表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
プロミステイク ~俺と彼女の中二病的恋愛遊戯~  作者: 阿津沼一成
第1章 スプリング×ビギニング
8/90

第8話 ハクブツカン

「経吾。はい、これあげる」


朝食を食べる俺に、母さんがそう言いながら何か差し出してきた


受け取って見てみると何かのチケットのようだった


「県立…歴史博物館?」


「そう、この前取材に行った時に貰ったのよ。誰か興味のある友達にでもあげて」


母さんは仕事柄こういうのをたまに貰ってくる


「ふーん、わかったよ」


俺は二枚のそれをポケットに仕舞いながら椅子から腰を上げる


「あ、間違ってもデートとかに使っちゃだめよ。女の子はそんなとこ誘っても喜ばないからね」


そんな母さんの忠告に俺は半眼になって答える


「・・・そんなの俺でもわかるって・・・ってゆーかデートするような相手いないし」


「えー?この前ウチに連れて来た子は?フラれちゃったの?」


いつもの奇行を知らない母さんは、やたらと園崎の事を気に入ったらしくこの人の中では大人しくて可愛い子ってことになっているらしい


俺は溜め息混じりに、


「フラれるも何も・・・付き合ってもいないって」


と答える


そんな俺に母さんは腰に手を当て口を尖らした


「んもう・・・、頑張りなさいよね。あんな可愛い子そうそういないわよ」


俺は十分頑張ってるよ、別の意味で・・・


◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆


登校した教室、自分の席で俺はポケットから券を取り出して眺めていた


まあ、こういうのに興味があるのは思い付く限り委員長くらいだ


二枚とも委員長にあげてしまうか・・・


そんなことをぼんやり考えているところに声がかけられた


「おはよう、経吾。・・・ん?それは何なんだ?」


園崎は俺の手元を見ながらそう言ってきた


「ああ、今朝母さんから貰ったんだ。委員長にでもやろうと思って」


園崎は委員長という言葉に少し片眉を歪ませる


・・・全く、相変わらずだな


仲良くしろとは言わないが、あからさまに敵意を抱かなくてもいいだろうに・・・


「ちょっと見せて貰ってもいいか?」


「いいけど・・・お前には興味なさそうな物だぞ」


俺も興味ないけどな


「ふーん・・・、ん?ここは・・・!」


俺の手から券を受け取って眺めていた園崎が、何かに気付いたように表情を変える


「どうかしたのか?・・・あ、」


その時、委員長が教室に入って来るのが見えた


「おーい、委員ちょ・・・ゴフッ!?」


委員長に片手をあげて呼びかけようとするが、横から飛んできた拳に遮られた


「かはッ・・・・って、なにすんだよ!園崎、いま肝臓に入ったぞ!」


俺は涙目で抗議するが、園崎はチケットを見詰めたまま、


「経吾、ここ・・・僕と行かないか?」


と言った


◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「古代において政事まつりごとは呪術と密接に繋がっていた。こういった遺物には当時の魔力が僅かながら残存しているのだ・・・それを近くで感じる事でお前の中の魔力を活性化させることが出来るかもしれない」


放課後、学校から駅までの道すがら、園崎はそんなもっともらしい事を言った


結局その日の放課後、博物館へと二人で行くことになった


俺は正直そんなところに興味はなかったが、これを理由に屋上でのアレが中止になるならそれに越した事はない


目的の博物館までは電車での移動だ


駅に着き切符を買って改札を抜ける


ホームへ出ると、ちょうどタイミング良く電車が入って来た


車内に入ると帰宅する学生などでそれなりに混んでいた


座れる場所は無さそうなのでドア付近に二人で立つ


「この時間は結構混むんだ・・・経吾、痴漢されないように気をつけろよ」


「されてたまるか!・・・お前はあるのか?された事」


園崎の訳の分からない警告に突っ込みつつ疑問を返すと、


「ハン!・・・僕がそんな奴を近付けると思うか?」


園崎はそう言って不敵に笑う


まあ、そうだろうな・・・よかった・・・・って、なんで俺、今ほっとしてんだ?


しかし、距離が近いな


列車が揺れるたびに彼女と近づいたり、離れたり・・・危うく身体が触れそうになる


気恥ずかしさに周囲に視線を泳がせると何人かに見られている事に気付いた


他校の男子生徒らしい


微かに届く話し声に耳をそばだてると、


「あの子、彼氏いたのかよ・・・」


「くそー、あんな可愛い子と・・・羨ましい奴・・・」


なんて事を言っているようだ


他校生じゃ園崎の厨二病は知らないだろうしな


こうしてただ黙って立ってりゃとびきりの美少女だし・・・


それにしても男共の羨望と怨嗟の混じった視線が痛い


列車は一度途中の駅に止まり再び動き出す


降りるのは次だ


早くこの針のムシロ状態から解放されたい


「ああ、そうだ経吾・・・、」


彼女が何か言いかけた時、列車が大きく揺れて俺は身体のバランスを崩す


だが・・・転倒するほどじゃない


右手はポールに掴まっていたし


だからそんな必要はなかったんだが・・・園崎が俺の身体を支えてくれた




・・・抱きしめるような形で




園崎の右腕が俺の背中に回され身体同士が密着する


女の子の身体の柔らかさと温かさが、胸元から膝のあたりまでダイレクトに伝わってくる


「・・・このあたりでいつも大きく揺れるから気を付けろと言おうとしたんだが・・・ちょっと間に合わなかったみたいだな」


園崎が俺の胸に顔を埋めた状態でそう言う


熱い吐息が服越しに伝わり顔が火照る


と同時に周りからの怨嗟の視線がさらに鋭くなり背筋に寒気が走った


目的の駅に着き逃げるように列車から降りる


天国と地獄を同時に味わった・・・


◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


駅前から5分ほど歩いた先にその博物館はあった


二人でチケットを使って中に入る


平日のせいもあり中は殆ど人が居ない


まあ、たとえ休日だったとしてもこの手の施設が人で溢れ返るとは思えないが・・・


展示物は古代の土器や金属製の鏡などから、中世の巻物などが中心だった


二人で展示物を眺めながら館内を歩く


「お、あれはなんだろうな?」


何か興味を引く物があったらしく園崎が俺の手を引いて歩き出す


そこにあったのは翡翠で出来た勾玉だった


・・・ああ、中二病ってこういうの好きそうだよな


園崎は目を輝かせて展示ケースを覗きこんでいる


「・・・綺麗・・・いーな~・・・こーゆーの欲しいな~」


うっとりとした呟きを漏らすその姿に戸惑う


・・・なんかまた女の子モードになってないか?


「ん?どうかしたか?」


俺の困惑が混じった視線に気付いた園崎がそう尋ねてくる


「いや、別に・・・」


コイツ・・・自分で気付いてない?


「くは、可笑しな奴だな。さあ次へ行くぞ」


いつもの調子に戻った園崎がまた俺を引っ張って歩き出す


館内は静かで落ち着いた雰囲気だ


俺は結構こういうのは嫌いじゃない


職員と思われる中年の女性が微笑ましいものを見るような眼差しを向けてきた


・・・あれ?なんか俺達デートしてるみたいになってる?


てゆーかさっきからずっと園崎が手を繋いだままなんだけど


・・・あー、でも「離せよ」って言うのもなんだし、振りほどくのも変だ


まあ、しばらくこのままでも、いいかな?いいよな?



展示物があるだけのさして広くない博物館は30分ほどでひと回りしてしまった


「どうだったクロウ?何か感じる物はあったか?」


園崎がそう尋ねてくるが、当然そんな物は無い


「いや、無かった、かな?」


「そうか、まあ今回は残念な結果になってしまったが仕方あるまい」


俺の返答に園崎はセリフとは裏腹にさして残念がる様子でもない


「じゃあ出るとしよう」


そう言って出口に向かう


やけにあっさりしてないか?てっきりもう少し粘ると思ったのに


いささか拍子抜けしつつ館内を出ると、


「なあ、経吾。少しお茶でも飲んでゆっくりしていかないか?」


と園崎が僅かに顔を赤らめながら言ってきた


まあ、確かにちょっと喉が渇いたかな


「わかった。じゃあ、少し休んでいくか」


「よし、そうと決まれば時間が勿体ない。急ぐぞ、経吾」


園崎はそう言うと足早に歩き始める


俺は慌てて園崎の後に続いた


◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


軽い足取りで進む園崎に続き路地を歩く


賑やかな大通りから閑静な住宅街へと入る


ゆっくり出来る場所と言っていたから個人経営の喫茶店とかだろうか?


まあそういう店の方が、大手チェーンのファミレスやハンバーガーショップなんかよりはずっと落ち着けるだろう


高い塀に沿ってしばらく歩いた後、園崎が立ち止まり振り返った


「さあここだ、着いたぞ」


と、指し示す先にあったものは・・・


『お屋敷』と呼ぶほどは大きくないものの、普通の一般的な住宅よりは2、3倍はありそうな・・・『邸宅』と呼ぶのが相応しい感じの家だった


正面に大きく頑丈そうな金属製の門扉


そして石造りの門柱に刻み付けられた表札の文字は・・・




『園崎』の二文字だった



「こ、ここ、もしかして・・・?」


思わず声が震える


そんな俺に園崎はにっこり微笑むと、


「ああ、僕の家だ。遠慮はいらないから、ゆっくりしていくといい」


と言った


(つづく)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ