第85話 神秘へと至る約束された道とその代償
「あー、まだあちーし午後の授業かったりーなー」
隣を歩くタナカがそうぼやいた
「まーね、どうしても昼飯の後って眠くなるし」
反対側でサトウが同意して頷く
昼休みも半ばを回った時間
俺は悪友二人と連れ立って学校の廊下を歩いていた
・・・俺はなにも四六時中園崎と一緒にいるわけじゃない
こうしてヤロー共とダベりながら、くだらない話に興じるのも大切な時間てわけだ
そして、嘘偽りの無い素の自分でいられる・・・心休まる一時といえる
「それにしても今年の夏はなんも無かったなー。今年こそはカノジョとか作ってイチャイチャして・・・あわよくばチューくらいしたかったのに」
タナカが欲望丸出しの顔で欲望丸出しの願望を口にした
隣で俺は、密かにチューという単語にギクリとする
決してカノジョが出来たというワケではないのだが・・・俺はこの夏休み、初チューを経験していた
ていうか、いま現在ほぼ毎日してる
今日も朝から数えて4、5回はしたはずだ
・・・どこのバカップルだよ
本当なら自慢げに話してやりたいところなんだが・・・
「クラスの中・・・絶対、夏休み中になんかあった雰囲気出してるヤツが何人かいるよな。あー、羨ましー!てか、恨めしいー!呪い殺してぇー!!」
怨嗟の炎を瞳に宿し叫びを上げるタナカ
俺の心臓がびくりと跳ね上がる
「まさかとは思うけど・・・お前ら二人とも、カノジョなんて出来てないよな?もし出来てたら隠さないで教えろよ。マブダチから殺害対象に認識変えなきゃなんねーから」
爽やかな笑顔で物騒な事をのたまうタナカ
「えーと、それって二次元もアウトかな?俺、実は夏休み中から付き合い始めた娘がいるんだよね」
サトウが心配そうな表情でスマホの画面に表示されたゲームキャラを見せながら言った
「ははは、心配すんなよサトウ。それはギリセーフだ。物理的に揉んだり吸ったり出来ない相手なら何も問題は無い」
サトウのヤバい申告に満面の笑顔で返すタナカ
・・・大丈夫か?コイツら
俺は二人のやり取りを見ながら、今後も変わらぬ友人関係を続けていいものか僅かな疑念を抱いた
「義川は?返答無いけど?」
タナカが首をぐるんとこちらに動かして聞いてきた
「えーと・・・モチロン俺も・・・彼女とか、出来てねーよ?」
俺は頬が引きつるのを感じながらそう言って笑った
・・・何も嘘は言っていない
園崎は『親友』であって『彼女』ではないし、あの行為はもともと『魔力交換のための術式』というだけで『チュー』ではない
ただちょっと客観的な見た目が『濃厚なベロチュー』に見えるというだけの話だ
「ははは、そっかー。やっぱ俺達の友情は盤石だなー。裏切り者への制裁なんか考える必要性すら無いよなー」
俺の言葉を疑いもせず、脳天気に笑うタナカの笑顔に・・・心が少し痛んだ
「まあ、義川はあの暴力中二病女に取り憑かれてるしなー。彼女なんて作ってる余裕はねえかー」
「ご愁傷様だねー、義川」
「いくら見てくれが良くたって、手が出せなきゃ絵に描いた餅だしなー」
二人から憐れみのような眼差しをかけられ、俺はなんとも複雑な気分になる
そんなやり取りをしながら校舎の中央付近まで来た時だった
「っ!!」
弛みきっていたタナカの表情筋が急に引き締まる
何かを察知したのか、急に立ち止まると眼光鋭く視線を左側へと走らせた
そこには開け放たれた窓があり、晴れた空に遠く山並みが見えている
「・・・来る」
何かを確信したように短く呟きを漏らすと、バッと首を反対側へと動かした
突然の友の異変にただならぬ物を感じ取った俺とサトウは瞬時に反応して動く
無言のまま・・・素早くタナカと同じ方向へと振り向き、その視線の向かう先へと目を向けた
その方向にあったものは・・・上階へと上る階段
そして、そこを談笑しながら上る三人の女生徒の後ろ姿があった
彼女達がちょうど踊り場へと差しかかった瞬間だった
ビュオッ
俺達の後ろ側にあった先ほどの窓から、一陣の風が吹き込んできた
急な突風とも言えるその風は俺達の体をすり抜け、階段を駆け上っていく
そして・・・
彼女達三人のスカートをふんわりと舞い上げた
白・・・ブルー・・・そしてピンクのドット柄・・・
三人三様の下着を纏った下半身が露わになる
目の前で起こった奇跡のような瞬間を、俺達は全力で網膜と脳の記憶領域へと焼き付けた
時が止まったかのように数秒間その状態を維持した後・・・
スローモーションのように本来の状態に戻るスカート
そして、遅れて上がる悲鳴
「キャーッ、なに今の風!」
「もー、信じらんない」
「は、早く行こ」
女生徒達は突然のハプニングに、慌ててスカートを押さえながら階段を駆け上って行った
「・・・タナカ」
「タナカ」
俺とサトウはタナカへと顔を向けた
「ふっ・・・、なんとなく・・・そんな予感がしてな・・・」
俺とサトウ、二人からの尊敬と畏怖の入り混じった眼差しを受け、タナカは照れたように鼻の頭を指で掻きながらそう言った
エロに関してはどんな僅かなチャンスの兆しも見逃さない
それがこのタナカという男の凄いところだった
コイツと知り合ってからというもの、こんなことに出くわしたのは一度や二度の事では無い
その度に、コイツと友で良かったと感謝の念を新たにするのだ
タナカが握り拳にした右手をスッと胸の高さに上げた
俺とサトウも同じようにした後・・・
ゴッ・・・ゴッ・・・
三人で無言のまま拳を合わせた
「フッ・・・夜が待ち遠しいぜ・・・」
「今夜はお互い・・・ちょっとばかし忙しくなりそうだな・・・」
「ああ・・・肉眼で捉えた生の視覚情報はグラビアや動画なんかとは、また違った趣があるからな・・・」
「お前ら・・・くっきりと瞼の裏に焼き付けてるだろうな?」
「ああ、もちろんだとも・・・あの爽やかな夏空のような青色・・・」
「ちょっと幼さの残るピンクのドット柄・・・」
「・・・そして清楚な白・・・いや、ここは敢えて純白と言わせて貰おう・・・」
俺達は暫し喜びを噛み締め合った
「・・・楽しそうだな・・・お前ら・・・」
不意にかけられた声に俺達はビクリとして身をすくめた
その声の冷たさは・・・まるで急に背中に氷を押し当てられた感覚を連想させる
俺達が恐る恐る声のした方向へと首を回すと・・・
そこには腕を組んだポーズで立っている園崎がいた
苦虫を噛み潰したような表情に、冷たい眼差しを送る両目の奥に青白い燐光が揺らめいて見える
「ヒッ!」
喉の奥から悲鳴を上げるサトウとその場にへたり込むタナカ
俺は呼吸が止まり全身が硬直するのを感じた
ヘビに睨まれたカエルというのはこんな状態なんだろうか?
数秒間の沈黙のあと・・・園崎が無言で一歩踏み出した瞬間、恐怖に耐えきれなくなったタナカとサトウが脱兎の如く逃げ出した
一人取り残された俺は無言の圧に押され後ずさる
じりじりと後退するうちに背中が壁に当たり、それ以上後ろに下がることが出来なくなった
階段脇の暗がりになった場所へと、追い詰められた形になり俺は逃げ場を失う
逆光を背に黒い影のようになった園崎の顔は、瞳だけが青白く光って見えた
「経吾。・・・・・・・・・・・・・・・・正座」
「はい」
俺は条件反射的にその場へと膝を折った
「あ、あのな、園崎。さっきのは偶然見えちゃっただけで・・・べつにわざと・・・」
俺はもつれる舌でなんとか己に非のない事を訴えかけるが・・・
「経吾。・・・説教と折檻・・・どっちがいい?」
「説教でお願いします」
自己弁護を諦め、俺はうなだれてそう答えた
「なあ、経吾・・・。僕も本当はこんなことで目くじらを立てたくはないんだ。だが、親友としてこれを放っておくわけにもいかないんだよ。何故なら・・・今ここできっちりとお前を躾ておかなければ、のちのち大きな過ちを犯すことになるのは明白だからだ。・・・いいか、最初は本当にただの偶然だったかもしれん。だが、いずれはもう一度見たいという欲望が沸き起こることだろう。その思いが高まるうち、お前はとうとう自分から覗き行為を働くようになる。一回だけ・・・そう思いながらした事が病みつきになり、我慢出来なくなったお前はそれを二度、三度と繰り返していくだろう。そのうち、さらなる刺激を求め次第にその行為をエスカレートさせていくのは必定。まずは携帯機器などを使用した盗撮行為に手を染めるのは間違いない。そしてそれだけでは満足出来なくなったお前は生の感触を味わおうと・・・とうとう直接的な肉体の接触を伴う痴漢行為へと行き着く・・・。そうやって歯止めの利かなくなったお前の暴走は、より悪質なものへとなっていく。強制猥褻を数度繰り返したのち、当然のように通り魔的婦女暴行へと行き着く・・・幾人・・・幾十人と暴虐の本能で男女の区別無く犯し尽くすという無差別凌辱事件を引き起こしたお前は日本性犯罪史に名を残す凶悪性犯罪者となるだろうことは容易に想像できる。・・・確かに前世のお前の力を持ってすればそれは容易い児戯にも等しいことだろう。しかし、その魔力の大部分を未だ取り戻していない今の状態では、捕縛のため押し寄せてくる公権力の数の暴力の前には抗うことは難しい。この国の警察機構はなかなかに侮れんからな。いかにお前といえど数百人程度くびり殺すのがやっとで最終的に捕縛は免れんだろう。起訴され裁判のあと有罪判決を受けたお前は群集から投げつけられる石礫を全身に受けながら市中引き回しの後、打ち首獄門となりその首は三条河原に晒されることになる・・・。その一部始終をただ見届けることしか出来なかった僕は深く後悔することになるのだ。・・・『何故、あの時お前を止めてやることが出来なかったのか』・・・とな。そうならない為にも・・・いま僕はこうして心を鬼にしてお前に言い聞かせているんだ」
なんか滅茶苦茶な理屈で俺を責め立ててくる園崎
「あ、あのな園崎・・・」
俺はなんとか言い繕う言葉はないかと探しながら、伏せていた顔を上げた
「!?」
しかし、口を開きかけたところへ園崎がずいと一歩踏み出してきて、俺は言葉を飲み込む
「だ、だいたい・・・!!」
怒りを抑えるかのようにスカートの裾を掴み、小刻みに手を震わせる園崎
そして・・・
バサッ
「こ、こんなのはただの布切れだ!それがチラッと見えたくらいであんな風に嬉しそうに大喜びして!そ、それも見ず知らずの・・・ただの通りすがりの女共のなんかで!まったく・・・思い出してもハラワタが煮えくり返る!!」
両手でスカートの裾を持ち上げ、『ただの布切れ』と呼んだ自らのそれを見せながら、そうまくし立てる園崎
俺は園崎の剣幕と・・・それ以上に目の前わずか十数センチの至近距離で露わになったスカート内の情景に固唾を飲んだ
「見れるなら誰のでもいいのか!それならボクのでもいいはずだ!そうだろ!・・・お前も知っての通り、このセカイにおけるボクの魂のイレモノ・・・つまりこの転生体は女の体だ!したがって、この通り同じ形態の布切れくらいボクもこうして身に付けてるんだ!だったらどこぞの女共のなんかより親友であるこのボクのを見るべきだろ!違うか!」
そう言ってさらに、ずいと身を寄せてくる園崎
鼻先に触れるくらいの距離にまで近付く薄布
その表面にあしらわれたリボンやフリル、花柄の刺繍といった細部までのディテールがつまびやかに目に写る
「ボクのだったら・・・経吾が一言『見せろ』って言えばこうやって・・・いつだってどこでだって好きな時に好きなだけ見れるんだから・・・大人しくボクので我慢しておけ!・・・と、とは言え、ボクもそんなに何枚も持ってるわけじゃないから・・・バリエーションに乏しいのは否めないが・・・。そ、そうだ、例えば・・・」
言いながらくるりと後ろを向く園崎
ほどよいボリュームのお尻がこちらを向いた
そして・・・
「ほ、ほら・・・こうすれば・・・」
ぐいっ・・・ぐいっ・・・
両の人差し指を使い、お尻を覆っていた薄布の両裾を上へと絞り上げる
「ぎ、擬似的にだが・・・ティ、Tバックみたいなのも・・・再現可能だし・・・」
細められた布地が食い込み、もっちりとした薄桃色の尻肉が露わになった
「ま、まあこれはあくまで暫定的な対応ではあるが・・・。ゆくゆくは新たに購入すればいいだけの話で・・・具体的にお前が好みの色とか、柄とか・・・形状なんかをリクエストしてくれれば、あらかじめ事前に購入し穿いておくことも可能なわけだから・・・何の問題も無いだろう?」
そう言いながら身体の向きを元に戻す園崎
「っ!!?」
正面側はさらに凄い事になっていた
無理に絞り上げられた布地が思い切り食い込んで・・・ハイレグ状になっている
「と、とにかく・・・そ、そんなわけで今後は・・・他の女のパンツなどを見るのは全面的に禁止だからな!!分かったか?分かったな!!」
そう早口でまくし立てたあと園崎は掴んでいたスカートをやっと放した
とてもいい匂いのするそよ風とともに、スカートの裾が俺の鼻先を撫でながら降りていく
「と、とにかく!そういうワケだから!いいな!!」
微かに目尻に涙を滲ませる紅潮した顔でそう念押ししたあと、園崎は身を翻しそのまま逃げるように駆け去っていった
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「おーい、義川・・・無事か~」
園崎と入れ替わるように戻ってきた悪友二人が、恐る恐る声をかけてきた
「!?・・・義川!お前、スゲエ鼻血出てんじゃんか!」
俺の顔を見たタナカとサトウが血相を変える
いつの間にか、俺は鼻血を出していたらしい
だが・・・それは無理も無いことだろう
好きな娘の生パンツ・・・それをほんの数センチの距離で一分以上もの間、凝視してしまったのだから
それに加え、あんなとこやそんなとこがとんでもないことになる様まで、つぶさに両の眼へと焼き付けてしまったのだ
そしてとどめのスカートによる一撫で・・・
くすぐったさと同時に・・・メチャクチャいい匂いがした!!
あんな事があったら鼻腔どころか脳の血管の一部が切れていたとしてもおかしくは無い
「殴られたのか!?殴られたのか、義川!!」
「男のロマンを解さぬ暴力女め!ヒデェことしやがる・・・!」
「いや・・・これは・・・その・・・」
動揺を見せる二人に真実を言うわけにもいかず、俺は鼻を押さえたまま口ごもる
「とにかく、保健室行くぞ義川。立てるか?」
「いや・・・ちょっと、いまは・・・まだ・・・」
「立てないのか!?足にきてるのか!義川!」
「まさか顔だけじゃなく・・・ボディにまで?」
「いやその・・・勃ってるから立てないっていうか・・・少し収まるまで待ってくれ」
完全に硬化して棒状になった俺の分身がズボンを内側から圧迫してきて・・・身動きが取れない
いまちょっとでも擦れたりして刺激が加わったら・・・臨界を越えそうな危険な状態になっていた
「ヤバいぞ!目が虚ろだ・・・」
鼻からの出血に加え下半身への大量な血液の偏りにより、軽度の貧血を起こしているようだ
周りが・・・白く霞んで見えるぜ・・・
「意識をしっかり持て!義川。そうだ・・・さっき見たパンツの色は何色だったか思い出せるか!?」
タナカがそう呼び掛ける声が聞こえる
「大丈夫だ、タナカ・・・心配するなよ・・・ちゃんと憶えてるさ・・・淡い・・・パステルオレンジだったよ・・・」
「くっ!?記憶の混濁が激しい・・・義川!しっかりしろ!!義川ー!!」
サトウの悲痛な叫びが響く
ふっ・・・そんな顔するなよ、お前ら。俺はいま・・・とても幸せな気分なんだぜ・・・
俺は遠のく意識の中、穏やかに心が満たされているのを感じていた
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
午後の授業に遅れ、途中から教室へと入った俺達三人だったが、教師からは『なんだお前ら、またなにかやったのか』という半眼を送られただけで大きなお咎めは無かった
席に着くとき、一瞬園崎と目が合ったが・・・
園崎は耳まで真っ赤になり、フイと顔を逸らしてしまった
そのあとは・・・、気まずさに言葉を交わすのも憚られ、そのまま放課後まで時間が過ぎた
・・・・・・・・・・・。
「今日は部活は無しだ・・・帰るぞ、経吾」
席から立ち上がり、視線を合わせないまま園崎がボソッとそう言って歩き出す
「あ、あぁ・・・」
俺はそれに従い園崎の背中を追って教室を出た
二人並んで帰り道を歩きながら、俺は昼休みの出来事を思い返す
あの時、カッとなった勢いであんなとんでもない事を口走った末、自らの手で己の下着に魔改造を加えるに至った園崎だったが・・・時間が経ち頭が冷えるにつれ羞恥心がこみ上げてきたってところだろう
今までにも何回かあったパターンだ
俺も最初は『好きな娘の生パンツ鑑賞フリーパス券』を手にしたに等しい状況に有頂天だったが・・・冷静に考えたら、それは一介の高校生が手にするにはあまりにも危険過ぎる力と言えるだろう
好きな女の子のスカートの内部を気の向くまま自由に好きなだけ鑑賞していられるなんて・・・
強大な力は身を滅ぼしかねない
そんな傍若無人とも言える力をむやみに行使すれば・・・やがては必ず大きな災いが己にふり返ってくるはずだ
このまま有耶無耶に・・・無かった事にした方がいいよな・・・
正直、惜しい気持ちはあるが・・・
少しの間いい夢が見れた・・・そう考えて潔く諦めよう
隣を俯いて歩く園崎を横目で見ながら、俺はそう決意を胸に刻んだ
・・・そう、俺は紳士なのだ
・・・変態じゃない方のだぞ?
とりあえず・・・
家に帰ったら真っ先に昼休みの脳内記憶映像を心ゆくまで再確認するとしよう
今夜はあいつら同様、眠れぬ夜となりそうだな
そんな事を思案しつつ、俺はニヒルな笑みを浮かべた
「・・・経吾」
公園の遊歩道に少し入ったあたりで、園崎が躊躇いがちに口を開いてきた
「ん?なんだ、園崎」
俺は努めて普段通りを心掛け、返事を返す
「ボクが・・・昼休みに言ったこと・・・なんだけど・・・」
「え?あ、うん」
あえて伏せていた話題を急に出され、俺は返答に困った
何のことだ?なんて言うのも白々し過ぎるよな・・・
俺が返す言葉を探し出す前に、園崎が何かを決意したように顔を上げ真っ直ぐに見つめてきた
「あれ・・・本気だから!・・・言ってくれれば・・・いつでも、好きな時にいくらでも・・・見せるから!!」
「なッ!?」
想定していたのと正反対の言葉を告げられ、俺は自分の耳を疑った
てっきり、『あれは忘れて』と言われるもんだと思ってたんだが・・・
まさか改めて決意表明されるとは・・・
たった今、辞退の英断を下したところではあるが・・・ここまでの決意を無碍にするのもかえって失礼というものだろう
園崎の勇断に敬意を表し、ここは謹んでその提案を・・・
「だから・・・経吾もね・・・ボクに・・・」
もじもじとしながら、はにかんだ上目使いで園崎が言葉を続ける
「ボクに・・・同じよーにパンツ見せてね?」
「え?」
「え?」(二回目)
ごめん、ちょっと意味解らなかった
「え?・・・じゃなくて。ボクだけ見せて経吾が見せないんじゃ不公平でしょ?ボク達、親友なんだから。お互い公平でなくちゃ。ギブアンドテイク?まあ、言うなれば等価交換てやつだね」
園崎がにっこり微笑んでそう言った
「いやいやいや、ちょっと待っ・・・」
「そう考えるとお昼休みにはボクが見せたんだから・・・今度は経吾の番になるわけだよね?」
そう言うと同時に俺の右手首をがっちりと掴む園崎
「え?ちょ、待っ・・・」
そのまま物凄い力でずるずると俺を引きずるようにして・・・
遊歩道脇の茂みの中へと引っ張り込まれた
ドッ
「うっ」
太い木の幹が背に当たり退路が完全に絶たれる
「いま見たいな。見せて。ここで」
完全に目の色の変わった園崎がそう要求してくる
「え!?いま?ここで?」
俺は裏返った声で問い返すが・・・
「そう。いま。ここで」
拒否を許さぬ圧できっぱりと告げられた
「でも、もし誰か来たら・・・」
茂みの影になっているとはいえ、完全に隠れているわけではない
「だから、誰も来ないうちに早くして」
園崎は要求を取り下げるつもりはさらさら無いらしい
「ん~、取り敢えずズボンを膝まで下げて・・・それから良く見えるようにシャツをお腹まで捲り上げてみよーか」
ニンマリした顔で指示してくる園崎の言葉に俺は血の気が引く
「そのあとー、
後ろ向いてボクがやったことと同じよーにして」
「え?」
『同じように』って、まさか・・・擬似Tバックのことか!?
俺は自分がそれをしているビジュアルを思い浮かべ、絶望感に足が震えた
「っ・・・、そ、それ、誰得?読者層的に誰も喜ばないと思うんだけど?」
「ドクシャってなに?・・・いーから早くやって見せて」
「いや、でもな・・・」
「はやく」
「いやいや、それは・・・」
「はやくってば」
「だからね・・・」
「いいから早くベルト外せ」
「はい」
・・・絶対的な暴虐の力を持つ存在の前で・・・俺はあまりにも無力だった
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「うぐうぅうぅうううううううううううぅぅぅぅぅぅぅうぅ・・・・」
その日の夜、俺はベッドの中で思い出し羞恥に身悶えていた
永遠に続くのかとも感じられたあの時間・・・
それを乗り越えた直後、俺の精神は疲弊し憔悴しきり・・・歩くのがやっとだった
それとは対照的に・・・園崎は実に上機嫌な足取りで帰って行った
「うぐうぅうぅぅ・・・」
「くぅううぅぅぅ・・・」
「くっ・・・くくっ・・・・・・くくくくくくくく・・・・」
いつしか俺の苦悶の声は含み笑いへと変わっていた
だが・・・次は俺のターンだ
園崎・・・お前はどうやら俺の中に眠っていた獰猛な獣を目覚めさせてしまったようだな
お前は、俺が指定した下着を着用してくれると言った
それはどんなものでもいいんだよな?
ならば・・・
『レースのスケスケなやつ』とかでも・・・言えば穿いてくれるってワケだよな!?
そう、・・・うっすらと『中身』が透けて見えるようなのでも!
そうだな・・・それを穿いたあと・・・脚をM字にして座って貰おうか
・・・我ながらなんと恐ろしい考えに至ったものだ
その後、それが我が身にカウンターとして跳ね返ってくるかもしれないというのに・・・
一瞬、レースのスケスケを身に付けた自分がM字開脚で座っている姿が脳裏をよぎり、ゾクリと背中に冷たいものを感じた
だが・・・、俺はやる!やってやる!!
たとえそんな姿を演じる事になろうとも・・・
園崎のうっすらと透けて見える××××が拝めるのなら・・・!
----ククッ・・・見上げた心意気だな
「!?」
突然、頭の中に響いた声に俺は驚き振り返る
「なんだお前か・・・よう、久しぶりじゃないか」
そこにいたのは・・・
フワフワと宙に浮く、下卑た笑いを浮かべた・・・悪魔俺だった
----なるほど、レースのスケスケか・・・。ククッ、お前のそういう思い切りの良さ・・・嫌いじゃないぜ。だが・・・
にんまりと笑いながら何かを差し出してくる悪魔俺
----ここは思いきって・・・これだろ?
そうやって奴が見せてきたものは・・・!?
「って、お前・・・それは『ただの紐』じゃねえのか!?」
驚愕を隠せない俺に悪魔俺が言葉を続ける
----くくく・・・バカなことを・・・。これはれっきとした下着だとも
十人に尋ねたら十人とも『ただの紐』と答えるであろうそれを手に、悪魔俺は悪びれもせず言い切った
「く・・・自分自身の内なる存在とはいえ・・・恐ろしい奴・・・」
俺は己の中に秘められた悪辣さに背筋が寒くなる
こんな幅が5ミリあるか無いかの紐を下着と言い張るとは・・・
----どうした・・・怖じ気づいたか?
そう聞いてくる悪魔俺に・・・俺は不敵な笑みで返す
----くくッ・・・そう来なくちゃな・・・
俺の意を汲み取った悪魔俺がそう言って笑む
----いやいや、ここは是非・・・こちらをおすすめしたいですね
そこに割って入る涼やかな声
俺と悪魔俺が驚き振り返るとそこには・・・
天使・・・いや、堕天使俺が斜に構えた微笑でフワフワ浮いていた
なんだ、コイツも何か提案があるというのか?
しかも口振りからするに、この『ただの紐』を上回るような何かが?
----お前、これ以上に際どいのがあるってのかよ?
睨むようにそう問い掛ける悪魔俺
だが、堕天使俺はその質問には答えず、ただ静かに笑うのみであった
----勿体ぶってないで・・・早く見せてみろ!それを!!
焦れた悪魔俺が怒鳴るように言う
----まあ、そう慌てずに・・・。では、ご覧に入れましょう。私がお薦めしますのは・・・こちらです
そう言っておもむろに開いた堕天使俺の手のひらの中にあったもの
それは・・・
----こ、これは!?・・・って、なにも無えじゃねえか!
悪魔俺の言うように、その手のひらには何も載ってはいなかった
「どういう・・・ことだ?」
だがしかし・・・堕天使俺はあくまで涼しい顔を崩さない
そして・・・
----嫌ですねえ、ちゃんとあるじゃないですか・・
----『転生者にしか見えない異世界の生地で出来た下着』がね
そう言った口が三日月のような形を描く
ゾッ
その言葉の意味するところに思い至り、俺は戦慄に身震いする
「お、お前・・・なんて奴だ・・・」
堕天使俺の底知れぬ狡猾さに悪魔俺と俺は足が震えた
『園崎にはこれが見えるはずだよな?転生者なんだから』
そんな風に言われてしまったら・・・園崎はこれを穿かないわけにはいかないだろう
----早く見たいですねえ。『これ』を穿いた彼女の姿を
そう言って笑う堕天使俺の目の奥にはこの上なく邪悪な炎が揺らめいて見えた
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ふわあ・・・」
翌日。朝の通学路
隣を歩く園崎が大きなあくびをした
「あふ・・・、昨日ちょっと夜更かししちゃって・・・まだ眠いや・・・」
そう言って目尻についた涙をこする園崎
ふ・・・、俺が恐るべき策略を胸に秘めている事も知らず・・・呑気なものだな
俺はそんな園崎を横目で眺め、邪悪にほくそ笑んだ
可哀想かもしれんが、俺はあの計略を見直すつもりはない
たとえ、その後に同等の羞恥が我が身に跳ね返ってくるリスクがあったとしても・・・
それで得られる莫大な利益を思えば・・・男としてやらずにはおれ・・・ん・・・
「ふわあ・・・」
む。俺もあくびが出てしまった
昨夜、計画発動後の予測を脳内で練り上げる事に夢中になったせいで少々睡眠不足のようだ
酷使した右腕にも若干の疲労が残っている
「ねえ、経吾」
「ん?」
「昨日言った、ボクが経吾の・・・リ、リクエスト通りのを・・・着けるって話なんだけど・・・」
「お、おぅ」
俺は内心ギクリとする
まさか・・・何か感づいたか?
やっぱり無し。・・・とか?
「実はね・・・ボクも経吾に着けて欲しいのがあって・・・」
「お、俺に?」
「うん」
園崎がはにかんだような表情で上目使いに見てくる
超絶的に可愛い仕草だった
だったんだが・・・
見た目の愛らしい印象とは裏腹に・・・全身を襲うこの妙な不安感はなんだ?
本能が言いようのない危険を感じ取り、胸の奥が激しくざわめく
くっ・・・何を恐れることがある
堕天使俺の策謀・・・
それが自分へと跳ね返ることすら覚悟した俺だ
何を恐れることがあろうか
園崎の言う『それ』がどんなものであろうとも・・・俺に穿けないはずはない
ククッ、俺を侮るなよ園崎
たとえそれが『ブーメラン』だろうが『褌』だろうが・・・穿いてやろうじゃないか
「ちなみに・・・どんなの?」
僅かな不安を拭う為、確認の質問をしてみた
そんな俺の言葉に、園崎が可愛らしく人差し指を唇に当てながら答える
「えーとね。マンガで見たやつなんだけど・・・。
あれ、どこに売ってるんだろ?通販とかで買えるのかな?
金属製でね・・・
サイドが鎖になってて鍵がかけられるようになってるんだ。ステキでしょ?
あれがあればけーごのこと『確実』に『完璧』に『キッチリ』と『管理』してあげられると思って。ふふっ」
「ひっ・・・」
それって貞操た・・・
にっこりと笑う園崎を前にして、俺の背中を冷たい汗が伝い落ちた
(つづく)
【あとがき】
皆様こんばんは。
お久しぶりでございます。
ちゃんと生きておりましたですよ
相も変わらずの遅筆に加え、仕事がバタバタ・・・
というか会社自体がバタバタしておりまして・・・。
そしてこの度ワタクシ、異動を命ぜられました。
まさかの営業部です。
え、ちょっと待って。
自他ともに認めるボッチでコミュ障な対人スキルゼロの自分が営業とか無茶振りもいいとこなんですけど。どんだけ人材不足なのウチの会社。
社畜に拒否権は無いんで・・・まあ、心療内科のお世話にならない程度に頑張りますよ。
・・・てことで次の更新も滞りそうです。
気長にお待ち頂ければ幸いです~。




