第61話 Oh Me My #4
「そうだ、けーご。折角だからマッサージしてやるよ。顔の」
膝枕で俺の髪を梳いていた園崎が不意にそんなことを言い出した
「え?マッサージ?・・・・・・顔?」
「うん、顔にも意外と結構ツボってあるんだぞ」
んー、フェイスマッサージとかってやつか?
確かに言われてみれば目が疲れたとき両目の間揉んだり、頭痛の時こめかみをぐりぐりしたりはするな
「よし、始めるから目をつぶれ経吾」
「お、おお・・・」
ちょっと強引に促され言われる通りに目を閉じる
「じゃあ、やるぞ」
園崎の指が顔に触れた
目をつぶってるせいでちょっとの刺激が何倍にも感じられる
視覚が遮断されることでその他の感覚が鋭敏になっていく
後ろ頭に感じる園崎の体温
園崎のカラダの・・・柔らかい太ももの熱
鼻腔をくすぐる甘やかな香り
園崎のカラダの・・・オンナの匂い
耳を澄ませばその息遣いまで微かに聞こえてくる
園崎の愛らしい唇から漏れ出る・・・甘い吐息
・・・ヤバい
ムラムラしてきた
落ち着け、俺
これはフェイスマッサージなんだから顔に意識を集中するんだ
くにくに・・・
園崎の指先が適度な力加減で俺の顔の表面を押していく
「どうだ、けーご。痛くないか?」
「ああ、ちょうどいい・・・。結構気持ちいいな。エステってこんな感じなのかな?」
「どうなんだろ。ボクはやった事ないけど・・・叔母はよく行ってるみたいだな」
「ふーん・・・」
瞼の裏に園崎叔母の姿が浮かぶ
確かにあの人は美人だけど、年齢はそれなりなんだろうし・・・美貌を保つのにも陰の努力(?)が必要なんだろうな
額、眉、鼻筋・・・
顔中をまんべんなく指圧していく園崎
やがて頬、顎と来て一通り顔全体が終わった
「ありがとな、園崎。意外と顔って気持ちいいもんだな」
「・・・もうちょっとしてやるから・・・まだ・・・目をつぶったままでいろ」
「ん?・・・わかった」
さすさす・・・
!?
・・・うくっ!
額の上を園崎の指が軽くなぞるように滑り、俺は思わず変な声が出そうになった
「そ、園崎?ちょっとくすぐったいんだけど・・・」
「えーと、これは・・・・リンパマッサージ、的な?・・・・そんな感じのアレだから・・・我慢しろ」
園崎が僅かに上擦った声でそう言ってきて、俺は再び身体の動きを止める
・・・でも、これは・・・・・
さすさす・・・すりすり・・・
瞼の上・・・鼻筋・・・
触れるか触れないかの力加減で園崎の指先がゆっくりと滑る
なんだこれ!?
ぞ、ぞくぞくして・・・ヘ、ヘンな気持ち良さがあるぞ
「う、うぁ・・・!?」
園崎の指が唇の上を滑った瞬間・・・とうとう俺は思わず変な吐息を漏らしてしまった
「アハ・・・どーしたの、けーご?ヘンな声出して・・・・・・かわいー」
「いや、ちょっとくすぐったくて・・・」
慌ててそう言い訳する俺に園崎がくすくすと笑う
「くすぐったくても我慢するんだぞ。これはマッサージなんだから」
「わ、わかった・・・・うっ」
再び園崎の指が唇の上を滑り、またヘンな声が出そうになった
なんだ!?このゾクゾクする感覚
唇をなぞられるのが・・・こんなにもくすぐった気持ちイイものだったなんて知らなかった
園崎はなおも集中的に唇を責め続けてくる
ヤバ・・・これ・・・なんか・・・・
唇をただ指で軽くなぞられてるだけなのに・・・
その快感に連動するように下半身の一部分に血流が集中してきて・・・徐々に硬くなっていく
「!・・・・っ!?・・・・・・・!!」
「アハ・・・かわいー・・・けーごかわいー・・・ふるふるしてる・・・くすぐったい?・・・くすぐったいの?・・・・それとも・・・・ちがうかんかくかんじてる?」
熱を帯びた園崎の声
ちょっとサディスティックな響きが混じってるようにも聞こえ・・・俺の中に変なゾクゾク感が生まれる
今、園崎はどんな表情をしているんだろう・・・
「ほら、ダメだぞけーご、目開けちゃ。マッサージ中なんだから・・・・。間違って眼球を指で抉っちゃうかもしれないぞ」
軽く脅迫された!?
「まあ、仮にけーごが失明したとしても、ちゃんと責任とってボクが一生けーごの目の代わりになるから安心していいぞ」
そんな冗談とも本気ともつかないセリフでくすくす笑いながら、唇と同時に瞼の上にも指を這わせてくる園崎
快感と恐怖の混じり合う混沌とした感覚に頭がくらくらする
「ほら、頭を動かすな」
「え?・・・ちょっ・・・!?」
突然、頭の位置がガクンと下がる
と同時に顔の両側に感じる柔ら温かい感触
こ、これって・・・
両目を閉じていても自分がどんな状態にされたのかくらいわかる
膝枕の体勢から両脚を開いて・・・その隙間に俺の頭を挟み込んだんだろう
「ほうら、けーご。動けないだろ?・・・ほらほら・・・くちびる、くすぐったい?」
僅かに興奮を含んだサディスティックな声
熱いくらいの太ももからの体温
濃厚さを増すオンナの匂い
俺の意識は混濁し、溺れ、沈んでいく
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・。
そうされていたのは数分だったのか数十分だったのか・・・
「あ、そろそろ昼食の準備しないと。・・・くふ、楽しかった」
そんなセリフとともに俺は唐突に解放された
「・・・・・・・。」
園崎が部屋を後にし、一人ベッドに取り残された俺は放心したように天井を眺めていた
レイプされて放置された気分だ・・・・
情けない醜態を晒してしまった
いまだ唇がジンジンと疼いて、園崎の指の余韻がまだ消えない
唇があんなに感じるなんて知らなかった
指でなぞられるだけであんなに気持ちいいなんて・・・
もし・・・お互いの唇同士で触れ合い・・・擦れ合ったら・・・どんな感覚が味わえるんだろう
いつかその感覚を確かめたい・・・必ず
俺の中に・・・・そんな欲求が強烈に燻る
その時は・・・園崎にたっぷりと今日の仕返しをしないとな・・・
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「お待たせ致しました、マスター。消化に良いように雑炊をお作りしました・・・お口に合えばいいのですが・・・」
湯気の立ち昇る一人前の土鍋を載せたお盆を手に、部屋に入った園崎がにっこりと微笑んだ
・・・・・・・・・。
ってゆーか、いきなりドールの設定モードになってる!?
なんでだ!?
一体、何があった!?
「どうしました?マスター」
「いや、別に、何も」
小首を傾げる園崎に対し俺は予期せぬ事態にしどろもどろに答える
「おかしなマスター。熱のせいでどうかしちゃったんですか?」
口許に手を当て、くすくす笑う園崎
いや、どうかしちゃったのお前だろ!?
さっきのSっぽいキャラとギャップあり過ぎだ!
この設定が出てくることになった原因として考えられるのは・・・
昼食の仕度をしてる内に今の状況に・・・『風邪をひいた俺の為に甲斐甲斐しくお世話をしている自分』という状況に入り込み過ぎて、ドールの設定のスイッチが入ってしまった・・・ってとこだろうか?
「雑炊とはいえ結構自信作なんですよ」
そう言いながらベッドに腰を下ろしてくる園崎
朝食の時みたいに向かい合わせ・・・ではなく、俺の隣に
そしてぴったりと寄り添うように、身体を密着させてくる
マズい・・・
この状況は非常にマズい
いくつかある園崎の中二病設定のうち、この『ドール』モードは一番厄介といえる
その丁寧な言葉遣いから一見控え目なキャラに思えるが、実際は物凄く強引で積極的な性格設定なのだ
園崎に対する好意を自覚するようになってから、俺は常日頃から『あわよくば』という展開を期待している
その『あわよくば』がこのモードになってる時の園崎なら容易に実現可能になってしまう
俺にとって願ったり叶ったりの状態と言えなくもないが・・・しかし、『この園崎』は園崎であって園崎ではない
自分の作り出したキャラ設定に呑まれて自己暗示にかかったような・・・セルフ催眠状態なのだ
それを解っててイロイロと不埒な行為をするのは卑怯なことだし、そのあとの不安要素もある
園崎が素に戻り冷静になったあと、羞恥心が沸き上がり・・・その結果、再び二人の関係が気まずいものになったりしたら本末転倒もいいとこだ
この数日の間、悩んだ末にやっと解決した事案が昨日の今日で振り出しに戻ってしまう
俺は一時の欲望に負けないように、努めて理性的に行動しなければならない
くっ・・・、好きな女の子のカラダを思うがまま自由にできる状況を前に、それを我慢しなきゃならないとか・・・まるで拷問だ
「マスター。・・・はい、あーん」
俺の気も知らず、ぴったり身を寄せた園崎がそんな言葉と共に雑炊をすくったレンゲを口許に運んできた
声のトーンも物凄く甘くて、聞いてるだけでムラムラくる
「あ、ありがとな・・・もぐ」
平静を装いつつ、それを頬張る
「・・・・・・・。」
「どうですか?マスター」
不安げに俺の反応を窺う園崎
なんだ、これ?
雑炊・・・なんだよな?
「・・・・美味い・・・めちゃくちゃ美味い・・・・」
俺が呟くように漏らした感想は、何の捻りもない単純な物だった
ちょっとコンソメに近い味だけど、もっとまろやかで上品というか・・・
食通でもない俺には上手く表現できない
「よかった。お口に合って」
園崎がぱっと笑顔をほころばす
「いや、なんかすげえ美味いんだけど・・・出汁?とか、なんか特別な物なのか?」
「はい、『すっぽん』です」
「すっぽん!?」
『すっぽん』って、あの甲羅の無い亀の事だよな?
手軽に雑炊に入れたりするような一般的な食材じゃないと思うんだが・・・
もちろん俺はそんなもの食べた経験など一度も無い
「実は昨日の夜、お姉ちゃ・・・・・こふん、・・・・わたしの思念体の入れ物となったこの娘の姉がやって来まして・・・。病み上がりに精がつくようにと持参した食材で鍋料理を作ってくれたのです」
・・・それで食材のチョイスが『すっぽん』ってのもどうなんだ?
園崎のお姉さんもウチの姉さんと違うベクトルで常識外れだよな
「あの人は料理全般が不得意なのですが鍋だけは上手いんです」
「へえ・・・・」
「その時に取り分けておいたスープをベースに作りました。残念ながらお肉は入っていませんが栄養はスープに溶け出してますから、とっても身体にいいですよ」
「そ、そうなんだ」
「はい、わたしも今日は朝からすこぶる元気です。みなぎってます」
か、顔が近いって
「みなぎって・・・・あふれてしまいそうなんです」
い、色っぽい声出すな!
なまめかしい表情をするな!
そして、胸を押し付けるな!!
俺の欲望の方がみなぎって溢れてくるっての!!!
「くふ。・・・・・はい、マスター。あーん」
再び『あーん』が始まった
俺は味覚にその全ての神経を集中させ、その他の感覚を誤魔化す事に努めた
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ご馳走さま、園崎。美味かったぜ」
「喜んで頂けて何よりです、マスター」
俺の礼の言葉に満面の笑みで応える園崎
くぅ・・・、可愛い
このまま押し倒して頂いてしまいたくなる
園崎がこの設定のままだと俺の理性が保ちそうにない
もったいないけど、そろそろ園崎を正気に戻さないと・・・
園崎は『俺の看病をしてる』って状況に入り込み過ぎてこのモードにスイッチが入ったはずだから・・・
「えっと、ありがとな園崎。十分に休息して栄養のあるもの食べさせて貰ったおかげで、すっかり元気になったよ。だからもう俺は大丈夫だ。風邪はすっかり治ったぞ」
「・・・・・・・え?」
「これも献身的な園崎の看病のおかげだ。もう熱も下がったし、なんの心配もいらないぞ」
園崎が俺の目を覗き込むように見つめてくる
俺の風邪が治って看病の必要がなくなればドール状態から戻ると思うんだが・・・
『治った』っていう俺の言葉に納得してくれるかどうか・・・・・。
「・・・・・・・。」
「・・・・・・・。」
俺達はしばし無言で見つめ合っ・・・・
「!?」
いきなり園崎の顔が間近に迫ってきた!
そして・・・・・
こつん
・・・・・触れ合うお互いの額と額
不意打ちでの・・・マンガなんかじゃテンプレの・・・ おでこ同士の体温測定
視界いっぱいに・・・至近距離でピントのボケた園崎の目許
唇は、あとわずか顔を寄せれば触れ合うくらいの距離
実際、俺の唇は園崎の唇から漏れる吐息の熱を感じている
自分にかけた戒めのことなど何もかも忘れて、園崎の肩を抱こうと腕を動かした時・・・始めと同じように唐突に園崎の顔が後ろに下がった
「・・・そうですね。まだ少し顔が赤いようですが、熱は下がったみたいです」
そう言って微笑むと園崎はベッドから腰を上げた
「これ、片付けて来ちゃいますね」
そしてお盆を手に部屋を出ていった
納得・・・してくれたんだよな?
あっさりと引き下がられて俺は拍子抜けすると共に急に惜しい事をした気分になった
「う・・・・くうううぅう・・・・」
そして身を裂くような悔恨の念が沸き起こる
これ、物凄く惜しい事したんじゃないのか?
あのままの状態だったら今ごろ園崎自身をご馳走になれてたんじゃ・・・
・・・・・・・・・。
いや、これでよかったんだ
心を通わせてもいないのに刹那的に肉体を重ねたとしてもそれは本当の意味で『結ばれた』ってことにはならない
だから今回の俺の判断は間違ったものじゃない
むしろ、誇っていいもののはずだ
俺はそう自分に言い聞かせ、なんとかざわつく心を落ち着かせる
「どうしました?マスター。苦渋の決断を下した政治家みたいな表情をして」
「いや、なんでもない・・・。男には『泣いて馬謖を斬る』という判断も必要な時もある・・・」
「か、格好いいです。マスター・・・」
「ふっ・・・・・・・、って園崎!?」
まだドール状態から戻ってない!?
再び部屋に戻ってきた園崎は未だ『ドール』モードのままだった
なんでだ!?
もう俺の看病は終わったはずだろ?
「くふ。でも、具合良くなって本当によかったです、マスター。わたし・・・心配したんですよ?」
「あ、ああ・・・、心配してくれて有難う。でも、もう大丈夫だから、看病の必要は・・・もう無いぞ?」
俺は困惑しつつ、宥めるように園崎へと訴えかけた
「ハイ。ですから最後に・・・。マスター、熱出ていっぱい汗かいたでしょう?カラダ、拭いて差し上げます」
そう言って園崎は、手にしていた洗面器を部屋のテーブルの上に下ろした
「では、マスター。Tシャツを脱いで下さい」
洗面器に浸していたタオルを絞ると・・・園崎はにっこり笑顔のまま、そう言った
「いや、でも、あのな?」
「Tシャツを脱いで下さい」
にっこり
言葉遣いは丁寧だが有無を言わせぬ迫力がある
そして、俺の発する言葉など完全スルーで・・・抗議することも許されない雰囲気だ
「・・・ハ、ハイ・・・・・」
俺はプレッシャーに負け、Tシャツの裾に手をかけた
一瞬の躊躇いのあと・・・背中を向けてからTシャツを捲り上げた
「ふぁ・・・・・、マスターの背中・・・素敵・・・・」
「・・・・そ、そう?」
なんか前にも同じようなこと言われた気がする
「背骨と肩甲骨の織り成す、くぼみの曲線がとってもとってもセクスィーです」
「は、はあ・・・・」
うっとりした溜息をつきながらの園崎のそんなセリフに、俺はただ困惑するしかない
「・・・・はぁ・・・肩甲骨のでっぱったとこに、おっぱ…押し当…てすり…りしたい・・・」
「え?・・・なに、園崎?」
「ふわっ!?な、な、な、なんれもないよ。けー・・・、こふん。なんでもありません、マスター」
「そ、そうか?」
いま一瞬、素に戻ってなかったか?
「こふんこふん、・・・では、背中お拭きしますね」
とりあえずここは素直に従っておくしかないか
「ああ、よろしく」
ふきふき・・・
ぬるま湯で搾ったタオルが背中を滑る
ああ・・・これはなかなか・・・・・気持ちいいな・・・
水分が気化するときの熱移動で、拭かれたところがさっぱりと冷たくて・・・心地好い
「あ、マスター。背中が動いてちょっとやりづらいので・・・申し訳ないですが横になって貰えますか?」
「あ、うん。わかった」
俺は言われた通り、ベッドに俯せになった
腕を曲げて、重ねた掌の甲の上に額を乗せる体勢だ
「これでいいか?」
「ハイ!・・・イイ・・・とてもイイです。肩から二の腕にかけての適度な筋肉のラインが・・・超セクスウィーです!」
「・・・そ、そう?」
鼻息荒く、そんな感想を述べる園崎に対し俺は反応に困る
それは喜んでいいことなのか?
・・・・ぽたっ
「ん?」
背中に何か垂れた?
「あ、ごごごごめんなさい!あの、ヨダ・・じゃなくて、えっと、その・・・・汗?・・・そう!汗。汗が垂れちゃって!」
大慌てでそう弁解しながらその部分を拭きとる園崎
「ああ、そっか。エアコンもう少し温度下げるか?」
「んーん。あ、平気・・・・です」
・・・キャラ振れしてるな
動揺するとキャラ設定が一貫しなくなるよな、園崎
「こふ、・・・では、改めて」
気を取り直したように軽く咳ばらいをしたあと再びタオルを背中に戻す園崎
また、丁寧にまんべんなく俺の背を拭いていく
拭かれたところがスーッとして気持ちいい
俺は暫し、その心地好さを楽しんだ
一通り背中全面を拭き終わり園崎の手が止まる
「ありがとな園崎、すげえ気持ちよかっ・・・・・ぅくっ!?」
思わず変な声が出た
園崎がくすぐるような指使いで俺のうなじを触ったからだ
「ちょ・・・園崎!?」
「ふふふ・・・。マスター、くすぐったかったですか?」
悪戯っぽい声で笑う園崎
俯せの体勢になった俺はその表情がどんなものか解らない
「あ・・・あのな、園さ・・・・・うっ!?」
まただ
今まで感じた事の無い・・・ぞわぞわとしたヘンな感覚が伝わってきて、俺は思わずまた声を漏らしてしまった
「くふふ・・・、マスターもここ弱いんですね・・・。あたしも・・・・・あ、マスターは知ってましたよね。・・・・いつもわざと意地悪しますもんね」
そんなセリフと共に、こしょこしょと触れるか触れないかの力加減で・・・うなじ付近を執拗に指で嬲ってくる園崎
う・・・、ネックレスを付け外ししてやってる時の事・・・やっぱりバレてた?
まあ、そりゃそうか・・・
じゃあ、これはその時の仕返しってことか?
思えば自分じゃされたことなんかないから、どんな感覚なのか知らなかったけど・・・
こ、こんなんだったんだ・・・う・・わ・・・こ、これは・・なんつーか・・・・
初めて味わう感覚に反応し、下半身の一カ所に血液が急速に集まっていくのを感じる
「そ、園さ・・・も・・やめ・・ろて・・・・くっ・・・」
「ふふふ・・・、ふるふるして・・・かわいー・・マスターかわいー・・・・」
園崎の声が熱を帯びたものになっていく
俺は俯せの体勢で抵抗することも出来ず、ただなすがままになっているしかなかった
「じゃあそろそろ・・・前も拭いて差し上げますね」
「・・・え?」
やっとうなじへの責めが終わり、軽い虚脱感に襲われていた俺の耳にそんな言葉が届く
「はい、マスタぁ・・・今度は仰向けになって下さいねぇ」
言うが早いか、園崎は俺の肩に手をかけると・・・そのままぐいっと反転させ上向きにさせてきた
ごろん
「う!?」
見下ろしてくる園崎の目の色は・・・明らかに変になっていた
「くふ・・・くふふ・・・。さあ、ふきふきしましょうねえ」
舌なめずりしながら、おかしくなった色の目で・・・俺の胸をガン見している園崎に背筋が冷たくなる
「ちょ、待て・・・ま、前は自分で出来るから、大丈夫だ」
「いーえ!これもドールとしての務めですからっ!わたしにお任せください。わたしに弄ら・・・・拭かへれくらはい!!」
ろれつもおかしくなってきてるぞ!?
ヤバい!
このままじゃ絶対ヤバい!!
に、逃げなきゃ
俺は慌てて身を起こす
「ほら・・・じっとしててくらはい!いたくひまへんからっ!」
俺達はバスケ選手のごとく、お互いに相手の腕の動きを牽制しあう
「い、いいってば!・・・う、うわっと!?」
「わ、わ、・・・・・きゃっ!?」
不安定なベッドの上、膝立ちだった園崎がバランスを崩し・・・
むぎゅ
「あ」
「あ」
手をついたところは・・・
俺の下半身だった
「なあああああああ!?」
「わ、わ、わ、これって・・・これってけーごの・・・!?」
むぎゅむぎゅ・・・
園崎の手が・・・
確認するように服の上から『俺の』を握りしめるように掴んだ
先程のうなじへの刺激により、硬化して棒状になっていたソレを・・・
「え!え?え!こんな・・・あつ・・・かた・・・・・おっき・・・!?・・わ、わ、わ!?」
くりくり・・・
って、確かめるように先っぽを親指でくりくりすんな!
「ちょっ!?そそそ園崎!?」
「・・・・あっ!ご、ごごごごごごごごめん!けーご。こっ、これは違くて。わざとじゃなくて。その・・・ア、アクシデント的な事故ってゆーか。・・・・・・・そ、そう!マンガなんかでありがちな・・・・・ラッキースケベってやつなの!!」
テンパった園崎がそんな訳のわからない言い訳を始める
「ほ、ほんとだよ?べ、別に狙ってやった訳じゃなくて・・・」
「わ、わかった。わかったからこの手を離してくれ」
「わ!?ご、ごめん!」
俺の言葉に弾かれたように握っていた手を離す園崎
あ、危ねえ・・・、危うくシャレにならない事態になるとこだった
「うへ・・・けーごの・・・・触っちゃった・・うへ・・・・うへへ・・・・・うっ!?」
緩んだ表情で自分の右手を眺めていた園崎が急に逆の手を顔へと持っていった
「そ、園崎?」
顔の下半分を覆い隠すように当てた手の隙間から、鼻血と思われる赤い液体が流れ落ちていて・・・
俺は慌ててティッシュを渡してやるのだった
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「はあ・・・今日は疲れたな・・・・精神的に」
夜、風呂を済ませ二階への階段を上がりながら俺は思わず溜息をついた
結局、園崎は鼻血を出したのをきっかけにドールモードからいつもの状態へと復帰した
しばらくして鼻血も止まると、俺達は多少のぎこちなさはあったものの、普段通りの状態へと戻ることが出来た
夕方になり駅まで園崎を送ったあと家に戻ると、既に帰宅していた母さんに『今日の首尾はどうだった』などと聞かれ辟易した
『別にどうもしないよ』なんて素っ気なく答えといたが・・・あんなこと詳しく話せる訳がない
それにしても今日は色々とヤバかった
なんとか踏み止まることができたが俺の理性の堤防は今にも決壊寸前だった
「あ、母さん」
階段を上がりきったところで俺の部屋から母さんが掃除機を手に出て来た
「掃除機かけてくれたんだ。ありが・・・」
ぽむっ
俺の言葉を遮って母さんが肩に手を乗せてきた
「・・・何?」
「経吾、男に・・・なったのね」
「は?」
母さんは眩しいものを見るように目を細めて微笑んでいる
「いい、経吾。女のコにとって、『初めての男』っていうのは特別なものなんだから・・・彼女の事、大切にしてあげなさい」
諭すような口調でそんなこと言われても話が見えない
「・・・母さん?何を言って・・・」
困惑する俺をよそに、母さんは言うだけ言うと階段を下りて行く
なんなんだ一体・・・
「あ、そうだ経吾」
「ん?」
部屋に入ろうとしたところで階段の下から母さんに声をかけられた
「明日、シーツ洗いなさいね」
「ん?・・・んー、わかった」
いまいち話の流れがよく解らない
腑に落ちないものを感じながら自室へと入る
あれ?でもシーツってまだ洗ったばっかじゃ・・・
そう思い視線をベッドに向け・・・
「うげ!?」
俺はそれに気づき絶句する
シーツの真ん中
ちょうど腰の乗るあたりの位置に・・・
血のついた染みがあった
いや、もちろんそれは園崎の鼻血なんだが・・・
さっきの母さんの言葉の意味を瞬時に理解した俺は激しい目眩に襲われる
その後、この染みが園崎の鼻血であり母さんが考えているようなものではない事を説明し誤解を解くために、俺の精神的疲労はさらに増すことになるのだった
(つづく)
【あとがき】
皆様いつもお読み頂きありがとうございます
なんとか1月中に更新出来ました
ちょっとタイトルの副題を変えてみましたがどうでしょうか?
さて、去年の今頃もお知らせした事ですが、もうそろそろ仕事の忙しい時期に突入します
約2ヶ月間、毎日12時近くまでの残業の続くため4月に入るまでは更新が滞ると思いますがどうかご容赦下さい
自分の構想的にはこのあと、
第3章 コンヒュージョン・オータム
第4章 ベリー・ホット・ウィンター
と続く予定なのですが・・・まだまだ夏休みが終わらない・・・
気長にお付き合い頂ければ幸いです




