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プロミステイク ~俺と彼女の中二病的恋愛遊戯~  作者: 阿津沼一成
第2章 サマータイム・ラプソディ
69/90

第69話 ウタゲノアト

「うー、まだ頭がぼーっとする」


バイト先のコンビニ


そのカウンター内で、俺は少し重く感じる頭を軽く左右に振った


昨日、早朝から叩き起こされた俺は姉さんとその友人達に、有無を言う暇無く拉致と表現していい勢いでクルマへと押し込まれた


そして着いた先は同人誌即売イベントの会場


そこで俺は灼熱のような暑さの中、馬車馬の如くこき使われたのだった


いま思えばブッ倒れなかったのが不思議なくらいの過酷な状況だった


そうならなかったのは・・・同じ会場に園崎が来ている事を知って、『もしかして会えるかも』なんて淡い期待で精神が高揚していたからだろう


だから会えずじまいのまま会場を後にする時は気力も枯れ果てる寸前だった


しかし・・・奇跡的にも、


いや、それは奇跡とかじゃなく園崎の努力による結果だったのだが・・・


最後の最後で、会うことが出来た


しかし・・・喜びも束の間


その後なし崩し的に、園崎を巻き込んだ形で姉さん達の打ち上げ飲み会へと引っ張り込まれた


あの連中から見て、俺達はさぞ酒の席においてイジり甲斐のあるオモチャに映ったことだろう


突き抜けた個性が服着て歩いてるような連中がアルコールによりさらにタチが悪くなった状況に、俺はただ成す術もなく翻弄され続けた


その暴虐の宴は夜遅くまで続き、寝てしまった園崎を家まで送り届けた俺が自宅に帰り着いたのは日付も変わって数時間たった頃だった


部屋に入った瞬間、訪れた体力の限界に、ベッドまで辿り着けぬまま床に崩れ落ちた俺は気を失うように眠りに落ちた


しかし十分な体力の回復に至らぬまま、悲しくも身に刻まれた体内時計のサイクルは定刻通りに俺の意識を覚醒させる


熱いシャワーで気を引き締め、気力を振り絞り、身を引きずるようにしてバイトにやって来た俺はこうやってボロボロの体に鞭打って仕事をこなしていた


『偉いなあ、弟クン。歳は若くても、もう立派な一人前の社畜だね』


・・・あ、なんかマリナさんの声が聞こえた気がした


「大丈夫か?けーちゃん・・・。目の下にクマ出来てるぜ。ちゃんと寝てねえのか?」


事務所から出て来たオーナーがそう言って俺の肩をポンと叩いた


さほど強い力でもなかったのだが・・・俺は不覚にも軽くよろめいてしまった


「おいおい、フラフラじゃねえか。ホントに大丈・・・。あ、なーるほど」


オーナーは俺の様子に目を丸くするが・・・何故か急に合点がいったようにニンマリとした顔になった


「例の可愛いカノジョのせいか?あの子がなかなか寝かせてくれねえって訳だな?・・・・ほうほう、なるほどなるほど・・・」


俺の顔を横の方から眺めるような格好でそんな事を言い出した


「けーちゃんのカノジョ、大人しいコなんだと思ってたんだが・・・意外に情熱的なんだな。ベッドの上じゃ積極的になるタイプか?」


「・・・は?なに言ってんですかオーナー・・・」


いくら店内に客がいないからって、なにいきなりスケベオヤジトーク始めてんだこのオッサン


「とぼけるなって。いや、羨ましいなぁけーちゃん。男にとっちゃ『昼は淑女のように、夜は娼婦のように』ってのが理想の女っていうが・・・その上あんなとびきりの別嬪さんとくりゃ、そりゃあけーちゃんじゃなくても涸れるまで頑張っちまうか」


「だ、だから何度も言うようにあの娘とはそんな・・・」


園崎とどころか、そもそも童貞の俺は誰ともそんな事になんかなったことねえっての


「だがなあ、それで仕事を疎かにしちゃあいかんぞ。男はな、女と仕事、両方とも全力出してこそ一人前だ」


「・・・はあ、わかりました・・・」


俺の言葉など完全スルーで男性訓を語り出したオーナーを前に、俺はただ諦めの溜息を漏らすしかなかった


◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  


「あー・・・、やっと終わった・・・もう・・・限界だ・・・」


なんとかやっとのことでバイトを終わらせた俺はフラフラとした足取りで家路についていた


「うぅ・・・あづい・・・砂漠とかで行き倒れる人の気分を体感してるみたいだ」


家への道のりがやけに長く感じる

だが、あと数分の距離だ


焼けたアスファルトから立ちのぼる熱で周囲が陽炎のように揺らめいている


「本気で蜃気楼とか見えそうだ・・・って、マジか!?」


ホントに見えてきた!


ユラユラと儚げに揺れ動く美しい少女の幻像・・・

いや・・・女神か?


「あ、けーご。お帰り」


幻像の女神が愛らしく微笑み俺の名を呼んだ


・・・。


・・・・・・って園崎じゃねえか!


俺の脳内で爆発的なアドレナリン分泌が起こり、一瞬で意識がハッキリとする


「お、おう・・・。おはよう、園崎」


俺は平静を装った声で挨拶を返す


今日の園崎は清楚な趣のある膝下丈のワンピース姿だった


昨日は人の多いイベントだった為か活動的でボーイッシュなジーンズ姿だったから、なおさら『オンナノコ度』が強調されてかわいく見える


「こ、ここで待ってたのか?暑かったろ?ウチに上がって待ってれば良かったのに・・・あ、母さん居なかったのか?」


園崎は日傘をさしてはいたがその肌はうっすらと汗ばんでいた


「えっと・・・、そうしようかなあとは思ったんだけど・・・もし、けーごのお姉さんいたら・・・とか思って・・・」


俺の言葉に園崎はそう言って口ごもる


ああ、そうか。姉さんの事警戒して・・・


「そ、そうか・・・。昨日はゴメンな。姉さんがしつこくて・・・」


俺はそう謝り軽く頭を下げた


「・・・えっと・・・その事なんだけど・・・その・・あのな・・・」


「うん?」


園崎は何故かそわそわと視線をさ迷わせながら歯切れの悪い言葉を漏らす


「じ、実は・・・・・途中から全然覚えてないんだ!」


園崎は意を決したように俺を真っすぐに見るとそう叫ぶように言った


「お、お前と『義兄弟の契り』を交わした辺りまでは覚えてるんだが・・・」


「そう・・・なのか?」


ああそうか・・・、あの時口にしたのはアルコールだった


極少量とはいえ、俺はもちろん園崎も飲むのは初めてだったろうから・・・酔ってた時の記憶が完全に飛んでしまってるんだろう


「ん?・・・・どした?」


僅かの思案のあと、斜め上に向けていた視線を再び園崎に戻すと・・・俺を見詰めてくるその目が・・・愕然としたように、見開いていた


固まったように体の動きまで止まって・・・急にどうしたんだ?





「・・・ねえ・・・経吾・・・・・・・・・・・・・・・・・それ何?」






背筋が凍りそうな冷たい声で、そう聞いてきた


「え?・・・『それ』って・・・・・・何?」


突然の意味が解らない問い掛けに、俺は思わず身を固くして問い返す


「とぼけないでよ!これよ、これ!!・・・い、一体誰につけられたのよッ!?」


園崎は俺の左側の首筋に人差し指を突き立てると、そこをグリグリと抉るようにしながらヒステリックに喚きだした


「そ、園崎。痛えって!なんなんだよ?一体!」


「シラを切るつもり!?こんなにくっきり跡が残ってるのにッ!」


園崎は肩にしていたトートバッグから折りたたみ式のミラーを出すとそれを突き付けてきた


そこに写る俺の首筋には・・・1センチくらいの大きさの赤いアザみたいな跡がついていた


・・・なんだ、これ?


「こ、こ、こ、これって・・・・・キキキキキキキキキキキスマークでしょ!?誰ッ!?いったい誰につけられたのよお!?」


キスマークぅ!?




・・・・・・・・・・・・あ!?




「・・・・思い出した・・・・・これは・・・・・ぐうっ!?」


園崎の細くしなやかな指が・・・・俺の首に巻き付いていた


「だれ?・・・だれなの?・・・・あいて?・・・きのうのおんなどものうちの、だれか?・・・まさか・・・・・・経吾のおねえさん、なんてこと・・・ないよね?・・・・おこんないから・・・・しょうじきに、ゆって・・・・」


光彩の無くなった虚ろな目の園崎が、そんなセリフとともに俺の首をじわじわと締め付けてくる


いや、十分に怒ってんだろ


「ぐ・・・苦し・・・・これを・・・つけたのは・・・・ま…えだ・・・・」


俺は締め上げられた喉から必死に言葉を搾り出す


「まえだ・・・前田!?・・・前田って名前のオンナなの?・・・昨日のオンナ共にそんな名前のヤツはいなかったはず・・・アタシの知らない仲のいいオンナがまだいるってこと?」


ぐっ!?


指の力がさらに強く!?


ヤバい!


「これ・・・本気で・・・死・・・・・」


視界が・・・黒く染まっていく・・・・・


これは・・・・死への・・・・ブラックアウト・・・・・




(おわり)


プロミステイク・完



・・・・・。


・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。。


・・・・・・って死ねるかああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


なにが(おわり) プロミステイク・完。だっつーの!!!!!!!!!!!


『ヒロインによる絞殺エンド』とかどこの鬱ゲーエンディングだよ!?


3ケ月以上待たされた上にこんな最終話見せられたら、俺が読者だったら作者を絞殺するわ!!


「だ、か、らッ!!」


俺は謎の怒りと共に渾身の力を振り絞り、首にかかった園崎の両手の手首を掴んだ



「これをつけたのは・・・・・『お前だ』って言ってんだろがッ!!!!!」



そう叫びながら・・・・首の拘束を力ずくで外した


「え?・・・・・・お前…って・・・・・・・・・あたしぃ!?」


俺の叫びに園崎はキョトンとした顔のあと・・・・・・・瞬時に耳まで朱に染めた


闇の空洞みたいだった両目に光が戻る


「あたしが!?けーごに!?そそそそそそそそんなこと!?」


「そうだよ!これつけたのは園崎!覚えてないのか?」


打って変わって真っ赤な顔で狼狽え出す園崎に、俺は畳み掛けるように言って聞かせる


・・・・まあ俺もたった今まで忘れてたんだけどな


てか、こんな跡が残ってるなんて今の今まで気付いてなかった


そうか・・・さっきのオーナー、これを見てあんなこと言ってきたんだな


「お、覚えて・・・ない。嘘、やだ・・・あたしったら・・・けーごに?・・・そんな、こと・・・・・ええっ?」


園崎は急に口元を緩ませると、体をくねくねとくねらせ始めた


・・・はあ。何はともあれ・・・死の危険は去ったようだな


俺は別人のようになった園崎を前にホッと胸を撫で下ろした


◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆


「ぎゃああああああああああああああ!!!!!」


居酒屋の店内に園崎の悲鳴が上がる


周りの客がちらりとこちらに目を向けるが・・・こういった酒場ではさして珍しくもない光景に誰もそれ以上の関心は見せなかった


俺の目の前で・・・園崎の頬っぺたに姉さんの唇が貼り付いている


そんな状況を、俺は複雑な心境で眺めていた


「うえへへへへへ、美少女肉人形ちゃんの頬っぺモッチモチだねえ」


「ひいい!?や、やめえ!」


園崎は藻掻くように抵抗するが、なにか拘束するコツでもあるのか一向に姉さんの腕から逃れることが出来ずにいる


「くひょっ、美少女肉人形ちゃんはなりたてでまだ知らないようだけど姉には『妹に好きなだけちゅっちゅしていい権利』があるのよ」


「うそだあああああああああああああああ!!!!!!!」


はあ・・・


これは俺にとっては割と見慣れた光景だった


姉さん達は女子校だったせいか、このテの女同士のスキンシップが結構過激だ


特に姉さんは酔うとキス魔と化し、そこら中の連中にキスを始める(ただし女子限定。俺もされたことはない)


とりあえずこの辺までは姉さん達にとっては『おふざけ』の範疇ではあるが、慣れてない園崎にとってはかなりのストレスだろう


「ね、姉さん。その位でやめてあげてくれよ」


「そうやで、みぃね。あんまり一般人をイジるもんやない。ちょっと可哀相やで」


俺が姉さんにそう訴えると、それに続いてコデラさんがそう言って窘めてくれた


このコデラさんて人はこのグループの中では比較的常識人で、暴走しがちなメンバーのブレーキ役に回ることが多い


「ほら、そのコ怯えとるやないか」


コデラさんがそう諭すと姉さんは渋々と園崎の体を解放した


「ちぇ~、もうちょっとペロペロしたかったのに・・・・」


「け、けーごっ!」


姉さんの腕から逃れた園崎が俺に飛びついてきた


首に両腕を巻き付けた形で、しがみつくように体を押し付けてきて焦る


艶やかな唇の隙間から漏れる吐息は僅かにアルコールの匂いがして・・・・熱を持っていた


「ほ、ほら、もう大丈夫、だから」


焦りながらそう園崎を宥めるが・・・・・その視線に違和感を覚える


「・・・園崎?」


園崎は・・・口元を緩ませ、俺の首筋辺りをジッと見ていた


「ねえ・・・・お兄ちゃん・・・・」


うおっ!?また『妹』設定が入ってるぞ


「お兄ちゃんは妹が出来るの初めてだから知らないと思うけど・・・妹には『兄に好きなだけちゅっちゅしていい権利』があってね」


なんか誰かと同じようなこと言い出したぞ!?


「ちょ、園崎!?お前なに言って・・・・・・・うは」


園崎の唇が・・・・・俺の首筋へと貼り付いていた


「う・・・・わ・・・」


首筋に感じる園崎の柔らかな唇の感触・・・


触れた部位の肌表面にある神経がその甘美な触感を電気信号として脳に伝えてくるが・・・その複雑な情報量が処理しきれず脳が・・・焼けつきそうだ・・・・


「く・・・!?」


張り付いた唇の中心から・・・くすぐるような、えもいわれぬ快感が伝わってきた


園崎が唇を張り付かせたまま・・・舌先でくすぐってきた事を理解し・・・興奮が一気に高まる


「園・・・さ・・・?・・・っ?・・いでででででででで!!!!!」


快感が瞬時に痛みに変わった


舌先のゆっくりとしたチロチロした動きから、思い切り肌を吸引する痛みを伴う行為へと切り替わり、俺は思わず悲鳴をあげた



ちゅぼっ



ひとしきり俺の首筋を吸ったあと、大きな音と共に唇を放した園崎は・・・


紅潮した妖艶ともいえる微笑を浮かべていて・・・


その表情と共に首筋に残ったジンジンと疼く痛みが、俺の中にまた一層深く彼女の存在を刻むのを感じていた


◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆


「と、まあそんな感じで・・・園崎がやったんだ。お前は忘れてるのかもしれないが・・・これが全ての経緯だ」


俺は自分の首筋についた『アザ』について、それをつけといて忘れてる本人に語って聞かせた


俺の主観は伏せ、客観的事実のみを淡々と


ちなみに現在の場所はさきほどの路上から俺の部屋へと移動している


家の様子を伺うと姉さんはいないようで、それを告げると園崎は恐る恐るウチのドアをくぐった


・・・なんかすっかり怯えてるな


「げ、玄関に靴があると、帰ってきた時ボクがいるのバレるだろ?だから・・・・」


なんて言って園崎は靴を手に上がってきて・・・


それがいま俺の机の上・・・汚れないようにと敷いたチラシの上に鎮座していた



・・・なんか凄えフェチっぽい絵面だな



視線を戻すと俺の説明を聞き終えた園崎が、顔を両手で覆ってプルプルと震えていた


髪の間から覗く耳たぶが真っ赤だ


まあ、酔っていたとはいえ、あとから自分の醜態を聞かされたら大概の人間はこうなるか・・・


「あ、あたしが?・・・ホ、ホント・・・・に?」


「すぐバレるような嘘つくわけないだろ。・・・あの場にいた全員が見てるから。なんなら一人ずつ確認してみるか?」


俺がそう言うと園崎は脚の力が抜けたように、がっくりと床に膝を突いた


「そん・・・な・・・あたし・・・経吾にそんなことして・・・覚えてないなんて・・・・・・・・・・・・・も・・・もった…な・・・・」


そして手の平もつき四つん這いの格好でなにやらブツブツと呟き始めた


「えーと・・・、まあそんな気にするなよ。俺も・・・き、気にしないからさ。・・・まあ、人に見られたら変な誤解されるかもしれないけど・・・バンソーコーでも貼っとけばそんな心配はないし」


俯いたままの園崎に、俺はそう言ってなだめた


「く・・・くく・・・・・」


「・・・・園崎?」


何故か顔を伏せたままの園崎が微かな含み笑いを漏らし始めた


ど、どうしたんだ?


そんな園崎の様子を困惑しつつ見守っていると


「・・・・古来より酒は神事を行う際に重要な役割を果たしていた」


ん?・・・なんか語り出したぞ


「飲酒による酩酊状態が肉体から精神を解放し、神と呼ばれる存在との交信が可能になれると考えられていた訳だ・・・」


顔を伏せたままゆらりと立ち上がる園崎


「くくく・・・どうやらこの僕もアルコールを摂取したことにより封じられていたはずの呪われし前世の因子が甦ってしまったようだな・・・」


「・・・・なに?」


のろわれしぜんせのいんし?


「我等の幾つかある前世・・・・その中でも特に邪悪な存在であった時の記憶だ・・・・」


「はあ・・・」


我等って・・・俺も含まれてるんだ


「『神』・・・この『セカイ』の『管理』を行っている『上位存在』・・・・その『神』がこの『セカイ』に『禍い』をもたらすことを懸念して封じた『邪悪な前世因子』・・・その中の一つ・・・・『ヴァンプ』の記憶がな」


どうでもいいがカギ括弧の多いセリフだな・・・


いや、もちろん喋ってる言葉が見える訳じゃないんだが、そんな気がする


「ヴァンプ?・・・・ああそうか、ヴァンパイア・・・『吸血鬼』のことか」


なるほど、わかったぞ


吸血鬼といえば首筋への噛み付き・・・


俺の首に吸い付いたのは、吸血鬼だった時の記憶が甦ったからだ・・・って言いたい訳か


園崎、今回はそういう設定で自分の羞恥心と折り合いをつけるつもりなんだな


「くくっ・・・『神』め、小賢しいな・・・・この『セカイ』では『最上位の存在』かもしれんが・・・・本来ならば、我等よりも遥かに下位の存在だというのにな・・・」


・・・・本来は神以上なんだ・・・・すげえな俺ら・・・


無駄に壮大だな・・・・まあ、いいけど


「それから・・・・そのあとカラオケ屋に行ったのは覚えてるか?」


「カラオケぇ!!??」


続いた俺の質問に園崎は吸血鬼のクール設定も忘れ素っ頓狂な声を上げた


「もしかして・・・・・う、う、う、歌ったの?あたし・・・」


「あ、ああ・・・、俺にはタイトルわかんなかったけど・・・なんかアニソンみたいなのとか・・・」


ふしゅ~・・・・・ぱたむ


俺の説明に園崎は頭のてっぺんから湯気を立ち上らせると・・・・その場にぺたんと座り込み、そのまま後ろ向きにゆっくりと倒れてしまった


「いや、でも、ほら・・・園崎の歌、初めて聞いたけどなかなか上手かったぜ」


俺はそう言葉を続けるが・・・彼女にとってフォローになってるのかいないのか・・・園崎はぴたりと動きを止めてしまった


これは・・・俺もしばらく黙ってた方が良さそうだな


復活するまでそっとしとこう


だけどさっき言った俺のセリフ、全くのお世辞って訳でもない


園崎の歌は意外にも結構・・・いや、かなり上手かった


最初は警戒していた園崎だったが好きなアニメやマンガの話題で盛り上がり始めた姉さん達と次第に打ち解けていった


お互い『同好の士』って部類であるのと、アルコールの作用もあったのだろう


誘われるままに居酒屋からカラオケ屋へと場所を移すことになった


姉さん達に促されマイクを握った園崎は、まるで何かが乗り移ったように・・・声優もかくやといったキャピキャピした声でなんかのアニメのキャラソンてのを歌い出した


『あなただけが好きなのに』


とか


『早く気付いてわたしの気持ち』


とか


『今すぐわたしを奪ってほしい』


とかって甘酸っぱい歌詞を・・・


俺の目をじっと見つめたまま、やたらと熱のこもった潤んだ瞳で歌ってきて・・・


まるで自分がほんとに言われてるような気分になってきて俺の鼓動は激しく脈打ち・・・体の芯が熱くなった


うっ・・・思い出したら背中がゾクゾクしてきたぞ


それから・・・


確かその後・・・意外なことに演歌なんかも歌ってたんだよな、園崎


曲目は俺でも知ってるメジャー曲『天城越え』


今度は打って変わって搾り出すような低音のこぶしのきいた声で・・・


『誰かに取られるくらいなら・・・あなたを殺して・・・いいですか?』


なんて歌詞を、感情を失ったような虹彩の消えた虚ろな瞳で俺の目をジッと見詰めたまま歌ってきて・・・


まるで自分がほんとに言われてるような気分になってきて俺の鼓動は激しく震え・・・体が凍えたように芯から冷えた


うっ・・・思い出したら背中がゾクゾクしてきたぞ


「く・・・ふ・・・・なるほど・・・もうひとつ・・・同時に『セイレーン』だったときの記憶も甦ってしまったらしい・・・ふぅ、そこが海でなくて幸いだったな」


お、復活した


なにかまた別の言い訳前世設定を考えついたみたいだな


えーと、セイレーン?


確か『歌声』で船を沈める女の怪物・・・だったっけ?


・・・持ち歌がアニソンと演歌のセイレーンか・・・シュールだな


「まあ・・・そういうワケで奇しくも封じられていた前世の記憶による影響でそのような行動を取ってしまったようだ」


そう言うと園崎はまだ僅かに赤い頬でフッとニヒルに笑った


やれやれ・・・まあ、いつもの事だし合わせてやるか


「こふん。・・・・で、それだけか?僕が昨日行った主な行動は」


園崎の問いに俺は所々抜け落ちた昨日の記憶を思い起こす


「んー、まあ大体そんなとこ・・・・・あ!」


「なんだ!?他にも何かやらかした事、あるのか!?」


俺の何か思い当たったような呟きに、園崎が目を剥いて身を乗り出してくる


「あー、いや・・・、うん。他には、特に、無かったかな。・・・そのあと園崎、カラオケ屋で眠ちゃったから、タクシー呼んで・・・、園崎のこと家まで送ったんだ」


俺は慌ててそう説明した


「そ、そうか・・・、て、手間をかけたな」


「いや・・・、俺の方こそゴメンな。姉さんや他の連中が・・・。あいつらホントタチ悪くてさ。あ、そういえば昼メシ・・・どうする?」


「え?・・・・・ああ、そうか。そうだな・・・」


俺が振った昼食についての話題に、園崎が指を顎に当て思案を始める


俺はそんな園崎を横目で見ながら、はっきりと思い出してしまった昨日のある状況の事を考えていた


◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆


「あらあら~、美少女肉人形ちゃんたら眠っちゃったみたいねえ」


姉さんの言葉にそちらへと目を向けると、園崎がマイクを握ったまますぅすぅと寝息を立てていた


「あー、アカネさん。俺達まだ学生なんで・・・このあたりで失礼させて貰いたいんですけど」


俺はこれ幸いとそう切り出した


「んー、そうか?・・・・ふむ、まあガキはもう寝る時間かもな」


アカネさんは腕時計で時間を確認するとそう言った


「それじゃ・・・みーね、表でタクシー拾ってくれないか」


「んー、わかった~」


アカネさんの指示で姉さんがドアを開けて出て行った


「ほら、園崎。そろそろ帰るぞ。起きてくれ」


俺は園崎の耳元でそう告げるが・・・


「ふ・・・ん・・・」


甘い吐息を漏らして頭の角度を変えるだけであった


やれやれ・・・こりゃタクシーまでおんぶでもしてくしかないかな


俺はそう思って溜息をつくが・・・そこで全員の視線が俺達に注がれてるのに気付いた


「なあ・・・義川弟」


「なんすか?アカネさん」


「もう一回確認なんだが・・・お前、まだ童貞なんだったよな?」


「うぐっ・・・なんですか?またその話、蒸し返すんですか!?いい加減しつこいですよ!」


俺がそう吠えると全員がやれやれといった風に肩をすくめ目を閉じ・・・

はあ~と深いため息をつきながら首を振った


ぐ・・・・、無駄に動き合っててスゲームカつく・・・


そしてさらに、


「このヘタレが・・・」


「ヘタレね・・・」


「ホンマ、ヘタレやな・・・」


「・・・ヘタレ小僧」


異口同音にそう言った


「な、な、な!?なんだよ!なんだよ!!お前ら、そんなしみじみと!!!」


「お前さあ・・・、こんなあからさまに好意を向けてくるオンナがいて・・・それもかなり可愛いルックスで・・・・なんで手ぇ出さないんだ?こんな恵まれた状況で童貞のままって・・・?ヘタレ過ぎだろ」


「いや、だから、それは・・・」


アカネさんの言葉に俺は思わず口ごもる


確かに知らない奴らから見たら俺達がかなり親しい・・・『特別な間柄』に見えるかもしれない


しかし園崎が俺に向けてる好意はあくまでも『男同士の友情』であって異性に向けるそれじゃないのだ


だから俺が下手を打つと今の関係があっさりと崩壊する危険をはらんでいる


だが俺達のそんな特殊な関係を上手く説明することはかなり面倒な事だし、第一そんな義理も無い


「と、とにかくですね。俺が、いつ、誰を相手に童貞を捨てようが俺の勝手であんたらにゃ関係無いでしょ!」


俺はヤケになって端的に吐き捨てるようにそう言った


「関係・・・・あるッ!!」


「・・・・はあっ!?」


予想もしなかった捨て台詞への返しに、俺は面食らい素っ頓狂な声を上げる


その声の出所は・・・俺のすぐ隣からだった


驚きに顔を横に向けると半目を開けて俺を睨む園崎と目が合った


「関係あるッ!!何故なら!ボクとけーごは・・・・『親友』だからだッ!!」


園崎はそう叫びながら立ち上がり、座っていたソファーの上へ仁王立ちになった


そして呆気に取られた俺の鼻先にズビシッと人差し指を突き付けてくる


「この際だ!今ハッキリと言っておくぞ!!けーごッ!!!!」


座った目をしたまま、大声で喚き続ける園崎


これは完全にタチの悪い酔っ払い状態・・・いや、寝ぼけてるのか?


「お前がッ!勝手に童貞を捨てることは!!・・・・決して許さんッ!!!!」


「は・・・・・、はぁ!?な、なんだよ、それ!?お前の許可いんのかよ!」


俺は園崎のめちゃくちゃで横暴な物言いに異議を唱えようと口を開くが・・・


「いいか!よく聞け!!けーごッ!!!!!!!!」


睥睨した園崎の勢いに言葉を遮られた



「お前が童貞を捨てる時はッ!!」



「ボクが処女を捨てる時だあッッ!!!」



・・・・・・・・。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?


え?え?え?


ど、どういう意味だ!?今のセリフ!


俺が童貞を捨てる時・・・・園崎が処女を捨てる・・・って・・・・


え?え?


仮にお互いの『その時』がタイムラグ無しの全くの同時というなら・・・


その条件を満たす状況って・・・つまり・・・


え?・・・・えええええええええええ!!!?


だが俺がその言葉の真意を問おうとする前に・・・・言うだけ言った園崎はその場にぺたんと座り込むと再び瞼を閉じて寝息を立てはじめてしまった


「ど、どういう意味なんだよ!?一体ぃぃぃ!!」


俺は置いてきぼりにされた状況に困惑の叫びを上げるしかなかった


◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆


「ん?どうした、けーご」


「え?・・・・・・いやいやいやいやなんでもないなんでもないなんでもない」


そんな強烈に意味深なセリフを思い返していた俺の顔を、その言葉を吐いた張本人が覗き込んでくる


「変な奴だな。・・・使っていい食材があればボクが何か作るぞ」


「おお・・・そうだな。冷蔵庫の中、なにかあったかな」


高鳴り出す動悸に気取られぬよう、そういってドアを開ける


言った本人が覚えてないんじゃ真意を問うことも出来ない


俺はモヤモヤとしたものを胸に抱いたまま部屋を出た


(つづく)


【あとがき】

申し訳ありませんでしたッッッ!!

前回の更新から三ヶ月以上お待たせしてしまいましたッッッ!!

読んで頂いてる方々には深くお詫び申し上げます


…例の如く動画作ってました、ハイ。


人間、ラクな方に逃げちゃうもんです

自分、高校じゃ勉強全くしてなかったから学力が中卒レベルなんですよね


少ない語彙で脳内妄想を文章化するのがかなりしんどくて…ついついサボって早三ヶ月…


もうリアルの時間は冬だってのに話の中ではまだ夏休みです


こんなダメダメな作者ですがどうか見捨てずにお付き合い頂ければ幸いです


作者がやらかした動画の数々はニ●ニコ動画でユーザー名【阿津沼】で検索すると見れると思います(R18的なのもあるので視聴の際はご注意を)


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