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プロミステイク ~俺と彼女の中二病的恋愛遊戯~  作者: 阿津沼一成
第2章 サマータイム・ラプソディ
63/90

第63話 Summer Date act.2

ぴろりぴろぴろ・・・ぴろりぴろぴろ・・・


「うー・・・ん・・・・・・・」


朝のまどろみを楽しんでいた俺の耳に、ケータイの電子音が届いた


「・・・・・・・。」


って、この設定音は・・・・!


慌てて手探りでケータイを掴み取り、開き見た液晶の表示は・・・『園崎』


脳が一気に覚醒する


俺は急いで通話ボタンを押し、それを耳に当てた


「も、もしもし」


冷静を装ったつもりだったが・・・僅かに上擦ったような声が出てしまった


『も、もしもし・・・・経吾?』


ケータイのスピーカーから響いてくる園崎の声は、相変わらずどこか怖ず怖ずとしたものだった


やっぱり未だに電話は苦手らしく、その声はまるで別人のものみたいだ


『ご、ゴメンね?けーご。朝・・・早くから・・・起こしちゃった?』


いつもながら、なんか気の弱い少女と話してるみたいで・・・妙な嗜虐心がそそられる


特にベッドの中なんて状況で聞いてるとなおさらだ


いかんいかん


平常心平常心・・・


「いや、大丈夫だ。もう起きてた。・・・て言っても、まだベッドの中だけどな」


不埒な感情を見透かされないように、なるべく抑揚を抑えた喋り方で、そう返す


『うく・・・経吾の声・・・低音で渋・・・カッコイ・・・ゾクゾク・・・する・・・』


「ん?なに?」


モゾモゾとした喋り方でちょっと聞き取れなかった


『ふあっ!?・・・・な、なんれもないよ』


「そうか・・・?」


声の感じから、園崎も起き抜けなのかもしれない


『あ・・・あたしも、ね・・・まだお布団の中・・・なんだ・・・』


やはり俺の予想通り、園崎も起きたばかりのようだ


ちょっと気怠げで甘い声音が耳にくすぐったい


ついつい電話の向こうの園崎の姿を想像してしまう


ベッドに横たわる園崎の寝姿・・・


パジャマ?・・・ネグリジェ?・・・いや、夏だし、下着だけ・・・とか、かも


『・・・しゅ…しゅる…・・・』


寝返りでも打ったのか・・・電話口から微かな衣擦れの音まで聞こえてきて、俺の淫らな想像力に拍車がかかる


「で、どうしたんだ?こんな朝早く」


自分の中に宿った不埒な情欲を気取られぬように覆い隠し、そう問い掛ける


『こふん。・・・ほ、本題に入ろう。・・・きょ、今日はデ・・・じゃない・・・ぶ、部活をしたいと・・・思う・・・』


園崎はひとつ咳ばらいをすると男モードの話し方でそんな事を言ってきた


「う・・・。またあれか?”魔力の回復”とか”増幅”とかってやつか?」


確か前に『夏休みは魔力強化月間にする』とか言ってたよな?


『さ、察しがいいな、経吾・・・。今日は・・・魔力増幅の、実証実験を、行おうと思っている・・・』


園崎が仰々しい言い回しでそんな事を言ってきた


「実証・・・実験、ね。うーん・・・。で、具体的にどういった事をするんだ?」


『そ、それは・・・・会ってから話す』


俺の質問に対し園崎はそう言って言葉を濁した


はあ・・・、あまり変な事をさせられるのは勘弁して欲しいんだが・・・


いつもの中二病的な寸劇にも多少慣れてはきたが、それでも精神的疲労は結構キツイものがある


前もって何するか解れば少しは心の準備が出来るんだが・・・


とはいえ当の園崎はそれを今の時点で話すつもりは無いらしい


「・・・わかったよ。じゃあ・・・何時に、どこに行けばいいんだ?」


俺は活動内容の詳細についての質問は諦め、必要最低限の情報を求めた


『じ、実はそのことなんだが・・・今日の実験には、時間の、制約がある』


園崎には珍しく、歯切れ悪い言い方だ


「時間の制約?・・・それが出来る時間が決まってるってことか?」


『う、うむ・・・・。で、その時間なんだが・・・』


「うん、何時だ?」


『えっと・・・その・・・・・・ひ、日が落ちてからじゃないと、いけないんだ・・・』


「・・・・・・・・・・・え?」


それってつまり・・・


「夜・・・・ってことか?」


俺の心臓の鼓動が急速に高まってくる


『う、ん・・・ダメ?そ、そんなに遅い時間までは・・・かからないと・・・思うん・・・だけど・・・ダメなら・・・今回は・・・諦める・・・』


「いや。す、少しくらい遅くなっても、俺は大丈夫だ」


園崎の言葉に対し、俺は考える間もなく瞬時にそう返答した


「と、特に門限が決まってる訳じゃ、ないし。・・・まあ、さすがに補導されそうな時間まではマズイかも、しれないけど」


そしてそう付け加える


『う、うん。そこまでは、かかんないから。・・・じゃ、6時に・・・神碕町の駅前で・・・いい?』


俺の返事を聞いた園崎の声が弾むような響きに変わる


「おう、わかった」


『じゃ・・・・待ってるね』


ブツッ、ツーーーーーーー


「・・・・・・・・・・・・・・。」


俺はしばらくの間、通話の終わったケータイを見つめたまま固まった


おお・・・・


おおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!


そして、かつて無い昂揚感が沸き上がってくる


夜に!?


園崎と!?


・・・・・・・!!!!


男友達となら割と遅い時間まで遊び歩いた事はある


だが、今回は女の子とだ


しかも・・・明確に『好きだ』と意識してる相手・・・


その相手の方から夜に会わないかとのお誘い・・・


男子であるなら自ずとテンションが上がってくるものだろう


小躍りしたい気分とはこんな心境を言うんじゃないだろうか


いや、踊らんけどな


「・・・・・・・・・・。」


いや、待て待て


落ち着け、俺


今日の待ち合わせはそもそも『部活』であって『デート』なんかではない


男女間の甘い展開を期待するのは間違いだ


園崎も友達感覚で夜のシチュエーションで前世ごっこがしたいだけなんだろう


しかし・・・まあ・・・なんだ


せっかくの降って湧いたような美味しい状況だ


園崎の意図とは別に、俺が勝手に心の中で密かにデート気分を味わうくらいは・・・自由だよな?


◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆


そわそわする浮ついた気分を抑え、なんとかバイトを済ませて家路についた


待ち合わせは夕方なんだから別に慌てる必要はないんだが・・・ついつい歩みが早足になってしまう


「うぐ!?」


店を出て最初の角を曲がった時、俺は思わず変な声を出してしまった


曲がった先の、そこに居たのは・・・・


漆黒のゴスファッションに身を包んだ中二病女、サツキメイだった


「出たなBL女。ま、待ち伏せか!?」


「待ち伏せ?僕ガ?君ヲ?」


俺の言葉にサツキは一瞬キョトンとしたあと、可笑しそうに笑い出した


「・・・キヒ。何を勘違いしてるんだイ?今日はもかっちと約束があってネ。彼女が来るのを待ってただけで君を待ってたわけじゃないヨ。・・・君、自意識過剰なんじゃなイ?ハーレム物の主人公にでもなったつもりなのかナ?」


「うぐ・・・」


サツキの言葉に何も言い返せない


俺が言葉を詰まらせるとサツキは愉快そうにくつくつと笑った


「それに『BL女』というのも失礼な物言いだネ。僕がBLしか描けない奴だと思ってるなら大間違いだヨ?・・・僕は『男性向け』だって描いているんダ!!!」


そう言って胸を反らせるサツキ


「じ、自慢になるか!」


「フン。僕の作品は『実用性が高い』って定評があるんだヨ。ラフスケッチだけど見てみるかイ?」


「見ねえよ!」


トートバッグからスケッチブックを取り出すサツキに俺は苦い顔で断った


「修正前の『くぱぁ』なイラストもあるけド?」


「・・・・・み、見ねえよ」


ぐ・・・・すげえ気になる


だが口が裂けてもコイツにそんなことは言えない


「なんだイ。つまんない男だネ・・・・あーそうか、君はどうせ後でゆずっちに『本物』を見せて貰うからいいのか」


「ゴブッ!?・・・・お、お、お、お前なあ!?」


俺は掴みかからんほどに食ってかかるが当のサツキはどこ吹く風だ


「あ、そうそウ。僕、いま頼まれてるゲスト原稿があってネ。そのネタを考えてるトコなんだけド、ちょっと行き詰まっててネ・・・君、何かいいアイデアないかイ?」


「アイデアって・・・・エロマンガのかよ?」


「そウ。君が『自家発電』するときにオカズにしてる、取っておきのネタとか教えてくれヨ?」


「ぐ・・・お前って奴はそうやっていつもいつもはしたない事ばかり言いやがって。少しは公序良俗ってもんをだな・・・」


「こうじょ・・・・公女凌辱!?」


「おい!今、なんかおかしな文字に変換しなかったか!?」


「フム、なるほド・・・ファンタジー物カ・・・公国の姫君が政略結婚させらレ・・・相手は帝国の第三王子・・・・しかしそいつはとんでもない変態デ・・・・・いや、ちょっとインパクトに欠けるナ・・・・ならバ・・・・配下の謀叛により滅び行く公国・・・公女は命からがら燃え落ちる城から逃げのびるが・・・敢え無く捕らえられてしまウ・・・捕まった相手ハ・・・騎士道など知りもしない粗野粗暴な傭兵どもだっタ・・・『公国の宝石』と謳われた姫は憐れにもケダモノにも劣るような男どもニ・・・・・うム、いいじゃないカ・・・・キヒヒ、創作意欲が湧いてきタ。礼を言うヨ、さすがよっしいダ」


「いや、俺なにも言ってないよね!?」


サツキは取り憑かれたようにスケブに鉛筆を走らせ出すと、もう俺の存在など忘れたかのようにその行為に没頭し始めた


俺はため息とともにその場を後にするしかなかった


◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆


「ただいま」


家に帰り着き玄関で靴を脱ぎながら、出掛ける準備のことを考える


取り敢えず昼メシを食べて・・・何着てくか服装も考えて・・・小遣いも多めに持っていった方が良いかな・・・


待ち合わせは夕方


時間の余裕は十分ある


場所は隣町だし移動の時間を考えても5時に家を出れば大丈夫だろう


問題は・・・


「あ、けーくんお帰り」


スリッパに履き替えたところで二階から姉さんが降りてきた


・・・この人に気取られないようにすることが重要だよな


「ねえ、けーくん」


「ん?なに、姉さん」


「今日の夜、何か用事ある?」


!!!?


心臓が止まりそうになった


べ、別に何もないよ!?


慌ててそう言いそうになった言葉を寸でで飲み込む


「・・・あー、友達と約束があるけど・・・どうかした?」


努めてなんでもないことのような口調でそう答える


それがさも相手が男友達とであるかのように


「そっかあ。ざんねん。付き合って貰いたいとこあったんだけど・・・」


姉さんの言葉に俺は密かに胸を撫で下ろす


『何も無い』と言っていたら『じゃあ付き合って』ってなるところだった


俺の咄嗟の判断は間違っていなかった


姉さんも先約を断らせてまで自分に付き合わさせるほど横暴ではない


とは言え・・・残念そうに眉を寄せる姉さんの表情に多少の後ろめたさを感じる


・・・別にシスコンな訳じゃないからな?


「ごめんね姉さん。また後で付き合うからさ」


俺はそう言って宥めるが、姉さんは眉を寄せた表情のまま溜息をついた


「それがねえ・・・、今日じゃなきゃダメなんだよ」


「え?なんで?」


「今日はね、花火大会があるんだよ」


「花火大会?」


確かにそれじゃ今日限定か


「けーくんに一緒に行って貰いたかったんだけど・・・・うー、かき氷・・チョコバナナ・・・大判焼き・・・フランクフルト・・・焼きそば・・・」


・・・屋台の方が本当の目的か


「周りはカップルだらけでアウェー感ハンパないし、女一人だとナンパ目的のヤンキー達の恰好の餌食だよ。暗がりに連れ込まれて蹂躙されちゃうよ」


・・・それは大袈裟なんじゃないか?


どんな無法地帯だよ


がっかりする姉さんの様子に心が痛むが、今現在の俺にとって最優先させるべき存在は園崎だ


「しょうがない・・・誰か他に誘えそうな友達に声かけるかな・・・」


俺を誘うことを諦めた姉さんは独り言とともに背中を見せる


が、


「それで、友達との約束ってどんなの?」


突然振り返り、そう聞いてきた!


うぐ・・・


マズイ。上手い言い訳が思いつかない


ヘタな嘘ならすぐ見破られるだろう


姉さんはこんなだが、それでも女のカンはちゃんと備わっている


「えーと・・・、その・・・あー・・・」


俺を見る姉さんの目が不審げに細まる


ヤバいヤバいヤバい!


しかし焦れば焦るほど適切な言葉が見つからない


そんな俺を見つめる姉さんの目が急にハッとしたように見開かれる


「解った!お姉ちゃん解っちゃいました!!」


「な、何が?」


姉さんの勢いに思わず身を引く


「そのよそよそしい態度!ハッキリしない言動!・・・間違いないわ!」


ズビシッと姉さんの人差し指が俺の鼻先に向けられる




「えっちなビデオの鑑賞会ね!!」



・・・・。


・・・・・・・・・・・・。


な、な、な、なななな!?


予想もしない姉さんの予想に言葉を失う


「思春期童貞男子ーズ定番のイベント、家族が留守の友人宅に集合してえっちなビデオを見るお約束のアレね!!図星でしょう!!」


俺は姉さんのセリフに軽い目眩を覚える


「彼女いない男子達の結束を固める禁断のサバト・・・・えっちビデオ鑑賞会・・・・うちのけーくんもとうとうそんなものに参加するような歳に・・・」


「いや・・・あのね・・・」


「言い訳は不要よ、けーくん。・・・安心なさい。お姉ちゃんは理解のあるお姉ちゃんです。けーくんがその集まりに行くことに反対なんかしません。ちゃんと笑って見送ってあげます」


「いや、だからね・・・・」


「だけどこれだけは言わせてもらいます。けーくん、『えっちなビデオ』はあくまでもフィクションなの。購入者の為に誇張された表現で製作された、ファンタジーな世界なのよ。そこから得た知識を鵜呑みにしてはダメ。彼女が出来たとき、ビデオの真似をして同じ事をしたり、するように強要したりしちゃいけません。お姉ちゃんとの約束です」


・・・『特撮ヒーローの真似して高い所から飛び降りちゃいけません』みたいなノリで注意された


「・・・・はい、判りました」


・・・もういいや


はなはな不本意ではあるがこの不名誉な誤解は敢えてそのままにしておこう


変に勘繰られてついて来られるよりマシだ


俺は苦い思いを噛み締め、名より実を取ることにした


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇  


「行ってきます。・・・俺、たぶん遅くなるから、夕飯はいらない」


夕方になり、俺は母さんにそう告げて家を後にした


幸い家を出るとき姉さんの姿はなかった


どうやら俺がシャワーを浴びてる間に出掛けたようだ


・・・なんだよ?


女の子と会うんだからシャワー浴びたり、こざっぱりした服に着替えたり、デオドラントスプレーを念入りにかけたりってのはエチケットだろ?たとえデートとかじゃなくても


・・・って、俺は誰に言い訳してんだ


◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆


うお!?


駅に着き電車の車両へと一歩踏み込んだ俺は思わず変な声を漏らしそうになった


列車内が甘い香りに満ちていた


休日の夕方とは思えないくらいの混み具合


そして女性客のほとんどが浴衣姿だった


そうか、姉さん花火大会あるって言ってたっけ


「・・・・・。」


花火大会・・・


夏のデートとしては定番のイベント


もしカノジョが出来たら絶対行ってみたい憧れのシチュエーションだよな・・・


二人で手を繋いで見上げる夜空


煌めき拡がる色とりどりの輝き


その光に照り輝くカノジョの瞳・・・頬・・・艶めく唇


・・・そんな想像を園崎の姿を使って脳内で繰り広げ始めた途端、電車が制動をかけた


俺は妄想を中断して吊り革を掴んだ手に力をこめてバランスをとる


目的地はすぐ隣の駅だからあっという間に到着だ


ホームに滑り込む列車の窓から大きな花火の写真を載せたポスターが目に入った


・・・え?


それを見て、俺は初めて花火大会の会場がこの町だったことに気付いた


一瞬ほうけたあと、慌てて列車を降りる


案の定、大半の乗客がぞろぞろと降りた


人波と共に改札を抜け駅前に歩を進める


時計を見ると約束の時間まであと10分ほどだ


俺は周りを見回してみるが園崎の姿はなかった


どうやらまだ来てないようだな


俺は改札から見える位置の壁際へと移動して一息ついた


それにしてもこれは・・・すげえチャンスなんじゃないか?


今日の部活が何をするのか判らないが、それが終わったあと園崎を誘ってみて・・・もしOKなら・・・たったいま妄想していた憧れの花火デートが実現することになる


偶然とはいえ、この状況はまさに神の采配かもしれない


まあ、園崎だったら『花火大会?・・・ハン、リア充どもの集まるくだらないイベントだ。馬鹿馬鹿しい』・・・なんて言うかもしれないけど


駄目もと覚悟で、一か八か誘ってみる価値は十分にあるよな


しかし・・・


それにしても・・・・


ついつい通り過ぎる浴衣の女の子に目が奪われそうになる


浴衣って、この季節特有の限定ファッションだもんな


清楚さの中に色っぽさもあって・・・


特に後ろ姿のお尻の丸いラインとか・・・・って、いかんいかん!


どこ見てんだ、俺


これから女の子と会うってのに不謹慎だぞ


今、この目の前に広がる空間は非常に目の毒だ


俺が男である以上その呪縛から逃れるのは至難の技


・・・ならば


俺は視覚を遮断することでその煩悩を断ち切ることにした


腕を組み、瞑想するが如く固く目を閉じる


・・・・・。


ただ・・・雑踏のみが耳に響いてくる


そうして時間にして数分といったところだろうか


「ま、待たせたな経吾。すまない・・・少し、遅くなった」


聞き覚えのある声が耳に届いた


軽く息を弾ませるその声は紛れも無く園崎だ


「ああ、大丈夫だ。俺もさっき着いたばか・・・・・」


目を開きながらそう言った俺は、発した言葉を途中から失ってしまった


目の前に居たのは・・・



浅黄色の浴衣を身に纏った可憐な美少女だった


・・・・・え?


園崎・・・だよな?


予想もしていなかったその姿に、俺は咄嗟に言葉が見つからなかった


だが、ちょっと俯きがちに、はにかんだような表情を浮かべているのは・・・間違い無く園崎・・・のはずだ


装いに合わせて、その髪も後ろで纏めてアップにはしてあるが、片方の前髪を留めたトレードマークともいえる逆十字架型のヘアピンがそれを肯定している


「えっと・・・浴衣って、着たの・・・あたし・・・初めてで・・・その、ちょっと、歩きづらくて・・・時間かかっちゃった・・・ゴメンね・・・」

「・・・・・・。」


「けーご?」


「・・・・・・・・。」


「あ!?・・・・もしかして・・・・あたし・・・やっぱり、何か、ヘン!?」


俺の反応が無い事に園崎が急に狼狽え始めた


「く、来る途中も・・・周りから、ジロジロ見られて・・・ちょっと変な感じ、してたんだけど・・・やっぱり、あたし、どっかおかしい!?なにか・・・失敗した!?」


軽く涙目になった園崎は可哀相なくらい不安げな表情になった


「いやいやいや!変じゃない変じゃない変じゃない。すげえ似合ってる。めちゃくちゃ可愛い!!」


「ふわっ!?・・・・か、かわ・・・・・・!?」


慌ててフォローした俺のセリフに園崎が瞬時に顔一面を朱に染める


しまった!


咄嗟のあまりシンプルでストレートな言葉を口にしてしまった


俺の顔も瞬時に熱を持つ


耳たぶが熱い


「えっと・・・、予想してなかった恰好だったから・・・驚いて声が出なかった。全然・・・変じゃ、ないから。とっても良く・・・似合ってるから」


俺は勢いのまま恥ずかしさを堪え、そう言いきった


「あ、あ、あ、ありがと・・・けーご・・・」


園崎は落ち着き無く目を動かしながらも嬉しげに微笑んだ


「で、でも・・・どうしたんだ?そんな恰好で・・・」


俺はやけに喉が乾いて、少し掠れ気味になった声でそう尋ねる


「こふんこふん・・・、こ、これは・・・今日のデ・・・部活を行う上での・・・カモフラージュだ」


園崎は咳ばらいをすると取り繕うように少年モードの声音でそう言った


「か、カモフラージュ?」


「そ、そうだ・・・・、周りの人間に怪しまれないようにするためのな。今日我等の行う活動・・・それは・・・」


園崎がその右手をゆっくりと真上に上げた


そして・・・


「これだッ!」


そして、バッとその腕を真横へと振り下ろす


その人差し指の指し示す方向にあったものは・・・


「花火・・・大会・・・?」


さっきも目にした、花火大会のポスターだった


「・・・・・・花火・・・・・」


静かに呟くような声に再び視線を園崎に戻す


園崎は右腕を真横にしたまま、左の手の平で顔を半面隠し片目だけ見せる中二的なポーズをとっていた


「・・・花火・・・その真の正体は漆黒に染まる夜の闇を使い描く、炎の魔法陣・・・」


「・・・な・・・・に?」


そうきたか!?


「その降り注ぐ魔素を含んだ光の下に身を置くことで、我等の体内に宿る魔の因子が活性化し・・・・えーと、アレだ・・・魔力的な力が活性化されることで・・・えーと・・・魔の力が活性化されて増大するのだ!!」


「お、おう」


・・・いま、活性化って表現三回使ったよな?


俺はただ勢いに呑まれツッコミの言葉も出ない


「・・・と、いうことで!!!」


園崎がバッと両腕を振り、胸の前でクロスさせると・・・


「今日はこれから、二人でこの会場へ向かうぞ。クロウ!!」


紅潮する頬で、そう高らかに宣言したのだった


(つづく)

【あとがき】

皆様いつもお読み頂きありがとうございます。

毎度、更新が遅れて申し訳ありません。

仕事の繁忙期はもうとっくに終わってたのですが、ついつい動画作成とかにハマってて文章作りを疎かにしてました。

…反省してます。


さて、今回からの花火大会エピソードですが、実は最も最初の頃に考えたネタの中の一つです。

やっとこれが書くことが出来るとこまで話が進みました。

長かった・・・

でもまだまだ先が・・・


我ながら筆の遅さに呆れるほどですが、皆様見捨てずにこれからもよろしくお願いいたします。


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