第80話 ナツヤスミアケショニチ
「久しぶりの学校だってのに・・・今日も暑くなりそうだな」
通い慣れた高校への通学路
いつも通る公園の遊歩道を歩いていた俺は、足を止め木々の間から漏れ指す日差しに顔をしかめた
夏休みも昨日で終り・・・今日からは新学期だ
しばらくぶりに締める制服のネクタイは、かなり窮屈に感じる
「あー、なんでウチの学校って夏服でもネクタイ着用なんだろ。開襟シャツだったら涼しいのに・・・」
俺は襟を指で引っ張り、パタパタと風を送りながらそんなセリフでため息をついた
つくづく我が校の制服にネクタイを導入した人間が恨まれる
「まあ、新学期早々ぼやいてても仕方がないか・・・」
気を取り直して歩き出そうとした時・・・、
「経吾」
と、後ろから声をかけられた
聴覚が捉えたその声を脳が認識した瞬間、顔面の筋肉が一気に弛緩した
ヤベエ、今スゲえ顔になってんぞ俺
慌てて緩んだ表情筋を引き締め、俺は努めて平静を装いながら声のした方向へと振り返る
声の主は・・・言うまでもなく園崎だった
柔らかく笑んだ顔で、小走りに駆け寄ってくるのが見えた
同学年の平均的な女子のサイズより少々小柄な身体に備えた平均的なサイズを大きく上回る二つの膨らみを弾むように揺らしながら
本能的にガン見しそうになる眼球の筋肉を理性で制御しながら、俺は片手を挙げて挨拶を返した
「よっ。偉いな園崎。ちゃんと起きれたんだな」
園崎は休みの間、昼夜逆転・・・とまではいかなくとも、時計の短針が90度くらいズレた生活を送ってたらしい
寝坊しないか心配だったが、新学期初日から遅刻するようなことは免れたようだ
「ふふん。僕を甘く見るなよ、経吾。その気になれば二度寝の誘惑を跳ね返すことなど・・・造作も無いことだ」
そう言って誇らしげに胸を反らす園崎
薄いブラウスの生地にブラのステッチが浮き上がり、俺の脆い自制心を揺さぶってくる
いかん。視覚の倍率が高過ぎる
俺は意識的に眼球の光学倍率を下げ、視界のフレームを後ろに引いた
改めて園崎の全身を眺める
久方ぶりに見る制服姿の園崎
夏休みの間、俺は園崎の色々な私服姿を目にした
どれもこれもが物凄く可愛いかったが・・・こうして改めて見ると制服もまたスタンダードで味わい深い
そして・・・二本の脚をラッピングしているパステルグリーンのニーソックス
やはりニーソは、制服のスカートとのマッチングこそがベストオブベストだと断言できる
スカートの裾からニーソまでの部分・・・いわゆる『絶対領域』と呼び称される部位は黄金比と言っても過言ではない絶妙な面積でふとももを露出していた
「ど、どうした経吾。ボク、どっか変か?」
無言のままでいる俺に戸惑いを覚えた園崎が、不安げな表情で自分の服装の不備を確認し始める
「べ、別に変なトコなんて、全然無いぞ。・・・えっと、その・・・ほら、久しぶりに制服見たからさ。目を慣らしてたっていうか・・・」
慌ててワケのわからん事を言ってしまった
「そっか、よかった。・・・確かにお互い制服を着るのも久しぶりだよな」
園崎は安堵した表情で俺に同意する
「俺なんか休みの間はTシャツばっか着てたからさ、首まわりが窮屈で参るよ」
俺はさっき一人でぼやいていたことを園崎に愚痴った
「ははは。・・・ん?経吾、ネクタイ少し曲がってるぞ」
「え、そうか?」
園崎にそう指摘され、俺は自分の胸元へと視線を落とす
「!?」
そこへ不意に園崎が身を寄せてきた
急な接近に俺の心臓が跳ねる
「・・・じっとしてて」
そう言われ、俺は思わず直立不動の体勢で固まる
そんな俺の首もとへと園崎の両手が伸びてきて・・・その指がネクタイの結び目を整え始めた
ほそやかで可愛らしい指が俺の首元でしなやかに動く
俺はただただ園崎がしてくれてる行為に見惚れながら、我が校の制服にネクタイを採用した者へ感謝の念を送った
胸元に微妙にあたる手の感触がこそばゆい
艶やかな髪の毛から、ほんのりとシャンプーのいい匂いが漂ってきて俺の鼻腔をくすぐってくる
直立不動の状態を維持したままの俺の身体において、さらにその身体の一部分もが直立不動の状態になってきた
「うん、・・・これでよし。ちゃんとまっすぐになったぞ」
そう言いながらにっこりと笑う園崎
俺はそんな園崎にどぎまぎしながら
「あ、ありがとな。園崎」
と、僅かに上擦った声で答えた
「・・・」
「・・・」
しばしそのままの状態で見つめ合う俺と園崎
・・・え?
園崎が・・・ゆっくりと瞼を閉じた
・・・えーと。まばたき?・・・じゃ・・・ないよな
園崎は閉じた瞼を一向に開ける気配がない
それどころか、僅かに顎を上げ・・・唇を『う』と発音する時の形にしてきた
これは状況的にどう考えても・・・そういうことでいいんだよな
その判断が正しいものであるか思考を巡らせてる間にも、俺の頭は何か強い力で園崎の顔へと引き寄せられていく
っていうか・・・園崎、俺のネクタイ、グイグイ引っ張ってない?
しかし、あえてこの流れに逆らう理由もない
ここはありがたくご相伴に与るべきだろう
そう結論を下し、俺は自分の意志による園崎への接近を・・・
「あー!センパイ方ー!おっはようございまーす!」
「!ッ」
「!!」
突然かけられた声に、俺と園崎はビクリとして瞬時に身を離した
耳の奥で心臓の音がバクバク鳴り響く
「ななななんだよサクマ急に声かけんなよビックリすんだろ」
「ふえ!?フツーに挨拶しただけなのに理不尽に怒られた!?」
俺の非難にサクマが納得がいかないという顔をした
・・・コイツ、なんてベタな登場しやがる
こういうとこだけは基本に忠実な奴だ
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
結局サクマとも合流することになり、俺達は三人連れ立って学校への道を歩くことになった
両手に花、と言いたい所だが・・・俺、園崎、サクマの順での横並びだ
まあ、俺は本来モブキャラ枠だしな
ラノベ主人公じゃあるまいし、両脇に女はべらすとか、おこがましい
隣を歩くのが園崎ってだけで十分贅沢というものだ
サクマが夏休みの出来事などをオーバアクションで喋くるのを園崎が苦笑しながら聞いている
園崎も屈託なく接してくるサクマに対して悪い気はしないようで、他の者にする対応よりだいぶ柔らかだ
俺はそんな女子二人を横から眺め、平和な気分に浸っていた
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
公園を抜けたところの道へ出た時、見慣れた顔に会った
「よっ、委員長。おはよ」
「あ、義川くん。おはよう。それと、佐久間さんに・・・園崎さんも」
俺が片手をあげて挨拶すると委員長もにこやかに返してきたが・・・園崎に対しては微妙な空気感だ
「おっはようございます。委員長先輩」
サクマが無駄に明るいテンションで返事を返し、微妙な空気が霧散する
「っ・・・あのね、私の名字は『委員長』じゃないからね?」
「あははー、そんなの当たり前じゃないですか。委員長先輩」
「っ・・・・・・もういいわ」
委員長が諦めたように溜め息をついた
俺はそんなやり取りを苦笑して眺めながら、記憶をフル回転して必死に委員長の名字を思い出そうとしていた
「な、なによ。別にここで待ち伏せしてたわけじゃ・・・ないわよ」
まだ一言も発していない園崎に先んじて、そんなセリフと共に園崎を軽く睨む委員長
やれやれ、またこの二人の間に入って気を揉む毎日が始まるのか
突っかかる園崎も悪いけど委員長の方も園崎に対しては割りとキツいんだよな・・・
俺が諦観まじりの溜め息をついた時、園崎が委員長に対して口を開いた
「ははは、別にそんな事思ってもいないさ。おはよう委員長、新学期もよろしくな」
・・・
・・・・・・・・
「え?」
「え?」
俺と委員長の言葉がハモる
二人同時に園崎を見ると・・・
その顔には柔らい微笑みが浮かび、以前まで委員長に対して向けていた刺々しさがまるで無かった
これは一体全体、どうしたことだ
先々月の夏休み前日、放課後教室で別れるその瞬間まで、委員長とはあーだこーだと言い合っていたはずなのに・・・
まるで別人に対する態度だ
今の園崎にはどこか『精神的な余裕』みたいなのが感じられる
夏休み中に何か心境の変化でもあったのだろうか?
俺にはまったく見当もつかないが
・・・まあ、理由はどうあれ仲良くしてくれるならそれに越したことはない
委員長は園崎の様子に面食らっていたようだが、今日は自分から突っかかったことを思い出すとバツが悪そうに
「わ、私の方こそ・・・よろしくね。園崎さん」
と言った
意外な展開になったが、なにはともあれ喜ばしい結果ではある
今後はこの二人の板挟みで俺が苦労することもなくなりそうだ
新学期初日から幸先がいい
そんなふうに思い、俺がほっと安堵した時・・・
「チッ・・・朝っぱらからイチャイチャしやがって・・・」
不意に恨みがましい言葉がかけられた
俺を始め全員の目がそちらに動く
そこにいたのは・・・
俺の悪友筆頭、タナカだった
「なんだ、タナカじゃないか。久しぶり。元気してたか?」
俺は片手を挙げて、にこやかに言葉をかける
しかしそんな俺の友好的な態度に対し、逆にタナカは怨嗟の炎を宿した眼で睨みつけてきた
「うるせえ!!この裏切り者が!」
「・・・なんの事だ?」
タナカに恨まれるような事、した覚えはないんだが
「しらばっくれるんじゃねえ!ネタは上がってんだよ!」
タナカは興奮して喚き散らすが、まったく心当たりが無い俺は困惑するばかりだ
「・・・だから、一体なんの話だって」
「もうバレてんだよ!お前が・・・委員長と付き合ってることはな!!」
・・・
・・・・・・・・
「・・・・・・は?」
「ななななななに言ってるのよ?タナカくん。わたわたわたしが義川くんとつつつつつつつ付き合ってるとか・・・!」
「ゴルァ!?タシロ!!貴様いきなり湧いて出て何テキトーな事ほざいてんだゴルァ!!抉るぞゴルァ!!」
真っ赤な顔になってタナカの世迷い言に反論する委員長と園崎
「・・・あのなあタナカ。お前、いきなり何言ってんの?なんか悪いもんでも拾って食ったの?どうせ傷んだサバの刺身とか食ったんだろ?サバは寄生虫がいるから気をつけろってあれほど・・・」
俺は脳に重篤な機能不全を抱えてしまったらしいタナカに憐憫の眼差しを向ける
「うるせえ!うるせえ!!うるせえ!!!証拠は上がってんだ!お前らがこの前・・・デートしてんのを見た奴がいるんだよ!!」
俺の言葉を遮り、タナカは吠えるように叫んだ
「デート?そんなのしたことは・・・あっ」
「あ・・・もしかして、あの時のこと?」
俺と委員長は同時にあることに気付き、はっと目を合わせた
一つだけ・・・思い当たる節がある
「ひょっとして・・・うおっ!?」
俺は突然背中に氷を押し合てられたような感覚に襲われ、ゾクリとして振り返る
園崎が・・・全身から仄暗い負のオーラを立ち昇らせていた
「・・・経吾・・・委員長と・・・デートとか・・・したの?・・・あたしに黙って?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・怒んないから正直に言ってみ?怒んないから」
虹彩が消え真っ暗な空洞のように見える瞳で、そう問い詰めてくる
「いやいやいや、あれはデートとかってモンじゃなくてな・・・ちょっと買い物に付き合って貰って、そのあと少しお茶飲んだだけで・・・」
「義川ァ!それを世間一般じゃデートって言うんだよ!」
横からタナカが喚き立てる
「根本から違うって!そもそも委員長とは町中で偶然会っただけで、待ち合わせしたとかって訳じゃ・・・」
「言い訳すんな!お前一人美味しい思いをしやがって!だいたい・・・」
「・・・お前は少し黙ってろ」
俺の説明に聞く耳持たず半ギレ気味に喚くタナカを園崎が横目で睨み、黙らせた
そして
「・・・経吾、続けて」
と、静かな・・・冷たい声音でそう促してくる
園崎の刺すような視線に一瞬怯むが・・・俺には糾弾されるようなやましい事など何一つない
俺はそんな誤解が生まれた経緯をありのままに話すことにした
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「・・・てことで、もうすぐ俺の姉さんの誕生日でな。それで俺、プレゼントを買いに街に出掛けたんだけど・・・店の中で委員長と偶然バッタリ会って・・・プレゼント選びでちょっとアドバイスして貰ったんだ」
委員長とウチの姉さんは性格はともかくとして、ぱっと見の印象が結構似ている
たぶん、ファッションやアクセサリーの好みが近いんだろう
そんな理由で委員長に軽い気分で相談したんだが・・・真面目な性格の委員長は、真剣にプレゼント選びを手伝ってくれて・・・結局、二時間近く俺に付き合ってくれたんだ
「そんな訳でお礼のつもりで喫茶店でお茶とケーキをご馳走して・・・一時間くらい話をして別れた
と、まあ・・・そんな感じだ」
説明を終えた俺は恐る恐る園崎の反応を窺う
「・・・委員長と・・・二人っきりで・・・3時間近く・・・一緒に・・・」
口の端をヒクヒクと痙攣させながら園崎が呟きを漏らす
「ま、まあ・・・周りから見たらデ、デートに見えてたかも、しれないわね」
委員長がそんな風な言葉と共に頬を赤らめた
それを横目で見た園崎がさらに口元を引き攣らせる
しかし一度深く息を吸い込み・・・吐いたあと
「『シロ』・・・だな」
と言った
「なあタシロ。『この程度』のことは、デートとは呼べんだろう?ましてや『付き合ってる』など・・・バカバカしい。委員長にしてみても、そんな風に思われるのは迷惑だろう?」
「・・・わ、私は別に・・・迷惑とか・・・」
委員長がそんなことをモゴモゴと呟き、園崎の口の端がまたヒクリと引き攣る
「と、とにかくこの二人が付き合ってるなんて事は有り得ん。もし、そんな世迷い言を吹聴して回ったりしたら・・・只では済まさんぞ」
そう言って園崎はタナカを睨め付けた
「・・・万が一、これが元でヘンな噂でも立って・・・既成事実化でもしたら・・・取り返しのつかないことに・・・」
園崎が親指の爪を噛みながら小声で何かブツブツと呟きを漏らしているが・・・とりあえず疑惑は晴れたってことでいいんだろう
「ま、まあそんなワケだから・・・変な勘違いは止めてくれよタナカ」
俺はタナカの方に向かって言葉をかけるが、奴の顔にはいまだ疑いの気配が色濃く出ていた
「お前らへの疑惑はそのひとつだけじゃねえぞ!・・・花火大会の事はどう説明するつもりだ!!」
そう言ってズビシッ!と人差し指を向けてくるタナカ
「花火・・・大会?・・・って、なんの事?」
困惑して眉を寄せる委員長
・・・花火大会?
それって、もしかして・・・
ハッとした俺は今度は園崎と目を見合わせる
この夏、俺が花火大会に行ったのは・・・あの一度きりしかない
「花火大会で義川が『浴衣姿の女子』と歩いてるのを見たっていう目撃情報もあるんだよ!それはどういうことだ!!」
タナカはさらなる怒りの炎を目に宿し、新たな追及を始めた
「ま、待ってタナカくん。それ、ホントの事?」
「ほう、なるほどなるほど。そんな事が・・・」
身に覚えの無い委員長が困惑した表情でタナカに再確認するが・・・そこに園崎が割って入る
腕組みして意味ありげな含み笑いを浮かべ、うんうんと頷きながら語り出す
「ふむふむ・・・花火大会で。経吾が。浴衣姿の女子と。・・・『仲良く腕を組んで』歩いていた。と・・・ほうほう、それはそれは・・・経吾もなかなか隅に置けないなあ。しかし、それが委員長じゃないとすると・・・一体それは誰なんだろう?誰なんだろうなあ?委員長、それが誰か・・・心当たりはないか?」
そう言ってニンマリと笑う園崎
「あなた・・・それ・・・まさか・・・」
わざとらしい園崎のセリフから、察したらしい委員長の口の端がヒクヒクとひきつる
「・・・本当に委員長じゃないのか?じゃあ誰なんだ!?誰なんだよ!義川!!」
全く察しないタナカが俺に詰め寄ってきた
ああ、もう。なんなんだこの状況
事態が混迷を深め始めたその時・・・、
「ハイ!ワタシ知ってます!!」
突然上がった声
全員の目がそちらを向く
そこには・・・
いまのいままで話の外にいたサクマが、右手をシュタッと上げていた
「何故ならば、その日その時このワタシ。よっしぃ先輩とその女性に会っているからです。だから知っているのです!」
鼻をフンスと鳴らしながら高々と申告するサクマ
そう言えば確かにサクマとは花火大会の時、会っている
俺は第64話あたりの記憶を思い出した
「その時、先輩と一緒にいた女性・・・それは・・・先輩のお姉さんでした!!」
「・・・は?」
勿体ぶったあげく頓珍漢な事を言い出したサクマに、俺は重篤な記憶障害の疑いを抱いた
何言ってんの?お前。ひと月もしないうちの記憶も曖昧なの?
そう視線で問いかける俺へ、サクマはバチーンバチーンとウィンクで返してきた
ああ、そういう事か
サクマは俺と園崎が恋人同士でそれを周りに隠して付き合ってる、と信じこんでるんだった
それで今の園崎のセリフをサクマなりに解釈して、この行動に出たということだろう
『秘密の交際がバレそうになった先輩達のピンチに機転を利かす察しのいいワタシドヤァ!』って顔がちょっとウザいが・・・まあ、ここはこの流れに乗っかっておいた方が良さそうだ
「お、おお・・・。そういやお前と会ったな、あの時。姉さんがお前によろしくって・・・」
俺はサクマの証言(偽証)を利用し、タナカを丸め込む作戦を開始した
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「そっかー、相手はねーちゃんかー。お前に先を越されたかと思って焦ったぜー」
学校へと続く残りの道程、俺の隣を歩くタナカがそう言ってへへへと笑う
「当たり前だろー。俺がそんなモテる人間かよ」
「だよなー。いやー、俺達〈非モテDT同盟〉の中から裏切り者が出たかと思ってヒヤヒヤしたぜー」
「はははー、そんな同盟に調印した覚えないけどなー」
俺とタナカは笑い合いながら歩を進める
タナカが単純な奴で助かった
俺と委員長が付き合ってるなんて噂・・・もし広まったりしたら、俺はともかく委員長にとっては迷惑極まりない話だろうからな
しかし、タナカは上手く騙くらかす事が出来たが・・・当の委員長には相手が誰だったか感付かれたと見ていいだろう
しかし、委員長がそれをわざわざ言いふらすとは思えないし・・・まあ、心配しなくても大丈夫かな
後ろをちらりと横目で窺うと、委員長と園崎があーだこーだと言い合っている
最初の穏やかな空気はどこへ行ったのか
すっかり休み前の状態に戻ってしまった
また、女子二人の板挟みになる毎日が始まることになるのか・・・
俺はやれやれと溜め息をついた
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「・・・な、なん・・・だと・・・!?貴様・・・何故・・・ここにいる!?」
教室のドアを開け、入ってくるなり担任教諭のホヅミ先生は驚愕に目を見開いた
その反応を受け、ゆらりと立ち上がる・・・園崎
「くくく・・・どうした、ホヅミ?・・・亡霊でも見えたか?」
不敵に笑う園崎にホヅミ先生は震える指先を向ける
「バ・・・バカな!?・・・今日は夏休み明け初日・・・それなのに貴様が・・・
遅刻していないだと!?」
よろめき、教卓に手をついて体を支えるホヅミ先生
「去年の夏休みなど勝手に4日ほど延長して休んだ挙げ句、遅刻して午後から登校してきた貴様が・・・有り得ん!?」
青ざめた顔に片手をあて、受け止めきれない現実との葛藤に苛まれているようだ
「くくっ・・・それだけじゃないぞホヅミ。・・・これが何か分かるか?」
園崎がさらにダメ押しとばかりにそれをバックの中からチラリと覗かせた
「なっ!?・・・まさか・・・それは・・・いや・・・そんなこと・・・あるわけが・・・」
ホヅミ先生の頬を冷や汗が伝い落ちる
「ふははははははははは、そのまさかだよホヅミ!!これこそ正真正銘・・・夏休みの課題だ!!勿論、ちゃんと記入してあるぞ!あくまでも解ける範囲で・・・だがな!!」
園崎の勝ち誇った笑いが教室に木霊する中、堪らず片膝を床に突くホヅミ先生
あー・・・久しぶりだな、この寸劇。・・・いつまで続くんだろ
俺は学校生活が再開したことを実感しながら、窓の外いまだ衰えぬ陽射しを降り注ぐ夏の太陽に目を細めた
(つづく)
皆様、お久しぶりでございます
いつもいつもお待たせして申し訳ありません
やっっっっと、夏休み編終了、新学期スタートです
これからもよろしくお願いいたします
秋編、冬編、三年生編、『その後』編・・・と脳内にあるストーリーをどこまで文章化出来るか分かりませんが、気力の続く限り頑張りますので筆の遅い作者に気長にお付き合い下さいませませ




