたけど、すぐに顔を見合わせて、無言でトイレを去って行った。

それからの毎日は、ただただ孤独に過ごすしかなかった。

キョウコやメイ以外のクラスの女子も、必要以上に私と話そうとはしなかった。



三年生になって、新しいクラスはメイとは離れ、キョウコと同じになった。

私は多分、無意識のうちに、キョウコのことばかり見ていたんだと思う。

「話しに行かないの?」

突然の背後からの声に驚いて振り返ると、そこには千早つぐみが立っていた。

千早つぐみは、かわいくて、頭が良くて、明るくて、優しくて、いつもクラスの中心にいるような、私とは対照的に友達の多い子だった。

「千早さんには関係ないじゃん」

いつもの悪いクセだった。

大抵のひとが、こういった態度に呆れて私の元を去って行った。

そのことが分かっているのに、クセというのはなかなか直せないもので、私は自分をどんどん嫌いになっていった。

「ねぇ」

垂れ下がっていた左手に、温もりを感じる。

「梶田さん、私と友達になってよ」

彼女の笑顔が、まぶしかった。

「ずっと梶田さんと友達になりたかったんだ」

その手はとても温かかった。



それから私は、自然と千早に引っ張られ、彼女が仲のいいグループに馴染んでいった。

「みんな、デパートの中に新しくできた雑貨屋さん知ってる?」

「あ、知ってる!」

「あそこ可愛いよね!」

「私も前に行ったけど、そんなに好きじゃなかったな」

さっきまでの賑やかな雰囲気は、私の一言で消えてしまった。

「あ、ごめん」

過去の経験から、私はだいぶ臆病になっていた。

でも、そんな私をフォローしてくれるのは、いつだって千早だった。

「イエス、ノーがはっきりしてるのは、外国の特徴だよね。私もこの雑貨屋行ったけど、どっちかっていうと、前からある一階の雑貨屋の方が好きだよ」

千早と目があって、彼女がニッコリと笑う。

「マイは?」

「私も」

千早はいつだって私を優しく助けてくれる。

私は、そんな千早が大好きだった。

だから、千早があんな状態になってしまった時も、自分からできる限り話しかけに行った。

千早が私にしてくれたように。



卒業式の日。

「千早」

「マイ」

「…卒業、寂しいね」

「うん」

「私、千早と別れたくないな」

「…私も」

「千早、中央 受けるんでしょ?」

「うん。マイは、前期で西高受かったんだよね」

「そう、国際科。将来も、英語の使える仕事につきたいから」

「そっか」

この日は風が強くって、朝には満開だった校庭の桜も、式の後にはだいぶ散ってしまっていた。

「もう帰るね。ばいばい、マイ」

一気に涙がこみ上げた。

向けられた背に、私は精一杯に叫んだ。

「千早!中央、受かったら教えてね!」

千早は一度私を振り返って微笑むと、またゆっくりと歩き出した。

「千早、ごめんね…」

千早には届かない、小さな声だった。



県立高校、後期選抜の合格発表の日。

昼食を済ませて自分の部屋に戻ると、私のケータイがチカチカと光っていた。

ケータイを開けてメールを確認すると、由佳利たちの合格を知らせるメールが入っていた。

どうやら、みんな受かったらしい。

そして画面をスクロールさせると、最後に彼女の名前があった。


差出人:千早つぐみ

>中央高校、受かったよ。


私はケータイを握りしめたまま、声を殺してしばらく泣き続けた。





>マイ、ありがとう。



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