第86話 M.K.R.×2(+1)
「それで・・・一体どこに向かってるんだ?」
俺は足早に前を歩く園崎の背中にそう声をかけた
昼休みに入ると同時・・・待ちかねたとばかりに立ち上がった園崎に急き立てられ、俺は教室を出ることになった
そして訳も分からぬまま昼食のパンを片手に、こうして園崎を追いかける形で後をついて歩いているというわけだ
「くふふ、まあついて来い」
振り向きもせずそう答えた園崎の表情は見えなかったが、何となく想像はついた
やれやれ・・・。一体、何をするつもりなのか知らないが・・・
それに巻き込まれるのはもう確定事項として、なるべく精神にダメージが来ないものであって欲しいもんだ
園崎と知り合ってから数カ月・・・俺の『諦観』のスキルはかなりのレベルアップを遂げていた
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「着いたぞ。ここだ」
園崎が仁王立ちになり顎で指し示した場所は、部室棟と呼ばれる旧校舎の一角・・・
そこの空き教室と思われる部屋の扉だった
「いや・・・でもここって、施じょ・・・」
疑問を発しかけた俺の前で、園崎がヘアピンをポケットから取り出す
・・・うん、そんな気はしてた
俺は発言を中断して、その行動を見守った
園崎は左右に素早く目を動かし、人の気配が無いことを確認してからそのヘアピンを扉の鍵穴へと差し入れる
カチャカチャ・・・
指先を僅かに動かしたあと・・・カチリ、と音がした
相変わらず魔法じみたピッキングの腕前だ
園崎は音も無く引き戸を開けると、素早くその中へと体を滑り込ませる
「経吾も・・・早く」
短い言葉で促され、俺は観念してその中へと続いた
俺が入ると素早く園崎が扉を閉める
僅かな音も発しないその手際の良さに舌を巻きつつ、俺は中の様子に目を向けた
空き教室だとばかり思っていたその部屋は全く『空き』教室などではなかった
そこは雑然と物が置かれた・・・と言うより『押し込められた』と表現した方が正確な・・・
有り体に言って物置部屋だった
床には一目でガラクタと分かる物が詰め込まれたダンボール箱や壊れた椅子などが置かれ、中身の入っていない古い本棚が壁のように空間を塞いでいる
そんな『二人立っているのがやっと』というくらいの、狭い空間しかない部屋だった
「こんなとこで一体なにをするっていうんだ?」
園崎は俺の疑問にニンマリとした笑みで答えると、本棚の脇に立て掛けられていた木の板に手を掛けた
絵を描くために使う、キャンバスってやつだろうか?
恐らく美術部あたりで使ってて古くなったものをここに放り込んだ・・・ってとこだろう
それを・・・引き戸の様に横にずらす園崎
すると、その後ろから1m四方くらいの隙間が足元に現れた
「この奥だ」
呆気に取られる俺の前で、園崎は四つん這いになりその中へと潜り込んでいく
「経吾もついて来い」
そう促され、俺は一つ溜息をつく
・・・俺に拒否権はないんだろうな
諦めた俺は、その後へと続くべく両手両脚を床についた
「・・・・・・。」
最初に断りを入れておくがこれは不可抗力であり、俺になんら非はない
ついて来いと言われたからそれに従ったまでなのだ
そんな訳で俺は・・・
四つん這いで前を行く園崎の下半身を全力でガン見することにした
下着がギリギリ見えないくらいのスカート裾から、白くすべすべした太ももが伸びている
それが左右に動く度、内腿がふるふると微かに振動した
そして、スカートの生地越しでもわかる、柔らかそうな丸みをふりふりさせる様はまさに・・・
「marvelous (mάɚv(ə)ləs)・・・」
「ん?なんか言ったか、経吾」
「いや、別に、何も」
いかん。つい、感嘆の呟きがネイティブな発音で口をついて出てしまった
「ふーん?・・・よっと。ほら、ここだ」
先に隙間を抜け出た園崎が、立ち上がりそう言った
過ぎ去った珠玉の時間を惜しみながら周りを見回してみると・・・
そこはガラクタをどけて作られた四畳半くらいの空間だった
「って、畳じゃねえか」
しかも、なんと床にはご丁寧に畳が敷かれている
物置と化した空き教室の奥に、忽然と畳敷きの四畳半が姿を現していた
「ふふん。どうだ驚いたか経吾。・・・ん?どうして立たないんだ?」
満面のドヤ顔でそう言ったあと、まだ両手両足をついたままの俺に不思議そうな顔を向ける園崎
「いや、勃ってるから立てないっていうか・・・気にせず説明を続けてくれ」
男子特有の諸事情により、体勢の変更が困難な状態になっていた俺は、そう言って先を促した
「あ、ああ・・・こほん。ここは昔、茶道部の部室だったらしくてな。しかし数年前に廃部になってからというもの物置代わりに使われるようになり、色々な不用品が押込められていき・・・その結果、今ではこの有様という訳だ」
ガラクタの山を振り仰ぐ園崎
「経吾が『委員会の活動』とやらでボクをほったらかしにしてた時だ。校内を歩き回って時間を潰しててたんだが・・・。偶然この教室を見つけてな。それからこっそりと、時間をかけガラクタを壁状に配置することで偽装し、この隠しスペースを構築したんだ」
「お前なあ・・・最近、一人でどっか行ってるなと思ってたら・・・こんなことしてたのか?」
やっと立ち上がった俺は呆れ顔で周囲を見回すが・・・思わず口元が緩む
なんか『秘密基地』っぽくて・・・
こんなの、中二病ならずとも男子的にワクワクせざるをえないじゃないか
「だけど・・・こんなの先生にバレたら大変だぞ」
一応、そう言ってみるが、そんなことを気にする園崎ではないだろう
「くふふ・・・つまりバレなければいいってことだろ?いいか、ここはボクと経吾、我ら『前世研究会』二人だけの秘密だからな」
そう言いニヤリと笑う園崎
俺はただ肩をすくめるしかない
あーあ・・・、もし見つかったら、俺も弁解の余地無く共犯扱いなんだろうな
最早、溜息も出ない
「というわけで、今日はこの新アジト完成を祝い、ゆっくりくつろぎながら昼食でも食べようと思い立ったというわけだ」
そう言いながら園崎は上履きを脱ぎ、畳へとその足をのせる
「ほら、経吾も」
そう促され、俺も園崎の後に続き上履きを脱いで畳へとあがった
園崎はすでに持ってきた荷物を畳の上へと広げている
俺は園崎にならい畳へと腰を下ろした
「この開放感・・・やっぱ畳はいいよな」
俺は足を前に投げ出し、しみじみとそう言った
基本的に学校内ではずっと上履きを履きっぱなしだから、それを脱ぐだけですごい開放感がある
しかもこんな風に足を伸ばして床に座るなんてこと、まず無いしな
「すげー気持ちいいぜ」
「くふ。気に入ったか?経吾」
俺の反応を見て園崎がニンマリ笑う
「ああ、なかなか悪くない雰囲気だな」
俺もニッと笑い返した
園崎と二人、持ってきた昼飯を広げそれぞれ食べ始める
「でも、折角こんな畳の上なのに、食ってるのが惣菜パンてのもなんか味気無いな」
俺は焼きそばパンをかじりながら、ついそんなぼやきを口にしてしまった
「ふむ。それもそうだな。・・・よし、それじゃ明日はボクがお弁当でも作ってこようか?」
俺の何気ない一言に園崎が予想外の提案をしてきた
「マジか!?・・・いや、でも大変だろ?早く起きなきゃなんないだろうし」
一瞬、喜びの声を上げるが、園崎の負担に思い至る
「まあ、毎日とかはさすがにムリだけど・・・1日くらいなら頑張れるさ」
そう言ってにっこりと笑う園崎
好きな子が俺のために早起きして弁当を作ってくれるとか・・・
まったく、男冥利に尽きるってもんだ
明日が楽しみになってきたな
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「腹が膨れたら、ちょっと寝っ転がりたくなってきたな」
食事も済んでひと心地ついた俺は畳をポンポンと叩いてそう言った
畳は古びていたものの園崎が手入れをしたとのことで汚れはどこにもない
「それじゃ少し昼寝でもするか?枕ならここにあるぞ」
「枕まであるのか?用意良すぎだろ」
笑いながら園崎の方を向いた俺だが・・・それを見て心臓がどくんと跳ねた
園崎が自分の太ももをポンポンと叩いて示している
え?・・・園崎の言う『枕』って・・・
心臓が早鐘のように鳴り出した
これはもしかしなくても・・・そういう事なんだろう
窓から差し込む陽射しに照らされ、園崎の太ももは神々しく光り輝いているようにすら見えた
「ほら、遠慮するな。『親友』の厚意は素直に受け取っておくものだぞ」
そ、そうか。俺達は『親友』なんだもんな。その『親友』の申し出を遠慮するのは・・・
かえって水臭いというものだろう
俺は都合良くそう解釈することで、これから自分の取る行動を正当化した
「そ、それじゃお言葉に甘えて・・・少し、眠らせて貰おうかな?」
俺は内心の興奮を気取られぬよう努めて平静を装うが・・・僅かに声が上擦った
「くふふ、けーご・・・・・・・・・・・・おいで」
ゔっ!?
『おいで』
・・・なんて破壊力のある言葉なんだ
慈愛に溢れた微笑で繰り出された言霊の魔力に成す術もなく陥落した俺は、
気付くと吸い寄せられるように園崎の太ももの上へと頭を乗せていた
むに
後頭部に感じる心地よい弾力に脳が蕩けそうになる
そして、
サラ・・・
前髪を漉くように園崎の指が動く
柔らかな微笑で見下ろしてくる園崎はまるで慈母神のようだった
まさに夢心地とはこのことだ
「くふ。可愛いなあ、けーごは。・・・そうだ、子守唄うたってやろうか?」
「え?子守唄?」
「うん。ほら、目を閉じて」
俺の両目が園崎の手のひらで塞がれ視界が閉ざされた
「はぁい、あなたはだんだんねむくなぁる・・・ねむくなぁる・・・ねむぅくなって、いしきはくらぁいやみのなかへ・・・」
「え?それ子守唄と・・・違く・・・ない?」
あれ、なんか・・・強烈な眠気が襲ってきたぞ・・・
俺は園崎の歌声(?)に導かれるように深い眠りの中へと落ちていった
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ヴーッヴーッヴーッ・・・
「ん・・・む・・・」
不意に体に振動を感じた俺は、眠りの中から意識を覚醒させた
その振動は左足の付け根、外側辺りからだ
ぼんやりした意識で、それがズボンのポケットに入れたケータイからの振動だと認識する
「うーん。・・・・・・・・・・・ん?」
目を開けると園崎と目が合った
「わわわわわわわわわわ!?け、けーご、起きたの?」
「そ、園崎?・・・・・・あ、そうか。俺、園崎の膝まくらで・・・」
俺は眠りに落ちる前の状況を思い出した
それからポケットの中で振動し続けるケータイを取り出しアラームを解除する
いつも昼休みが終わる5分前に鳴るように設定してたんだった
ケータイを再びポケットに仕舞い、改めて園崎の顔に視線を戻す
「ゴメンな園崎。俺、すっかり寝ちゃってたみたいで」
「うううううううううううう、ううん。べべべべべべべべ別に、へいき」
なぜか園崎はやたら慌てた様子で首を振った
視線が激しく宙を彷徨っている
「・・・ん?」
俺は改めて自分の身に違和感を感じ、そこへ視線を落とした
Yシャツのボタンが全部外れ、気付けばネクタイも解かれ傍らに落ちている
「え?なんで・・・」
「あああああああああのね、けーご。けーご暑くて寝苦しそうだったからね。あたし、ネクタイ解いてシャツの前、はだけといてあげたの」
「あ、そうなのか?ありがとな園崎」
確かに言われて見れば寝起きなのに涼しくて心地よい
「だから変なコトとかナニもしてないから。ちょっとTシャツの上からchikubiくりくりっていぢり回したくらいしかしてないからっ」
「え?なに?」
ちょっと早口過ぎて聞き取れなかった
「ん・・・あれ?」
よく見たらズボンのベルトも外れて・・・おまけにチャックも半分くらいまで・・・
「わーわーわー、それはねそれはね、えーと・・・ほら、食べてすぐ寝たからお腹圧迫したら良くないと思って緩めてあげたの。だからナニもしてないから。ほんとだからね?ウソじゃないよ?する前にけーご目を覚ましたからナニも出来なかったし・・・って、そんな事より午後の授業遅れちゃうよ。早く早く」
「お、おう」
いつも授業の開始時間なんか気にも止めないのに・・・
やたらと慌てた様子の園崎に違和感を覚えながらも、俺は急ぎ起き上がると身支度を整えた
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「くふ。さあ、約束の品だ。遠慮なく食べてくれ。いっぱい作ってきたから」
昨日に続き、昼休みに再び訪れたこの場所は園崎の手で秘密基地化した空き教室の畳部屋だ
その畳の上へと風呂敷に包まれた大荷物が鎮座している
その大きさに俺はただ圧倒されるしかなかった
園崎の手により包みが解かれると、中から仰々しい重箱が顔を出す
おせち料理かよ・・・弁当の域を軽く超えてるぞ
「開けてみてくれ。自分で言うのもなんだが、なかなかの出来映えだと思うぞ」
園崎が胸を反らして、自信のほどを表した
俺は僅かに緊張した手を蓋に添え、
そして・・・
ぱか
<<ビカー!!>>
蓋を開けると・・・その隙間からまばやくほどの光が漏れ出してきた
アニメなんかでよくあるあの演出をまさか肉眼で見る事になるとは・・・
俺は恭しく開けた蓋を傍らに置き、その中身をあらためた
重箱のなかには色々な料理が詰め込まれていて、そのどれもこれもが物凄く美味そうだった
「凄いな。これだけ作るの大変だったんじゃないのか?」
俺は感動に打ち震えながら、尊敬の眼差しで園崎を見た
「ふふん。昨日の夜のうちに仕込みをして・・・今朝ちょっと早起きして完成させたんだ」
相変わらずやることが大袈裟だが・・・
しかし、それほど手間暇かけて作られたものなら食う方も心して頂かないとならんな
俺は箸を両手で水平に持ち、目の前に持ってきて
「いただきます」
と神妙な気持ちでそう言った
「うん、召し上がれ」
園崎が目を細め、にっこりと微笑み答える
さて、最初の一口はどれにするべきか・・・
暫しの逡巡のあと、鶏肉と根菜の煮染めに箸を伸ばす
ぱく。もぐ・・・もぐ・・・もぐ・・・
噛みしめる度に出汁のきいた芳醇な煮汁が口の中一杯に広がる
これは一流の高級料亭の味にも匹敵するのではないだろうか?
いや、俺はそんなとこで食べたことないけどな
だが、そう思えるほど美味だった
「美味い・・・、すげー美味いよ園崎」
「くふ。けーごは和食の方が好きだって言ってたからな。和のラインナップで拵えてみた。まあ、ボクも和食の味付けの方が得意だしな」
俺の賞賛に園崎は頬を赤らめる
「そういえば園崎は和菓子も上手だよな。前に食べた羊羹も程よい甘さですげー美味かったし」
「えへへ。ほんと?じゃあまた食べにおいでよ。また作っとくからさ。それでまたお茶飲んでゲームしたりして遊ぼ?」
「お、おう」
園崎・・・上機嫌過ぎて完全に女の子モードになってるな
それにしても・・・この弁当のおかずは本当にどれもこれも飛びきりに美味い
箸が止まらん
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「くふふ、美味しかった?けーご」
食後に温かいお茶を保温水筒から注いで貰いながら、俺は幸福感の絶頂にいた
「ああ、やっぱ園崎って料理上手いよな。すげえ才能だと思うぜ。俺も料理たまにするけど・・・全然味が違うもんな。なんかコツがあるのか?秘伝の隠し味、みたいな」
「くふ。食べる相手を思いながら、たっぷりと『あi・・・こふんこふん・・・『友情』を込めて作ったからな。その『想い』が隠し味ってところだ」
俺の賛辞に上機嫌で胸を反らす園崎
「ありがとな、園崎。俺、なんかお礼しなきゃな」
「はは、お礼だなんて・・・、大袈裟だな」
「材料費だってかかってるだろうし、もちろん労力だって・・・俺もなんかしなきゃ悪いじゃないか」
こっちだけ貰いっ放しじゃ義理が立たん
「んー、それじゃ・・・今日はけーごにボクの枕になって貰おうかな?」
唇に指先を当てて少し考えてから、園崎はそんな事を言い出した
「え?俺が?園崎に膝枕するのか?」
俺の頭に・・・園崎と自分、昨日と逆のポジションになった想像図が浮かぶ
「あはは。違うよ。まあ、それもなかなか魅力的ではあるけど・・・親友にするもうひとつの『枕』と言えば・・・『腕枕』しかないだろ?」
うで・・・まくら・・・?・・・・・・・・・だと!?
俺は園崎の口にした『正解の答え』に激しい衝撃を受けた
腕枕・・・カノジョが出来たら絶対にやってみたいと思っていた神シチュエーション・・・
それがカノジョにしたいと常々思っていた相手の方から提案されるとは・・・
今日の俺の幸運は神憑ってんじゃねえか?!!
もしかして俺・・・明日あたり・・・死ぬ?
「・・・ダメ・・・か?」
言葉を失い黙り込んだ俺を見た園崎が眉を寄せ不安げな表情になった
「ぜ、全然ダメなんてことはないけど・・・しょ、しょうが無いな・・・」
歓喜に小踊りしそうになる本心を隠し、俺は『やれやれ・・・』という態度を装った
仮に明日、俺の身に死が訪れようと・・・園崎に腕枕出来るのなら・・・俺は後悔しない
「こんな感じで・・・いいか?」
俺は畳の上に横になり、左腕を真横に投げ出す
さあ来い・・・来いよ!
俺はワクワクする期待に胸躍らせながら園崎の動向を見守った
「それじゃ遠慮なく・・・よろしくね、けーご」
そう言いながら園崎は傍らに腰を下ろした
空気がふんわりと動き、甘い香りを運んでくる
否応なく俺の期待は高まりへと登り詰めていく
園崎も緊張してるのだろうか?
いつもと別人のような淑やかな物腰で身体を傾けると・・・
その頭を俺の腕へとそっと乗せてきた
その重みが園崎という女の子の存在感をしっかりと俺に教えてくるようだ
至近距離で見つめ合う俺と園崎
その綺麗な瞳に吸い込まれそうになる
「なかなかの寝心地だな。うん。すごい安心する」
園崎が目を細め、そう感想を述べてくる
出来れば『親友』としてではなく『彼氏』として腕枕したかったが・・・
それを言うのは贅沢というものだろう
「ふわ・・・」
園崎が小さくあくびをした
「おなかいっぱいになったら眠くなってきた」
「そうか、あんまり寝てないんだもんな?・・・いいぜ、このまま眠っちゃっても。午後の授業始まる前に起こしてやるから」
「そうか?・・・じゃあ・・・ちょっとだけ・・・」
全部言い終わる前に、園崎はすうすうと寝息を立て始めていた
・・・
いや・・・自分で寝ろって言っといてなんだけど・・・
ちょっと無防備過ぎないか?
胸とか・・・すぐに触れる位置にあるんだけど・・・
夏服の薄手のブラウスに目を凝らすと・・・薄っすらブラの柄が透けて見えた
ごきゅ
知らず喉が鳴った
そのブラウスのボタンへとゆっくりと近づいて行くものが・・・って、俺の指じゃねえか!?
今、何しようとしてた俺!?
いかんいかん・・・正気に戻れ、俺
園崎は俺のことを親友と信頼して眠りについたんだぞ
それを裏切るつもりか?
俺は未練を断ち切るように瞼をギュッと閉じた
何も見るな、何も見るな、俺
己の視界を自ら封じた俺は、そう心の中で呟き続ける
そうだ。午前中の授業を思い出せ
あの・・・数学の授業を・・・!
黒板に板書されたあの公式
あれを思い出すんだ
俺は雑念を振り切るべくその公式の解法を脳内で導き始めた
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ん・・・むう・・・」
俺は軽い微睡みの中から意識を覚醒させた
古びた教室の天井が目に写る
どうやらいつの間にか俺も寝てしまっていたようだ
いったい、どのくらい寝ていたのだろうか?
さすがに昼休みが終わる時間は過ぎていないだろうが・・・
温かな弾力が左半身に密着している
それに加え下腹部にも何か柔らかな重みが乗っている感触があった
左半身の弾力が園崎としても・・・これはどんな状況なんだ?
俺は寝ぼけまなこを動かし現状を確認する
「!?」
僅かに残っていた眠気が一気に吹き飛んだ
園崎が・・・俺の体に密着しているばかりか・・・
片足を乗せた状態ですうすうと寝息を立てていた
下腹部に感じた柔らかなものの正体・・・それは園崎の太ももだったのだ
・・・・・・・・・・
ここで少々男性の肉体におけるメカニズムの1つについて説明する時間を頂きたい
朝の起床時・・・下半身の一部分が勝手に硬化している、という現象がよく知られていると思う
一般的に『朝起ち』と呼び称されるものだが・・・それは実際のところ朝だけに限ったものでは無い
昼寝など・・・日中における短時間の睡眠から目覚めた時などにも起こりうる現象なのだ
つまり何が言いたいかというと・・・
今現在、眠りから覚めたばかりの俺の肉体にもその現象が起きており・・・
既に最大限まで硬化していた、ということだ
園崎の太ももが乗っているのは、そんな危険極まりない状態となった部位の上だった
柔らかな内腿の感触と温度・・・・最も敏感な状態となった器官がそれを感じ取った瞬間、
いつも自分の手のひらで得ているものとは段違いの快感が全身を貫く
「!!!」
ヤバイヤバイヤバイヤバイ!!
いま一瞬、暴発しそうになった
なんとか持ちこたえたが・・・
このままの体勢でいたら遅かれ早かれそうなるのは間違いない
そんなことになる前に、なんとかこの足をどかさねば・・・
俺は自由になる右側の手を使い、現状の打破を試みる
体の上に乗った園崎の膝を掴み・・・って、うおっ!?すっ・・・すべすべ?!すべすべして・・・すげえすべすべして・・・すべすべして・・・って、落ち着け俺!
手のひらに感じた肌触りのきめ細かさに危うく我を失いそうになった
いかん・・・手触りの感触だけでもかなりヤバイ
DTの俺に園崎の素肌に直接触れるのは刺激が強過ぎる
一体・・・どうしたらいいんだ・・・
もはや現状の打破は不可能に思われたその時・・・
ヴーッヴーッヴーッ
突然の振動が左足の付け根辺りで起こった
なんだ、これ!?・・・・・・・あ!
一瞬遅れて、それがズボンのポケットに入れたケータイであることに思い至る
昨日と同じ・・・マナーモードによるアラームのバイブレーション
昼休み終了前の刻限を知らせるべく、俺のケータイが振動を開始したのだ
マズいことに・・・その上には園崎の身体が乗っていた
跨るように片足を乗せた体勢の園崎が
そして振動の発生源は・・・彼女の両脚の付け根に位置する部位が密着している箇所だった
「・・・う・・・ん・・・・・・んあっ!?」
園崎の身体がびくんと跳ねた
「・・・な・・・に?・・・これ・・・やぁっ・・・ダメ・・・んあぅ・・・」
夢うつつの中、不意に襲ってきた刺激に戸惑いの声を上げる園崎
「やめ・・・・・やっ・・・ふあっ・・・・・・・・ん・・・」
振動の刺激に耐えるように、園崎が俺の身体にしがみつく
だが、それは逆効果にしかならなかった
さらに強い刺激を自ら受ける形になった園崎は身をくねらせ身悶える
「あッ・・・あッ・・・うあぅ・・・んッ・・・」
園崎の唇から漏れる吐息で胸元が熱い
振動を止めようにも・・・真上に園崎の身体が乗った状態ではどうする事も出来なかった
「あぅ・・・あ、あ、あ・・・らめ・・・イ・・・・・・クぅ・・・!・・・ッ!・・・ッ!!」
押し殺した悲鳴のような声を上げた園崎はビクッビクッと数度身震いした後・・・
強張っていた全身を弛緩させ、そのまま俺の胸の上でくったりとしてしまった
その直後、設定された一分間の鳴動時間が過ぎ、やっとケータイの振動が止まる
激しかった園崎の息使いが段々と収まってくるのを、俺は身を固めてじっと待った
「うそ・・・あたし・・・けーごの胸の中で・・・イッ・・・ちゃっ・・・・・たの?」
俺の胸元に顔を埋めたまま園崎がくぐもった声で何か呟きを漏らした
「・・・えーと、園崎?」
俺は意を決して恐る恐る園崎に声をかけた
その呼び掛けに反応した園崎がゆっくりと顔を上げる
耳まで真っ赤になった顔で眉を歪ませ・・・その表情は羞恥と怒りが入り混じっているように見えた
「えっと・・・ゴ、ゴメンな園崎・・・俺、ズボンのポケットにケータイ入れてて・・・それで・・・アラーム設定してて・・・音出ないように・・・マナーモードにしてたから・・・きゅ、急に振動して・・・・・・び、びっくりさせたよな?・・・ホント、ゴメン」
俺はしどろもどろになりながら園崎に弁解の言葉を述べ、詫びた
「・・・。」
園崎は口を開き何か言いかけたが・・・きゅっと唇を閉じ、気まずそうにぷいと顔を逸した
「い、今のはその・・・いきなりブルブルしたから・・・お、驚いて・・・へ、変な声、出ちゃっただけで・・・そ、それだけだから・・・ご、誤解しないでね・・・」
「ごごご、誤解とか・・・何も誤解とかしてないから!・・・ゴ、ゴメンな?その・・・驚かせて・・・」
俺は園崎の『驚いて声を上げた』という主張に全面的に賛同することでこの場を収めることにした
「ホ、ホント。と、とってもびっくりしたんだから・・・お、お陰で、
すごく変な声・・・出しちゃった」
「ああ・・・ホント、悪かったな」
俺はもう一度謝った
良かった・・・多少の気まずさはあるものの、後まで引きずる程のものじゃなくて・・・
俺が安堵の溜息をついた時だった
ヴーッヴーッヴーッ
再び始まる振動
「んあっ!?・・・なんで?・・・やッ・・・んく・・・んッ!・・・あッ・・・ぁん・・・ぃや・・・らめ・・・」
ヤバイ!スヌーズ設定してたんだった
「んぅ・・・イッたばっかで・・・敏感に・・・なってるのに・・・や・・・あッ!・・・」
園崎は俺の胸に顔を押し付けるようにして、再び自分を苛む刺激に耐える
「ぅあッ!?・・・あたし・・・また・・・んッ・・・んッ・・・んッ!・・・ッ!・・・ッ!」
俺の背中に腕を回し、無我夢中でしがみついてくる園崎
俺は・・・思わずギュッときつく抱き締め返してしまった
「あッ・・・けーごッ・・・けーごッ・・・けーごッ・・・」
びくっびくっ・・・びくっ・・・
園崎は何回か俺の名前を呼びながら痙攣すると、まるで糸が切れた人形のように・・・
気を失ったのか、くったりと動かなくなってしまった
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どうしよう
遠くで午後の授業開始のチャイムが鳴っているのが聞こえた
(つづく)
「ほ、本当に・・・、本当にいいんだね?メイちゃん」
亮平は震える声でそう芽衣に確認した
「まア、約束は約束ダからネ・・・。いいヨ、膝枕。やっテあげようジゃないカ」
「やったあ!」
芽衣の返答に文字通り飛び上がって喜ぶ亮平
「そレにしてモ・・・賭けニ勝っタご褒美が僕の膝枕とハ・・・キミも物好きナ男だネ」
そう言いながら溜息をつき肩をすくめる芽衣
だが、膝枕か・・・
マンガやゲーム、ラノベなんかじゃ腐るほど見てきたシチュエーションだが・・・
自分がやるとなると話は変わってくる
芽衣は柄にもなくほんのりと頬が火照る感覚を覚えた
そういえば・・・ゆずっちも少し前、よっしぃに膝枕した時のこと言ってたな
相手が自分だけのものになったみたいでドキドキしたって・・・
そして、髪の毛が内腿をくすぐってきて・・・
ゾクゾクして気持ちよかったとも・・・
・・・
まあ、ゆずっちは『恋する乙女ビッチ』だからな
服を着てるとはいえ、自分の性器の間近に好きな男の顔があるなんて状況に、
色々と妄想を膨らませながら密かに股を濡らしていたことだろう
そして、おそらくその夜はそれを思い返しながら狂ったように自慰に耽ったに違いない
ふふん、よっしぃもとんだ淫乱女に好かれたものだが、どこまで気付いてるのか・・・まだ一線は越えてないみたいだけど・・・もしゆずっちが性交の味を覚えたら・・・きっと昼も夜もなく求め続けられることになるだろう・・・難儀なことだ
「メイちゃん?」
亮平から声をかけられ、芽衣は性欲過多な友人の異常性癖についての考察を中断する
「ん?なんだっけ?」
「メイちゃん!?」
芽衣のキョトンとした表情に絶望的な表情で返す亮平
「冗談ダ。忘れてなイ。そんナ顔をするナ」
世界の終わりを前にした様な亮平の反応に眉を寄せて苦笑いする芽衣
まったく・・・この男は僕の太ももなんかにどれだけの性的価値を見ているんだ
「そレじゃ始めるとするカ。・・・ただシ、さっきモ言ったヨうに5分間だケだからネ。コイツが鳴ったラ終了。わかっタかイ?」
スマホアプリのタイマー画面を見せながら念を押す芽衣
「分かったよ。貴重なその5分間・・・悔いの無いよう、全力で堪能させて貰うからね。メイちゃん」
真剣な表情で頷く亮平
その表情に軽く引きながらも芽衣は床に膝を突き・・・そして正座した
スカートから露出した芽衣の太ももは日本人離れした白さで、
彼女に北欧系の血が入っていることを如実に物語っていた
それを前にした亮平は思わず手を合わせ恭しく拝み、その行動に芽衣はさらに引いた
・・・ちょっと早まったか?・・・いや、でもたかが膝枕だしな・・・
「じゃア、いいゾ・・・って、ちょ!?待てえええええ!!」
芽衣は思わず大声を上げた
タイマーを押し、許可の言葉を発したと同時に亮平が芽衣の太ももの上に乗せてきたのは・・・
後頭部ではなく顔面だった
流石の芽衣も狼狽え、いつもの口調もどこかへ行ってしまっていた
「おい!?なんでキミは太ももに顔面を押し付けてきてるんだ!!」
「お、俺ッ!寝る時はッ!いつもうつぶせ寝だからッ!!」
両太ももの間に顔面を埋めたまま、そう訴える亮平
「なんだ!その理屈は!!ぎゃああああああ!?ほ、頬ずりをしながら脚の間に顔を押し込んでくるなああああああ!!」
亮平はさらに太ももの間へと顔面を食い込ませてきていた
「お、俺ッ!寝るときは枕に顔を埋めて寝る癖があるからッ!!・・・くんかくんか」
「うわあああああああああああ!!!匂いを嗅ぐなあああああああ!!!!」
取り乱した芽衣が亮平の頭を掴み、引き剥がそうとするが・・・びくともしない
「お、俺ッ!枕に安眠用のラベンダーのポプリ入れててッ!香り嗅ぎながら寝る癖あるからッ!!
すーーはーーすーーはーー」
「嘘つけええええええ!!!何がポプリだ!!ひいいいいいいいい!?吐息で股がスースーして気持ち悪いいいいいいい!!!!!やめろおおおおおお!!!!」
荒々しく髪の毛を掴み引っ張り上げようとするが・・・それでも亮平の頭は微動だにしない
亮平の進撃は留まることを知らず・・・さらに奥深く潜り込んでくる
「やあぁぁぁぁぁぁめえぇぇぇぇぇぇろおぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
ゴッ!
耐えきれなくなった芽衣は・・・
手にしていたスマホを全力で亮平の後頭部へと振り下ろした
しかし・・・
それでも亮平の侵攻速度は緩まない・・・侵掠すること火の如し
そして遂にはその鼻先が『行き止まり』に突き当たった
「あぅん・・・って、鼻でパンツをぐりぐりするなあああああああああああ!!!」
ゴッ!ゴッ!ゴッゴッ!!ゴッ!!
思わず変な声を上げた恥ずかしさと怒りで、
芽衣は何度も何度もスマホを亮平の後頭部へと打ち付けた
・・・・・・・・・・・・
「って感じで、メイちゃんに後頭部めちゃくちゃ殴られちゃってさ、それでこうなったワケなんだよ」
マキさんの話を聞き終えた俺は、戦慄で脚が震えるのを抑えることが出来なかった
バイト先のコンビニ
シフトの時間に頭を包帯でグルグル巻きにして現れたマキに
「どーしたんすか、それ?」
と聞いたら、そんな経緯を笑いながら語り出したのだ
あの飄々として人を喰ったようなサツキのことをそこまで取り乱させることが出来るとは・・・
やっぱこの人は只者じゃないな・・・
「キッチリ5分間、メイちゃんの太もも堪能できて・・・俺は大満足さ」
満面の笑みでサムズアップするマキさんに、俺はただ疲れた笑みを返すしか出来なかった
【あとがき】
皆様、お久しぶりでございます。
約5ヶ月ぶりの更新でごさいます。
毎度毎度長々とお待たせして申し訳ございません。
やっと更新することが出来ました。
営業の仕事はなんとかやれておりますが…
あたしの売り上げが上がらないのはコロナのせいなんだからねっ。
私が解雇されるのが先か?
会社が倒産するのが先か?
みたいな笑えない状況ですけど、まあ、なるようにしかならんでしょう。
先の事を考えると鬱々するんで考えるのはやめます。
それではまた、次回の更新を気長にお待ち下さい〜。