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プロミステイク ~俺と彼女の中二病的恋愛遊戯~  作者: 阿津沼一成
第2章 サマータイム・ラプソディ
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第65話 Summer Date act.2 engage-link

「おお・・・・おおお・・・・本物だ。本物の金魚すくいだ」


駆け寄った金魚すくいの屋台の前で、園崎は何故か感動に打ち奮えていた


一体どのあたりが園崎の琴線に触れたというのだろうか


「マンガやアニメやラノベなどのお祭りイベントにおいて必ず出てくる遊戯系屋台の代名詞・・・金魚すくい・・・初めて見た」


「え!?初めて?・・・園崎、金魚すくい、見たこと無いのか?」


それはいくらなんでも・・・


俺は園崎の言葉に多少の驚きを覚える


いや待てよ、そう言われてみれば確かに最近はスーパーボールすくいとか、なんか丸くてプヨプヨした謎物体をすくうのはあるけど、生きた金魚をすくうタイプの物は俺もしばらく見てないかもしれないな


そう考えると園崎が今まで見たことがないってのも頷ける


傍らに立つ園崎は四角い水槽(でいいのか?これ)の中を泳ぎ回る小さな赤い魚に目を輝かせている


まるで無垢な子供みたいな、その可愛らしい反応に俺の中の何かが鷲掴みにされた


「そ、園崎・・・興味があるならやってみたら、どうだ?」


心の奥底から沸き立ってくる妙な感情を宥めつつ、努めて冷静な声音でそう促した


「え?・・・うーん・・・そうだなあ・・・いや、でもなあ・・・・」


俺の奨めに園崎は、腕組みして懊悩するように眉間を僅かに寄せる

いつも即断即決な園崎にしては珍しい


「どうだい?おねェちゃん。折角だし一回くらいやってみなよ」


長考する園崎に屋台の店主 (テキヤのおやじともいう)がそう声をかけてきた


「うーん・・・やってはみたいが・・・いや、しかし・・・むう・・・400円か・・・」


どうやら園崎の長考の理由はその価格設定のようだ


「よっし。じゃあ、おねェちゃん別嬪さんだし特別だ。もし一回で取れたら、ロハでいいぜ」


「ろは?・・・・・ロハス?」


店主がそう持ち掛けてくるが園崎は言葉の意味を解りかねたようで眉をハの字に曲げた


「違う違う。園崎、『ロハ』ってのは『タダ』・・・無料って意味だよ」


疑問符を浮かべる園崎に俺はそう説明した


「タダがどうしてロハ?元は何語なんだ?」


「日本語だよ。確か昔の人の言葉遊びだったかな?ほら『只』って漢字を分解するとカタカナの『ロハ』になるだろ」


確か明治か大正のあたりで生まれた俗語だったはずだ


今で言えばネットスラングみたいなものか

今も昔も『コドモ』のやることは変わらない


「なるほど・・・、『公太郎』くんのあだ名が『ハム太郎』になるのと同じ原理か」


俺の説明に妙な理屈で納得する園崎


ちょっと違うと思うが・・・いや、同じか?


「よし・・・、だがそうまで言われては、やらん訳にはいくまい」


どうやら園崎は店主の言葉を自分に対する挑戦と受け取ったらしい


店主から金魚をすくうための道具・・・『ポイ』って言うんだっけ?持ち手のついた薄い紙の張ってある円い道具・・・それと金魚を入れるためのお椀を受け取った園崎は水槽の前へとしゃがみ込む


・・・・・・・。


しゃがんだ体勢により強調された、カタチのよいお尻の丸みに思わず目が奪われる


いかんいかん


なにガン見してんだ


不謹慎だぞ、俺


だが、これを他の男共の目に触れさせるわけにはいかんな


俺はしゃがんだ園崎の真後ろに立ってその芸術的な曲線を独せ・・・もといガードすることにした


・・・おお、これはなんとよい眺めなんだ


ありがとうございますありがとうございますありがとうございます


取り敢えず全力で感謝の意を表しておく


「ん?気が利くな経吾。端っこ持っててくれるか?」


俺を振り仰いだ園崎がそう言って浴衣の袖をつまんで笑いかけてきた


「お、おう・・・」


俺の邪な感情など少しも疑っていない眼差し


沸き起こった罪悪感が俺を苛み、思わず目を逸らした


「?・・・じゃあ背中の辺りで持っててくれ」


「わ、わかった」


指示された通り両方の浴衣の袖の端を纏めてつまむ


腕まくり状態になった園崎は両方の手をゆっくりと左右に広げた


右手にはポイ

左手にはお椀


園崎は精神統一するようにその動きを止めた


なんだ!?


周囲の空気が張り詰めていくような感覚


マンガなんかなら『ゴゴゴゴゴゴ・・・・・』みたいな効果音が聞こえてきそうな雰囲気だ


屋台の店主も異様な状況の変化に固唾を飲んでいる


周りの喧騒すら遠くになったような緊張の中


目一杯に引き絞った弓を放つかのように・・・電光石火に園崎の腕が動いた



シュバッ



それはほんの一瞬の出来事


俺の目からは、ただ園崎が身体の前で両腕を交差させただけのように見えた


しかし・・・右側に動いた左手のお椀の中には・・・一匹の金魚が・・・!?


スゲエ!


マンガかよ!?


相変わらず園崎の手先の器用さは異常過ぎる


「・・・す、すげえな園崎。早過ぎて全然見えなかったぞ」


「フ・・・、どうということはない。水面付近にノコノコと上がってきた動きの鈍い奴を狙ったからな。そいつを水面から約2センチ程度の水と共にナイフで削ぎ取るようにすくい取っただけだ・・・」


マンガみたいなスキルをこともなげに説明する園崎


相変わらず世界感を無視した出鱈目なチートさだ


「・・・お、恐れ入ったぜ、おねェちゃん・・・ここまで見事なすくい方した客は初めてだ・・・」


絶句して動きを止めていた店主がそう声を搾り出した


「くはは・・・。ところで店主、確か金魚すくいは『ポイが破れたらお終い』・・・だったな?」


「お、おお?・・・・・・な!?」


屋台店主の目が驚愕に見開く


不敵な笑みを浮かべる園崎


その右手にあるポイは・・・破れ目一つついていなかった!!


「つまりこれが破れるまで一回・・・ということでいいんだよな?」


そう言ってにんまりと笑う園崎


店主の顔色がみるみる失せていく


「ていうかこれ、水滴一つついてないじゃないか・・・どうやったんだ?」


園崎の手にしたポイはまるで未使用状態だった


「くは、水から抜いてすくった金魚をお椀に入れた直後に手首のスナップでポイについた水滴を払ったんだ。刀で人を斬った後にやる『血振り』の応用だよ。くくく・・・妄そ…・・・前世での僕は数え切れないほどの人を斬ったからな」


ああもう、どうツッコんだらいいんだか・・・


「と、いうことで・・・さあ、続けようか」


園崎が悪魔的に口の端を吊り上げて笑い、屋台の店主はその場へとへたりこんだ


こうして金魚すくいの水槽は園崎の容赦無い蹂躙を受けることとなるのだった


◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  


「あー、楽しかった。たっぷりと堪能した。タダで」


あれから数分後、十何匹目かの金魚をすくったあと、とうとう園崎のポイの張り紙は破れた


屋台店主の顔からはすっかり血の気が失せていた


さすがに少し気の毒というか・・・同情を禁じえない


「さてと・・・それじゃそろそろ行くか」


そう言うと園崎は・・・


お椀を傾け、全ての金魚を再び水槽の中へと戻した


「お、おねェちゃん?」


屋台店主が信じられないように目を見張る


「フッ・・・『キャッチアンドリリース』はフィッシングの基本だろう?・・・楽しませて貰った。礼を言う」


そう言って無駄にニヒルな笑みを浮かべ立ち上がる園崎


言葉を失う店主に踵を返すとそのまま颯爽と歩き出し、俺は慌ててその後を追うのだった


◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  


「でも、よかったのか園崎。一匹くらい貰わなくて」


「まあ、僕は『金魚すくいがしたかった』だけで、『金魚が欲しかった』わけじゃないからな」


俺の言葉にそう言って苦笑いを返す園崎


「正直、生きた金魚とか貰っても迷惑だし」


「そうなのか?・・・まあ、確かに生き物とか世話が大変そうだけど・・・でもお祭りの思い出に金魚ってのも悪くないと思うがな」


「思い出ねえ・・・あ」


俺のセリフを思案するような表情でいた園崎だったが、突然目を見張るとその歩みを止めた


「・・・けーご。『お祭りの思い出』って言うなら・・・あれ、買って」


そんな唐突な園崎のセリフに、その視線の先を追う


そこにあったのは・・・アクセサリー類を売る屋台だった


近付いて良く見ると、どれもこれも『オモチャ』といった感じの指輪やらネックレス、ブレスレットなど


値段も明らかにオモチャレベルだ


「園崎、これってみんなプラスチックとかガラス玉だぞ」


「そんなことわかってる。だからこそ『お祭りの思い出』としては相応しいだろ?」


園崎のそんなセリフには妙な説得力があり、俺は変に納得してしまった


「わかった。じゃあ一つ買ってやるよ」


「ホントか!?・・・えへへぇ、どれにしようかなあ」


俺の言葉を聞いた園崎は喜々としてそのオモチャを吟味しはじめた


無邪気なその横顔に再び俺の中の何かが鷲掴みになる


衝動的に抱きしめたくなるような狂おしい感情が爆発的に膨れ上がっていく


なんだ!?今日の俺


『祭り』という特殊な状況設定のせいか?


『浴衣姿』というレアなコスチュームのせいか?


いつも以上に園崎のことが愛おしく見える


ヤバいぞ

落ち着け俺


今日は部活だってことを忘れるな


「けーご、けーご。これがいい。これが欲しい」


そう言って園崎が見せてきた物は・・・


赤い小さなガラス玉の嵌まったシンプルなデザインの指輪だった


金属部分も銀色ではあるが勿論シルバーなどではないだろう


よく見ればチープ感があるものの、その簡素なデザインのせいで遠目に見ればそれなりに悪くない


意外とセンスいいな園崎


「よし、じゃあこれでいいんだな?」


園崎からその指輪を受け取りアクセサリー屋台の店主に見せ、告げられた金額の硬貨を手渡す


「ほら、園崎」


「ん、ありがと。けーご」


改めてそれを園崎へと差し出すと、満面の笑みが返ってきた


僅か数百円でこんなに喜んで貰えるなんて、お手軽な奴だな


「けーご・・・。もう一つお願い、いいかな?」


園崎が上目遣いでチラチラ見ながらそう言ってきた


「ん?なんだ。何か他にも欲しいのがあるのか?」


そんな高い物じゃないし、別にもうひとつくらいなら・・・


「あ、違う違う。そうじゃなくて・・・今日の思い出にけーごがボクの指に挿してくれる?」


いつかのヘアピンの時みたいな事を言ってきた


「なんだそんなことか。・・・いいぜ、そのくらい」


俺が承諾すると園崎は嬉しそうに微笑んだ


「サイズはちゃんと確かめて選んだから、大丈夫だと思う」


そう言いながら一本だけまっすぐ伸ばし、他の指を軽く曲げた形で手の平を差し出してきた


この指に挿せってことか


差し出された園崎の手の平に下から左手を軽く添える


そうしてから右手でつまんだ指輪をその指へと・・・


園崎の言った通りスムーズに入り、その指の付け根にぴったりと収まった


「ありがとう・・・・けーご・・・・・・これ・・・一生、大事にするね」


「い、一生って・・・大袈裟だな」


園崎のオーバーな表現に俺は思わず苦笑する


しかし園崎はそこに嵌まったただのガラスが、あたかも高価な宝石でもあるかのように大事そうに胸に抱いた


そうしてから再び嬉しそうに指輪を・・・


指輪のはまった左手の薬指を・・・


愛おしそうな眼差しで眺めた


ん?


あれ?


・・・えーと


その時、


ひゅるるるるるるるる・・・・・


彼方から響いてくる何かが打ち上がるような音


そして



ドーン!!



大音響


そして降り注ぐ眩しい色とりどりの光


俺は頭に浮かびかけた考えを中断して上を見上げる


そこには夜空をキャンバスにした大輪の光の花


「始まったみたいだぞ、けーご。もっと近くで見よう」


「お、おお。そうだな」


園崎は俺の左腕を抱え込むようにして歩き出す


「お、おい、引っ張るなって・・・・」


俺は半ば引きずられるような格好で園崎の後に続いた


◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆


花火大会の終了とともに今日の部活もおしまいとなった


すでに結構な時間になっていたため俺は園崎を家まで送っていくことにした


祭り会場を後にして駅前に着く頃には段々と周りの雰囲気が日常のものへと戻っていき、人目に対する気恥ずかしさから組んでいた腕もいつしか離れた


なんで祭りの後って物寂しさを覚えるんだろな?


なんとなく感傷的な気分が胸中に満ちる


園崎も同じような心情なのか、俺達は次第に口数も減っていき園崎の家がある駅に着く頃にはほとんど無言になっていた


でもそれは全然嫌な感じではなく・・・どこかゆったりとした気分で・・・


なんとなくお互い今夜の余韻に浸っているような感じだった


結局今日の部活は『二人寄り添いながら花火を見上げる』というもので、園崎の目的である魔力の増幅だか活性化だかは果たせたのか分からなかった


まあ、ただ一つ言える事は俺の中で園崎に対する想いが増幅してさらに活性化した事は確かだが・・・


まったく・・・浴衣姿とか反則だっての


今も隣を歩く園崎のうなじが視界の隅にチラチラと映り俺の心をざわめかせる


駅前を離れると段々と人通りも少なくなり、祭りの喧騒とは打って変わった静寂が周囲に満ちている


俺は園崎への名残惜しさが募ってきて次第に歩幅が短くなる


園崎の歩みも遅くなってきているのは俺と同じ気分なのか、単に俺に合わせてるだけなのか・・・


そうしているうちにも園崎の家の手前までたどり着いてしまった


あと数分後にはお別れだ


もちろんそれは当たり前の事で、これが永遠の別れでもなければ、明日にはまた会うことだって出来る状況でもあるわけなのだが・・・いつもより別れを惜しむ気持ちが強いのはやはり祭り後の感傷的な気分が多大な影響を及ぼしているんだろう


「今日は・・・ありがとう、けーご。・・・ボク、とっても、楽しかった・・・」


不意に園崎が口を開き、ぽつぽつと語り出す


「ん、ああ・・・」


俺は返事はしたもののそれ以上の言葉が思いつかず、ただ横目で園崎を見ながら歩を進める


俯きがちな園崎の表情は薄闇の中、よく読み取れない


「んーん、今日だけじゃない・・・あたし・・・けーごと会ってから・・・・毎日、すごく楽しくて・・・たまに苦しくて・・・でもすごく楽しくて・・・」


「・・・・・・。」


「ねえ、けーご・・・」


園崎が歩みを止める


俺も足を止め、園崎と向き合う体勢になった


思い詰めたような園崎の表情


まるでこれから愛の告白を受けるようなシチュエーションに心臓の鼓動が高まる


だが、それは錯覚で・・・そうじゃないことを俺はわかっている


この展開は最初に園崎と下校した帰り道での時と同じだ


だから俺は落ち着いていられた・・・


かといってこの動悸はどうにもならないが・・・


頭でわかっていても身体はそうはいかないものだ


「けーご・・・、あのね・・・あたし・・・けーごのこと・・・・」


紅潮した頬の園崎は何かを訴えるような真剣な眼差しで俺の瞳を見つめてくる


俺も真剣な気持ちでその瞳をまっすぐに見つめ返す


「あ・・・えと・・・・その・・・」


だが園崎は急に勢いを失ったように唇をむにゅむにゅさせると再び俯いてしまった


「・・・・・・・・・あたしの・・・意気地なし・・・」


「園崎?」


「あー、その・・・、こ・・・これからも・・・ボクの親友でいてくれる?・・・ずっとずっと・・・いつまでも・・・」


俯いたまま、そんな何度か聞いたセリフを口にした


親友・・・


それは『友達』というカテゴリの中では最上級クラスの存在といえる


『お前は親友だ』


誰かにそう言って貰えるなんて、この上なく誇らしいことだろう


だが俺にとってそれは、


『お前とは恋人にはなれない』


そう言われているも同じことだ・・・


「判ったよ。俺とお前は『親友』だ。ずっとずっと」


俺は無理に笑顔を作り、そう言葉を搾り出す


「ホント?ずっと親友として、傍にいてくれる?約束・・・してくれる?」


顔を上げ思い詰めたような表情でさらに言葉を重ねてくる園崎


「ああ・・・約束、する」


俺は身を切られるような切なさに堪え、そう言葉を搾り出す


その言葉に園崎の表情がぱっと輝くような笑顔になる


親友・・・一番近くにいて・・・一番長い時間を共に過ごすような関係


しかし・・・どんなに近くても・・・決して結ばれることのない存在・・・


こんな約束をしてしまって・・・俺はずっと報われることのない想いを胸に抱えていかなきゃならないのか?


この手を伸ばせば簡単に触れることも出来るような距離なのに・・・


こんなに近くにいても・・・


こんなに想っていても・・・


こんなにも・・・


「え?・・・・きゃ!?」


この華奢でいて柔らかく温かな身体を・・・こうして抱きしめることも決して許されない・・・


「あの・・・・その・・・・」


こんなにも甘やかな香りのする髪に・・・こうやって頬を添えることも・・・


「・・・えと・・・その・・・」


胸元から園崎の困惑の混じった声がする


・・・・・・・・あれ?


・・・・・・・・・・。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


って、何やってんだよ俺!?


我に返った俺は自分自身のとった行動に愕然となる


園崎に対する想いが高まるあまり、俺は衝動的にその身体を自分の胸へと引き寄せ・・・抱きしめてしまっていた


「あ・・・園崎・・・これは・・・その・・・・・」


俺は自らのとった取り返しのつかない行為に頭の中が真っ白になった


この状況を上手く弁解する言葉が見つからない


なら・・・・・・・いっそのこと、この勢いのまま告白るか?


いや、『ずっと親友だ』と言った舌の根も渇かぬ内に『やっぱり親友じゃなくて恋人になってくれ』とでも言うつもりか?


それでOKが貰えればいいが、もし断られたら・・・


『じゃあやっぱり親友で』なんて言えないだろう


やはり、勝算の見えない博打を打つわけにはいかない


ここはなんとか誤魔化すしか・・・


だけどなんて言えば・・・


この状況を上手い具合にはぐらかすなんてどうあがいても無理じゃないのか


やっぱり一か八か告白を・・・


いや、でも・・・


あー、ううー


あああああああああああああ



「そ、園崎っ!」


「え?・・・・・・・・・あ、はい!」


俺の突然の叫びに腕の中の園崎が身を固くする


「俺達は・・・・『親友』、なんだよな?」


「え?・・・・・う、うん」


「だから!



これは!







『ハグ』だ!」




「え?・・・・・はぐ?」


「そう、『ハグ』。親友としての、親愛の、『ハグ』・・・・・・・ほら、親友ならするだろ?『ハグ』」


しねーよ!どこの国の話だよ!?ここ日本だぞ!?


俺は自分の無茶な言い訳に心の中でツッコミを入れる


だが・・・、


「あ・・・・・・・うん!する!するよね!親友なら!そりゃあするよ、親友だったら!『ハグ』」


園崎は俺の言葉を全力で全肯定してきた


そうなのか!?日本、いつからそうなった!?


予想外の言葉に声を失う俺を、園崎が下から柔らかな瞳で見上げてくる


「けーご・・・腕の力・・・緩めて・・・」


「あっ・・・・・!わ、悪い」


園崎の言葉に俺は慌てて抱きしめたままだったその身体を解放する


離れる園崎の身体


しかし・・・それも一瞬


園崎は改めてその身体を俺に預けるように寄り添ってきた


と、同時に・・・俺の背中に廻される両腕


「園・・・さき・・・・・?」


困惑する俺をよそに園崎はきつくきつく俺の身体を抱きしめてきた


俺の脳はその感触を伝えてくる神経の情報量を処理しきれずフリーズする


「ボクもこうしないと・・・・・『ハグ』になんないでしょ?」


「う・・・あ・・・・・・」


胸元に感じる園崎の熱い吐息


「けーごも・・・・・・あたしのこと・・・『ハグ』して」


「お・・・おう・・・・・」


躊躇い・・・しかし、それも一瞬


俺はさっきよりきつく・・・園崎の肢体を両腕で包み込んだ


「えへへ・・・・そうだよね・・・あたし達、『親友』なんだもんね・・・『ハグ』とかするの、普通だよね・・・んーん、するのが当然だよ。しないほうがおかしいよ・・・どうしてもっと早く気付かなかったんだろ・・・・」


園崎は俺の胸元に頬っぺたをすりすり擦り付けながらそんな呟きを漏らす


甘えたようなそんな園崎の仕草に俺は胸がいっぱいになり・・・俺も負けじと柔らかな感触のその頭髪へと鼻先を擦り寄せ甘い香りを愉しんだ



・・・・『ハグ』ってこうゆうもんだっけ?



・・・いや、世間一般における『ハグ』の定義などどうでもいい


俺が『ハグ』と主張し、園崎がそうだと認めたからにはこれは俺達にとって『ハグ』以外の何物でもないのだ


そして今はそんな理屈よりお互いの友情を存分に、十分に、心行くまで確かめ合う事が大事だ


「けーご・・・けーご・・・・けーごぉ・・・・・」


園崎が胸元で甘い吐息を漏らしながら俺の背中に手の平を滑らせる


「園・・・さき・・・」


俺もそれに倣い園崎の背中の凹凸を確かめるように指先を這わせる


背筋のくぼみ・・・肩甲骨の隆起・・・


その時、近づいてくるエンジンの音と眩しいヘッドライトの光!


俺と園崎は弾かれたようにその身を離した


俺達の脇を車が通り過ぎて行く


夜とはいえ、ここが人目があるかもしれない路上だったことを思い出し、俺は急に恥ずかしさが込み上げてきた


それは園崎も同じだったようで落ち着きなく目を泳がせ、顔にかかる髪を耳の上へと何度も梳き上げている


「えと・・・じゃあ、俺・・・そろそろ帰るな?」


気恥ずかしくなった俺は園崎の顔がまともに見れず、視線を逸らしながらそう切り出した


「ん・・・。わかった・・・・気をつけて帰ってね。けーご」


現状はなにも変わってはいないものの俺の心中は先程とは打って変わって満足感に満ちていた


「おやすみ、園崎」


「ん。おやすみけーご・・・」


そう挨拶を交わして踵を返す・・・・が、急に左腕に感じる抵抗感


振り向くと園崎の右腕が俺を引き留めていた


「?・・・・どうした、園崎」


「え、えっとね・・・その・・・・帰る前にね・・・・」


「うん?」




「もう一回・・・・・今度は『おやすみのハグ』・・・・して」



◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  


宙に浮くような感覚の中、来た道を駅方向へと戻る


頭がぼおっとして、のぼせたような夢見心地のなか歩を進める


まだ両腕の中に園崎の柔らかな感触が残っている


今までにも何度か園崎と抱き合う体勢になったことはあるが、それはいずれも偶発的なもので事故のようなものだった


しかしさっきは・・・最初は俺の暴走だったけど・・・その後はお互いの意思で抱きしめあった


もちろん園崎が俺に向けている感情は『友愛』であり俺が園崎に向けているものとは異質なものであることは解っている


それでも・・・『親友』という関係は変わらないまでも・・・さらに深く触れ合える間柄になったことには違いない


今はこれ以上の事を望むのは高望みというものだろう


「あら、こんばんは」


駅に着く手前で不意に声をかけられ、俺は現実に引き戻された


振り向くと声の相手は・・・園崎の叔母さんだった


「あ、どうも。こんばんは」


俺が挨拶を返すと園崎叔母はにっこりと笑った


園崎の叔母さんて年齢はそれなりなんだろうけど・・・超がつくほどの美女だよな


・・・ちょっとヘンなとこあるけど


「花火大会、楽しめた?」


「え?・・・あ、ハイ。楽しかったです」


そうか。俺と花火大会に行くってこと、園崎から聞いてたんだな


「アナタにはホント感謝してるわ。あの子が訳わかんない事言ったり、おかしな事やり始めたりした時はどうなることかと心配したんだけど・・・アナタと付き合い出してからは段々マトモになってきて・・・そしてとうとう普通の女の子みたいに『花火デート』なんかに出掛けるまでに・・・」


園崎叔母は感無量といった風に目尻を指先で拭った


「・・・はは」


俺は思わず乾いた笑いを返す


実際にはデートじゃなくてその『訳のわからない事』の一環なんですけどね・・・


俺は感謝されるような事は何もしていない・・・っていうか下手したらその『訳のわからない事』を助長してるかもしれないわけで・・・


そんな風に思われるのは気が引ける


「これからもあの子の事、よろしくね」


「は・・・はい、こちらこそ」


「ただし・・・あくまでも高校生らしい『健全なお付き合い』を頼むわね」


「わ、わかりました」


保護者の表情でそう釘を刺され、俺は思わず背筋をピンとさせて返事を返した


・・・・『ハグ』は・・・健全・・・だよな?


「あ。そうそう、今度キミに会ったら渡そうと思ってた物があるのよね」


園崎叔母は再びにこやかな笑顔に戻ると肩にしていたトートバッグをゴソゴソと探る


「はいこれ。よかったら二人で使って」


そう言って渡されたのはオシャレなデザインの小袋だった


「はあ・・・、ありがとうございます」


戸惑いつつ受け取り、中を覗くと中身は銀色のパッケージの小箱だった


・・・・・幸福の・・・0.01ミリ?


・・・・・・・・・・・・。


「って、これコ●ドームじゃないスか!?」


俺はここが往来であることも忘れ、思わず全力でツッコんだ


「ふふん、それは『サガミオ●ジナル』・・・ただのコン●ームとはひと味違うわよ」


俺のツッコミを何故かドヤ顔で受け止める園崎叔母


「そうじゃなくて!貴女いま『健全な付き合いをしろ』って言ったばっかじゃないですか!?それなのにナニよこしてんですか!」


俺の全力のツッコミに園崎叔母は「?」という顔をした


「だからでしょう?健全に・・・・いつも必ず避妊はしてねってこと。二人ともまだ学生なんだから、できちゃったらマズいでしょ。・・・まあ若いから欲望のままにお互いの身体を貪り合っちゃうのはわかるけど、ちゃんと節度は守ってね。たとえあの子が『今日は大丈夫な日だから』なんて言ってもナマでするのは絶対ダメ。必ずきちんとつけて『高校生らしい健全な性行為』をすること。それだけは約束してちょうだい」


『健全な性行為』ってなんだよ・・・


「・・・・はい、わかりました・・・・」


全力でツッコミたかったが園崎叔母の勢いに呑まれた俺は、ただそう答えるしかできなかった


俺の返事に園崎叔母は満足げに頷くと踵を返す


そして肩越しに振り返ると無駄にニヒルな表情を作った


「その『サガ●オリジナル』はポリウレタン素材の特別仕様・・・標準的なラテックスゴム製のコンド●ムに比べ、薄さは約3分の1・・・・装着感はだいぶ低減されるはずよ」


そう言い残し颯爽と去っていくその後ろ姿に、俺は大きな溜息をついた


やっぱ、あの人どっかおかしい


(つづく)

【あとがき】

皆様いつもお読み下さりありがとうございます


毎度更新が遅れ申し訳ありません


下手の横好きな動画作成に加えてモデル改造などにも手を出し始めたりしてたもので…

でもいつか自分の小説のキャラを作って動かせたらいいなあ…


それはそれとして…やっと今回のエピソードが書けました

二人の『親友』としての関係もやっと次なるステージへと進みます


ということで今後ともよろしくお願いいたします


【いまさらどうでもいい設定】

今回の園崎さんが浴衣の下につけていた下着はいわゆる『腰巻き』…薄手の布で出来た巻きスカートのようなものでした

…ってそれ、ノーパンと同じじゃん!?


【園崎さんの一人称について】

お気づきの事と思いますが園崎さんは心理状態によって一人称が変わります

『僕』…普段、前世だと主張してるクオンのキャラを作ってる時。これがデフォルト

『わたし』…ドールの設定のキャラ作りしてる時

『ボク』…姉さんの「けーくんはボクっ娘大好物」発言を真に受けてから、経吾に好かれようとあざとくアピールしてる時

『あたし』…何らかの原因で素に戻ってる時


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