第75話 Summer Date final part_02
「うは。畳だ畳。ほら、畳の部屋だぞ経吾。うん、まさに『ザ・旅館!』て感じだ。なかなかいい部屋じゃないか。な、経吾」
「お、おお・・・」
扉を開け部屋に入るなり園崎が感嘆の声を上げた
俺はそれにただ生返事を返すことしかできない
だが園崎の方はそんな俺など気にも留めず、小走りで窓辺へと駆け寄った
「おおーっ・・・ほら、見てみろ経吾。窓からの眺めもなかなかだぞ」
そんなはしゃいだような声を上げたかと思うと今度は部屋の中央に据えられた座卓へと屈み込む
「お、饅頭だ。饅頭が置いてあるぞ。経吾は饅頭も好きだったよな」
そう言いながら、そこに二つ置かれたそれを手に取って俺に見せてくる
しかししゃがんだのも束の間、再び立ち上がるとまた部屋の中の物を見回り出した
落ち着きなくパタパタと動き回る園崎はいつにも増してハイテンションで・・・
どこか無理をしてるようにも見える
しかし俺はというとそんな園崎の様子をただ突っ立ったまま『ああ・・・』とか『おお・・・』とか虚ろな返事を返すので精一杯で・・・未だ自分の置かれた状況に対応出来ずにいた
夏休みも終わりまであと数日に迫ったこの日
昼近くまで寝ていた俺は勝手に部屋に侵入してきた園崎に起こされた
部活をするということ以外ろくな説明もないまま電車とバスを乗り継ぎ、『霊峰』とも呼び称されるこの山へと来ることになる
俺はてっきり山腹にある神社ででもなにかするんだと思っていたのだが、園崎について向かった先は意外な所で・・・
そこで俺の目に映ったものはまるで『旅館』という佇まいの建築物
ていうかまさに旅館そのものだった
「夏休みにおける部活動定番のイベントといえば『合宿』だろ?当然我が部もそれに則り、こ、今夜はここに泊まり強化合宿を行うことにする」
困惑する俺をよそに園崎が宣告した言葉はさらに予期せぬもので、俺はただ絶句するしかなかった
・・・・・・・・・・・・・・・・
え?・・・合宿?
・・・今夜?ここに?・・・泊まる!?
いやいやいや
高校生男女二人が外泊って・・・それはいくらなんでも倫理的にマズいだろ!?
いきなり連れて来られた俺はもちろんだが、園崎の方にしたって親の許可を貰ってると思えない
無断外泊なんて、もし学校に知れたら・・・退学なんて事までにはならないだろうが、なにかしらの罰則はあるはずだ
園崎にとってはいつもの『男同士の親友感覚』なのかもしれないが、客観的に見れば『不純異性交遊』以外の何物でもない
これは非常にリスキーな行為だ
今からでも園崎を説き伏せ今日のこの部活は中止に・・・
「失礼いたします」
うおぅ!?
そのとき不意に部屋の扉が開き、そう声をかけられた
俺は心臓が飛び出すほど驚いたが、かろうじて声は上げずにすんだ
和服姿の中年女性・・・この旅館の中居さんだろう
俺は入口に突っ立ったままだった事に気付き、慌てて脇へよけた
中居さんがお茶の用意をしてくれているのをぼんやり眺めていた俺だが、それが終わり一礼して出ていったところでハッとなる
「えっと、あのな園崎・・・」
あれ、えーと、なんて言うんだっけ・・・
気を削がれた俺は咄嗟に言葉が出てこない
「ん?・・・取り敢えず座ったらどうだ経吾。お茶が冷めるぞ」
「え?あ、おお・・・」
園崎の言葉に・・・俺はつい座ってしまった
「はい、お饅頭」
「おお、ありがと・・・」
・・・。
あー・・・、とりあえずお茶でも飲んで気持ちを落ち着けよう
そう思い、俺は濃緑色の液体で満たされた湯呑みを手に取った
口許へと運ぶと上品な香りが鼻腔を満たす
一口、口に含むと程よい渋味が舌の上に広がった
うん・・・美味い
なかなかにいいお茶だな
俺は人心地ついた気分でほっと息を吐いた
向かい合う形で座った園崎も同じように湯呑みを傾け、吐息を漏らす
しばし俺達の間になんともいえない穏やかな空気が流れた
お茶のおかげで少しリラックスしてきた俺は、変に緊張していたのが急に馬鹿馬鹿しくなってきた
確かにアニメやマンガなんかじゃ夏休みに部活の合宿・・・なんてのはテンプレの展開だ
いかにも園崎が好みそうなネタといえる
主人公が仲間達といつもと違う場所でドタバタする様はいかにも楽しげで、そんな輪の中に自分も入りたいって考えるのは至極当然の事で、園崎がそんな状況を自らセッティングするのも理解できる
だが、本来こういう場合、4、5人のグループで行うのがパターンなんだろうが・・・、何しろ俺と園崎二人だけの謎部活だ
『真面目系眼鏡女子』とか『天然系後輩女子』とか・・・男子なら『アホでスケベなロン毛』とか『変態ムッツリのメガネ』とか・・・けっこう人材は揃ってると思うんだけどな
俺は知り合いの顔を脳裏に浮かべつつ、温泉マークの焼き印が押された饅頭を頬張った
「っと、そういえばサツキはどうしてるんだ?まさかアイツまで来るんじゃないだろうな!?」
俺は最近めっきりトラブルメーカーとしてのポジションを不動のものにしつつある『横暴唯我独尊系お嬢様キャラ』の存在を思い出し、園崎に問い詰めた
もし、あいつが乱入してくるような事態になったら絶対ろくなことにならない
「サツキ?・・・サツキにはこの合宿の件は話していない。それにアイツは今、沖縄だ」
園崎の返答に、俺はほっと胸を撫で下ろす
そうか・・・よかった・・・
「しかし、夏休みに沖縄か・・・流石は金持ちのお嬢様だな・・・。いや、ハワイやグアム、フィジーとか言われないだけマシか・・・」
「うん、アイツの持ってる個人用ヘリじゃ太平洋は越えられないからな。沖縄くらいまでが限界だろう」
「なんだ、個人用ヘリって!?マンガか!?」
やっぱサツキの奴、ドン引きするくらいお嬢様じゃねえか・・・
「まあ、なんにせよサツキに引っ掻き回されるような事態にはならんよう細心の注意を払ってある。憂いなく合宿に専念しようじゃないか」
園崎はそう言って片眼をつむってみせた
「合宿に専念って・・・そもそもどういった事をするつもりなんだ」
「くくっ・・・、計画は綿密に立ててある。あとはそれを粛々と実行していくだけだ」
そう言うと園崎はドヤ顔で胸を反らした
・・・薄いワンピースの生地にブラの刺繍が浮かんできて目のやり場に困る
「とりあえずここまでの移動により軽い疲労感もある。一休みも兼ねて時間まで暫しゲームでもやろうじゃないか」
そんな事を言いながら、持ってきたバックの中をゴソゴソと漁り出す園崎
『時間まで』という文言が一瞬引っ掛かったものの、彼女が畳の上に並べ始めた品々にそれも意識の外へと弾き出される
トランプ、ウノ、花札といったカード類にマグネット式の携帯型ボードゲームの類いが次々に並べられていく
俺は思わず深いため息をついた
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「『ワイバーンライダー』を敵のフィールドへと浸透・・・同時に『ドラゴンロード』へとクラスチェンジ!」
パチンと音を響かせながら駒を置くと同時に裏返す園崎
「・・・『飛車』成り『龍王』な」
俺はジト目になりつつ園崎の台詞を言い換える
「・・・金将、銀将がゴールドナイト、シルバーナイトなのはなんとなく解るんだが、なんで香車が辺境伯なんだ?」
「ん?なんとなくそんなイメージだろ?」
半眼で問い掛ける俺に園崎がキョトンとした顔でそう返す
念のため言うと俺達が今やってるのはマグネット式になってるポケットサイズの将棋だ
最初は二人ババ抜き、二人神経衰弱などの虚しさを感じるトランプゲーム
ローカルルールが微妙に混じったウノなんかをしばらくやったあと、花札・・・は二人ともルールがよくわからなかったのでパス・・・ってなんでやり方知らないのに持って来たかな・・・
そして今は将棋をやっているんだが・・・
園崎が駒を動かすたびに変なカードバトルみたいなコールを入れてきていまいち集中出来ない・・・まあ、幸い今回は何か賭けてる訳でもないから、特に勝ち負けにこだわらなくていいんだが・・・
「おっと、もうこんな時間か」
さっきから時たま部屋の時計に目をやっていた園崎が、やおらそんなセリフで駒を持つ手を止めた
「よし、続きはまた後でやるとして、そろそろ浴衣に着替えて温泉に行こう」
そう言いながら将棋盤を脇に寄せ、立ち上がる園崎
『温泉』という単語に俺の心臓がどくんと跳ねた
・・・いや、もちろん入るのは男湯女湯別々なのは解ってるんだが、やはり思春期男子としてはこのシチュエーションはときめきを禁じえない
『かぽーん』という定番の謎効果音とともにお湯に浸かる園崎の姿を妄想してしまう
まあ、入浴シーンはともかくとして『風呂上がりの園崎』を拝めるのは約束されたようなものだ
湯上がりで火照る身体から立ち上るその香りはさぞや芳醇なものだろう
そして幾度か目にした事のある、濡れた髪をアップに纏めた姿はかなりの色っぽさだ
そんなレア度高い園崎の姿をじっくりと心ゆくまで鑑賞出来るとは・・・これ程の贅沢があるだろうか
「ほら、経吾。お前の分の浴衣と風呂の後の着替えだ」
「お、おぉ。ありが・・・と・・・」
園崎の言葉に俺は慌てて妄想を中断する
そして、渡された物を受け取り確認して・・・思わず頬が引き攣った
綺麗に畳まれた糊のきいた旅館の浴衣と羽織・・・そしてそのてっぺんに・・・俺のパンツ
(黒のニットトランクス、大手デパートの衣料品売場にて購入。一枚480円税抜き)
が鎮座していた
「な、ななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななな」
唇の隙間から声にならない声が漏れる
「お前が寝てる間に適当にタンスから選んでおいた。明日の着替えのTシャツとかも持ってきてあるから安心してくれ」
そう言ってにっこり笑う園崎
「・・・いや、そうじゃなくてな・・・。え?なに?お前・・・俺のタンス勝手に開けたの?」
かつて感じた事もない感覚が全身に走り、身悶えしそうになる
「あっ!べ、別に一枚もくすねてなんかないからな!?ただほんのちょっと頬擦・・・げふんげふん!・・・なにもしてないなにもしてない!!」
園崎がなにか訳の解らない言い訳を口にしているが、俺にはそれを聞いている余裕などなかった
俺が下着類を仕舞っている引き出し、その中こそ・・・
新しくエロ本の隠し場所に変更したところだったのだ
俺の頬を一筋の汗が伝う
・・・バ、バレてない、よな?
底板を二重にした特殊加工を施してあるのだが、園崎なら見付ける可能性は高い
しかも最悪なことにあそこには夏休み前に買った、あの雑誌が・・・
俺が毎日のように熟読していた男性向け情報誌
その表紙を思い出し、嫌な汗が吹き出してきた
『特集!彼女を虜にするキス・テクニック』
俺はその記事を参考書として、脳内で作りだした妄想の園崎を相手に毎晩のようにイメトレを繰り返していた
いつか訪れるその時を夢に描き・・・
まさかその時があんな形で現実になるとは思いもよらなかったが、いきなりの展開にも拘わらず大きな失敗もなくとりあえず園崎に満足して貰える結果を納められたのはその賜物ともいえる
だがそれだけにあれを見られた場合の恥ずかしさと気まずさは計り知れない
俺がそんなものを見て密かにキスの練習をしていたなんてことが園崎に知られたら・・・軽く死ねる
その上、その雑誌に載っていたのは『唇へ』のテクニックだけではなく・・・それ以外の『あんなところ』や『そんなところ』への舌技の使い方なんかまで詳細に解説されており・・・
俺はそっちのイメトレもしっかりと妄想の園崎を相手に・・・
「経吾ー?」
「うわっ!?」
急に声をかけられ心臓が止まりそうになった
「何やってるんだ、経吾?・・・ほら、お前も早く着替えちゃえってば」
眉を寄せた表情の園崎が腰に手をやったポーズで俺を見ている
その格好は旅館の浴衣に緋色の羽織という姿で・・・メチャクチャ可愛いかった
「どうだ?似合うか?」
「お・・・おぉ・・・」
思わず心配事も忘れ、しばし見とれてしまった
「ほら、ボーッとしてないで経吾も着替えちゃいなよ」
「わ、わかった」
園崎に急かされ慌てて着替えに入る
でもこの様子だと見つかってる可能性は低い・・・か?
俺は密かに胸を撫で下ろし・・・ハッと気付いた
・・・てゆーか俺、園崎の生着替え見逃した?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「それにしても温泉なんて家族と最後に行ってから何年ぶりだろな・・・」
背中に園崎の食い入るような視線を感じながら手早く浴衣に着替えた俺は、いま彼女と二人連れ立って大浴場へと向かう廊下を歩いていた
「くは、僕も久しぶりだから楽しみだ」
隣を歩く園崎が屈託なく笑う
二人とも浴衣はお互いサイズ違いの同じ柄
上に羽織った羽織はそれぞれ紺色と緋色の色違い
小柄な園崎の身体には少し大きいようで袖が少し余り気味なのがまた可愛いらしい
油断すると頬が緩みがちになり、俺はうっかりニヤけないよう表情筋のコントロールに細心の注意を払う
そうこうしてる内、羽織と同じ色分けの紺と緋の大きな布に白く『男』『女』の文字が染め抜かれている暖簾が見えてきた
あそこが大浴場で間違いないだろう
「えっと、じゃあ先に出た方がロビー辺りで待ってることにするか?それとも部屋まで戻ってることにした方がいいか?」
タイミング良く同時に上がるとは限らない
俺は待ち合わせの確認をとった
しかし園崎はそれには答えず暖簾の前を通り過ぎる
「えっと・・・、園崎?」
俺は園崎の行動を計りかね、その背中を追う
「・・・そこじゃなくて・・・あっち・・・。予約・・・しといたから・・・」
俯きがちにそう言い、歩み続ける園崎
その向かう先に視線を向けると、ひとまわり小さな暖簾があり・・・
『貸し切り露天風呂 睦』との文字が読めた
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
えーと・・・、これは流石に・・・色々とマズくないか?
今更ながら今後の展開に不安が沸いて来た
予測もしていなかった状況を前に、混乱した俺の脳は正常な思考を維持するのもままならない状態に陥った
そして気がつけば園崎に促されるまま、その暖簾の奥にある引き戸をくぐってしまっていた
そして、
「経吾、外にこの『使用中』の札下げて・・・そしたら鍵・・・架けてね・・・」
霞んだ思考状態の中で言われるままその指示に従い、自らの手でそれを実行した俺は・・・もはや退くに退けない状況になっていた
いやいやいや、ちょっと待ってちょっと待って。これってつまり混浴ってことだよな?え?なに?二人で同じ風呂に入るの?てことは当然、裸だよな?・・・マジか!?
本来なら大喜びするべきシチュエーションだろう
好きな女の子との混浴・・・求めて止まないその裸体を堂々と拝めるのだから
ラブコメなどでよく見る憧れの展開・・・
だが、それがいざ自分の身に訪れるとなると喜びより不安と戸惑いの方が大きい
園崎、一体なに考えてるんだ。こういうとこって本来、恋人同士とか夫婦とか・・・そういった親密な関係の男女が利用するトコじゃないのか?
お互い一糸纏わぬ生まれたままの姿を相手に晒す・・・
それは、愛し合い信頼しあう者同士だからこそ出来る行為といえる
そうか、『信頼』・・・
俺は不意に園崎がこの行動に何を求めているのか・・・その真意がなんとなく読めた
園崎は今回の一連を『部活の合宿』であると言っていた
部員同士がお互いの裸を相手にさらけ出し、同じ風呂に浸かる事で連帯感、信頼感を高め合う・・・
まるで体育会系のノリだが・・・そんな、いわゆる『男同士の裸の付き合い』ってやつを考えてるんじゃないだろうか?
だとしたら合点がいく
園崎が同じ部員であり親友たるポジションに据えるこの俺にそれを求めているなら、その期待に応えるのが俺に課せられた・・・いや、俺自らが自分に課せた役割といえるだろう
・・・腹を・・・括るしかあるまい・・・
俺は覚悟を決め、園崎に背を向けた状態で浴衣の帯を解く
そして園崎のことなどまるで意識してない風を装い堂々と・・・だが手早く、浴衣とパンツを脱ぎ去り腰にタオルを巻いた
「経吾・・・、僕、髪を纏めてから行くから・・・先に入ってて」
「お、おう。じゃ、先行ってるな」
背中越しにかけられた園崎の言葉に、俺は平然を装った声で応え、脱衣所からその先へと続く扉を開けた
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「おお、なかなか風情があるな」
露天風呂の景観を目にした俺は、思わず感嘆の声を漏らした
自然の石を利用して組まれた露天風呂は大き過ぎず小さ過ぎず、4人くらいなら余裕で入れるほどの広さだった
それを囲むように草木が植えられており、その彩りは日本庭園を思わせる風情だ
傍らにしつらえられた洗い場も木製の腰掛けに桶と純和風、シャンプーやボディソープのボトルまで同色の物に統一されている
「さて・・・」
俺はうろ覚えの温泉作法に則り、木製の手桶に湯をすくい、かけ湯で身体を流した
・・・確か湯の中にタオルを入れるのはマナー違反・・・だったよな
腰のタオルを畳み・・・頭の上に乗せるのはあまりにもベタだと思ったので・・・置いてあった手桶の中に入れた
湯にそっと片足を入れてみる
ちょっと熱いけど・・・いい湯だ
湯色は薄い乳白色だが硫黄のような臭いもなく抵抗感なく入ることができた
「はふぅ~~~~」
俺は肩まで浸かって長い吐息を吐き出した
全身の筋肉がゆっくりとほぐれていく
・・・
・・・
・・・さて
どうする!?
ここまでその事を考えないようにして機械的に行動を進めてはきたものの、もうしばらくすればここに園崎がやってくる
そう、一糸纏わぬ姿で・・・
園崎がこの場をセッティングした目的は理解できた
だが、俺が秘めている園崎に対しての感情は『親友としての友愛』ではなく、『異性に対しての性愛』だ
それをこんな状況で抑えきれるのか?
・・・てゆーかさ
いくら俺が親友の仮面でその欲望を隠し通そうとしても、既に最大限ガチガチの棒状になってしまっている下半身のコレを見られたら、どんな言い訳も意味を持たないだろう
この1箇所に集まり過ぎた血液量を正常に戻すべく、先ほどから脳は命令を送り続けているがその部位は一向に縮小する気配を見せない
それどころか脱衣所の扉が開くその瞬間への期待から、かつてないくらい昂り膨張している
・・・これはラッキースケベどころか超リスキーな状況だぞ
とにかくコレを見られたら信頼度が増すどころか真逆の結果になることは疑いない
最悪の事態を想像し冷や汗が頬を伝った時、
カララ・・・
脱衣所の扉が開いた
俺はその瞬間・・・、
ギュッと瞼を閉じた
なんとか顔面の筋肉は脳の命令を履行してくれた
だが・・・見たい
見たい
見たい!!
堪えろ、俺・・・これが最善の策だ
もし正面から真っ直ぐに園崎の生まれたままの姿なんて見てしまったら・・・俺は正気を保っていられる自信はない
「おぉ・・・けっこう壮観だな」
「ああ・・・なかなかいい雰囲気だよな」
園崎の言葉に、俺はしみじみと湯に浸かってる風を装い、目を閉じたまま相槌を打つ
ぱしゃばしゃ・・・ちゃぷ・・・
「んっ・・・ちょっと熱いな・・・でも・・・いい湯だ・・・」
園崎がかけ湯のあと、足を湯に沈めたのが音で解る
俺と同じような感想を漏らしたあと、さらに身を深く沈めた
耳が捉えた音により妄想が掻き立てられ、脳内で映像が勝手に構築されていく
アレの膨張率は一向に低下の兆しを見せず、これでは目を閉じたことなどなんの意味もない
ちゃぷ・・・
園崎が・・・ゆっくりと移動するのがお湯の動きで解った
え?え?・・・ちょっと待て
内心慌てふためく俺をよそに園崎の気配は・・・俺の真横で動きを止める
「・・・はふ・・・気持ちいいね・・・けーご」
すぐ隣の位置、30センチと離れていない場所からそんな吐息混じりの声が俺の右耳をくすぐった
園崎・・・いくら俺のこと『親友』って認識だとしても、あまりにも無防備過ぎないか
裸のままこんな至近距離に・・・
・・・待てよ。俺、ずっと目をつぶったまま確認してないけど、実は園崎、水着とか着けてるってことはないか?
そうでなければいくらなんでもこんな堂々と男の隣にいられるもんじゃないだろう
きっとそうだ。そうに違いない
俺は自分の予測を確認するべく、そっと右目を開けた
そこには・・・
たわわに実った白桃のような肌色の二つの果実が乳白色の湯に浮いていた・・・
慌てて目を閉じたが既に手遅れだった
俺の右目の網膜には焼き付いたようにその残像が刻まれる
白く霞んだ湯の中に微かに透けて見えたのは、ツンと盛り上がり濃い肌色をした膨らみの先端部分
・・・うん。確実に全裸だ。少なくとも上は着けてない
「ふう・・・さて、そろそろ身体を洗うとしよう。経吾、背中流してやるよ」
「お、おう・・・」
園崎のこの提案は、まあ・・・予想していたことではある
背中を流し合う
いかにも親友的裸の付き合いだ
湯の中から立ち上がり、俺はなるべく園崎を見ないように・・・それ以上に俺のモノを見られないよう、彼我の位置関係に注意しつつ慎重に洗い場へと移動する
チラリと自分の状態を確認してみるがソレは鎮まるどころか・・・かつて見たことがないほどの急角度で屹立していた
絶対絶命
くっ・・・本来であればこれ以上無いくらい美味しい状況だというのに高過ぎる危機的状況と隣り合わせで全然喜べねえ!
「じゃあ洗うぞ、背中を向けて座ってくれ」
「わ、わかった・・・」
園崎の指示に、思わず上擦った声で返事を返す
俺は死角になる位置を計算しながら慎重に腰掛けへと腰を下ろした
「・・・。」
「・・・。」
「・・・・・・・。」
「・・・・・・・・?」
言われた通り背中を向け座ったものの一向に園崎が動く様子がない
「・・・くふ。くふふ・・・けーごの背中・・・肩甲骨・・・背筋のおうとつ・・・さらにさらにさらにその下のおぉぉぉぉ・・・お・し・り・・・ぐふぉ」
動く気配が無いどころか、なんかよくわからない呟きが漏れ聞こえてくる
まさか園崎、温泉の熱でのぼせたんじゃないだろうな?
「・・・えっと、園崎?」
不安に駆られ背中越しに名を呼ぶと園崎の体がびくんとするのがわかった
「ななななななななに?けーご」
「だ、大丈夫か?園崎。ぼーっとしてたみたいだけど、もしかして湯あたりとかしたか?」
「ち、ちちちちちちちがうからそうじゃないからぜんぜんやらしーめでなんかみてないから!」
俺の言葉に対し支離滅裂な言い訳を返す園崎
本当に大丈夫かな・・・?
「えっと、あたし何するんだっけ?・・・あ、そう、背中。背中洗うんだっけ・・・」
直前の記憶も曖昧って・・・本当に大丈夫なんだろうな!?心配になってきたぞ
・・・うおっ!?
不意に背中へとタオルが押し当てられ、油断していた俺は危うく声を上げそうになった
自分の目的を思い出した園崎が作業を開始したようだ
こしゅ、こしゅ、こしゅ・・・
丁寧な動きで俺の背中をタオルが滑りだす
もう少し強くてもいい位だけど・・・でも気持ちいいや・・・
園崎が洗ってくれてる・・・
それだけでこれ以上ないくらいの心地好さと幸せを感じる
俺は極上のひとときを味わうべく背中へと全神経を集中させた
至福・・・まさに至福とはこのことか・・・
俺はその極上のひとときを堪能した
だが背中くらい洗うのにそんなに時間はかからない
少しずつ下降していた園崎の手はほどなく終点・・・腰あたりの位置に着いてしまった
もうお仕舞いか・・・って、あれ?
園崎の手は止まることなく俺の身体の側面・・・右の腋の下辺りを洗い出した
そしてそこも終わると徐々に身体の前面へと移動を始める
「ちょ!?待て待て待て待て!もう大丈夫だから!後は自分で洗うから!」
園崎のタオルがやがて胸元辺りを洗い始めたのだが、その動きが乳首を中心とした円を描くような執拗なものになってきて、耐え切れなくなった俺は半ば奪うようにそのタオルを受け取った
はあ・・・、なんだったんだ今のは・・・園崎、悪ふざけが過ぎるぞ・・・
「・・・・・・・・・・・・ちぇっ」
後ろから園崎の残念そうな舌打ちが聞こえたような気がしたが、俺は無視してガシュガシュとタオルを動かした
一通り洗い終わったが・・・1箇所まだのところがある
・・・ココも洗わないわけにはいかんよな・・・
俺はガチガチに硬化したソレにタオルをあてた
ほぐぅ!!!???
ボディソープのぬめりと相まったタオル地の感触が超絶的な快感となって俺を襲う
もし、ほんの少しでも力加減を誤ったら・・・『暴発』は免れないだろう
この状況でそんな事態になったら・・・考えるだけで恐ろしい
俺は爆発物処理班の心境で慎重にソレを洗い上げる
大好きな女の子が全裸で背後にいる状況でこれって・・・どんなプレイだよ!?
・・・・・・・・・・・
「よし、じゃあ泡流すぞー」
ひと通り俺が洗い終わったのを見て取った園崎が、お湯をざばっとかけてきた
「よし、どこにも泡残ってないな。サッパリしたか?」
数回、お湯がかけられたあと、園崎が満足そうな声で笑った
はあ・・・なんとか終わった・・・
しかしホッと胸を撫で下ろしたのも束の間・・・
「じゃ、交代。今度はけーごにボクのこと洗って貰うぞ」
予測していた展開ではあるが・・・園崎の口から告げられた言葉に俺の鼓動が急速に高まり出す
ふう~~
俺は一度深く息を吐き、気を落ち着かせる
・・・あくまでも背中を流すだけだ
背中だけを見て、そこ以外に視線を向けなければ・・・何も問題は無い
「わかった。じゃあ背中向けてくれ」
俺は平静を装おった声でそう告げ、園崎が身を動かしたのを待ってから振り返る
・・・!
思わず息を飲んだ
一糸纏わぬ・・・園崎の美しい裸身
俺に背を向け座っているその様は、まるきり無防備そのものだ
髪をアップに纏めた為にまる見えになった襟足が堪らなく色っぽい
肩甲骨と背筋とが織り成す滑らかな隆起となだらかにくびれた腰のライン
シミ一つない白い肌と相まって陶器の美術品を連想させる
ごきゅ・・・
知らず喉が鳴った
ちょっとだけ・・・ちょっとだけなら・・・
僅かな躊躇いのあと、欲望に負けた俺は園崎がこちらを向いてないのをいいことに・・・視線をそこからさらに下へと向けてしまった
ほっそりとくびれた腰の位置から再び膨らみを描き出す輪郭
行き着いた先に・・・こじんまりとしているものの必要十分なボリュームを備えた丸みが、そこにあった
腰掛けに座ったことによりその形がむにっと歪み、その柔らかさのほどを雄弁に物語っている
「!?」
だが、視線を動かしたのはやはり間違いだったと、この時になって気付いた
俺の視界のフレーム内
その上半分に園崎の色白な愛らしい丸みがある
そして下半分に・・・『ソレ』がいた
蛇の鎌首を思わせる形状をした赤黒くテラテラと光る先端部
胴体に当たる部分には太い血管が浮き出たその姿は、別の生き物にも見える
実際、『ソレ』はまるで自分の意思を持つかのように時折小さくビクビクと跳ねた
言うまでもなく『ソレ』とは最大限まで膨張した俺の分身の姿だ
お互いの身体の一部が同一フレームにおさまっている様を見たことで、今どれだけ危うい状況なのか・・・はっきりと自覚してしまった
園崎と俺、剥き出しになった男女の下半身が僅か20センチほどの距離にあるのだ
ほっそりとくびれた園崎の腰
もし・・・いまそこを両の手で掴み、強引に引き上げたりすれば・・・バランスを崩した園崎は両手をつき、四つん這いの体勢になるだろう
そんな格好をすれば園崎の『オンナノコの部分』は丸見えになる
無防備になったその部分へと俺のコレを押し当て・・・嵌め込み・・・根元まで深く挿し入れたら・・・どれほどの快感を得られるだろうか・・・
「けーご?どうしかした?」
不意に名を呼ばれ、妄想の中に入り込んでいた俺は意識を現実へと引き戻された
「大丈夫か?けーごの方こそお湯でのぼせたんじゃないのか? 」
からかうような屈託の無いその声の響きには、俺に対する疑念など微塵も感じられない
自分に対して俺がそんな真似をするなんてカケラも思っていないのだろう
「な、なんでもない。悪い、少し・・・ボーッとしてた・・・」
劣情を抱いたことへの後ろめたさに目が宙を泳ぐ
面と向かっていたら、その不審な挙動を怪しまれていただろう
「・・・えっと、何するんだっけ・・・背中・・・そう、背中洗うんだったよな」
一瞬頭から抜け落ちていたことを慌てて思い出す
「あはは、ホントに大丈夫か?」
園崎が可笑しそうにクスクスと笑う
俺は止まっていた行動を再開した
タオルにボディソープをつけ、泡立てながら気を落ち着かせる
・・・さっきはヤバかった
半分、理性を失いかけてた
もう少しで園崎に取り返しのつかないことをするとこだった
無理矢理、コトに及んだとして・・・
最初は嫌がっていたものの、段々と性の快感に目覚めていった彼女は最後にはメロメロになって主人公の虜に・・・
なんて展開はエロマンガの中だけのファンタジーだ
現実には起こりえない
例え一時の快楽を得られても、そのあと全てを失うことになっては元も子もない
・・・・・・・・・・・
よし、こんなもんか
俺は十分に泡立てたタオルを園崎の背中へと当てた
「ひゃんっ・・・」
妙に艶のある声にぞくりとする
「きゅ、急に触れてきたらびっくりするだろ?」
「わ、悪い」
園崎が恨めしそうに俺を責める
「もう・・・始める前にちゃんと言って」
「わかった・・・じゃあ、始めるぞ」
「ん。・・・優しくして・・・痛くしないでね?」
「ふふぇ!?」
「タオル、強く擦ったら痛いから・・・手加減してよね」
「あ、ああ・・・そ、そういう意味か。わかった・・・気を、つける」
ばくばく鳴る心臓を抑え改めてタオルを園崎の背に当てた
白く滑らかな肌
洗う必要なんか無いんじゃないかと思えるほどだ
俺は洗うというよりはマッサージするような気持ちで園崎の背にタオルを滑らせた
「・・・ん・・・は・・・けーご・・・じょうず・・・」
「そ、そか?」
吐息混じりに園崎が感想を述べてくる
「強さはこのくらいで大丈夫か?」
「・・・ん。ちょうどいい。ふふ・・・気持ちいい・・・」
俺の言葉に園崎が満足げな声で応えを返す
俺は性欲が沸き起こらぬよう、無心でその背中にタオルを滑らした
こしゅこしゅこしゅ・・・
とはいえ園崎の小さな背中など洗うのに、そんなに時間はかからない
程なくタオルは腰付近まで下降しきった
これより下は聖域・・・
容易く触れてはならぬ場所だ
俺は名残惜しさに鞭打ち、作業を切り上げた
「園崎、終わったぞ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
なんだ、今の間は?
「えっと・・・だから・・・背中、洗い終わったぞ」
念のためもう一回そう言った
「あ、うん・・・そだよね。背中だけ、だもんね・・・・・・・・・・ちぇっ」
ん?なんか微妙に不満そうな反応だけど、期待してたものとなにか違ってたのか?
まあ、わりと短時間で終わってしまったからな
「むー・・・。・・・もうちょっとスキンシップしてきてくれても・・・いーのに・・・・・・・あ、そうだ。けーご。せっかくだから頭洗ってやるよ。頭」
なにやらぶつぶつと不満げな呟きを漏らしていた園崎だったが、突然思い立ったようにそんな事を言い出した
「え?頭って・・・髪の毛か?」
「そうだ。ほらほら、わかったら早く後ろを向け」
相変わらずの無軌道さに呆れるばかりだが、背中に泡を残したままそう急き立ててくる園崎の勢いに負け、俺はまた身体を反対へと向ける
直後、頭から桶のお湯をぶっかけられた
「うわぶっ!?・・・ちょ、お湯かけるなら前もってそう言えよ。少し口に入ったぞ」
「くはは。すまん、逸る心が抑えられなくてな」
俺の非難にも悪びれることなく笑う園崎
・・・ったく。でもお陰で少し収まってきたな
視線を真下に動かしソレの様子を探ると、徐々に膨張率が下がりつつあった
「じゃ、洗うぞー」
園崎がシャンプーをつけた手を俺の頭にのせ、動かし始めた
段々と髪の毛が泡立っていく
誰かに髪の毛を洗って貰うなんて床屋以外には無いから、なんかヘンな気分だ
「・・・け、けーご」
「ん?なんだ?」
「泡が目に入ったら大変だ。ちゃ、ちゃんと目を閉じていろよ」
「お、おお・・・?」
なんか妙に上擦った声でそんな心配をされた
言われなくても閉じてるが・・・
「ちょっとでも泡入ったら超しみるからな。ぎゅっと閉じて絶対開けるなよ」
「わかってるよ」
心配し過ぎだろ
園崎ってたまに大袈裟になるよな
「・・・」
ん?いつの間にか園崎の手が止まってる?
「!・・・ふわぁ・・・お、おっき・・・わ、わ、わ・・・しゅごい・・・」
なんかへんな呟きも聞こえくるし・・・ってか顔のすぐ脇から聞こえてくるような気がするんだが・・・
「えーと、・・・園崎?」
「ふわっ!?・・・なにもしてないなにもしてない別にナニも覗いてなんか・・・」
俺が声をかけると園崎は慌てた様子で意味不明な言い訳を始める
だが、俺はそんなことなど気にしてられない状況になっていた
「そ、園崎。この泡なんとかしてくれ。そろそろ口の方まで垂れてきそうだ」
「え?・・・わわわ、ゴメン。す、すぐ流すね」
髪から流れ落ちてきたシャンプーの泡が、俺の顔の半分くらいまでを覆い隠しつつあった
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ふう、やれやれ・・・なんとか切り抜けられた・・・」
俺は脱衣所の中、ガシガシと髪をバスタオルで拭きながらひとり安堵のため息を漏らす
園崎はまだ風呂場の中
身体の他の部分や髪を洗うため残っている
俺は『湯あたりしそうだから』と言って一足先に風呂をあがった
せっかくの園崎との混浴だったというのに、状況がリスキー過ぎて全然美味しいとか思える余裕がなかった
・・・って、なぜ今ここでキサマが出てくる?
俺はいつの間にか姿を現した、目の前の空間にフワフワと浮いているソイツを睨め付けた
悪魔俺・・・
俺の中に住まう邪なる心の具現化した姿がそこにあった
・・・今頃出てきても遅いぞ。俺はもう風呂からあがった。残念だったな
しかし・・・俺の言葉にも悪魔俺は全く動じることなく下卑た笑いを浮かべていた
------ククク・・・俺達もな、無駄にリスクを背負い込むような真似はしねえよ
------ええ、秘めたる欲望は密やかに満たすのが我らの流儀
やたらとニヒルな笑いを浮かべた堕天使俺
・・・・・どういう・・・意味だ?
俺は奴らの不敵さに不安を覚える
------俺達の目的は・・・それだよ
そう言った悪魔俺の視線の先
そこにあったのは・・・二つ並んだ籐製の脱衣籠
片方は俺の、そしてもう片方は・・・
・・・!?・・・お前ら、まさか・・・!
------その通り!俺達はその中身に用がある。その中に埋まっているお宝にな
上に見えるのは綺麗に畳まれた緋色の羽織・・・その下は浴衣だろう
そしてさらにその下には・・・下着があるのは間違いない
------おっと、ただの下着じゃねえぜ。ついさっきまで園崎が着けていた《使用済み》の下着だ
そう言って品の無い笑いを浮かべる悪魔俺
------着替え用のと2枚あるはずだヨ。どっちが《使用済み》かクンカクンカして当ててみよう
相変わらず堕天使俺の変態性は高いようだ
自らの内に住まう敵との・・・静かなる戦いが始まった
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「・・・それにしてもさっきは驚いたぞ経吾。具合はどうだ」
「ああ・・・、すまん。心配をかけたな。もう大丈夫だ」
園崎からの気遣いの言葉に俺はにっこりと微笑みを返す
俺が今こうして園崎の顔をまっすぐに見ることが出来ているのも間違いを犯さずに済んだからだ
だが・・・危ないところだった
あと少しで奴らの誘惑に負けるところだった
------クク・・・さっき風呂場の中でお前がしでかしそうになってたこと・・・それに比べりゃなんてことない、実にささやかな行為じゃねえか。園崎本人には指一本触れる訳じゃねえんだからよ
そんなもっともらしい甘い理屈を耳元で囁かれ・・・俺は自らの腕を脱衣籠へと半ば伸ばしかけていた
園崎が風呂場からの扉を開け、出てくるのがあと数十秒遅かったら・・・俺は奴らの誘いに乗ってしまっていただろう
誘惑に抗おうと膝を突きプルプルと身を震わせていた俺の不審な姿は、幸いにも園崎には湯あたりして具合が悪くなっていたように見えたらしい
「よかった。食欲もちゃんとあるな?」
「おう、こんなご馳走を目の前にしたらテンション上がって湯あたりなんか忘れちまうぜ」
俺達は今現在すでに部屋へと戻って来ており・・・向かい合って座るその座卓の上には数々の料理が並んでいた
その豪華さは日曜の昼間に放送している情報バラエティ番組の旅先紹介コーナーを見ているようだ
「でもこれってかなり高いんじゃないのか?それにここの宿泊代だって・・・」
俺はここにきて、ずっと疑問に思っていたもののタイミングを逃して聞けないでいたことを口に出した
「はは、そのことか。・・・実はこの旅館はやよいさんの実家なんだ。だから相場よりかなり格安にしてもらってる」
「そうだったのか・・・。俺、ちゃんと半額分出すから、総額がわかったら言ってくれよ?」
「・・・いいよ。僕が勝手に進めたことなんだから」
俺の言葉を聞いてバツの悪そうな顔をする園崎
「・・・これは『部活』なんだろ?だったら部員である俺もそうしなきゃフェアじゃないだろ?・・・でも、こういう時は事前に相談して貰いたかったな」
「やー、そしたら反対されるかもって思って」
園崎が苦笑いでそう返す
・・・まあ、男女二人で泊まりなんて事前に聞いていたら常識的に判断して反対すべきだろう
「けーごはやさしーからな。連れてきちゃえばこっちのもんだと思って」
「・・・あのな」
園崎がとびきり愛らしい笑顔で暴論を吐いた
そういえば最初にウチに来られたときもその優しさにつけこませて貰う、なんてこと言ってたような気がするな・・・
悪女か!?
「色々言いたいことはあるが、まあいい・・・今はこっちの方が大事だ。早く食べようぜ」
普段、家庭では見ないような料理の数々に心奪われていた俺は、細かいことなどこの際どうでも良くなっていた
「待て、けーご。せっかくの料理だ。普通に食べたんじゃ面白くあるまい。これを使って余興をしようじゃないか」
逸る俺を遮り、園崎がニンマリしながらそんな事を言い出した
「いやいやいや、ちょっと待て。せっかくの料理だからこそ変なことしないで普通に食おうぜ!?」
何するつもりか知らんが食べ物を遊びに使うなんて、バチがあたるぞ
ましてやこれ程のご馳走だ・・・何を言われたとしても俺は全力で拒否させてもらう
半額出すと言った以上、俺にはその権利があるはずだ
俺はそう決意して園崎の眼差しと真っ向から対峙した
「くくく、その余興とはズバリ・・・」
勿体ぶり一度目を閉じる園崎
そして、カッと見開くと
「二人羽織だ!」
と叫んだ
「・・・ににん・・・ばおり・・・?」
園崎の言葉を反芻する俺
と同時に脳のデータベースからその情報を引っ張り出す
確か、『二人羽織』って一人がもう一人の羽織の中に後ろから潜り込んで目隠し状態になった形で料理を食べさせるっていうヤツだよな
・・・羽織の中に潜り込む?
俺の脳内にその情景が浮かび上がる
・・・。
・・・。
園崎の・・・羽織の中に・・・後ろから・・・潜り込・・・
「・・・しょ、しょうがないな。少しだけだぞ」
俺は早々に自分の決意を翻した
人間、時には柔軟な思考も必要なのだ
(つづく)
(あとがき)
皆様こんにちは。お久しぶりでございます。
大幅な遅延、申し訳ありません。
理由は・・・まあ申さずともお察しでしょう。
リアルの夏休み中には夏休み編を終わらせるつもりだったんですが・・・もう秋ですね・・・
もうちょい続きます・・・次回は・・・えーと・・・




