{ユミ side}
高校に入って、およそ一年と四ヶ月がたった日のこと。
『千早つぐみって人知ってる?』
初めてその名前を耳にした瞬間だった。
その一瞬で、まるで走馬灯のように、中学時代が脳裏を駆け巡った。
まさか、またその名前を耳にする時が来るなんて…。
心の焦りは抑えることができず、自然と息をするかのごとく表情に出てしまった。
"中学の時のただのクラスメート"
自分で放ったその言葉が、自分の心を容赦無く突き刺した。
早くこの場から立ち去りたい。
私はそそくさと彼に背を向ける。
彼の停止の声を遮り、最後に一言残して逃げた。
彼があの名前をしっていた理由。
それはきっと由佳利だと思った。
今日の朝、由佳利はいつもより元気がないように見えた。
そのことに気づいたのは、きっと私だけ。
私は由佳利と中学からの付き合いだけど、他のみんなは違う。
気づかなくても無理はない。
だから、もしも彼が、本当に由佳利を経由してその名前を知ったのなら、話の辻褄が合う。
だったら、私のすることは二つだけ。
『由佳利が本当に大事なら、その名前はもう忘れて』
教室に戻ると、みんなが私を笑顔で迎えた。
「あ、ユミ帰ってきた」
「遅かったねー」
「何してたの?」
「ごめん。友達と話してた」
みんなとは違う。
由佳利の笑顔が不自然だった。
「ねぇ、今日みんなで遊ばない?」
今は、由佳利と彼を、あまり会わせちゃいけないんだ。