第83話 ・・・女子会?
「・・・サツキ・・・メイ」
俺は絞り出すようにソイツの名を口に出した
いつの間に現れたのか、俺達が座るテーブルの傍らに・・・
ブルジョア中二病女、サツキメイが立っていた
今日の格好は夏休み中によく見かけたゴスファッションではなく、どこぞの学校の制服へと身を包んでいる
「キヒヒ。久しぶりダねエ。元気そウじゃないカ?よっしぃ」
「よっしぃ言うなや。で、何の用だ?」
上から見下ろしてくる、人を小馬鹿にしたような目とセリフに対し、俺は下からのジト目で見返した
「そんな睨まなイでくれヨ。ちょっと街を散策していタらこの店の窓の中に見知っタ顔があルじゃないカ。なかナかに楽しそうな状況だっタもんだかラ、僕も仲間に入れテ貰いたクなったトいうわけサ」
「・・・暇な奴だな」
「うーわ、それって『せり女』の制服でしょ?めっちゃお嬢様学校じゃん。なになに?どーゆー知り合い?」
ユミが興味津々で俺達の会話に割り込んできた
「マあ、立ち話もなんだシ・・・相席いいかナ?」
「・・・見て判んねーか?ここは満席だ」
俺は瞬時に拒否を表明した
俺達が座っているのは基本四人掛けのボックス席
それでなくても男女比1対3で落ち着かない状況なのに、これ以上増えられたらかなわん
しかし、突き放すように言った俺の言葉をサツキは涼しい顔で受け止めた
「なーニ、心配にハ及ばんヨ。椅子なラ持参しテきてルからネ」
そんな言葉と共にパチンと指を鳴らすサツキ
するとその背後にスッと音もなく影が立った
燕尾服を身に纏うその姿は執事以外の何物でもなく・・・
てゆーかマキさんじゃねえか
良く見てみると胸に『研修中』のバッジを付けている
・・・あー、分かったぞ。この先の展開
あれだろ?マキさんを四つん這いにさせ・・・
その背中に腰掛けて椅子代わりにするっていう・・・
マンガなんかでよく見るベタな構図
まさか実際にこの目で見ることになるなんてな
俺はこのあと展開されるであろう状況にげんなりとした気分になるが・・・
次の瞬間、マキさんのとった予想外の体勢に驚愕することになった
なッ!?なにィィィィィィ!?
マキさんは・・・両膝を90度に曲げた中腰の体勢・・・
いわゆる『空気イス』のポーズをとっていた
俺が唖然とする前で、その膝の上へと・・・
サツキがどかりと腰を下ろした
そして肘を曲げた状態のマキさんの腕に自分の腕を載せると、ふんぞり返るような姿勢で俺の表情を面白そうな顔で眺めてくる
「キミがどうイった物を想像しテいたか大体察しガつくヨ。キヒヒ、僕は『椅子』と言っタんだヨ?あんナ背もたれもひじ掛けモ無い物がハたして椅子と言エるのかナ?」
そう言って不敵に笑うサツキ
クッ・・・客観的に見て物凄くアホな状態になってるのに笑うに笑えん
あんな、一人でやってもかなりキツイ体勢を人ひとり乗っけてとか・・・
どんな筋力してんだこの人
いや、流石のマキさんでも相当ツラいのだろう
その荒い息からもこれがどれ程の苦行か判る
「・・・ハアハア・・・メ、メイちゃんの髪の匂い・・・お尻の感触・・・し、至福・・・」
・・・まあ、その原動力は理解した
「アハハハ。すごーい。流石お嬢様はやることが違うね」
真っ先に目の前の異常に順応したユミが面白そうな笑い声を上げる
委員長はもとより園崎さえも戦慄で表情を強張らせているというのに・・・
コイツの物怖じしない性格も度を越えてるな
どうしてこう、俺の回りの女共は規格外れの特殊な連中が多いのか・・・
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「コイツの名前は皐月芽衣・・・園崎の知り合いだ」
俺は極簡潔にサツキの事を説明した
「酷いナ・・・君とだっテ、もう知らヌ仲じゃなイだろウ?」
「変な言い回しすんな」
ニヤニヤと笑いながら軽口を叩くサツキに俺は苦虫を噛んだ表情を返す
「ふーん、仲いーね。あたしは弓削紗衣佳 、んで、こっちが委員長。うちらは見ての通り中央高だよ」
ユミが自分と隣に座る委員長を大雑把なセリフでサツキに紹介した
「なるほドなるホど・・・やはりソっちの眼鏡っ娘が委員長さんカ。キヒヒ・・・お噂はかねがネ・・・」
サツキが意味ありげな言い回しでニヤニヤと笑う
隣で園崎がチッと舌打ちした
「え、えーと・・・松永です。みんな委員長って呼ぶけど・・・あくまでそれはあだ名で・・・」
慌てて補足説明をする委員長だが、そこにユミがセリフを被せてくる
「でもサツキちゃんってスッゴい髪色キレーだよね。もしかしてハーフとか?」
「・・・なに言ってんだ。おまえ」
俺はユミの素っ頓狂なセリフに思わずジト目になるが・・・
「んー、惜しいネ。ハーフじゃなクてクォーターだヨ。おばーチゃんが北欧系でネ」
「・・・え?」
サツキの返答に思い切り変な声が出てしまった
「・・・なんダいそノ顔」
俺の表情を見たサツキが片眉を上げる
「・・・クォーター?お前が?」
「・・・今さラ、なに言ってル。そもそモ純正の日本人がこンな髪色のわケないだロ?」
サツキがジト目で俺を見返してきた
「え?それって・・・ウィッグだったんじゃねえの?」
心底どうでもいいことだったため、いままで触れてこなかったが・・・
サツキの髪の毛はクリーム色に近い、淡い金髪だった
「・・・これハ地毛ダ」
物凄い真顔で返してきた
「え?・・・え?じゃあ・・・その目もカラコンとかじゃなくて?」
ちなみに瞳の色はいつも青色だったんだが・・・
「生まれつキこの色ダ」
「・・・マジか」
俺はにわかに信じることが出来ず、確認を求めるように園崎の顔に視線を向けた
「・・・マジだぞ」
園崎が簡潔に肯定の言葉を返してきた
どうやらサツキの言ってることは本当らしい
年中ソフトコスプレしてる痛々しい奴だと思い込んでたんだが・・・
それが元々もって生まれたものだったとは
「そうだったのか・・・じゃあ、お前がいつも変なイントネーションで喋ってたのも・・・」
「こレはキャラ作りダ」
「それはわざとなのかよ!?」
思わず大声でツッこんだ
「え?そうだったのか・・・!?」
隣に座る園崎が愕然とした表情になる
「ボクもてっきりお前の喋り方は外国語訛りが抜けてないもんだと・・・ずっと思い込んでた・・・」
付き合いが長いだけに園崎の受けている衝撃は俺より遥かに大きそうだ
「お前がクォーターっての・・・ホントの話なんだろうな?」
なんかコイツの言動全てにおいて、信憑性が疑わしくなってきたぞ
「ホントだってバ、その証拠に・・・
コッチもちゃンと髪と同じ色だヨ。見てミるかイ?」
ニヤニヤしながら下腹部を指差すサツキ
「ゴフッ!?だ、誰が見るか!」
サツキの下品な戯れ言に、園崎が眉を歪ませ委員長がドン引きしてるのが見て取れた
「ごふん・・・まあ、サツキとは修学旅行とかで一緒に風呂に入ったことがある。その件に関してはボクが証人だ。わざわざ見せる必要はない」
そう言って園崎がサツキを睨みつけた
「ざーんねん、あたしはちょっと見たかったなー」
ユミが持ち前の好奇心を隠すことなく吐いたセリフに隣の委員長が頬をひきつらせる
何はともあれサツキがクォーターだという事は事実ってことらしい
まあ、俺にとっちゃどうでもいいことだがな・・・
そうしている内にもそれぞれの注文した品がテーブルに届く
甚だ不本意ながらサツキを加えた状況で、よくわからない謎の食事会が始まった
場の中心となっているのはユミで、満遍なく各人に話題を振っては上手く会話を成立させている
タイプの違う連中が和気あいあい・・・とまでいかなくとも、変に気まずくならないような空気を作り上げているところは流石というべきか
お陰で俺は割りと安心して今の状況を見ていられた
・・・っていうか、いま俺ここに必要?いらなくない?
《ぴろん》
不意に電子音が短く鳴った
「あ、あたしだ・・・ちょっとゴメンね」
ユミが傍らのバックからスマホを取り出して画面をタップする
「あ、彼氏からだ」
「!?」
「!?」
ユミの短い呟きに委員長と園崎が同時に反応した
「ゆ・・・弓削さん、彼氏いたの!?」
「お前、彼氏いたのか!?」
食い気味に二人に詰め寄られユミが目をぱちくりさせる
「え?うん、まあ」
「スミス君だろ?」
俺のセリフに委員長と園崎の目が一斉にこっちを向く
「知ってたの!?義川くん」
「知ってたのか!?経吾」
・・・この二人、なんでこんなに息ピッタリなの?
なんかたまにシンクロするよな?
「えーと、委員長は知ってると思うけど・・・去年けっこう俺とユミとでいろんな係とか当番とかやったりしてたろ?そんときに聞いた」
「あたしの彼、他校生だし色々聞かれるのも面倒だから、あんま人に話して無いんだよねー。女子でも知ってるコほとんどいないと思う」
そう言ってユミがてへへと舌を出した
・・・そうだ、去年の今頃
名前の順が近いことを理由に、俺とユミは当番とか係とか・・・何かにつけて一緒に行動する機会が増えてきた
気さくに接してくるユミに対し、俺は多少なりとも心惹かれてきたりしたのだが・・・
ふと、中学の時の苦い記憶が甦った
たまにいる、他人との距離を極端に短くとってくるタイプ・・・
そんな相手の気質を自分に対してだけ、と思い込み・・・
勘違いをしたまま告白して玉砕した苦い経験
それとなく彼氏の有無について探りを入れたんだが・・・
幸か不幸か俺のカンは的中
別の高校に中学の頃から付き合ってる彼氏がいることがわかった
以来、俺はユミに対して変な気を持たないよう、適切な距離を保って接してきたというわけだ
「住洲京太郎くんっていってねー。けっこー二枚目なんだー」
そう言ってスマホの画面に二人で写った写真を表示して見せてくるユミ
因みに俺も何回か会ったことがあるが、ユミとは正反対の物静かな理系男子だった
「そっか・・・なんだ・・・彼氏居たんだ・・・あたし、てっきり・・・」
園崎がなにやら呟きながら、ほっとした表情をしている
何故か向かいに座る委員長まで同じような顔で胸をなで下ろしていた
「まあ、よかったじゃないか。二人とも」
サツキが訳知り顔のニヤニヤ笑いを浮かべ、園崎と・・・
委員長の顔を交互に見ながらそう言った
・・・なんなんだコイツ?
意味ありげなセリフ吐きやがって
まあ、コイツのことだから意味ありげなセリフが言いたかっただけで、実際は意味なんてないんだろうが・・・
「てことで悪いんだけど、あたしこれから彼氏とデートすることになったから・・・お先ー」
そんな言葉とともに自分の分のパフェ代をテーブルに置くと、ユミはそそくさと立ち上がる
「自分で誘っといて・・・ホント勝手な奴だな」
・・・まあいいや。調度いい頃合いだろう
「じゃあ俺らも・・・」
そろそろお開きに・・・と言いかけたところに・・・
「あ、そコの席空いたんなラ、いいかナ?僕の椅子もそロそろ限界みタいなんでネ」
そう言ってユミの抜けた場所へとサツキの奴が移動してきた
「ご苦労さマ。キミは外で待機してテ」
用済みとなったマキさんは、プルプルした足取りで店の外に出ていった
そんな哀れなマキさんの背中を半目で見送っていた俺だが、ハッと我に返る
「ちょ・・・俺らも、もう解散・・・」
「ねーねー、折角こうしてかしましく女子3人集まってるんだしぃ~。男子にはナイショのヒミツのガールズトークしな~い?」
俺の言葉を遮ってサツキが今まで聞いた事がないようなキャピキャピした声のトーンと喋り方でそんな事を言い出した
ゴフッ
吹いた
コイツ、ホントにいつものあの喋り方はキャラ作りだったんだな
こんなギャルギャルしいふざけた喋り方も出来るとは・・・
「秘密の・・・?」
「ガールズトーク・・・?」
委員長と園崎が怪訝そうな顔をする
サツキの奴・・・ 絶対なんかロクでもないこと考えてやがるな
・・・つーか、男子に秘密もなにも目の前に俺がいるんだが?
まあいい・・・『俺はいない』って体でジュースでもすすっていよう
そんな俺を横目でチラリて見たサツキの口許が、にんまりとした三日月型に変わる
「ね~ね~、みんなは~
週に何回くらいオナニーする~?」
ブフォ!?
飲んでいたジュースが変なとこに入って盛大にむせた
いきなりトンデモねえ話題ブッ込んできやがったな、おい!?
思いっ切りエロトークじゃねえか
「え?え?」
隣の委員長が真っ赤な顔で絶句している
園崎は、というと・・・この手のことはよくある事なんだろう・・・
何も言わず、ただ苦虫を噛み潰したような顔になっていた
「いいんちょーさんは~真面目そうだからストレス溜まるでしょ~?。したら、やっぱ手軽なストレス解消っていったらオナニーが一番だよねー。ね~?」
同意を求めるな同意を
委員長、固まってんじゃねえか
「サツキお前いい加減にしろよ・・・委員長もこんな奴の言う事まともに聞くことないからな?」
「ちょっと男子ぃ~、ガールズトークに割り込まないで欲しいんですケドぉ~?」
ムカつくなぁこの喋りかた
「だいたいさ~、オナニーは男子だけのものじゃないんだからね~。女子だって口に出さないだけで、ちゃーんとこっそりしてるもんなんだから~。ね~、いいんちょー」
「わた、わたしは・・・」
「ましてや好きな相手でもいたモンなら妄想するだけで勝手に濡れてくるんだから~。そりゃー弄って弄って弄りまくるしかないでしょー?そうだよねー?ねー、いいんちょー?」
卑猥過ぎる内容を雄弁に語るな
そして何か語る度に委員長に同意を求めるのを止めろ
委員長、返答に困ってんじゃねーか
「・・・かつテの19世紀ヨーロッパ。社会的に抑圧されテいた女性達には、精神疾患であるヒステリーが多発していタのだガ・・・」
なんだ・・・?
いきなり真面目なこと語り出したぞ
「それに対しテ当時の医師達が有効な治療法とシて推奨していたノが・・・『性器への刺激』・・・つまりオナニーだ」
エロトーク続いてやがった!
「要すルに自慰行為・・・オナニーは不安定な精神を安定さセる効果が認めらレた立派な医療行為と言えるんだヨ、よっしぃ」
・・・コイツ、もっともらしいこと言いやがって
「てことで~、オナニーするのは全然恥ずかしいコトじゃないんですぅ~。そうだよね~、いいんちょー」
いつもなら、こんなフザけた奴のことは叱りつけているはずの委員長も、慣れないエロトークにあうあうと口を動かすばかりで言葉になっていない
園崎はというと委員長の困っている姿が面白いらしく、そっぽを向いて『いい気味だ』と言わんばかりの顔をしている
ユミもいなくなったいま、俺がこの破廉恥女の暴走をなんとかするしかないようだ
「サツキ!お前、ホントいい加減にしろよ!委員長、困ってるだろ」
俺はそう言って止めに入るが、サツキはなおも委員長に絡む
「してないなら『してない』ってはっきり言えばいいんじゃなーい?ねー、ホント~にしてないのぉ~?」
「わた・・・わたしは、そんなこと・・・してな・・・」
目の前に詰め寄られ、否定の言葉を口にしかけた委員長だが・・・
「嘘ついちゃダメだよ?」
釘を刺すようなサツキの言葉
委員長は耳まで真っ赤になって・・・
目を逸らした
委員長の性格からして、例えこんな内容のことでも嘘を言うことには抵抗があったのだろう
・・・
・・・え?
でも、それって暗に認めてることに他ならないんじゃ・・・
えっと・・・つまり・・・委員長・・・してるってこと?
・・・委員長が・・・オナ・・・
「いだだだだだだだ!?」
突然、右脇腹に激痛が走り、俺はその痛みに悶絶した
一体なにが・・・とそこを見ると・・・
園崎の指が俺の脇腹をねじりあげていた
「・・・ねえ経吾。何を想像して興奮してるのかな?かな?」
虚ろな空洞のような目でそう問い詰めてくる園崎
「な、何も想像してないし興奮もしてないって」
痛みに顔を歪ませながらも、俺は必死に園崎に抗弁する
「嘘・・・。してたでしょ?妄想力フル稼働させて脳内で委員長のオナニーショーを上演させようとしてたでしょ?」
「お前、なんて事言い出すんだ!?」
「ッ!」
向かい側で委員長が真っ赤な顔で絶句している
「し、してないからな?・・・痛ぁ!?」
脇腹の痛みがさらに激しさを増した
涙目になった俺の視界に園崎の虚ろな目が迫ってくる
「けーご?オナニーだったらボクもかなり頻繁にしてるから。想像するんなら委員長じゃなくて、親友であるこのボクのオナニー姿を想像するべきだと思うんだけど?」
「いやいやいや、ホントなに言ってんだお前。いくら普段から委員長と張り合ってるからって・・・え?」
かなり頻繁に?
予期せぬ好きなコからの刺激の強すぎるカミングアウトに俺の思考は混乱を来す
「キヒヒヒ。確かにゆずっちはかナりハイレベルのオナニストだからネー。そんじょそこラの小娘とは比べ物になんないくらいだヨ。中学の時、僕がピンクローターをサプライズでプレゼントした時はまだオナニーのオの字も知らナかったのニ、今じゃ昼夜を問わズ暇さえあれバ・・・んがっ!?いったぁ!」
べらべらと軽口を叩いていたサツキが突然悲鳴を上げて悶絶した
どうやらテーブルの下で園崎に蹴られたらしい
っていうか、何をサプライズプレゼントしたって!?
「なななななななに言ってんのかな、サツキは。あんまアホなこと言ってるとコロスよ?」
耳まで真っ赤にして園崎がサツキに吠えた
「うぐぅ・・・ここは弁慶の泣き所と言って人体の中でも特に痛い部分だトいうのニ・・・」
眉間に皺を刻み、涙目で痛みを堪えるサツキ
園崎を睨み返していたその顔が不意に俺の方を向く
「ねえ、よっしぃ~ゴメンねぇ~、僕のあげたアレやソレのせいでゆずっち、もう処女じゃないかもしれないケドぉ、相手は無機物だから嫉妬しないであげてねぇ~」
「ぎゃああああああ!?なんてこと言うんだサツキィィ!!ほ、ほ、ほ、本気でコロスよ!?」
「あー焦ってるぅ~図星なんだ~」
「ち、違っ!?違うからね、けーご。あたし、いつも外側に当ててるだけだから!中に挿れたことなんか一回もないから!」
サツキに煽られた園崎が俺に詰め寄り必死に言い訳を言い募る
てゆーか胸を押し合てながらメチャクチャエロいカミングアウトしてきてるんだが!?
「ねえ、よっしぃよっしぃ~。パブロフの犬って知ってるぅ~?。ゆずっちってばね~ケータイのバイブ音聞いただけで条件反射でヨダレを垂れ流すカラダにセルフ調教済みらしいから~マナーモードには気をつけてね~。ゆずっち、人混みの中でもメス犬になっちゃうから~」
「なっ!?そそそそんなワケないだろ!確かにいきなりアレ聞くとビクッてするけど・・・そもそもそういうアイテムに対してはお前の方が・・・!」
園崎とサツキが猥褻な言い合いを始め、状況に耐えられなくなった委員長は既に魂が抜けたような状態になっている
・・・いつまで続くんだ、コレ
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「はあ・・・、あの店は二度と行けないな」
俺は重い足取りで歩を進めながら深い溜め息をついた
あれだけ騒げば当然の事だが・・・
俺達はひきつった接客スマイルを顔面に貼り付かせたファミレス店長から
『お客様・・・、他のお客様のご迷惑になりますので、どうかお引き取り願えますでしょうか?』
とのセリフを貰い、退店処分となった
委員長にとっては渡りに舟だったろう
『予備校の時間だから』と言いながら逃げるように去って行った
この事態を引き起こした元凶の女はいつの間にか姿を消しており、俺は園崎と二人、駅へと続く通りを歩いていた
恥ずかしいコトの数々を白日のもとに晒す形になった園崎は、俺の隣で無言のままずっと顔を伏せている
表情は見えないが髪の間から覗く耳たぶの色を見れば、どんな顔をしているかは容易に想像できた
俺は迂闊に声をかけることも出来ず、ただ黙って隣を歩くしか出来ないでいる
そんな時、
「おーい、よっしぃー」
背後からかけられたその声に振り向くと、いずこかへと姿を消したはずの女が薄ら笑いを浮かべながら歩いてきていた
「お前・・・急にいなくなったかと思えば、また性懲りもなく現れやがって。今さら何の用だ?」
俺がそう言うとサツキはニヤニヤ笑いを浮かべたまま
「よっしぃ、手ぇ出して」
と言ってきた
不審に思いながらも右手を出すと、その掌の中になにかを掴ませてきた
「これが証拠だヨ。よっしぃにあげル」
「証拠?」
何を言ってるのか意味が解らん
俺は手のひらを開き、それが何か確認する
そこにあったのは・・・
一本の・・・わずかにちぢれた金色の・・・
「お前・・・これ・・・まさか・・・」
「ぎゃああああああ!あんた経吾になんてモノ渡してんのよ!?経吾!!そんなばっちいの早く捨てて!」
俺の手のひらを覗き込み、それがなんなのか確認した園崎がヒステリックな金切り声を上げた
「ばっちいとは心外だナ。昔からソレには霊力が宿るといわレていてネ。かツて戦地に赴く兵隊が恋人や妻のソレを強運の御守りトして持っていったとイう話もあルくらいナんだヨ」
昔の迷信をもっともらしく語るサツキ
「ふざけないで!あんたのじゃ『御守り』どころか『呪いのアイテム』よ!・・・ふーっふーっ」
園崎が息を吹きかけ、俺の手のひらに乗ったソレを吹き飛ばした
そうした後、サツキへと鋭い目を向けるが・・・
サツキは既に遥か彼方に走り去っており、園崎は怒りのぶつけ先を失う
「経吾!」
「はい!」
急に名を呼ばれ、俺は反射的に直立不動の体勢になる
「ちょっとここで待ってて」
園崎はそう言い残すと、ひとり薄暗い路地裏へと入って行く
そして数歩進んだ先で立ち止まった
って、何してんだあいつ!?
園崎はむこうを向いたまま・・・
スカートの裾を捲り上げる
俺に背を向けたまま、モゾモゾと何かしたあと元通りスカートを直す
そして踵を返すと足早に戻ってきた
「経吾。手、出して」
俺は言われるまま右手を前に出す
その掌の中に・・・園崎が何かを握らせてきた
「コレあげる。『御守り』にするなら・・・親友であるボクのモノにするべき」
真っ赤な顔でそう言ったあと・・・
「じゃあ、また明日ね!」
そう告げて逃げるように駅の方へと駆けて行った
俺は・・・右手をしっかりと握りしめたまま、ソレを大事に持ち帰った
(つづく)
【あとがき】
皆様、あけましておめでとうございます
本年もよろしくお願いいたします
新年早々お下品なネタで申し訳ありません
久しぶりの更新になります
次回もいつになるやら…
至って遅筆な作者ですが、気長に待って頂ければ幸いです
※『せり女』は聖リリス女学院の略です




