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プロミステイク ~俺と彼女の中二病的恋愛遊戯~  作者: 阿津沼一成
第2章 サマータイム・ラプソディ
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第64話 Summer Date act.2 B-side 〈omatsuri〉

「今から?二人で?花火・・・?」


俺は思わず園崎の言葉を反芻した


マジか!?


俺の望んだ状況がこうも容易く向こうから転がってくるとは・・・

今日の俺には幸運の神がついているのか!?


いやいや、落ち着け俺


確かにこれからの行動予定はまるで恋人同士のデートみたいだが、その根本にある目的は『魔力活性化』という中二的設定だ


全然意味合いが違う


男女間の親密度を上げるのを目的とする『デート』とは似て非なるものだ


俺はその辺をちゃんと踏まえて行動しないと、色々と空回りすることになるだろう


よし、思わず浮かれそうになったテンションを上手くクールダウンさせたぞ


「わかった。じゃあ取り敢えずこの花火大会の会場へと向かえばいいんだな?」


「ああ、そこが我らの今日の活動の目的地だ。ククク・・・、行くぞ!クロウ」


俺の言葉に園崎が男モードの声で頷くと、大仰に右腕を振り人差し指で行き先を指し示した


・・・ほらな。いつも通りの俺達だ


全然デートなんて雰囲気じゃない


「じゃ、行こうぜ」


俺は苦笑しつつそう言うと、人波の流れる方向へと足を踏み出す


「ああ、行こ・・・・・とっ・・・・・きゃっ!?」


だがその時、俺の隣について歩き出した園崎が軽い悲鳴を上げた


そして・・・左腕に突然感じる重量感と弾力感


俺の左腕を抱き抱えるように、園崎がしがみついていた


「わ、わわわわわわ!ご、ごめんけーご!あ、あ、あ、足がもつれて・・・転びそうになっちゃって・・・」


「あ、ああ・・・大丈夫か。園崎・・・足、捻ったり、してないか?」


突然の事態にばくばく鳴る心臓と上擦る舌でそう尋ねる


「ん。大丈夫。・・・ゆ、浴衣って歩き辛くって・・・、ここ来る時も何回か転びそうになっちゃって・・・ゴメンね、急にしがみついちゃって」


「いや、謝ること・・・ないさ」


緩みそうになる顔を無理に引き締めそう言う


むしろお礼を言いたいくらいです


素晴らしい感触でした


「・・・・・・。」


「?・・・どうした園崎」


何故か園崎は俺の腕を掴んだまま、その動きを止めていた


「あ、あのさ。けーご」


「ん?」


そして俯いたまま、僅かに震える声で口を開いた


「ま、また、転ぶと、いけないし・・・つ、掴まって歩いて・・・いい?」


「え?・・・・・・・・・ええ!?」


それって・・・つまり・・・


「・・・・・ダメ?」


顔を上げ、上目遣いにそう尋ねてくる園崎は驚異的な愛らしさで・・・そのお願いを拒否する、などという選択肢があろうはずがない


いや、あってはならない


「いや、大丈夫だ。・・・そうだな。・・・ま、また転びそうになったら・・・いけないもんな。・・・ま、前もって掴まっとけば、安心だよな。き、危険回避の観点からいっても・・・そうすべきだろう。うん」


「ん。ありがと、けーご」


俺の返事を聞いた園崎は嬉しそうに笑うと、抱きかかえるようにしていた俺の腕を一度離す


そして改めて俺の肘の上辺りに両手を添えてきた


うおおおおおおおおおおお


いま、俺はまるで恋人同士でもあるかのように女の子と腕を組んで歩いている


それも園崎みたいな美少女と


俺は内心の歓喜を園崎に気取られないように努めて平静を装い、歩く


歩を進めつつ隣をちらりと伺うと園崎は伏し目がちに楚々とした雰囲気を漂わせている


ホント・・・園崎って中二的な言動や行動を抜くと、間違いなく正統派の美少女だよな


こうして歩いてるだけで周りの男どもから注がれる視線の数がハンパない


ほとんどの男がチラチラと見てくる


来る途中、ジロジロと変な目で見られた・・・なんて園崎は言ってたけど、それだってマイナスの意味を持った視線じゃなかったはずだ


しかしそれにしても俺に注がれる羨望と怨嗟の入り混じった視線もハンパない


まあ、気持ちはわからんでもないけど・・・


俺だって逆の立場だったら相手の男に殺意を抱く可能性は十分にある



そんな視線を時折受ける妙な気分と共に歩を進めていくと、やがてメイン会場となる河川敷へとたどり着いた


広い河原は人で溢れており土手の方には様々な屋台が軒を連ねている


「う・・・、思ったより人が多いな・・・人酔いしそうだ」


隣で園崎がげんなりした声を出した


「大丈夫か?園崎」


園崎ってなにげに人混みが苦手だよな

まあ、俺もあんまり好きじゃないが


「視線を斜め下に向けてあまり見ないようにすれば平気だ。経吾が誘導してくれれば問題ない」


そんな事を言いながら園崎は僅かに顔を伏せ、身体の位置を先ほどよりさらに俺の身体の近くへと寄せてきた


「わかった。大分薄暗くなってきたし人も多いからはぐれないように気を付けないとな」


・・・・・。


・・・・・・・・・・・・。


それにしても・・・


さっきから、たびたび肘に柔らかい物が当たってきて俺の心中は穏やかではない


歩みを進める度、二人の身体の微妙な位置関係が不規則に変わるため、気をつけていてもどうしても当たってしまう


ふに・・・・ふにふに・・・ふにっふにっ・・・むに・・・


わざとやってる訳じゃないからな!?


こんな風にぴったりくっついた状態で腕組んで歩いたことなんてないから、コツが解らないんだって!


姉さんも一緒に歩く時よく腕を組んでくるけど、軽く手を添えるような感じだから胸が当たるようなことはないし


むにゅっ


「・・・んっ・・・」


ちょっと強めに・・・擦れるように当たった瞬間・・・


園崎が鼻にかかったような吐息を漏らした


わざとじゃないですからね!?ホントに!!


マズいぞ


このままじゃ園崎に『俺がわざとやってる』って思われて軽蔑されるかもしれない


そうは思うものの・・・


・・・ふに・・・むにゅ・・・ふにむに・・・・


やはりどうしても当たってしまう


そのたびに園崎が微かにぴくんぴくんと身を震わせた


俺は自分の不埒を疑われてないか、恐る恐る園崎の様子を伺う


園崎は・・・頬を朱に染め、瞳が熱っぽく潤み・・・物凄く色っぽい表情をしていた


思わず喉を鳴らし・・・俺はしばしその顔に目を奪われる


「・・・ん・・・んぅ・・・・・・・・・・ふあっ!?」


俺の視線に気付いた園崎が突然素っ頓狂な声を上げた


「ち、違っ・・・・違うのけーご!こ、これはわざとじゃなくって・・・・ふ、不可抗力っていうか・・・・!」


そして、わたわたと狼狽え出すと、よくわからない言い訳を始めた


「あれ?先輩方?」


何故か俺が口にするべきセリフで言い訳を始めた園崎に戸惑っていたところに、横から声が掛けられる


一旦、狼狽する園崎に対する思考を中断して声の方向へと振り向くと、そこにいたのは・・・・


案の定、後輩女子サクマだった


「お。よお、サクマじゃないか」


「こんばんは、先輩方。・・・・・・・・って、ほわああああああ!?」


会ったその先から素っ頓狂な声を上げるサクマ

相変わらず落ち着きのない奴だ


「なんだ、どうしたサクマ?」


「そ、そ、そ、園崎センパイ。浴衣きれー!!かわいー!!色っぺー!!」


「う・・・・あ、ありがとうサクマ・・・・・だが、ちょっと落ち着け・・・・」


さすがの園崎もサクマの狂乱ぶりに微妙な笑顔で頬を引き釣らす


「そう言うお前も・・・よく似合ってるぞ」


園崎のセリフに改めて見てみるとサクマも薄桃色の浴衣姿だ


「あー、サクマも浴衣だったか。なるほど、ま…・・・・・・・・・・よく似合ってるぜ」


しかしサクマは同じ言葉をかけたにも関わらず、俺に対してはジト目を送ってきた


「先輩・・・・・今、『馬子にも衣装』って言いかけませんでした?」


「何言ってんだよサクマそんなわけないだろおまえエスパーかよこええ」


「やっぱり思ってたんじゃないですか!?・・・・・はあ、もういいですよ。義川先輩は園崎センパイという超絶美少女の彼女を見慣れてるんだからしょうがないですよね・・・」


俺に向かって吠えた後、サクマは俯きフッと煤けた表情になる


しかしすぐにバッと顔を上げると、


「でもっ!!本来浴衣とかの和服は胸が小さい方が似合うモンなんですからねっ!!」


そう言ってその慎ましい存在感の胸を反らす


そんなサクマに俺は思わずジト目になる


「・・・お前、それ自分で言ってて悲しくならないか?」


「こふん。それはそれとして・・・ここでお会いしたのもなにかの縁。普段なにかとお世話になっているおふた方に、是非お礼にわたしから何か奢らせて下さい!」


「へ?・・・お礼って・・・お、おい!サクマ」


「ではお二人とも、ここで暫しお待ちをーーーーー!」


そう言うが早いか、サクマは屋台の並んだ方へと小走りに駆けて行った


やれやれ・・・


俺は苦笑混じりにため息をつくと、やはり苦笑している園崎と目を見合わせた


◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  


「サクマ・・・お前・・・これさ・・・」


俺は戻ってきたサクマから手渡された物へと、げんなりとした視線を落とした


「仕方ないじゃないですか先輩。わたしだってお小遣いが潤沢なわけじゃないんですから・・・、最も価格帯の低い商品になってしまうのは致し方ないことですよ」


「いや、それはいいんだけどな・・・」


ちなみにサクマが買ってきた屋台商品は・・・


園崎には串に刺さった冷やしパイン


そして俺には・・・・・・・チョコバナナだった


「なんか・・・物凄く恣意的なものを感じるんだが・・・」


「なにを言ってるんですか先輩。チョコバナナこそ屋台の定番にして王道。最もお祭りに似合う鉄板商品じゃないですか」


疑いを含んだ俺の眼差しを真っ向から見つめ返し、拳をグッと握ったポーズでそう力説するサクマ


「まあ、確かにそうだけどな・・・」


勘繰り過ぎか?


最近、おかしな思考に毒されてるからな・・・俺


「ということで遠慮なく召し上がってください。頬張ってください。咥え込んでください。黒光りする野太いソレを喉の奥までッ!!」


「やっぱこれセクハラだろ!?セクハラだよな!?」


異様な目の輝きと異様な形容詞でチョコバナナを全力で勧めてくるサクマにツッコミ返す俺


「な、なにゆってんですか先輩。ぴゅーぴゅぴゅー」


「口笛吹く真似して誤魔化すな!!!」


「ま、待つんだ。けーご!!」


サクマに向かって吠える俺の前に園崎が割って入ってくる


「・・・園崎?」


少し赤らめた頬と何故か落ち着き無く視線を泳がせる園崎に違和感を覚える


「せ、せっかくの後輩の厚意を・・・疑うもんじゃない。こ、ここは有り難く頂くべきだろう」


「う・・・、そうか?」


まあ言ってることは正論だが


「・・・・・・ところで経吾、チョコバナナには正しい食べ方のお作法があってだな」


「・・・・・・・・・・・・・・・は?」


そんなの初耳ですが


「まず根本から先端までゆっくり舌を這わせるように舐め上げた後、先っちょを愛でるように舌先でチロチロ・・・しかるのちに優しく口全体で包み込むように頬張るんだ」


「ウホ!ナイスアドバイスです、園崎センパイ。激しく同意します!!」


「お前ら!!?」


忘れてた!


園崎も基本的な趣味思考はこいつらと同じベクトルだった


il||li 〇| ̄|_ il||li 〇| ̄|_ l||li 〇| ̄|_


その後、俺は謎の結託を見せた女子二人の眼前でその屈辱的な食べ方を強要された


正常な男性なら誰もそんなシーンは見たくないと思うので、その状況の詳細な描写は割愛させて頂く


俺のその『正式なお作法』という名の特殊な食べ方を女子二人がきゃあきゃあと興奮した声を上げて鑑賞する姿に周囲の人々は目を逸らしながら通り過ぎていった


やっぱり今日は・・・人生最良の日なんかじゃ・・・ない


◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  


「はふう・・・堪能させて頂きました!あんないいものが200円の投資で見られるなんて・・・実にいい買い物をしました!!」


「・・・・よ、よかったぞ。経吾・・・」


「特に咥える直前の恨みがましい表情での『お前ら・・・覚えてろよ・・・』のセリフが絶妙でした!シチュエーションに対する想像を膨らますナイスアドリブでした」


「サービスで言ったんじゃねえよ!演技じゃなくて本気で嫌がってたんだよ!!」


「さすが先輩です。『受け』をよく解ってらっしゃる。自ら進んで・・・とかだったら興ざめですもん」


「・・・・・・く・・・自分にチ●ポがついてないのが・・・本当に悔やまれる・・・・・」


サクマが興奮した声で騒ぎ立て、その影で園崎がもぞもぞとなにか呟きを漏らす


・・・・なんで物を食う姿を見られるのがこんなに屈辱感にまみれるものになるんだ


「おっと・・・・、あまり長くお引き止めして、せっかくのお二人のラブラブ花火デートの邪魔をしてはいけませんね。わたしも友達と合流しなきゃなのでこの辺で失礼します」


「・・・おお、またな」


踵を返すサクマに疲れた声で手を軽く振る


「あ、そうだ。先輩方」


しかし歩き始めたサクマは不意に立ち止まると振り返った


「ん?なんだサクマ」


「先輩方って、まだ付き合ってること周りに秘密にしてるんですよね?」


「う?あ?・・・えーと、おおっぴらには・・・してない・・・かな」


そもそも付き合ってもいないんだが・・・


それをいまさら説明するのも誤解しまくっているサクマには面倒すぎる


「じゃあ今日は気をつけなきゃかも、です。たぶんウチの生徒もけっこう来てると思うんで・・・二人でいちゃいちゃしてるとこ目撃されたらマズいですよね?」


いちゃいちゃなんかはしないが・・・、確かに二人でいるのを誰かに見られるのは厄介かもしれない


「じゃあ、そーゆーことで。失礼しまーす」


サクマは今度こそ背を向けると小走りに人混みの中へと消えていった


「ふむ・・・」


顎に手を当て何か思案する表情をしていた園崎が、おもむろに頭のヘアピンを外した


纏めていた前髪が滑り落ち、その顔の左半面を覆い隠す


「どうだ、経吾。こうすれば左側からは見えない。右側に経吾の体があればその陰に隠れる状態になるから、すぐには僕とは気付かれないだろう?」


そう言ってニッと笑う園崎


「なるほど・・・・って、でもそれじゃ俺の方は?いくら園崎が隠れても俺がまる見えじゃ意味無いだろ?」


「そんなことはない。この場合、『誰が誰と』というとこが重要なんだから。片方の人間しか解らなければ意味を成さない。そこから得られるのは単に『経吾が女連れで歩いてた』って情報だけだ。その相手が誰か解らなければ後でどうとでも言えるだろう?」


そんなもんか?


・・・まあ、決定的瞬間でも見られないかぎり誤魔化せるってことか


「えっと・・・、じゃあまずどうする?花火見るのに最適な場所でも探すか?」


「うむ、とりあえずその前に腹ごしらえをしよう。腹が減っては戦ができん」


まあ夕飯は外でになると思ってたからそのつもりではいたが、まさか屋台になるとは思っても見なかった


・・・なんか姉さんに悪いな


後で知られたら恨まれそうだ


「園崎、何食べたい?定番だと焼きそばとかたこ焼き・・・お好み焼きなんかかな」


「よし、けーご。一個ずつ買って半分こしよう。そうすれば色んな種類が食べられる」


「ん。そうだな」


園崎の案に乗って、とりあえずそれぞれ焼きそばとたこ焼きを買って人波の外へと移動する


座れるようなところもないのでその場で立ち食いすることにした


行儀良いとは言えないがこういうお祭りのときは例外だろう


出来たてでまだ熱々の焼きそばをふうふうと冷ましてから頬張る


美味いとも不味いともいえない普通の味だった


まあ、こういう屋台の食べ物で、味についてどうこう言うのは野暮というものだろう


「けーごもたこ焼き食べるか?けっこう悪くない味だぞ」


もぐもぐと口を動かしながら園崎が聞いてきた


「ん。じゃあ一個貰えるか?」


俺がそう答えると園崎が割り箸で一コつまんで目の前へと差し出してきた


「ほら、けーご・・・あーん」


「サンキュ。・・・あーん」


ぱく。


もぐもぐ・・・・


「ん。なかなかいけるな。・・・・・・・・・・・」


って、俺達、こんな大勢 人がいるところでなにやってんだ!?


ハッと我に返り冷静に状況を振り返る


思わず条件反射的に『あーん。ぱく』なんてしちまったけど、これじゃ傍から見たらまるで『イチャつきバカップル』みたいじゃないか!?


慌てて周囲を見回すと・・・


他にも同じようなことをしてる男女がちらほらと見え、誰も俺達に気を留める者はいなかった


そうだ・・・いま俺達がいるのは『祭り』という非日常的な空間だった


『ケ』の日常とは異なる『ハレ』の空間


その状況下においてはこの程度のことを行うカップルは珍しくもなんともない


むしろそれが普通だ


・・・そうか


これこそ園崎が言っていた『カモフラージュ』


その行動も含め・・・『カップル』を演じることで違和感なくこの場に溶け込む


つまりこの行為も含め、『部活』の一環ってわけだ



それにしても、さすがというべきは園崎だ


ちらちらと俺に送ってくる視線など、まるきり彼氏に対して向ける『恋する乙女』のものみたいじゃないか


あまり真に迫っていて、ついつい俺も『園崎、実は俺のことを』・・・なんて思ってしまう




・・・いや、本当にカモフラージュのための演技なのか?


・・・実際、本当に俺のこと・・・


・・・今日も部活ってのは建て前で、ホントはこんなふうに俺とデートするのが目的だったんじゃ・・・




――――――キミ、自意識過剰なんじゃない?


――――――ハーレム物の主人公にでもなったつもりなのかな?



自惚れた予想が膨れ上がったとき、昼間サツキから言われたセリフが脳内に甦った


・・・あぶねえ


危うくまた自分に都合よく考えそうになっちまった


これは中学の時、失敗した思考パターンそのものじゃないか


少しは進歩しろよ、俺


あの時もこんな調子で誤解して舞い上がり、空回りしたあげく失敗したんじゃないか


頭を冷やせ


これは『部活』だ


屋上でやってる『ごっこ遊び』の延長にすぎない


取りあえず、いま俺がすべきこと、それは・・・


園崎に合わせ、この『カモフラージュの演技』に真剣に取り組むことだ


よし、誰からも疑われることがないくらい『カップル』を演じてやろうじゃないか


全身全霊をこめ全力でいちゃいちゃ(の演技)をしてやる


「園崎もこっち食べてみろよ・・・ほら、あーんしな」


「え!?・・・・・あ、うん。・・・・・あーん」


俺のセリフに園崎が僅かに驚いたような表情をみせるが、それも一瞬・・・

すぐに甘えるような仕草で素直に口を開けてきた


つやつやした愛らしい唇


その隙間の中に箸で一つまみ、焼きそばを入れてやる


「ぱく・・・もぐもぐ。・・・・・・・うん、おいしー。すっごくおいしー」


園崎が頬を染め満面の笑みで喜びを表す


「お、大袈裟だな。普通の味だったろ?」


園崎の反応に俺は思わず苦笑するが・・・、


「んーん。けーごが食べさせてくれたから特別おいしいんだよ」


うぐ


続いたセリフにズキュンとなった


ふう・・・、なかなかやるな園崎


ベタなセリフだが、かなりグッときたぞ


「じゃ、今度はあたしの番・・・・はい、けーご。あーん」


「うん、あーん」


ぱく


・・・もぐもぐ・・・


「じゃあ園崎の番だ・・・ほら、あーん」


「・・・あーん」


そんな感じで俺達は二人で交互に食べさせあった


◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  


結局、自分の手で食べたのは最初の一口だけでその後は最後まで食べさせあってしまった


「さてと・・・・・・・・・!?」


とりあえずの腹ごしらえが済んで一息ついた時、俺は初めてその視線に気付いた


「お前・・・・いつから・・・・そこにいた・・・・・?」


1メートルほど離れた位置に立ち、にんまりとした眼差しを送ってきていたのは・・・


ピンク色のじんべいを着た中学生くらいの女子


バイト先のオーナーの娘、イソハラだった


「いつからかって言われれば2、3分前くらいかな。いやー、これが本物のバカップルなんだなって感心して見てた」


「ぐう・・・・」


顔から火が出そうだ


よりによって知り合いに見られるとは・・・


園崎もこの事態は想定外だったらしく、真っ赤な顔で俯いてしまっている


「でも、うらやましーよ。なんか、『お互いしか見えてない』って感じで、心から愛し合ってんだなーって思った」


・・・そんな風に見えたのか


まあ、俺の方はかなり本気入ってたけど


「いつキスシーンが見られるのか期待して待ってたんだけど・・・しないの?」


「しねーよ!!」


俺が吠えるとイソハラはイヒヒと笑って踵を返した


「じゃ、あたしは退散するね。いちゃいちゃの邪魔しちゃってごめんねー。じゃーねー」


イソハラは現れた時と同じく唐突に去って行った


しかしまあ、見られたのがイソハラだったのは不幸中の幸いだった


あいつはもともと俺達が『婚約してる』って最大級の勘違いをしてる奴だからな


いまさら多少の誤解の上乗せなど問題じゃないだろう


だが、これがもしクラスメイトだったらと考えると肝が冷える


俺達が付き合ってるという噂でも立って、それにより二人の間が気まずくなったりしたら洒落にならない


夏休み中なんだし噂になんてならないだろ・・・なんてのは甘い考えだ


いまはケータイやスマホといった便利で恐ろしいアイテムがある


『そーいえばこの前アタシ見たんだけどさー。』みたいなノリで、メールなんかで噂が爆発的に広まる可能性がある


そして弁解の機会もないまま噂だけが水面下で独り歩きし、休み明けの教室で一気に表面化、なんて事態にでもなったら取り返しがつかない


その危険性を鑑みて、もう『恋人同士の演技』はしないほうがいいだろうな


「なあ、園崎・・・」


「ん?なに?けーご」


上目遣いに俺の顔を覗き込んでくる園崎


屋台の明かりで淡いオレンジ色のフィルターがかかった視界の中で見る園崎は、驚異的なまでの愛らしさだった


・・・・・・・。


「あー・・・、えっと、なんでもない」


「?」


うん、まあ・・・あれだ


次からは十分に周囲を警戒しながらいちゃいちゃ(の演技)すれば大丈夫だよな


「さて・・・じゃあ次は・・・・・・・ん?どうかしたか、園崎」


次の行動を尋ねようと園崎を窺うと、その視線はどこか別の場所へと向いていた


「けーご・・・金魚すくいだ・・・・・・金魚すくいがあるぞ!」


「え?・・・・お、おい!?」


急に興奮した声を上げた園崎が俺の手を引っ張って走り出す


俺は戸惑いながらも後に続いて走り出した


(つづく)


【あとがき】

皆様いつもお読み頂きありがとうございます


なんとか連休中に更新することが出来ました

ついつい他のことにかまけてて文章作成を疎かにしがちで反省しております

どうか今後もよろしくお願いいたします


【どうでもいい設定】

よく『和服の時は下着をつけない(ノーブラ・ノーパン)』などという都市伝説がありますが、園崎さんはちゃんと和装用の下着をつけておりますのでご安心ください。(着付けをしたのは今回も叔母さん)


もっとも下の方は一般的な「ぱんつ」とは異なる形状をしたものみたいですが・・・

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