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プロミステイク ~俺と彼女の中二病的恋愛遊戯~  作者: 阿津沼一成
第2章 サマータイム・ラプソディ
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第87話 カイコウ

「そんじゃ義川またなー」


「ああ。二人とも、また来週。学校でな」


俺は片手を挙げ、悪友二人に別れの挨拶を返した


金曜日の放課後


俺は久々にタナカ、サトウと連れ立って街へと繰り出していた


…何も俺は、いつもいつも園崎とばかりつるんでいるわけじゃない


こうして男同士の付き合いもちゃんと大事にしているのだ


『今日はアイツらと用事あるから。…ゴメンな?』


そう言った時、園崎はちょっとむくれた顔をしたものの、渋々と承知してくれた


『なんなら、お前も来るか?』


一応そう聞いてみたが、タナカやサトウに歓迎されないのを分かっている園崎は当然のように断った


『じゃあな。あまりハメを外すんじゃないぞ?』


ニヒルな顔でそんなセリフと共に去って行く園崎に、俺はいささか拍子抜けはしたが…


せっかく快く送り出してくれたんだ


俺は、園崎相手では出来ないようなアホでスケベな雑談なんかに興じる男同士の気楽な時間を十分に満喫したあと、一人帰途についたのだった


さてと…明日は休みだけど、何しようかな…


そんな事をぼんやりと考えながら歩いていた時、俺は脇道から駆け込んできた人物と危うくぶつかりそうになった


「うわっと!?すみません、大丈…」


「ひいっ!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!何も悪いことしてません!すべては取材の一環というか、資料集めというか、そんな感じのアレなんですううううう!!」


俺は取り敢えず謝罪の言葉を発するが、それを遮るようにして相手が言い訳を混ぜ込んだ謝罪をしてきた


「なぁんにも、これっぽっちも悪い事なんかしてませんよぉ?ホントですホントです!まぢですからっ!!」


相手はどうやら若い女性のようだが…顔の前で両の手のひらをバタバタと動かしながら必死の弁明をする姿は不審この上ない


でも…あれ?この人どこかで…


俺は記憶の片隅に残る、ある人物の姿を引っ張り出して目の前の相手と照合した


ボサボサ髪にでっかいメガネ、不審極まりない挙動…

着ている服以外、記憶の中のその人とプロファイルは完全に一致した


間違いない。姉の友人一味の一人だ


「えーと、あなたもしかして…」


「ひっ!?リアル男子が話しかけてきた!?待って待って待って!!選択肢が表示されない会話とかまぢ無理だから!!」


俺が話しかけるとその女性は異常なほどの狼狽ぶりを見せた


…あー、うん…カスガさんだわ。間違いない。


俺はその反応を見て、彼女が姉の友人、カスガさんであることを確信した


「俺ですよ、俺。覚えてないですか?」


自分の顔を指差しながら、相手の女性にそう問いかける


「へ?…えーと…あれ?もしかして…」


俺の顔へ恐る恐る目を向けたカスガさん(と思われる女性)は、何かに思い当たった表情になった


「…みぃねの…弟クン?」


俺が誰だかに気付いたカスガさんがメガネの向こうの目をぱちくりとさせた


「はい、そうです。久しぶりですね。どうしたんですか?そんな慌てて」


俺はカスガさんを怯えさせないように、努めて穏やかな口調でそう問いかけた


「ちょ、ちょっと、待って…い、いま、準備、するから」


しどろもどろでそう言うと、慌ててスマホを取り出し、その画面を操作するカスガさん


「あー、…はい」


カスガさんの行動の意図を理解した俺は、苦笑いでそれを見守った


…相変わらずみたいだな


「これでよし…と」


スマホのレンズを俺に向けるとホッとした表情になるカスガさん


「久しぶりだねー、弟クン。最初、誰だかわかんなかったよ」


打って変わった流暢な言葉でそう言うと、カスガさんはにっこりと笑いかけてきた


…スマホの液晶に映った俺に


「そ、そうですか…カスガさんは…変わりないですね」


俺は思わず半眼で応える


この奇妙な状況を説明すると…


カスガさんは極度の三次元男性恐怖症らしく、現実世界の男相手にはまともに会話が出来ないという難儀な人なのだが…


こうやってカメラを介してスマホ画面に表示させることで、相手を二次元の存在として錯覚して認識することによりスムーズなコミュニケーションが可能となるのだ


彼女にとって今の俺はスマホゲームのキャラ扱いなのだろう


「ああ、そうだ…あんなに慌てて、どうかしたんですか?」


俺はぶつかりそうになったことを思い出して、その理由をカスガさんに聞いた


「実はねー…しっつこいナンパから逃げてたトコなんだよー。…でも、なんとか撒けたみたい」


カスガさんは周囲を警戒するように視線を動かしながらそう言った


「えっ!?そうなんですか?それは大変でしたね」


カスガさんはあまり身だしなみに気を使わない人なので、ぱっと見の印象はあまり良くないけど…よくよく見れば顔の作りも悪くないしスタイルだってなかなかのものだ


姉さんの言を借りるなら『マニア受けする女』って事らしいけど…


ナンパに痴漢、タチの悪いのになるとストーカーなんてものあるし、女の人は色々と大変だよな…


その点、男は気楽なもんだ


…いや、男でもストーカー被害なんかにはあったりもするか


でもまあ、それも一部のイケメンとかの場合で、俺みたいな地味なフツメンには無縁の話だけど





「経吾………………………………この女、誰?」


うわっ!?


いきなり至近距離で声をかけられ、俺は心臓が止まりそうになった


反射的に振り向くと…虚無の空洞みたいな二つの目と目が合い心臓が止まる


!!!!??


「う、うわあああああああああああああ…って、園崎?」


思わず悲鳴を上げかけた俺だが、相手が園崎であることに気付いてそれを飲み込む


「…な、なんでここに?」


バクバク鳴る心臓を押さえながら、突然何の前触れも無く現れた園崎に、俺は当然の疑問を投げかけるが…


「…偶然通りかかっただけ。…そんなことよりも経吾、質問してるのはこっちなんだけど?」


冷たい声音で返される 


「…で、誰?この女」


感情のこもっていない目と、抑揚のない声で質問を繰り返す園崎


「え、えーとな、この人は粕賀玖珠美(かすがくずみ)さんっていって…」


俺は縺れそうになる舌で説明の言葉を紡ぎかけ…はたと気付いた


実は…


誰あろう、このカスガさんこそ例の同人漫画、ダークネスサーガの作画担当…

ハルノヒウララその人なのだ


そう、園崎が人生の道を踏み外すきっかけとなった呪われた作品…その作者だ


園崎にこの事実を話すべきか…


俺はしばし思考を巡らす


自分に多大な影響を与えた作品の作者ともなれば、ある意味憧れの存在と言えるだろう


そんな相手と知り合う機会なんて滅多にあるもんじゃない


俺だったら大喜びでサインや握手を求めるだろう


「園崎、実はこの人はな…」


俺はそこまで口に出してから、ハッとして言葉を止めた


漫画家としてのカスガさんは本名はもちろん、顔出しもNGって言ってたのを思い出したからだ


サイン会なんかのイベントも全部断ってて、一度も開いたことがないらしい


いくら知り合いでも、本人の許可無く俺が軽々しくその正体をバラしていいもんだろうか?


俺は僅かな逡巡のあと、


「ね、姉さんの友達の一人だよ」


そう、言った


「………………ふーん、そう…」


俺の紹介に納得がいったのか、いかなかったのか


その表情からは感情が読み取れない


俺は話の途中で放り出してしまったカスガさんへと目を戻すが…


「えっと…カスガさん?」


突然の園崎の登場に驚いたのだろう


カスガさんはスマホを横向きに構えたまま、その画面を凝視して固まっていた


「び、びっくりした…突然、『闇落ち美少女キャラ』がカットインしてきた…え?隠しイベント発生?」


なんかスマホ画面を見ながらブツブツ呟いている


「す、すみません、カスガさん。この子は…」


俺は慌てて園崎の事を説明しようとするが…


「あ〜〜〜〜〜!?もしかしてこの子が例の…弟クンの嫁!?」


と、叫んだ


「はいい!?」

「ヨ…!?」


突拍子もないカスガさんの言葉に思わず素っ頓狂な声を上げる俺


隣の園崎も顔を真っ赤にして絶句している


「こないだみぃねが『超可愛い義理の妹が出来たの』って自慢してきて…正直、その時は『なに妄想語ってんだ、この女』って言って鼻で笑ったけど…こうして目の当たりにしたら…認めない訳にはいかないわね…」


驚愕の表情でスマホ画面を見つめるカスガさん


義理の妹…って、こないだのアレか?


俺は夏のイベント打ち上げ飲み会での一件を思い出した


園崎が俺と『義兄弟の盃を交わして義理の妹になる』とか言い出して…それに対して姉さんが『それじゃ私にとっても義理の妹になるわよね?』とか言って拡大解釈した一件…


確かに『義理の妹が出来た』とか言われたら、『兄弟が結婚したんだな』って考えるのが普通だよな…


「みぃねが『ある日突然、異世界転移してきた美少女肉人形ちゃんが現れて義理の妹ちゃんになってくれたのよ』、なんて言い出したもんだから、『この女とうとう頭おかしくなったんだな』って思ってたんだけど…まさか本当の事だったなんてね…」


青ざめた顔で姉さんの吐いた戯言を真実と認定するカスガさん


「って、いやいやいやいや…なんすか、その信憑性ゼロの妄想設定。それを信じるとか…」


「ふふん!概ね間違ってはいないが…訂正させて貰おう!!正確には『異世界転移』ではなく…『異世界転生』だとな!!」


慌てて否定のツッコミを入れようとする俺だが、それを遮るように園崎が微修正を加えた妄想設定で肯定してきた


すっかり上機嫌になった実にいい笑顔で


っていうか『嫁』の部分は訂正しなくていいのか?


「まぢか〜!?転生者が嫁とか…弟クン、ラノベの主人公みたいじゃない!超すごい!!みぃねの奴ばっかズルいいいいい!!」


心底羨ま悔しそうなカスガさんに目眩を覚える俺


どうしてあんな話を信じられんの!?


漫画家だから?


思考が柔軟なの?


なんかわざわざ否定するのがバカバカしくなってきた…


「あ〜、まあ…彼女の正体についてはひとまず置いといて…カスガさんっていま何やってたんでしたっけ?職業とか」


そんな風にカスガさんへと話題を投げる


上手くすれば自ら正体を明かしてくれる流れを期待して


「え、あたし?」


急に話題を振られ一瞬、目を丸くするカスガさん


「えーとね、あたしは…『自由を奪われた不自由な自由業』…ってとこかな?」


カスガさんの曖昧な返答に曖昧な表情になる園崎


少なくとも憧れの存在を目にした表情ではない


なんというか…


道端のゴミを見るような…


「あー、それで、何でしたっけ?ナンパされそうになって逃げてたんでしたっけ?」


俺は先ほど中断した話題を思い出し、そう話を振った


「そうなんだよー、いやー、つくづく最近のけーさつかんの質の低下には、嘆かわしい限りだよねー」


なんだ!?突然、何の脈絡も無く国家権力ディスりが始まったぞ!?


困惑する俺をよそに、さらに言葉を続けるカスガさん


「勤務中に制服姿でナンパしてくるとか信じらんないよ。モラルとかどーなってんだろーね?」


「え?カスガさんをナンパしてきたのって警察官なんですか!?それも制服の!?」


非番ならともかく、勤務中の制服警官がナンパなんて…その話が本当なら、確かにモラルを疑うような行為だ


国家公務員の倫理崩壊も甚だしいと言えよう


「そーなんだよー、いきなり道を塞ぐように現れたと思ったら『君、こんなとこで何してるの?』なんて上から目線で話しかけてきてね」


…ん?


「『いま平日の昼間だけど…職業は?何してる人?』なんていきなりプライベートなこと聞いてきて」


…えーと


「『とりあえず免許証とか、何か身分証になるもの持ってたら見せて貰える?』…なんて言ってプライバシー情報まで聞き出そうとしてきて…」


それ…ナンパじゃなくて…職務質問なんじゃ…


「挙げ句の果てに『ちょっとそこの交番まで来て話聞かせてくれる?』なんて言って、あたしのこと密室に連れ込もうとしてきたのよ!信じらんないでしょ!」


………………………。


「まったく…こっちは下校途中の小学生男子鑑賞で忙しいってのに…あー、思い出したら腹が立ってきた!せっかく今どき珍しい半ズボンの子とかもいたのに…それにタンクトップの子なんかも!上手くすれば隙間から乳首見れたかもしれないのにッ!!」


それだよ!それが声かけられた原因だよ!


心底悔しそうに反倫理的な欲望を垂れ流す犯罪者予備軍を前に、俺は一瞬でも警察機構の腐敗を疑ったことを反省するとともに善良な市民として通報義務を果たすべきか真剣に悩んだ


『カスガ………………………この…カスがっ!!』


昔、よくアカネさんが吐き捨てるようにカスガさんに言っていたセリフを思い出した


あの理解力あるコデラさんですら諦め顔で『ホンマに玖珠美はクズやなあ』なんて言ってたこともあったな


変人揃いの姉さん一味の中でも群を抜いていたのが、この人だったのをいま改めて思い出した


そんなカスガさんに手を指し伸ばしたのが姉さんで…


『クズ美…そんなんじゃ、いつかお縄になって手が後ろに回っちゃうゾ。あんた、絵上手いんだしマンガ描いてみない?その溢れる衝動を創作活動に向けるんだヨ!』


姉さんはそんな甘言でカスガさんをそそのかしマンガを描かせ始めたんだ


『この彼とこの彼があたしの推しなんだけど、このカップリングの作品て無いんだよねー。て、ことでいっちょこの二人がくんずほぐれつするマンガ描いてみよっか?』


そうやって姉さんは自分の脳内妄想をカスガさんに描き出させ…同時にカスガさんは欲望を作品という形で具現化させることを覚えた


二人の妄想と欲望が混ざり合った末に生み出された作品の一つがダークネスサーガだったというわけだ


そんな業の深い作品はさらに一人の少女の人生すら変えることになったのだが…


俺は隣に立つその『一人の少女』にちらりと目をやる


園崎が…カスガさんに向けた視線をゴミを見る目から生ゴミを見る目へと変えていた


いかん、これはますますカスガさんの正体を明かす訳にはいかなくなったぞ…


憧れ的なものを打ち砕くことになりかねん


「うおっと!?もうこんな時間!?」


カスガさんがスマホの画面端に表示されたデジタル数字を見て声を上げた


「締め切り前の息抜きに、ちょっと出掛けるだけのつもりだったのに…あの公僕どものせいで…」


ブツブツと怨嗟の呟きを漏らすカスガさん


「でもまあ、小学生男子は見逃したけど、代わりに弟クンにエンカウント出来たからチャラかな?」


「…そりゃどうも」


「あの弟クンがいかにも『総受け』が似合いそうな線の細い男子に成長してくれてて、おねーさん嬉しいよ」


「いや…そんなもんになった覚えは無いですけど」


カスガさんから不当な評価を貰った俺は瞬時にそれを否定する


「『総受け』?…………フン、何もわかってないようだな…」


なんか、急に園崎が話に割り込んできた


「けーごは一見、『受け』に見えるかもしれんが…それはあくまで表面的なものにすぎん」


「なんですって…それはどういうこと!?」


園崎のセリフに目を見張り食い付いてくるカスガさん


てゆーか、え?俺、『受け』のカテゴリに分類される容姿なの?


困惑する俺を尻目にさらに言葉を続ける園崎


「一見すると『受け』にしか見えないこの容貌や立ち居振る舞い…全て獲物を誘い込むための狡猾な罠なのさ…」


「はっ!?…つまり………………『誘い受け』!?」


ハッとした表情で失礼な事を言うカスガさん


「くくっ、惜しいな…まあ、見抜けないのも無理はない…巧妙に牙を隠し、『受け』に擬態したこの男の…内側に宿した狂暴なる獣性に、な…」


「獣性ってなんだ!?そんなもん隠し持ってなんかいねえし、そもそも擬態なんぞしとらんわ!!」


根拠の無いデマ情報に俺は慌てて訂正を入れようとするが…二人とも全く耳を貸そうとしないどころか、ますます話をエスカレートさせていく


「単なる『誘い受け』と思い込んでるうちはこの男の本性には気付けんぞ…」


「本性…ですって?」(ごくり)


「この男の本性は受けとは真逆…



『鬼畜俺様攻め』なのだからな!!」



「んまああああああっ!?まぢで!?」


カスガさんがメガネの奥の目を見開き、輝かせた


いまだかつて一度も見たことがない、いい表情だった


「まさか『誘い受け』から豹変しての『鬼畜俺様攻め』だなんて…弟クンがそれほどのポテンシャルを秘めていたなんてまったく気付かなかったわ…」


なんか俺のことを理不尽な方向で不当に過大評価してるぞ


「くはああああああ、創作意欲が湧いてきた!ありがとう弟クン。さっきは弟クンに会えてチャラだって言ったけど訂正するわ…チャラどころかお釣りが来るくらいよ!」


口元を緩ませメガネを曇らせながら御礼を言われたが全く嬉しくない


「なるほど…それでネクタイって訳ね。手足縛ったり…さるぐつわにしたり…色々使えるもんね〜」


うんうんと頷きながら、俺の首元に巻かれたネクタイの使用法に対して勝手な持論を述べるカスガさん


「…これはそんな事のために巻いてるわけじゃなくて、学校の制服なんですけど」


俺はカスガさんに向けて淡々と否定を返すが…隣の園崎がネクタイに注いでくる視線が非常に気になる


…なんか変なこと考えてないよな


カスガさんの感性が園崎に悪い影響を与えないか心配になった


「ふ〜ん、制服かぁ…じゃあ冬服はブレザーってわけだ」


「ええ、まあ…」


「じゃあ衣替えになったら見せて欲しいな〜。ふへへ」


「…………………」


俺は心底いやな気分になった


「まあ、あたし的には中学の時みたいな詰襟の方がストイックで好みなんだけど…っと、ヤバいヤバい。そろそろ仕事場戻って原稿描かなきゃ」


カスガさんは思い出したようにそう言うと挨拶もそこそこに、あっと言う間にいなくなった


…なんか、無駄に疲れた


俺の全身を言いようの無い脱力感が襲う


「さて、俺達も帰…」


そう園崎に声をかけるが、その様子がおかしいのに気付いた


「園崎?どうかしたか?」


なぜか…呆然としたような顔をしている


「経吾…さっきあの人が最後に言ったことなんだけど…」


「え?…………あ!」


『仕事場戻って原稿描かなきゃ』


そうか。園崎、カスガさんが漫画家なのに気付い…


「経吾…………………中学の制服……詰襟だったの?」


え?そっち?


「ああ、そうだけど…それがどうかしたのか?」


改めて言うまでもなく、大抵の公立中学の制服なんて詰襟の学生服じゃないだろうか?


取り立てて珍しいものでもないと思うが…


「……………………ズルくない?」


「え?ズル…え?」


ちょっと何言ってるか分からないんだが


「あの人は経吾の詰襟学生服姿見たことあるのに親友のボクは見たことないなんて…おかしくない?」


え?…どういう理屈?


「ズルいよね?あの人には見せて、親友のボクには見せてないとか?」


「…そ、そんなこと言われても」


園崎の訴えの内容は、正直俺には理解不能だ


「…あたしも……………経吾の詰襟学生服…見たかった………」


ギリッ!


噛み締めた奥歯を鳴らす園崎は心底悔しげで、俺は正直理解に苦しむ


「…ねえ、その時の………まだ持ってたりはしないの?」


「え?…うーん、たぶんだけど押入れの中にしまい込んだままだったような…」


「ホント!?」


がば、と顔を上げると食い気味にそう言って詰め寄ってきた


…てゆーか、胸が当たってるんだが


「あ、ああ…たぶん…」


「探して!そして絶対に見つけて!!」


「え、…ええ?」


鬼気迫る表情で迫る園崎は有無言わせぬ迫力で…


俺は意味が分からないまま、昔の制服を見つけ出す約束をさせられた


◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆


「もしもし、園崎?」


かかってきた電話の向こうに、そう問いかける


『うん。…どう?見つかった?』


静かに問いかける園崎の声には、いささかの緊張と期待の色が混じっている


その日の夜、絶対に探し出すことを約束させられた俺は、押入れをひっくり返すようにして中学時代の制服を探索することになった


結果を言うならば…割とあっさり見つかった


「ああ、あったぞ」


『マジか!?いよっしゃあああああああああああああ!!!!』


「うおっ!?」


ケータイの受話部からつんざくような歓喜の叫びが聞こえてきて、耳がキーンとなった


なんなの?この喜び様は?


戸惑う俺の耳に園崎からさらなる指令が下る


『よし、経吾。明日はそれを持ってウチに来い。必ずだ!いいな!!』


強い口調で言ったあと、俺の返答も聞かぬまま通話は一方的に切られた




…どういうこと?


(つづく)

【あとがき】

皆様お久しぶりでございます。

約4か月ぶりの更新になります。

職質って嫌ですよねー。まあ、私はまだ一回しかされたことありませんケド☆

素直に免許証見せましたけどね。

ポケットにカッター入ってたんで銃刀法違反で別件逮捕されるんじゃないかとビクビクでした。

今回はそんな体験を活かしてみましたよ。


そんじゃまた次回の更新までしばしお待ちください。



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