表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
プロミステイク ~俺と彼女の中二病的恋愛遊戯~  作者: 阿津沼一成
第2章 サマータイム・ラプソディ
88/90

第88話 セイフクヨク

『け、経吾か?』


インターホン越しに届く園崎の声

それには若干の緊張が含まれていた


「ああ、俺だ」


そう簡潔に肯定の言葉を返す


『例のモノ…ちゃんと持ってきただろうな?』


「えーと、まあ、一応…」


俺は手にしたバッグに目を落とし、複雑な気分でそう答えた



昨日…

俺は姉の友人の一人、カスガさんとばったりと出くわした


そして、そこに偶然通りかかった園崎を加えた三人で、ちょっとした立ち話をしたんだが…


去り際に言ったカスガさんの一言に何故か園崎が過剰に反応した


俺の中学の時の制服が詰襟の学生服だった…ということを知った園崎は、『自分が見てないのはズルい』とかよく分からない事を言い出して…それがまだ家にありそうだと言ったら『絶対に見つけて』なんて言い出したのだ


結果からいうと、それは割とすぐ見つかったんだが…


今度は『それを持って明日、家に来い』なんて言ってきた


そんなわけで俺は今、腑に落ちない気分を胸に抱いたまま、こうして園崎の家まで来たという訳だ



門の向こうに小走りに近づいてくる足音が聞こえる


大きな門扉の隣に設えられた、人ひとり入れる位の通用門が開くと、そこから天使が…じゃなかった…園崎が顔を出した


「おお、経吾。待ちわびたぞ。…それがそうか?」


挨拶もそこそこに園崎は俺が手にしたバッグへと視線を向けた


「ああ、幸いカビも虫食いも無かったぞ」


俺がそう言うと園崎は満足げにニンマリと笑った


「くふ…それは重畳。まあ、立ち話もなんだ…入るがいい」

「お、おう…」


園崎に促され通用門の扉をくぐると、背後で自動的に扉がしまり錠の下りる音がした


いつもながら閉じ込められた感、半端無いな


いや、実際これを内側から開ける術を知らない俺にとっては閉じ込められたに等しいか…


「どうした経吾?行くぞ」

「あ、ああ…わかった」


俺は気を取り直して、園崎の背中を追った


・・・・・・・。


やたら広い玄関で靴を脱ぎ、階段を登って二階へと


そして園崎の部屋へと足を踏み入れる


相変わらず…いい匂いのする空気が満ちてやがるぜ


部屋の中央に置かれたテーブルの上にマンガ本やアニメ雑誌なんかがうず高く積み上げられてはいるが…ここが紛うこと無き女の子の部屋であることを、否応なしに嗅覚へと訴えてくる


俺は取り敢えず深呼吸してこの空気を肺の中一杯に取り込んだ


「経吾。早速だが…モノを改めさせて貰おうか?」


園崎の言葉でここに来た理由を思い出した俺は、肺からの女の子成分の摂取を中断する


「あ、ああ…これだけど…」


俺がバッグを差し出すと、受け取った園崎は待ちきれないとばかりに中身を引っ張り出した


「おおお…これが詰襟の学生服…くふっ…くふふふふふふ…」


両手で広げ満面の笑みでそれを眺める園崎


緩んだ口元からは、含み笑いと共に涎が一筋垂れ落ちて来ている


「おっと、いかん…じゅるっ」


手の甲で垂れた涎を拭う園崎


…およそ年頃の女子がする仕草とは思えん


こういうところさえなければ非の打ち所の無い美少女なんだが…


「ふむ…制服として実に秀逸なデザインだ…シンプルで無駄の無い機能美溢れる作りだ」


今度は打って変わった真剣な表情でそんな考察を述べ始める


「なるほど…襟の合わせ目はこうなっている訳か…ブラのホックと同じ構造だな…」


…なんだと?


今、聞き捨てならない事を聞いた気がする


「さてと…」


ひとしきり眺めたあと、その視線を制服から俺へと動かす園崎


「そろそろ着替えようか?経吾」


…やっぱ、そういう展開だよな


想定していたことではあるが…俺は思わず深いため息をついた


まさか、いまさら中学時代の制服に袖を通す事になろうとは…


俺はなんとも複雑な心境で園崎から制服を受け取る


「…」

「…」


「…えーと」

「ん?」


「いや…俺、廊下で着替えて来るな…」


一向に部屋から出る気配が無い園崎にそう告げ、俺は廊下へと出た


「…ちぇっ」


背後で残念そうな舌打ちが聞こえたが聞かなかった事にする


やれやれ…


園崎を部屋の中に残し、ドアを閉めた


------------------------------------


「…さてと」


俺は気を取り直すと、ベルトを外しジーンズを脱いだ


そして制服のズボンへと履き替える


ふむ。腹周りが少々キツいが、裾が少々寸足らずになってるということは太ったのではなく成長したのだと思っていいだろう


上半身はTシャツのままで、その上に学ランを着込んだ


これも少し窮屈だが…別にパツパツってことはないな


ボタンを留めて襟を閉じて…完了、と


うーん…久しぶりに着る詰襟はやっぱり少し息苦しく感じるな


見える範囲で全身を眺め回し確認する


まあ、そこまで変でもあるまい


鏡が無いから確認は出来ないけど…


…よし


「園崎。着替え終わったから入るぞ」


ドアの向こうへと、そう声をかける


「う、うん。どうぞ」


少し緊張の混じった声の返事を受け、俺はドアを開け部屋の中へと戻った


「カッ!?」


俺をひと目見た途端、変な声を上げた園崎は何故かそのまま固まったように動きを止めた


…………カ?


困惑と共に見守っていると、園崎はその両手をゆっくりと口元へと動かしていく


そして、重ねた両掌で口を覆うと、


「…ッッコイイィィィィィィィィィィィ」


感嘆するような声を漏らした


「メ…メチャクチャカッコイイよ詰襟学生服の経吾……想像以上だよ」


朱に染めた頬で手放しの賞賛をしてくる園崎に、俺はなんとも言えないムズ痒さを覚える


いくらなんでもおだて過ぎだろ

ただ中学の制服着ただけだぞ?


俺に対して親友補正かけ過ぎじゃないのか?


「と、取り敢えずこれで満足してくれたか?」


俺は照れくさくて悶えそうになるのを堪えながら、ぶっきらぼうにそう言った


「うん。大満足だよ。ご馳走様です。ありがとうございます」


興奮気味によく分からないお礼を返された


まあ何にせよ、これで今日の目的は達成されたって事でいいんだよな?


俺は安堵して、ほっと軽い吐息を漏らすが…


「あのね経吾。ちょっと…お願いがあるんだけど…」


園崎が上目使いでそんな事を言ってきた


「え?お願い?」


「うん。いまの経吾、写真撮ってもいい?」


「えーと…まあ、別にいいけど…」


園崎からの賛辞に気を良くしていた俺は、彼女が口にした希望を深く考えることなく承諾した


「やった!それじゃ早速…んーと、まずはオーソドックスに立ち姿かな?そこ、クローゼットの前に立って」


「…この辺に立てばいいのか?」


俺は指示通りクローゼットの前まで行って扉を背にして振り返る


園崎は…いつの間にどこから取り出したのか、デジカメと思しき小型のカメラを手にしていた


いわゆるコンデジと呼ばれる、手のひらにすっぽり収まりそうなサイズのデジカメだ


「園崎、デジカメなんか持ってたんだ?」


「え?……………………うん……………まあ」


なんだ?いまの間は?


俺の問いに、妙によそよそしく視線を彷徨わせる園崎


「へえ…いつもどんなの撮ったりしてるんだ?」


「えっと………………まあ……色々?」


曖昧な返答を返す園崎の態度が…どうにも不審極まりない


なんか撮っちゃダメなモノとか撮ってるんじゃないだろうな…


撮影機器の小型化が著しい昨今、隠し撮りなんかへのハードルもかなり低下している状況といえる


俺だって園崎の無防備なトコをケータイで撮りたくなる衝動に何度負けそうになったことか…


「ぼ、僕が何を撮ろうが僕の自由だ!ほら、そんなことより、いいから撮るぞ!」


眉を寄せる俺に対し、突然キレたようにそう言って強引に話題を断ち切ってくる園崎


ふう…仕方ない


俺はそれ以上の追求を諦め、言われた通り被写体になる事にした


「よし、まずは正面から全身を撮るぞ」


そう言ってシャッターボタンを押す園崎


「…うん、いい感じだ。次はバストアップかな…うん、これもいいぞ。…横顔も撮りたいな。経吾、少し右を向いてくれ。うん、そのくらい…よし、これもいい感じだ」


園崎の指示を受け、何度もポーズを変える俺


その度に園崎が満足げな声を上げるが…園崎のカメラはシャッター音とかが全くしないので、どのタイミングで撮られてるのか俺には正直、見当がつかない


見た感じ、かなりの勢いでシャッターボタンを連打してるように見えるんだが…


「ふう…ちょっと一息つこう…思う存分遠慮なくちゃんと構えて写真が撮れるなんて…まるで夢みたいで、つい興奮してしまった」


紅潮した頬でそんな呟きを漏らす園崎


やれやれ、いくら詰襟学生服が好きだからって…フェチにも程があるだろう


中身はモブキャラ男子代表みたいな俺なんだぞ


まあ、勢い余って道行く見知らぬ学生服男子を盗み撮りするようなマネをされるよりマシか…


どこかの誰かの盗撮被害を未然に防いだと考えれば、このよく分からない撮影会にも意味があるのかもしれない


「園崎、あとどのくらい撮る気なんだ?」


この無為に思える時間にそれなりの意義を見出した俺は、諦め気分でそう尋ねるが…


「安心して。こんなこともあろうかと大容量のメモリーカード入れてあるから。余裕で数千枚撮れるよ」


想定外の答えが返ってきた


「はふう〜、ステキ過ぎ…。そうだ!サツキが持ってるプロッターで出力すれば等身大ポスターが作れるんじゃ…」


なんかとんでもない事を言い出した


そんなものを見せられたら正気を保っていられる自信がない…


「くふふ、夢が広がるね」


悪夢の間違いじゃないのか…


「それじゃこれから本格的にカッコイイのを撮ってくからね。えーとまずは…」


そう言いながらテーブルに積んであったマンガを一冊取り、パラパラと捲る園崎


俺の中についぞ忘れかけていた感覚が蘇ってきた


言いようのない不安の塊が背中を這い上がってくるような感覚…


「これ。このポーズしてみて、けーご」


開いたマンガのページを突き出してくる園崎


俺の不安は現実となって目の前に現れた


そこには学ラン姿のキャラが…やたら中二感溢れるポーズをキメたシーンが描かれていた


「………マジか?」


俺の頬を冷や汗が伝い落ちる


ひょっとして…このテーブルの上にうず高く積まれた本、全てがそうなんじゃないのか?


よく見るとそれぞれの本には数枚づつ付箋が付けられているのが見て取れた


視線を戻すと…目の前に開かれたページの端にも同じ付箋が貼られている


そればかりか、他のページにもあと数枚は貼ってあった


「うそだろ…」


俺は絶望感で心が押し潰される感覚を覚えた


◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆


「園崎…まだ…続けるのか…」


精神的な疲労が限界を迎えた俺は、そう園崎に切り出した


「うん?…おっと、もうこんな時間か」


俺の訴えに壁時計へと目をやった園崎が、そう言って構えていたカメラを下ろす


時計の針は既に正午を過ぎ、もう1時近い時間になっていた


「すまん、けーご。つい時間を忘れて夢中になってしまった」


「…まあ、満足してくれたなら良かったよ」


俺はようやく訪れた苦行からの開放に、ほっと安堵の吐息を漏らした


「けーご、お腹空いたろ?僕が何か作ろう」


上機嫌の園崎がそんな提案をしてきた


「マジか!?」


園崎の手料理…それも出来たての…


そんなご褒美が頂けるなんて…苦しみに耐えた甲斐があったというものだ


「腹ごしらえして…また、続きをしような」


にっこりと笑顔でそう言った園崎の言葉が俺を再び絶望へと叩き落とす


まだ…続くのか…


「なに作ろうかな…けーご、悪いけど簡単な物でいいか?」


「ああ、俺は腹に入るならなんでも」


園崎が料理上手いのは知ってるし、何よりも好きな子の手料理だ


たとえそれがどんな物でも、文句などあろう筈がない


「そうだな…和食派のけーごには悪いけど…手早く作れるし、オムライスとかでいーか?」


「!?」


オム…ライス…だと!?


好きな女子の手作りオムライス…


ヤベぇ!なんかスゲぇワクワクがこみ上げてきた!


「…トッピングで美味しくなる魔法もお願いします」


「え?」


「なんでもないなんでもないなんでもない」


いかん、つい気持ち悪い呟きを漏らしてしまった


「じゃあ、ちゃちゃっと作って来ちゃうから待っててくれ。…あっ、くれぐれも着替えたりするなよ。そのままの格好でいるんだぞ」


そう俺に念押しすると園崎はドアを開け、階下へと降りて行った


---------------------------------------------


さて、部屋にひとり取り残された形になった訳だが…どうしたものか


ふと、テーブルの上に積まれた本の山が目に入った


……。


下の方にある薄い本が非常に気になる


一瞬の躊躇のあと…引き抜いて手に取った


同人誌…なのだろうが、えらく金がかかっていそうな本だ


カラーで印刷された表紙にPP加工までされている


「………………。」


ちなみに描かれているのは美形の男二人だ


とても仲が良さそうに抱き合っている


「…………………………。」


真ん中あたりのページを開いてみた


学生服の美少年が床に横たわっている姿が描かれている


その制服のボタンは全て外されていて、その下のシャツも大きくはだけ、肌が露出していた


そして…もう一人の美形の男がその上に覆い被さるような体勢で…



その乳首へと舌先を伸ばしていた



ぱたむ《そっ閉じ》


うん、俺は何も見なかった


本を元の位置に戻し、深呼吸して気を落ち着かせる


姉さん一味の影響で、ある程度の耐性はあるが…やっぱくるものがあるな


園崎も腐女子的趣味趣向があるとは明言していたが…


女子って、どんなコト考えながら、ああいうの読んでるんだろ…


男にとってのエロ本はオカズ以外の何物でもないけど…




『オナニーだったらボクもかなり頻繁にしてるから。想像するんなら委員長じゃなくて、親友であるこのボクのオナニー姿を想像するべきだと思うんだけど?』




唐突に、先日園崎がカミングアウトしたセリフが脳裏に蘇った


委員長に張り合う為とはいえ、あれは実にショッキングな自己申告だった


俺はその自供を元に脳内で再現映像を構築しては夜毎その検証に没頭していたりしたのだが…


よく考えてみれば、いま俺がいるのは正にその事件現場ではないか


これはくまなく現場検証をする必要があるのではないだろうか


例えば…このベッドはただ睡眠を取るためだけのものではなく…その自らを慰める行為に耽る場所でもあるということだ


ここで園崎は…あの可愛らしく細やかな指で自分自身の敏感な部分を弄りながら、切ない吐息を漏らしたりしているのか…


そういえば…


確かサツキの奴…イタズラで色んなエログッズを園崎に送りつけてる、なんて事を言ってたよな?


『あたし、いつも外側に当ててるだけだから!中に挿れたことなんか一回もないから!』


サツキに煽られた園崎が思わず口走ったセリフが耳に蘇ってくる


弁明のつもりが、自らソレの使用を認める形になってしまった園崎


つまり…園崎は自分の指だけではなく…


そんなエロいアイテムまで使っての自慰行為を…この部屋の中で…


視界に映る部屋の情景とそこに満ちる園崎の残り香が俺の妄想を一気に膨らませていく


………。


………………。


目の前のベッドの上に…園崎が座っている


それは俺の拗らせまくった片想いからの妄想力が生み出した幻影だ


彼女の前には開封された小箱があった


「まったく…サツキの奴、なんてモノを送って寄こすんだ」


真っ赤に染めた頬で箱の中に視線を落とす園崎


その中にあったものは棒状の物体で…その形は明らかに男性器を模したモノだった


卑猥なモノを送りつけてきたサツキに悪態をつきながらも…


頭をもたげる好奇心には勝てず、ソレを手に取る園崎


「ほ、ほんとに…こんな、カタチ…してるの?」


奇異に思える形状だが、本物を見たこともない園崎には真偽の程は解らなかった


早くなる胸の鼓動を感じながら…初めて見るソレをまじまじと眺め、観察する園崎


「?…これって…」


やがて園崎はソレにスイッチが付いていることに気付いた


一瞬の躊躇のあと…ONに入れる園崎


《ヴイイイイイイイ………》


突然、小刻みに振動を始めるソレ


驚いた園崎は危うくソレを取り落としそうになる


思わず強く握り直すと、ソレの発する振動が手に伝わってきた


手のひらに感じる痺れるような刺激に軽い衝撃を受ける園崎


コレを…もっと敏感な部分に触れさせてみたら…一体どんな風に感じるんだろう


沸き起こる未知への好奇心に思考が支配されていく園崎


とうとうそれに抗えなくなった園崎は手の中で振動を続けるソレを…


ゆっくりと…両脚の間…………その付け根に位置する部位へと…


「!?」


ソコにソレが触れた瞬間、全身に電流が流れたような快感が走る


いままで指や机の角から得ていた刺激とは段違いの快感に頭がぐにゃぐにゃになっていく


「なに…これ…しゅごい…おかひくなりゅ…ひもひいぃぃい」


我を忘れ園崎は夢中でソレを押し当て、擦り付け、襲ってくる快感のうねりに身を狂わせていく


性感の虜になったその瞳の中にはピンク色の♡マークが浮かんでいた


そして…ついに園崎は…さらなる快感への欲求を抑えられなくなってくる


「ちょっとくらいなら…いいよね?…ほんの…先っちょくらいなら…」


そんな言い訳をうわ言のように呟きながら、低く唸りを上げ振動するその棒状の物体を…


すっかり濡れそぼった✕✕✕✕の中へと自らの手で埋没させ…





「けーご」


「うわぅ!?ハ、ハイ。なんでしょう」


急にドア越しに名を呼ばれ、俺は慌ててエロ妄想から現実へと意識を戻した


「ゴメンね、けーご。いま両手塞がってて…、ドア開けて貰える?」


「わ、わかった」


俺は急ぎ立ち上がろうと身を浮かすが…突っ張ったズボンのせいで転びそうになる


っと、ヤバいヤバい


ズボンの状態を確認すると…棒状になったモノがそれと分かるくらい正面の布地を内側から押し上げている


俺は内部にあるソレの位置と角度を調整し、目立たなくなったのを確認してからドアを開けた


ガチャ


ドアの外にはトレイを手に園崎が立っていた


「お待たせ、けーご」


そう言ってにっこりと無垢な微笑みを向けてくる園崎


今しがたまで妄想の中で淫猥な痴態を演じさせていた当の本人を前に、俺は後ろめたさで目が泳ぐ


「ごめんね、遅くなって。お腹すいたでしょ?」


トレイの上では二人分のオムライスが湯気を立ち登らせていた


それを目にした瞬間、俺は罪悪感で胸が締め付けられる


園崎が俺のために一生懸命料理してくれてた時に…俺って奴は…


「どうかした?けーご…」


不思議そうな顔で首を傾げ、問い掛けてくる園崎


その瞳は俺の事を微塵も疑ってはいない


「な、何でもない。おお、美味そうだな」


俺は己の不埒を誤魔化すように話題を切り替え、料理の方へと視線を落とした


形良く盛り付けられた黄色と赤の色彩


ケチャップの香りが食欲をそそる


そのケチャップでなにやら描かれているようだが…少なくともハートマークやLOVEなんて文字の類いでないことは確かだ


「けーご、ちょっとこれ持ってて」


「お、おお…」


園崎からそのトレイを受け取った


俺にトレイを預け、テーブルの上を片付け始める園崎


マンガ本を床に下ろし、天板を濡れた台拭きで拭き上げる


そのあと俺の持ったトレイからテーブルへとオムライスの皿、スプーン、水の入ったコップなどを手際良く並べていく


俺はその意外なほどの家庭的な雰囲気につい呆けたように見惚れた




………結婚してえ




「けーご、座って」


「あ、うん」


園崎に声をかけられ、我に返る


俺は慌てて園崎とテーブルを挟んだ向かい合わせの位置に腰を下ろした


「えーと、けーごの口に合うか分からないけど…どうぞ召し上がれ」


上目使いでそう促してくる園崎


俺はスプーンを手に、


「い、いただきます」


と、少々上擦った声で応じた


改めて目の前に置かれたオムライスへと視線を落とす


ケチャップで書かれた文字は


BEST BUDDY KY×YS …と、読めた


ベストバディ…最高の相棒…ってことか?


その後に続いて書かれてるのは俺と園崎のイニシャルだろう


…………………。


いかん。姉さんからの悪い影響だな…


バッテンで繋げられてると別の意味に考えてしまう


前と後ろ、どっちが『攻め』でどっちが『受け』なんだっけ…


ふと前を見ると園崎が緊張した面持ちで俺の行動を見守っていた


おっと、いかん


俺はケチャップ文字の考察を中断して、味の方の考察へと移行することにした


スプーンをオムライスへと突き立て、ひと匙掬い…口の中へ


ぱく。…もぐもぐもぐ



「…美味い」


思わず声が漏れた


いつも園崎の作る料理は例外なく美味いが、このオムライスもご多分に漏れず抜群に美味かった


「美味い。すげえ美味いよ、園崎。やっぱ園崎ってめちゃくちゃ料理上手いよな」


俺がそう率直な感想を述べると、園崎は耳たぶまで朱くしてはにかんだ


「お、大げさだな、けーごは…そんな簡単な料理で…だいたい…ひ、挽肉とか冷凍保存してあった物だし…」


「そうなのか?でも玉ねぎのみじん切りとかシャキシャキして甘いし、玉子とかトロふわで絶妙な火加減だよな」


オムライスだったら、俺もたまに自分で作る時があるけど…それと全然違う


店で出される物と遜色無いほどの出来だ


「うく…けーごは口が上手いな。…ボクも食べよ」


園崎が赤い顔をしたまま食べ始める


くうう…テレた園崎、可愛いぜ。こんな表情が見れるんだから、多少の気恥ずかしさを覚えてでも賞賛の言葉を送った甲斐があるというもんだ


俺は幸せな気分で二口、三口と食べ進めた


・・・・・・・


半分くらいまで食べた辺りでふと顔を上げると、向かい側の園崎がぽおっとした顔で俺を見ているのに気付いた


「はぅぅ…詰襟学生服のけーごがボクの作った料理を食べてくれてる…感動…そうだ!けーご、食べてるとこ撮っていい?いいよね?」


突然、身を乗り出しそんな事を言い出した


「え?食べてるとこ?」


思ってもみない提案に、俺は正直戸惑った


そんなとこ撮ってもしょうがないと思うんだが…


しかし、園崎は俺の返事も聞かないうちに既にカメラを構えていた


「ほら、けーごは遠慮しないで食べて食べて。カメラの事は気にしないで、自然体でお願いします」


よく分からないテンションになった園崎を前に、俺はなんとも言い難い気分で食事を再開した


「スプーンを口に入れる詰襟のけーごかわいい。モグモグ咀嚼してる詰襟のけーごかわいい。ケチャップ口の端につけてる詰襟のけーごかわいい。ハアハア」


緩んだ口元で荒い息を吐きながらシャッターボタンを連打し続ける園崎


何がそんなにいいのか…詰襟学生服補正かかり過ぎだろ


「詰襟とか、そんなに珍しいか?中学の時、男子の制服は詰襟じゃなかったのか?」


「そりゃあ街中で見かけることはあったけど…こんな至近距離でちゃんと見たのは初めてだよ。そもそもボクが通ってた中学は女子校だったし」


俺の疑問に対して、そんな返答を返す園崎


「ああ、そうだったんだ。・・・確か、サツキと一緒だったんだっけ?」


「うん。色々校則が厳しくてな…実に窮屈なとこだったよ。思い出すと陰鬱な気分になる」


語りながらその表情にフッと翳りが指す園崎


「そう…か…」


そう言えば、中2の夏ぐらいに家出っぽいことしたことがあったって園崎の姉さんが言ってたっけ…


サツキも…園崎が男に振られたとか裏切られたとか…そんなことも…


一体どんなことがあったのか


いつか話してくれる日が来るんだろうか?


もっともっと親友としての信頼度が上がったら…


聞きたいような…聞きたくないような…


そんな事を考え、俺は暫しの物思いに耽る


「でもやっぱり詰襟はいいよなあ…デザインのベースが軍服なだけあって、ホント格好良いよ。…でもそう考えるとボクの中学の制服も軍服といえば軍服なのか…」


「ん?どういうことだ?」


聞き流しそうになったが…最後の呟きがふと気になった俺はそう聞き返した


「だってほら、『セーラー服』って元々は水兵の服だろ?」


そう言って眉を寄せて笑う園崎






なん…だと…?


カチャン!


俺の手から滑り落ちたスプーンが皿に当たって音を立てた


「…ど、どうしたんだ…けーご?」


急に俺の様子がおかしくなったのを見て取った園崎が戸惑いの混じった声で聞いてきた


「園崎…お前…」


「うん?」





「中学…セーラー服だったの?」


「え?」


俺の質問に一瞬きょとんとする園崎


「あ、うん…そうだけど?」


「!!!!!!!!!!」


瞬間、高圧電流を流されたかのような、かつて無い衝撃が俺の全身を貫いた



「へえ………………そうなんだ…………」


俺は内心の動揺を隠し言葉を絞り出すが…声の震えは抑えきれない


「?」


「………………」


「え、えーと…それが、どうか、した?」


黙り込んだ俺に戸惑いながら、おずおずと尋ねてくる園崎


「ちなみに…それ、まだ持ってたりとか…………する?」


俺は震える声で、そう確認を取った


「え?…たぶん…物置部屋に放り込んだままだったと思うけど…」



「!!!!!!!!!!!!!!!!!」


「えと…、どうしたの、けーご?…なんか…顔、怖いよ?」


園崎の声に怯えの色が混じる





「…ズルくね?」


「え?ズル…?…え?え?」


ボソッと俺の口をついて出た言葉に対し、園崎は訳もわからず困惑した表情になった


「だってそうだろ?…俺はこうやって中学の制服着てるのにさ…なんで園崎は持ってるのに着ないワケ?…それってズルくね?」


「う…」


言葉に詰まる園崎


俺はそのまま畳み掛けるように追求を続けた


「俺達は親友だったんじゃないのか?だったらさ…俺ばっかじゃなくて…同じように園崎も着てみせるべきじゃね?中学の制服を、いま、ここで」


「…ボ…ボクも…着て見せる?」


俺の言葉を反芻する園崎


「ああ……着用すべきだろ?その『セエラア服』ってやつをさあ。それでこそ親友として同じ立ち位置に立った…と言えるんじゃないのか?」


俺は園崎に対して非常に効果的な親友というワードを用い、言葉に説得力を持たせる


多少、無理矢理な理屈を並べてでも、ここで引くわけにはいかない


セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎セーラー服の園崎



俺の頭の中はその事で一杯になっていた


今、この時を逃せば園崎のそんな姿を見る機会は二度と訪れないだろう


今日!俺は!!何が何でも!!!園崎のセーラー服姿を拝んでやる!!!!


俺の心はその欲望に囚われ、完全なる邪悪に染まっていた


「あ、あうぅ…いつの間にか経吾が鬼畜モードになってる…詰襟学生服の鬼畜俺様系とか…ヤバい…めちゃくちゃツボる…」


俺の邪まなるケダモノじみた欲望を知ってか知らずか…園崎は怯えた表情で何か呟きを漏らしている


くくっ、可哀想だが…俺は慈悲をかけるつもりは無いぞ、園崎


呪うなら片思いを拗らせた俺を前にうっかり口を滑らせた己の迂闊さを呪うがいい


「…なあ園崎」


俺は冷たい声音で無慈悲にその名を呼んだ


「は、はい!なんですか?」


俺の声にビクリと身震いしたあと、背筋をピンと伸ばして返事を返す園崎


そんな怯えきった様子の園崎に俺は…


「で?どうなんだ?…着るのか?着ないのか?」


そんな最後通牒とも言える選択肢を突きつけた


園崎はあうあうと口を動かしたあと、


「わ、わかりました…食事のあと…探してみます…」


俺が発する只ならぬ圧に押し切られ、俯きながら承諾の意を表した


いよっしゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


俺は叫びそうになる感情を抑え、心の中で歓喜の絶叫を上げた


瞬間…それを敏感に感じ取ったのか、園崎がビクリと身を震わせる


と、同時に窓の外の木々から一斉に鳥が飛び立ったのが見えた


くくくっ・・・・・ようやく俺の苦難が報われる時がやってきたぜ


ここからは俺のターンだ、園崎


たっぷりねっぷり…存分に堪能させて貰うぜ!


お前のセーラー服姿をなあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!


(つづく)

【あとがき】

皆様、お久しぶりでございます。

二ヶ月ぶりの更新でございます。


相変わらずの遅筆で申し訳ございません。


次の更新もいつになるか分かりませんが、気長にお待ち頂ければ幸いです。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] かなり初めの時から見てたけどめっちゃ好き、更新遅くても供給してくれるだけで全然ありがたい、この甘々なストーリーが鬱を和らげる 応援してます!
[一言] ゆずっちのセエラア服プレイ楽しみにしています
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ