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Re:サイクル  作者: yuu
〈2.地雨〉
5/7

〈4.村雨〉

月曜の夜。

俺は、中学時代の友達に電話をかけていた。

三回ほどのコールで電話がつながる。

z『はい』

『もしもし、俺、諒平だけど』

『ああ、諒平!久しぶりだな!』

『久しぶり。あの、いきなりで悪いんだけどさ、中学の時に塾一緒だった菊池って覚えてる?』

『覚えてるよ』

『お前、あいつの連絡先知らない?』

もちろん、あの事を調べるためだった。

由佳利にもユミにも聞けない。

それなら、それ以外のルートで調べて行くしかなかった。

菊池とは、前に由佳利のアドレス帳で見かけた知り合いのことだ。

中学自体は違ったけど、塾が同じでそれなりに話したりしていたから、割と覚えている。

『知ってるよ。連絡先送ろうか?』

『ああ、ありがとう!』

『おう!』

電話を切って少しすると、すぐに菊池の連絡先が送られてきた。

すぐさまその番号に電話をかける。

しかし、そう何もかもうまく行くはずはなく、菊池は電話に出なかった。

そのため、俺は菊池にメールを入れておいた。


>中学の時、塾で一緒だった堀内諒平です。聞きたいことがあるので、電話できるようになったらメールください。


すると、それからほんの十分ほどでメールが返ってきた。


>堀内 久しぶり!今なら電話できるよ。


俺はもう一度、菊池に電話をかけた。

z『もしもしー?堀内?』

『うん。菊池 久しぶり』

『おー、ほんと久しぶりだな!それで、聞きたいことって?』

一度心臓が大きく波打った。

多分、緊張しているんだと思う。

『あの、さ。お前、千早つぐみって知ってる?』

人の名前を口にするだけで、こんなにも緊張するなんて、なんともおかしな話だ。

『ああ、千早?知ってるよ。中学同じだったし』

『じゃあ…』

ここからが本題だ。

『今、どこの高校行ってるかわかる?』

学校さえ特定できればこっちのものだ。

『あー、高校かぁ。あんま自信ないんだけど、千早なら多分、中央だと思うぜ?あいつ頭良かったから』

曖昧な返答だけど、手がかりには違いない。

『そっか。ありがと』

『いや、いいよ!ていうかさ、なんでいきなり千早?』

その質問にドキリとする。

『お前って北高だったよな?千早と知り合いなの?』

『いや、まだ会ったことはないんだけど、名前だけ…』

『へー!お前千早狙いかよぉ』

『違うって!』

相変わらずテンションの高い奴だと思った。

『本当かよー!』

『ほんとほんと。俺彼女いるし』

『まじで⁉︎そうなんだ!』

どうでもいい、男子高生の会話だった。

ここまでは…。

『そういや北高だったら、榎本とか三浦がいるんじゃない?』

いきなりの名前に驚きと疑問が残る。

『三浦?』

榎本は由佳利のことだから、もちろんわかる。

しかし、三浦は初耳だった。

『知らないの?三浦ユミ』

納得できた。

初めて会った時から、ユミのことは下の名前でしか呼んだことがなかったので、苗字を知らなくても、不思議ではなかった。

『あいつら、確か千早と仲良かったと思うけど』

『そうなんだ』

由佳利たちは"千早つぐみ"と仲が良かった。

初めて知ったことだった。

『あー、でも、最後はあんま仲良くなかったみたいだけど』

少し引っかかる話だった。

『最後?』

『ああ。多分、卒業前の三ヶ月くらい?』

『なんで?』

詳しく聞きたい話だった。

『さぁ?でも、結構 噂にはなってたかな。千早が榎本いじめてるとか、榎本が千早いじめてるとか。まぁ、あいつら学年でも目立ってたから』

いじめという言葉に、背筋がゾッとした。

"千早つぐみ"が由佳利をいじめていた。

由佳利が"千早つぐみ"をいじめていた。

どちらにせよ、それが真実なら、到底信じることなんてできない。

俺の知っている由佳利は、いじめもいじめられもするような人間には、とても思えなかった。

『俺は最後クラス違ったから、本当のことはよくわかんないんだけどな』

俺はこれから、何があっても、ちゃんと"千早つぐみ"について調べていけるんだろうか?

そんな不安に駆られていた。

『そうだ!』

菊池の突然の声に、心臓が飛び跳ねる。

『中学から一緒の、梶田マイって奴がいるんだ!』

『その人が、どうしたの?』

『梶田も千早と仲良かったんだよ。あと、多分、梶田は最後まで千早と仲良かったと思うぞ。卒業式の日に話してるのも見たし』

新たな手がかりだった。

『梶田に連絡とってみる?』

『ああ、頼む』

また連絡する。

そう言って菊池は電話を切っていった。

菊池のおかげで大分と助かった。

俺は菊池の連絡を待った。

新たな手がかりへの期待と不安で、なんだかとても変な気分だった。

突然、ケータイのバイブが鳴った。

z『もしもし!』

菊池からの着信だった。

『もしもし。あのさ…』

予想外の話だった。

『梶田が、お前と直接会って話したいってさ』

『え…?』

突然のことで、声にならない声だった。

『梶田の連絡先は送っとくから、あとはそっちでやってくれ』

苦笑い気味にそう言って、菊池は電話を切った。

最後に"梶田は性格キツイから気をつけろよ!"と、それだけ付け加えて。

俺は仕方なく、その梶田マイにメールを送った。


>はじめまして、堀内諒平といいます。


菊池に性格がキツイと言われたことが頭に残って、同い年と分かっていても、文面が丁寧になってしまう。

返信はすぐに来た。


>梶田マイです。早速だけど、いつなら予定が空いてるか教えてください。


向こうも敬語なのは、きっと俺に合わせてくれているのだろう。

それから俺たちは、何度かメールをやりとりして、水曜にファミレスで待ち合わせをした。



水曜日。

由佳利には"中学の時の友達と会う"と言って、放課後はそそくさと学校を出てきた。

待ち合わせのファミレスに着いて、梶田マイにメールを送る。


>着きました。


返信が来る。


>もう入ってます。西高の制服のままだから、すぐにわかると思います。一応、ドリンクバーの近く。


そのメールを見て、それらしき人を探す。

彼女の言ったとおり、割とすぐに見つけることができた。

テーブルに近づいていくと、彼女の少し釣り気味な目が俺に向いた。

「堀内諒平さん?」

スッと通る声だった。

「あ、はい。初めまして」

軽く会釈して、腰掛ける。

「何か注文します?私、ドリンクバー頼んでるんですけど」

「じゃあ、俺もドリンクバーにします」

店員を呼んでドリンクバーを注文し、コーラをコップに入れて、もう一度席に戻った。

染めているらしい茶色の髪はゆるく巻かれ、目元は綺麗に化粧が施されていた。

制服の着崩し方を見ると、割とギャルに近いのかもしれないと思った。

全体的な見た目も、菊池の言っていた通り、少しキツそうに見えた。

「ていうか…」

まずは梶田マイが口を開いた。

「同い年なんだし、タメでいいよ」

「わ、わかった」

突然で少し緊張する。

「それで、まず私から質問させてほしいんだけど」

いきなりの展開にびっくりした。

さっきも感じたことだけど、なにかと唐突な人だなと思った。

「どうして千早のことが知りたいの?」

俺は答えに戸惑った。

何と説明すればいいのか。

由佳利の名前を出してもいいのか。

そんな事を考えて答えに悩んでいると、しびれを切らしたのか、またも彼女が口を開いた。

「ごめん。ちょっと答えにくかったかもね」

この一言で、彼女の印象が少しだけ変わった。

「じゃあ、質問変えるね」

どうやら、それなりに融通はききそうだ。

「どこで千早のことを知ったの?」

この質問に答えるべく、俺はまたも頭の中に考えを巡らせた。

やはり"千早つぐみ"の話をするには、由佳利の名前は出すしかなさそうだった。

俺は心を決めて話し始める。

「俺、北高なんだけど、実は榎本由佳利と付き合ってるんだ」

「…そうだったんだ」

彼女はとても驚いた顔をしていた。

「それで、千早の名前は由佳利から聞いたの?」

「聞いた、わけじゃない。たまたま知ったんだ」

「…そう」

俺には、彼女が少し残念がっているように見えた。

「それで、由佳利の、千早さんの名前を聞いたときの様子がおかしかったり、その日からもずっと元気がなくて」

「なるほどね。それで気になって調べ出したってわけか…」

彼女は落としていた視線を俺に向けた。

「本当はね、千早にただの興味本位で近づこうとしてる奴なら、すぐに追っ払ってやるつもりだったの」

その言葉に心臓がバクバク鳴った。

なんともおっかない人だ。

「でも、そういうことなら邪魔はしない」

「それじゃあ、由佳利と千早さんのこと、教えてもらえないかな?」

このまま順調に事が進むと思っていた。

でも、それは俺の勘違いだった。

「それは無理」

即答だった。

どうやら彼女は、俺が思っている以上に厄介そうだ。

「え、どうして?」

「だって、私が全部話しちゃったら、何の意味もないじゃない」

彼女の言っている意味が、全く理解できなかった。

「堀内くんは、由佳利が大事なんでしょう?」

「うん」

少しズレた質問に驚く。

「それなら、やっぱり私からは話せない。由佳利のことを助けたいなら、ちゃんと自分で調べて。本当のことは、由佳利か千早から直接聞いて」

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