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プロミステイク ~俺と彼女の中二病的恋愛遊戯~  作者: 阿津沼一成
第2章 サマータイム・ラプソディ
79/90

第79話 ナツノ オワリノ アルイチニチ

「うわ・・・、なんかスゲエ焼けましたね」


客として訪れたバイト先のコンビニ


そのレジカウンターの中に立つ人物に、俺は軽い驚きの感想を漏らす


バイト先の先輩に当たるその人・・・マキさんは赤銅色と言っていいほどの日焼けをしていた


一週間ほど前に会った時はこんなに焼けてはいなかったと思うが・・・


「いやー、実はちょっとキャンプに行っててな。ご覧の通り、メチャクチャ焼けちまった」


そう言ってマキさんは白い歯を見せてニカッと笑った


肌の色のせいか以前より精悍に見えなくもない


しかし、もしここにオーナーと並んで立ったとしたら、かなりの暑苦しさになるだろう


きっと訪れた客は海の家に来たかのような錯覚を覚えるに違いない


「キャンプですか。いいですね。どこまで行ったんですか?」


「ふふん。ちょっと沖縄までな」


「へえ~、沖縄ですか」


ん?沖縄?・・・なんか最近、そんな話題で会話したような・・・


「まさかとは思いますが・・・サツキと一緒に・・・なんてことは、ないですよね?」


「ふっふっふっ・・・、実はそのまさかなんだ」


マキさんは俺の疑問を肯定で返し、満面の笑みを浮かべた


「マジすか!?」


サツキと一緒にって・・・この人、いつの間にそんなに仲を進展させたんだ?


しかも、キャンプて・・・あの黒ゴスファッションのサツキからは全くイメージが沸かん・・・


「メイちゃんと・・・それにメイちゃんの親父さんとな」

「はいぃ!?」


父親同伴って・・・状況が全く分からん・・・


「うーん、説明すると長くなるんだけどな・・・」


俺の困惑を察したマキさんが説明を始めた


「・・・この前、いつものようにメイちゃんの部屋でメイちゃんの椅子になってたんだけど・・・」


「ちょっと待って下さい話の導入から付いていけません」



「・・・そこで急にやってきたメイちゃんの親父さんと鉢合わせしちまったんだ」


差し挟んだ俺の疑問には耳も貸さず、マキさんは語り続ける


・・・まあいいや、なんかツッコんだら負けみたいな気がする


早々に悟った俺は聞きに徹する事にした


「俺、急な事でテンパっちゃってさ。思わず『娘さんの事、俺が一生守ります!』とか口走っちゃって」

「ごふッ!?」


いや、初対面でそのセリフは先走り過ぎでしょ!?


「そしたら、メイちゃんの親父さん、意外と気さくな人でさ」

「・・・え、そうだったんですか」


「うん。そんなテンパってる俺に『君のような若造が、どうやって守るっていうんだね!』ってヘー●ルハウスのCMのモノマネで返してきてくれたんだよ」


・・・それ、モノマネじゃなくてガチだったんじゃ


「それなのに俺、とっさの事に『僕じゃないですぅ~』って返しが出来なくて・・・、ちょっと申し訳なかったよ」


「・・・いや、それ言ってたらブン殴られてたと思いますよ」


(※作者注:このネタは一年以上前に考えたものなので、元ネタとなったCMは現在放送しておりません)


「そのあと、『君の覚悟のほどを見せて貰おうじゃないか』って言われてさ。親父さんの護衛の人と一勝負したんだけど・・・手も足も出なくて」


「普通そうでしょうね」


漫画やドラマからの想像でしかないが、黒服にサングラスのゴツい男が頭に浮かぶ


「そんな情けない俺をメイちゃんが取り成してくれてさ。『こう見えテ、彼は結構やレば出来る奴なんだヨ』って」


「え?あのサツキが?」


・・・なんだかんだでマキさんに情が移ってきてんのかな?


例え椅子扱いだとしても、部屋に招いたりしてるってことだし・・・


「そしたら親父さん、『君にその気があるなら修行の場を設けてやってもいい』って言ってくれてさ。俺、一も二もなく『お願いします』って・・・」


「・・・熱いっスね」


サツキ相手にそこまでするなんて・・・マジで惚れてんだなこの人


「それで、親父さんの自家用ヘリに乗って沖縄まで行くことになってな」


「そこでなんで沖縄!?」


話の流れが読めん


「いや・・・、なんかメイちゃんの親父さん、仕事の関係でアメリカ軍にも顔がきくらしくて・・・沖縄の米軍基地まで・・・」


「キャンプって米軍キャンプのことかよ!?」


俺は思わず絶叫でツッコミを入れる


「そこで特殊部隊?的なチームに体験入隊させてもらってさ。そこの軍曹さんから格闘術のイロハを教えてもらったんだ」


マキさん・・・軽く語ってるけどメチャクチャハードな体験だったんじゃ・・・


「・・・それは・・・大変でしたね」


「ああ。俺、ろくに英語できないからさ。ちゃんとコミュニケーション取れるかなって最初は不安だったよ」


「いや・・・そういう意味じゃなくて・・・」


「でも基本、返事は『サーイエスサー』だけでよかったから割りと楽だったぜ」


笑顔でサムズアップするマキさんに俺は疲れた笑いを返すしか出来ない


この人の無駄なバイタリティーの高さは、ある意味尊敬に値する


「・・・まあそんなこんなで特訓してもらって・・・素手とナイフを使っての格闘術はなんとか形になったよ。それと『日本国内ではあまり必要無いかもしれないが念の為』って言われて・・・一応拳銃の射撃訓練とかも・・・」


・・・俺はもう何もツッコまないぞ


「訓練は辛かったけど・・・これもメイちゃんの執事になる為の大事なステップだと思うとやる気が湧いてきてな・・・」


・・・ツッコまないからな?


「また後で色々と試練を与えるって言われたけど、俺は必ずなってみせるぜ・・・メイちゃんの執事にな!」


絶対にツッコまないって言ってるだろ!!



◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆


「はあ・・・それにしても今日はめちゃくちゃ暑いな」


コンビニからの帰り道、俺は頬を伝い落ちる汗を手の甲で拭いながら溜め息をついた


次に園崎に会った時、どう接すればいいのか・・・


いくら考えても適切といえる答えが見つからず、煮詰まってきた俺は気晴らしにと外出したのだったが・・・じりじりと照りつける太陽はさらに思考力を低下させるばかりだった


なんか冷たいもんでも買って帰ろう・・・


そんな考えで客として立ち寄ったバイト先のコンビニでは、知り合いがなんか暑苦しく変貌してて・・・疲労感が増した


その理由を詳しく聞いたら・・・さらに疲れた


あの人の順応性の高さはちょっと・・・いや、かなり異常だ


マキさんて奇特な言動や行動からパッと見はアホの人そのものなんだけど、実のところ基本スペックかなり高いんだよな


色々な意味で常人離れしてるし・・・


そんなことを考えながら角を曲がった時、何かが足にまとわりついてきた


「ひゃんひゃん」


「うわっと!?・・・ん?こいつは」


それは見覚えのある子犬・・・


ミニチュアダックスフント・・・ってやつだっけ?


確かこの犬ってサクマの・・・


「って、うわっ!?サクマ!?」


俺は思わず素っ頓狂な声を上げた


ちょうど俺んちの前辺りの路上に、突っ伏して倒れている奴がいる


そいつは・・・この犬の飼い主であり俺の高校の後輩女子、サクマに間違いなかった


◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「ふは~、助かりました。先輩は私の命の恩人ですよ~」


コップに注いだ麦茶を一気に飲み干したサクマはそう言って俺に深々と頭を下げた


「いや、ホント勘弁してくれよ、サクマ。知り合いにウチの前で死なれるとか縁起でもねえから」


能天気に笑う後輩女子に俺はげんなりとした視線を向けた


ゆで上がったタコのような状態で行き倒れていたサクマを、取り敢えず俺はウチの中へと運び込んだ


リビングのソファーへと寝かせクーラーの出力を最大にした後、額に冷却シートを貼りさらに頭の下にアイ●ノンを入れる


そうしてからしばらくすると、サクマは

『う、う~ん・・・ここは・・・〈はらいそ〉?・・・いや、〈ヴァルハラ〉か?』

とか言いながら意識を取り戻した


「原磯でも春原でもない・・・秋月町だ」


「え?町内?・・・てか、よっしぃ先輩?・・・なんで?」


「お前までよっしぃ言うなや!?・・・はあ・・・ほら麦茶だ。これ飲め」


全く・・・サツキのせいでコイツまで俺のことよっしぃ呼びし始めてやがる


不本意この上ない


俺は眉間を揉みながら深いため息を吐き出した


◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「・・・てなわけでですね、プリッツの散歩に出掛けたものの、あのコの気まぐれに振り回されてあっち行ったりこっち行ったりしてるうちにだんだん目の前が白く霞んできてフラフラと・・・まさか倒れたとこが先輩の家の前だったとは・・・」


サクマの説明に俺はただただ脱力するばかりだが、そもそもこんな暑い日に小型犬を散歩させるのはマズイんじゃなかったか?


人間より足の短い動物は路面からの熱もあって熱中症になりやすいって聞いたけど


そんな俺の心配とは裏腹に視界の端ではリビングの窓越しにその小型犬がやたらと元気にウチの中庭を走りまわってるのが見えた


・・・暑さに強い犬種なのか?


だだのミニチュアダックスフントのように見えるんだが


・・・まあ、いいか


俺は犬についてそれ以上考えるのは止め、正面に座る飼い主の方へと意識を戻した


「しかし、俺が通りかかったからよかったものの、お前あのままじゃマジでヤバかったぞ。こんだけ暑いんだから、散歩するならするで帽子被って飲み物とかも持参しろよ」


「ふへへ、面目ない。刻一刻と夏休みの残り日数が減っていく中、ほぼ手付かずのまま残る学校の課題・・・そのプレッシャーに耐えかね、つい逃げるように家を飛び出したもので・・・」


へらへらとそんな理由を申告するサクマに俺は半眼で生暖かい視線を送るしかできない


・・・まあ、気持ちは解らんでもないが


俺も去年の夏休みは最後の数日間、ヒイヒイ言いながらなんとか終わらせたもんだ


今年は園崎と何回か勉強会的な事をしてたおかげで早々に済ませることが出来た


「でも先輩のウチってここだったんですね。プリッツの散歩でこの辺は何回か通ったことありましたけど・・・全然気付きませんでした」


「ひゃん」


ガラス戸の向こうでそのプリッツが吠えた


「まあ、そんなもんだろ。俺だってお前んチの前とか、知らずに通ってるかもしれないし」


「そうかも知れませんね。・・・あ、先輩。わたし、おうちの方にご挨拶とかした方がいいですよね?」


「ん?・・・ああ、いま旅行中で誰もいないんだ。俺しかいないから遠慮しなくていいぞ」


「あ、そうなん・・・ですか・・・」


「お、おう・・・」


「・・・」


「・・・」


会話が途切れ、妙に気まずい雰囲気が漂う


成り行きで家に連れ込んでしまったが、コイツも一応は女子だ


流石に二人っきりてのを意識させちまうと変な空気になるな


しかしまあ、オトコに対する警戒心をちゃんと持ってることはいいことだ


こんな状況下において不埒を働く輩も中には居ることだろう


世の中、俺のようなヘタレ・・・もとい、紳士的な奴ばかりとは限らないからな


・・・とはいえ、この沈黙はちょっと気まずいな


俺はテーブルの上に置いてあるリモコンを取り、テレビの電源を入れた


適当にチャンネルを変え、情報バラエティ番組を選んだ


賑やかな話し声が部屋の静寂を塗り消していく


こういう時、テレビは実に役に立つ機械だ


情報ツールとしての地位はネットに譲り渡した感がある昨今だが、こんな風な使い方はテレビならではといえよう


つけっ放しにしとくだけでお互い無言でも気にならないし、番組の内容によっては話題が出来る可能性もある


実に素晴らしい便利アイテムだ


「ふわあ~、ステキな場所ですね~、私も彼氏とか出来たらこんなとこ行ってみたいですよ~」


さっそく番組の内容に食いついたサクマがそんな事を言いながら感嘆の吐息を漏らす


どうやらデートスポットとやらの特集コーナーのようだ


フッ・・・恋人のいない俺にとっては、まるで無縁な話題だな


「よっしぃ先輩。先輩は園崎センパイと夏休み、どんなとこデート行ったんですか?」


「えっ?」


不意にサクマが話を振ってきて、自分とは無関係と決めてかかっていた俺は一瞬思考が止まる


そう言えばコイツは俺と園崎が恋人同士だと思い込んだままなんだよな


「えーと・・・」


「あ、花火デートのとき、偶然お会いしましたよね。園崎センパイの浴衣姿、超ステキでしたよね~」


サクマのセリフにつられ、俺の脳内ライブラリーからそれに該当するビジュアルが甦ってくる


アップにした髪形と相まり、園崎の浴衣姿はまさに清楚の一言で・・・

夜の薄闇を背景にして一段と美しさが際立っていた


クラス内で高嶺の花的存在となっていてもおかしくないレベルの美少女


本当ならイケメンな彼氏相手に恋愛して、リア充高校生活を送っていただろうに・・・


それが、俺みたいなモブ男を付き従えてイミフな部活に明け暮れてるなんて・・・つくづく中二病とは因果なものだと言わざるを得ない


その上、後輩の女子から俺と恋人同士だと思われて・・・しかし、そんなこと意にも介さず誤解を解こうともしないで放置したままだ


「うっは、美味しそ~う。先輩、先輩。見てくださいあれ。超美味しそうじゃないですか?」


物思いに浸っていた俺だったが、サクマの食に対する欲望にまみれた声で現実へと引き戻された


画面には色とりどりのフルーツが盛り付けられたパフェ的なスイーツが映し出されており、それを見てサクマがハフハフ言っている


・・・うん。サクマはまだ色気より食い気の方が思考への占有度が高いようだな


なんか安心した


「ワタシも彼氏とか出来たら、こーゆーオサレなカフェでインスタ映えするスイーツをつつきあいたいですね~。くは~」


・・・多少は色気もあるようだ


「せんぱ~い。先輩も園崎センパイにあ~ゆ~スイーツを『はい、あ~ん』とか、してもらってるんでしょ~?」


にまにましながらそんな質問をしてくるサクマ


「あのなあ、そんな事してるわけ・・・」


俺は半目になってそう言い返すが・・・


『はい、けーご。あーん』


突然のフラッシュバック


いつかの甘味処での光景が鮮烈に甦ってきて、思わず言葉が止まる


「その反応は・・・、あ・・・あるんですね?うわ~うわ~!?」


「いや、違・・・!そもそもあれは元はと言えば罰ゲーム的な意味合いのもので・・・」


「ば、罰ゲーム!?な、なんかやらしー響きを感じます!うわ~!うわ~!うわ~!」


どんな想像をしているのかサクマは顔を真っ赤にして身悶え始めた


◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「ふう・・・、さすがオトナの恋人同士・・・私みたいな小娘には刺激が強すぎます・・・」


ひとしきりぐねぐねと体を悶えさせていたサクマだったが、ハアハアと肩で息をしながら何とか落ち着きを取り戻した


一体コイツは脳内でどんな勝手な妄想を巡らしたんだ?


頬がひきつる感覚とともにこの残念な後輩女子を半目になって眺めていた俺だったが、不意に視界の端に入ってきたテレビの映像に意識を奪われる


画面に見覚えのある観覧車が映し出されていた


あれは・・・


あの観覧車は・・・!


鼓動の高まりと共に、知らず頬が熱くなるのを感じる


それは間違い無く、あの日園崎と一緒に乗った観覧車だった


俺と園崎はあの観覧車の中で・・・初めての・・・


「デートと言えばやっぱり遊園地は定番ですよね~」


「そ、そうだな」


俺はサクマに内心の動揺を悟られないよう、平静を装いつつ相槌を打った


『・・・というわけでですね、この観覧車にはあるジンクスがあるんですよ~』


「あ、あたし知ってます知ってます。有名ですよね~」


リポーターを務めるアイドルの言葉に反応してサクマが声を上げる


ジンクス・・・。本来、縁起の悪い意味で使われる言葉だが現在の日本語では縁起担ぎみたいな良い意味に変質してる単語だ


やれやれ・・・。ホント、女って〈ジンクス〉とか〈恋のおまじない〉とかってのが好きだよな。そんなものになんの科学的根拠も無いってのに


『・・・この観覧車が頂上に差し掛かった時にキスをすると、そのカップルは永遠に結ばれるって言われているんです。ロマンチックですよね~』


・・・・・・


・・・なん・・・だと!?


耳に入ったテレビからの言葉に俺は全身が総毛立つのを感じた



俺の頭に、あの観覧車での記憶が甦ってくる


海へと沈んでいく夕日・・・


その幻想的ともいえる眩いオレンジ色に包まれた世界の中で、初めて交わした・・・園崎とのファーストキス


あの時の光景を・・・俺は一生忘れることが出来ないだろう


それにしても・・・なんというラッキーな偶然だろうか


あの観覧車にそんなジンクスがあり、そのレアな条件をクリアしていたとは・・・


園崎と・・・一生結ばれる・・・


って、何その気になってるんだよ俺


そんなジンクスなんてもんに科学的根拠なんかないっての!


・・・


・・・


・・・


頭では否定するものの・・・つい顔がニヤけてしまう


いかん!


俺はサクマにこの表情を見られないよう、顔を両手で覆った


「どしたんですか?先輩」


俺の行動を不審に思ったのか、サクマが怪訝そうな声をかけてきた


「なんでもない。気にするな・・・」


俺は顔を覆ったままそう答える


「それはそうと・・・知ってますか先輩。このジンクスには元になってる逸話があるんです」


「ほぅ」


「実は、ある映画のワンシーンが元ネタになってるんですよ」


「・・・映画?」


「そうです。少女マンガが原作の恋愛映画で、この遊園地がロケ地に使われたんですケド・・・その映画のクライマックスがこの観覧車でのキスシーンなんです!」


「ふ~ん・・・」


興奮気味に話すサクマに、俺は顔を覆った体勢のまま返事を返す


「水平線に沈む夕陽をバックに・・・オレンジ色に染まった世界の中・・・やっと思いが通じ合った二人が寄り添い合い・・・・・・ゆっくりと近づいていった唇が重なりあう・・・それはそれは超ロマンティックなキスシーンで・・・って、どしたんですか先輩?」


サクマの妙に熱の籠った説明を聞いていた俺だったが、その内容に耐えきれず思わず顔を覆ったままくずおれてしまった


・・・シチュエーションまる被りじゃねえか!?


なんか自分のことを言われてるみたいでメチャクチャ恥ずい!!


・・・。


それにしても・・・あの時の状況がそんな映画の名場面にそっくりだったとは・・・

すごい偶然もあったものだ


緻密にタイミングを計算したとしても、そんなぴったりの条件でキスするなんて出来るもんじゃないないだろう


・・・神がかっている


いや、もはや神が味方してくれてると言っても過言ではあるまい


こうなってくるとそのジンクスとやらも、にわかに信憑性が・・・


「あ、ちなみになんで頂上かというとですね~・・・その位置だとちょうど死角になってて他のゴンドラから見えないらしいんです。だからそれ以外のとこですると周りのゴンドラから丸見えになっちゃうらしいですよ」


サクマから知りたくもなかった補足事項を聞いた俺は、思い出し羞恥に悶え苦しむことになった


◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「大丈夫ですか先輩」


「・・・ああ、すまん。もう・・・平気だ・・・」


俺は立ち上がりながらそう答えた


「びっくりしましたよ~。急に床を転げ回り出すんですもん。・・・なんかの発作ですか?」


「・・・いや、ちょっと俺の中の限界を越えてしまってな・・・」


「・・・はあ」


困惑の表情を浮かべるサクマだったが、詳しく説明など出来るはずもない俺は曖昧な言葉でお茶を濁す


と、その時・・・


ぴんぽーん


玄関の呼鈴が鳴るのが聞こえた


「先輩、誰か来たみたいですよ」


「そうみたいだな。悪い、ちょっと待っててくれ」


俺はサクマをリビングに残し玄関へと向かった


「はい、どちらさ・・・ま・・・」


言いながらドアを開けた俺は言葉の途中で声を失う


そこに立っていたのは・・・


白のサマーワンピを身に纏った美少女だった


夏の陽射しを受けまばやくように光り輝くその姿は神々しくもあり・・・ていうか園崎だった


逆十字架を模した髪止めが光を反射してキラリと煌めく


予期してもいなかった来訪に、俺は咄嗟に言葉も出ない


園崎と二人、温泉旅館で一夜を過ごしたのは僅か昨日のこと


その帰りの道中・・・


こまめな魔素の補給・・・そんな大義名分を手に入れた俺は・・・何度も何度も園崎の唇へと自分のそれを重ね合わせた


そんな身勝手で欲望全開な俺の行動に対して、園崎はずっと無抵抗でなすがままになっていたのだが・・・内心ではどう思っていたのか


送り届けた家の門前でひときわ長めの『魔素補給』をした後、園崎は覚束無い足取りで門の中へと消えていった


その後ろ姿からは彼女がどんな感情を抱いていたのか・・・読み取ることは出来ず、一晩経って客観的に昨日の自分を思い返した俺は、激しい自己嫌悪に苛まれた


次に園崎と会った時、どんな顔をすればいいのか・・・どんな顔をされるのか・・・俺はそんな事を考え、懊悩していたのだが・・・


それが何一つ心の準備も出来ないまま、こんなふうにいきなり顔を合わせることになるなんて


「そ、園崎・・・どうしたんだ?急に・・・」


ろくな言葉も思い付かなかった俺は、そんなセリフを口にするのがやっとだった


「ど、どうしたって・・・その・・・どうもしないけど・・・・・・用が無かったら、会いに来ちゃダメなのか?」


ゴフッ!?


僅かに頬を赤らめ、すねたように言ったそのセリフの破壊力は、俺の不安など吹き飛ばして余りあるものだった


「ダ、ダ、ダ、ダメじゃないダメじゃないダメじゃない全然オッケーだ」


「だ、だよね?だよね?ボク達、親友なんだから、会いに来るのに理由なんかいらないよね?」


「お、おう。親友、だもんな」


「そ、そうだよ。親友の顔を理由もなくただ見たいって思うのは至ってごく普通の事だよ」


「そ、そうだな。普通の事だな」


意見の統一を見た俺と園崎は玄関でコクコクと頷き合った



「と、とにかく・・・まあ、上がれよ」


俺は多少の気恥ずかしさを払いのけながら、園崎にそう促した


「う、うん。お邪魔しま・・・」


俺の言葉に応え、玄関の中へと足を踏み入れた園崎だったが・・・何故か急に動きを止めた


「ん?どした?」


園崎の視線は・・・右下へと注がれていた


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・知らない女物のサンダルがある」


「へ?」


そこには・・・サクマの履いていたピンク色のサンダルがあった


「今日って・・・旅行中で家の人、居ないはずだよね・・・誰か居るの?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・女?」


園崎の声音の冷たさに背筋にゾクリと寒気が走る


「いや、えっと、その・・・」


とっさのことに説明の言葉が上手く出てこない


「・・・あたしが・・・ちょっと目を離した隙に・・・誰か・・・他の女・・・連れ込・・・」


光彩の消えた双眸でブツブツと呟きを漏らす園崎


そのただならぬ様子に、俺は固唾を飲んで立ち尽くすしか出来ない


「あたあたあたあたあたあたし・・・もしかしてピピピピピピピピピピエロだったりした?トゥルーエンド確定ルート突入~!!とか勝手に思い込んで・・・ひとりでうかれてたりしたのかなあ・・・あはあはあははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは・・・・・・・・・・そうだ・・・リセット・・・リセットしてやり直さなきゃ・・・えっと、ログアウト・・・どうやってログアウトすればいいんだろ・・・」


へたりこむように膝を突いた園崎は両手で顔を覆い込みブツブツと意味不明な呟きを漏らし続けている


指の間から覗き見える瞳は激しくブレ動き、明らかな異常を物語っていた


!・・・これは、まさか!?


「園崎、もしかして熱中症になってるんじゃないのか!?ずっと暑いとこ歩いてきたんだろ?」


俺は園崎の両肩を掴み、その顔を正面から覗き込んだ


「うくっ!?」


俺の行動に対し園崎が目を見開き息を飲む


虚ろだった瞳に僅かに光が戻り、青ざめていた頬に朱が差した


「熱中・・・症・・・?・・・そ、そう!な、なんか熱中症ぽいかも!だ、だから、その・・・今すぐ魔素を補給しないといけないと思う!」


興奮気味にそう訴えてくる園崎


この場合、すぐ補給すべきなのは水分だろう


だが相手は、思い込みの激しい園崎だ


精神的な思い込みが体調に影響を及ぼすことは往々にしてある


ここはまず、彼女の望みに応えてやるのが最良だろう


そう・・・これはプラシーボ効果を狙った応急処置、というわけだ


やるべき事を決めた俺は園崎の肩へかけていた手でその身を引き寄せた


園崎が瞼を閉じ、唇を僅かに開ける


そうやって無防備に差し出されたそこへと、俺は自分のものを重ね合わせた


これでもう何度目になるだろうか


自分でもだいぶ手慣れてきたと思う


「はふ・・・」


園崎の柔らかな唇の感触


その隙間から・・・熱い吐息と舌先が入ってくる


俺もそれに応じるように舌先を伸ばし彼女のそれと触れ合わせた


敏感な粘膜同士の接触による蕩けるような快感


「んッ・・・んむ・・・」


いつになく園崎の動きが激しい


夢中になって舌を絡めてくる


そして両腕を俺の背中へと回し、しがみつくように身体を寄せてきた


わ・・・とっ・・・!?


元から不安定な体勢でいた俺は、支えきれずバランスを崩してしまった


尻もちをつくように廊下の床に腰を落とし、そのまま仰向けに倒れ込む


幸い、しゃがんだ位置からだったため痛みはほとんど無い


一緒に倒れ込んだ園崎は・・・一瞬離れた唇をすぐに元通りに繋げ合わせると、中断した行為を再開していた


「んっ・・・んっ・・・んっ・・・」


熱を持った舌が生き物のように口内を蠢く快感に脳が痺れそうになる


それに加え、密着した二つの豊かな弾力が・・・


いや、それだけじゃなく、柔らかで心地よい重みが身体全体に覆い被さって・・・その存在を誇示するように擦りつけてくる


って、この体勢はマズいだろ!?


片膝をついた状態から倒れたため、左足が膝を曲げた状態になっていて・・・そこに跨がるように園崎の下半身が乗っかっていた


具体的には・・・園崎の太ももが俺の左足大腿部を両側から挟み込み・・・両足の付け根にあたる部位が強く押し当てられた状態になっているのだ


以前にもこんな体勢になったことがあった


たしか・・・スポーツクラブのプールサイドで・・・


接触した部位から火照るような熱が伝わってくる


これは・・・数枚の布地を隔てた向こう側にある・・・園崎の××××の温度


以前、ナマで接触した記憶が蘇ってくる


健康な肉体を持つ男子の正常な反応としては、血液がその一ヶ所に集中していくのは避けられないことだった


結果、園崎の太ももが強く押し当てられ圧迫された状況下において、俺のその部分はカチカチの棒状へと形状変化していく


!?・・・ちょっ・・・待っ・・・!


園崎が口腔内での戯れと同時に、押し当てた下半身を擦りつけるように動かし始めた


いや、それ・・・ヤバイから!?


園崎が動く度に快感がさざ波のように押し寄せてくる


こ、この状態が続けば・・・いずれ俺の×××は臨界に達するのは間違いない


もし、そのような失態を犯せば、その後の気まずさはこれまでの比では無いだろう


一刻も早く園崎の身体をどかさなければ取り返しのつかないことになる


しかし、頭ではそう考えるものの・・・それを惜しむ気持ちもあり、行動に移すことが出来ない


・・・もう・・・いっそのこと・・・


俺の心が刹那の快楽に身を委ねそうになったその時・・・


突然、園崎がビクッとして身体の動きを止めた


ちゅぼっ


音を立てて唇を離すと、ゆっくりと顔を斜め前方へと向ける


そして・・・・・・驚きに目を見開いた


園崎の視線の先を目で追う


そこには・・・リビングに続くドアから半分顔を覗かせ、爛々と輝く瞳でこちらを凝視するサクマの姿があった


「・・・す、凄・・・顔を合わせた直後から・・・待ちきれなかったと言わんばかりの激しいヴェーゼを・・・これがオトナの恋人同士・・・」


額に冷却シートを貼り付かせたまま、興奮した荒い息でそんな呟きを漏らしていた


そういえぱコイツがいたのすっかり忘れてた!


「え?モモカ?・・・なんで?」


すっかり我に返った園崎は困惑と驚愕と羞恥の入り交じった表情で声を震わせる


臨界点一歩手前の危険領域に達していた俺は、長い安堵のため息をついた


◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「 ・・・ふむ。つまり、犬の散歩中、暑さにやられて倒れ込んでいたモモカを偶然通りがかった経吾が見つけ、ここで介抱していた・・・と」


とりあえずリビングのソファへと腰を落ち着け、俺はこれまでの経緯を園崎に説明した


「いやー、先輩のおかげで命拾いしましたよー」


額に冷却シートを貼り、頭の上にアイ●ノンを乗せた間抜けな格好をしたサクマがへらへらと間抜けな顔で笑う


「・・・お前な、さっきも言ったけど夏の暑さを甘く見るなよ?重度の熱中症は冗談抜きで命を落とすかもしれないんだからな?」


「そうだぞモモカ。日傘とはいかなくても、せめて帽子くらいは被って、水分もこまめに・・・」


俺の後を次いでサクマをたしなめていた園崎だったが、何故か言葉の途中で動きを止めた


不審に思い顔を向けた俺の目の前へと、突然ずいっと身を寄せてくる園崎


な、なんだ!?


急な接近に、俺は思わず後ろにのけ反る


「介抱って・・・経吾、お前よもや・・・モモカに魔素〈ソーマ〉の補給を・・・」


「へ?」


一瞬呆けた後、昨日から新たに追加された中二設定の事を言っているのだと思い至った


まさか園崎、俺がサクマに『介抱』と称してキスしたんじゃないかと疑ってるのか!?


「ちょ、ちょっと待て園崎。俺はそんな事してないからな」


「本当か!本当にしてないんだろうな!?」


鬼気迫る表情で詰め寄る園崎に、俺は全力で全否定する


「天地神明に誓ってしていない!俺がサクマに補給したのは・・・麦茶だけだ!!」


「・・・そ、そうか。本当・・・なんだな?・・・よかった」


俺の真剣な表情に納得したのか、なんとか疑いを解いてくれたようだ


しかし、ほっと安堵したのも束の間、園崎が再びグイと迫ってきた


「いいか経吾。思い違いの無いように説明しておくが魔素〈ソーマ〉の相互譲渡が可能なのは同調〈チューニング〉の術式によりお互いの魂魄〈コンパク〉が同期している者同士に限られる。つまり経吾にとってこのボク、ボクにとって経吾・・・二人の間だけに限られる特別なものなのだ」


「・・・お、おう」


「万が一・・・、その禁を破りボク以外の誰かと『魔素〈ソーマ〉の譲渡』をしようものなら・・・・・・・・・・・お前は最悪、命を落とすことになるかもしれん・・・」


据わった目で物騒なことを言ってくる園崎


「な!?死ぬかもしれないっていうのか!?」


死ぬほどの拒絶反応が起きる、とかって設定なのか?

でも、あくまで設定の話だろ・・・?


「・・・・・・・ボクの手にかかって」


「お前が手を下すのかよ!?」


え?なに?俺、園崎以外の女の子とキスすると園崎に殺されるの?


「ふわあ・・・、全然意味が解りませんが・・・これが『二人だけの間に通じる言葉での会話』ってやつなんですね。参考になります」


俺達のやり取りをどう解釈してるのか・・・、サクマは能天気に目を輝かせて俺達を眺めていた


(つづく)


皆様、あけおめことよろでございます。


久しぶりの更新です。遅くなりまして本っっっっっっっっっ当に申し訳ありません。


ちゃんと生きてましたよ~。

・・・まあ、PCの方は死んだりしてたんですが。


なんか最近動作遅くて調子悪いな~なんて思ってたらHDDがクラッシュしてしまいまして・・・

いままで書き溜めていた文章が消えたりとか・・・


落ち込んだりもしたけれど私は元気です、てなわけで約半年ぶりの更新ですが如何でしたでしょうか。皆様の暇潰しのお役に立てれば幸いです。


相変わらず筆は亀の歩みですが、どうかこれからも見捨てずに読んでやって下さいませ。


P.S.

ヘーベ●ハウスCMの元ネタはようつべなんかに上がってますので、元ネタ知らない方は「ヘー●ルハウス」+「CM」+「挨拶編」とかで検索すると見れると思います。

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