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プロミステイク ~俺と彼女の中二病的恋愛遊戯~  作者: 阿津沼一成
第2章 サマータイム・ラプソディ
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第57話 Oh Me My #1

「義川、お前ここんとこ具合でも悪いのか?」


バイト先であるコンビニ

そのレジカウンターの中


隣に並んで立つマキさんが客の途切れたタイミングでそう聞いてきた


「え?・・・べ、別に普通ですけど」


「そうか?なんか顔色も悪いし・・・、悩みでもあるんなら相談に乗るぞ。なにしろ義川はメイちゃんていう俺の理想の女の子と知り合うきっかけになった恩人だからな。遠慮しないでなんでも言ってくれよ」


サツキとのこと、俺は特に何もしてないんだがマキさんは必要以上に恩に感じてるみたいなんだよな・・・


「はあ・・・ありがとうございます。でも大丈夫ですよ。なんでもありませんから。それよりサツキとはあれからどうなんです?上手くいってるんですか?」


「え?メイちゃんと?・・・ぷくく、実はな、昨日はメイちゃんの部屋で『おウチデート』だったんだ」


軽い気分で問い掛けた俺の質問に、マキさんは満面の笑みでそう返してきた


「すごいですね。もう部屋に入れて貰えるくらいの仲になったんすか?」


俺も入ってはいるけどあれは園崎も一緒だったし、二人っきりでっていうのはやっぱり特別なことだろう


「で、どんな感じだったんですか?」


親しい友人の中に彼女持ちがいない俺は実体験を伴うような恋バナを聞く機会は一度もなかった


他人の色恋話をあれこれ詮索するのはちょっと悪趣味かもしれないが興味はある


正直、あのサツキの『男女の恋愛における甘いシーン』・・・とか想像がつかない


特別な相手になら、しおらしくなったり甘えたりってこともあるんだろうか?


「メイちゃんにな、『買ってきた新作ゲームやるから、そのあいだ椅子になってて』って言われてずっと椅子やってた。2時間くらい」


脳裏にその映像が浮かぶ


床に四つん這いになったマキさん


その背中に腰掛け、ゲームのコントローラーをかちゃかちゃ操作するサツキ


・・・シュール過ぎる


「・・・それ、楽しかったですか?」

「スッゲェ楽しかった」


「・・・そーすか」


輝く瞳で即答するマキさんに軽く引く俺


まあ本人が楽しいんならそれでいいんだろう・・・


満面の笑みで話すマキさんに対して俺はただ苦笑いで返すしかなかった


◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆


「ふう・・・」


バイトが上がり店を出た俺は思わず陰鬱な溜息をついた


今日これからの予定は・・・特に無い

明日はバイトが休みだが・・・明日も特に無かった


「・・・・・。」


さっきマキさんにはああ言ったけど・・・


俺はここ数日、どうしようもない焦燥感を感じていた

そしてそれは晴れるどころか、日に日に増していき俺のことを苛む


あの日から・・・


サツキの部屋で園崎とポーズモデルをやったあの日から・・・もう4日ほど過ぎていた


そして・・・


その日からずっと俺は園崎と会っていなかった


いや、会えていなかった


これほど長い間、園崎の顔を見ていないのは初めての事だ


あの日の翌日、毎日のようにあった園崎からの電話が無かった


きっと家に帰ってから冷静にあの時の状況を思い出した園崎は、改めて羞恥心がこみ上げてきてしまったんだろう


それを落ち着け、クールダウンする為には少し時間が必要だろうとは思っていた


だが、2日、3日と経つ内にだんだんと焦りが募っていった


この状況はいつかの時の事を思い出す


園崎が恥ずかしい秘密をバラされ、部屋に閉じ篭ってしまった時のことを・・・


あの時は学校があったおかげで嫌が応にも次の日会うことが出来たが・・・今は夏休み中だ


悪くしたらこのままずっと休み中会えないままってことも・・・有り得無い話ではないだろう


もしそうなったとしたら夏休み明けの一ヶ月後、俺達は元通りの関係に戻ることが出来るだろうか?


それを考えるとモヤモヤとした不安感が心の中に知らず満ちていく


もしかしたらこれをきっかけに園崎の中二病自体が治って・・・文字通り元通りの関係に・・・初めて教室で会った時みたいな、何の興味もない只のクラスメイトの関係に戻ってしまうかも・・・


そんな事を想像した時、俺の心中には恐怖感にも似た感情が渦巻いた


この数ヶ月の間で園崎の存在がどれだけ俺の中で大きくなっていたか、改めて思い知らされる


それから俺は日に何度となくケータイを開き液晶を確認しては、園崎からの着信がないのを見て溜息をついていた


いっそのこと自分の方から電話してみようかとも思ったりはしたが、いざとなると指が止まって通話ボタンを押すことが出来ない


思えば俺達って何かのアクションを起こすのはいつも園崎からで・・・俺からって事はなかったかもしれない


このまま園崎の方から何の連絡も無かったら・・・ずっと会えないままなのか?


これまで積み重ねてきた俺達の関係も自然消滅なんてことになるんじゃ・・・


◇  ◇  ◇  ◇  ◇


って、何やってんだよ、俺・・・


ふと気付くと俺は見覚えのある路地を歩いていた


悶々と考えながら、ついこんな所まで足を運んでしまっていた


目の前にはそびえるように威風を放つ無骨な鋼鉄製の門扉


そして表札には『園崎』の文字


俺は園崎の家の前に来ていた


約束もないのに女の子の家までやって来るなんて・・・


我ながら客観的に考えるとかなりキモい行動だ


これじゃまるでストーカーだ・・・


思わずまた溜息が漏れる


ここまで来る途中、何回か電話しようとは思った

でも、ケータイを取り出し、かけようとするものの指が止まる


何を話せばいいのか、いざとなると全く思い浮かばない


そのうち、家の近くをウロウロしていれば買い物とか何かの用事で家を出た園崎にばったり会えるかも・・・そんなことを思いついてここまで来てしまった


『よ、よお園崎。偶然だな。・・・・え、俺?ああ・・・ちょっと、散歩』

『え?・・・偶然?・・・散歩って・・・・電車に乗って?』


・・・不自然過ぎるだろ


帰ろう・・・


そう考え、踵を返そうとしたときだった


「あら?貴方は・・・」


不意に自分に対して向けられた疑問符に、俺は声のした方へと顔を向けた


そこにいたのは・・・スーツを着込んだ一人の美人


あ、確かこの人は・・・園崎の叔母さん、だったよな?


「えっと、俺、その・・・」


とっさの事で言葉が出てこない


挙動不審この上ないぞ

これじゃ俺、まるっきり不審者じゃないか


だが幸いにも園崎の叔母さんは俺に対して疑いの目は向けて来なかった


「こんにちは、柚葉の彼氏さん・・・だったわよね?ありがとう、柚葉のお見舞いに来てくれたの?」


そう言ってにこやかに笑いかけてくれる園崎叔母


「あ、こ、こんにちは・・・・・え?」


見舞いって・・・


俺は反射的に挨拶するが、相手の言葉に含まれた予想外の単語に思わず聞き返す


「そ、園崎・・・・具合悪いんですか!?」


問い詰めるような勢いで言った俺の言葉に園崎叔母は優しく微笑みを返し、


「心配しないで。昨日まで少し熱はあったけど、今朝はもう下がってたから・・・。ただの夏風邪だと思うわ」


と、言った


「・・・そうなん・・・ですか」


たいしたことないと分かって、俺はほっと胸を撫で下ろす


「あの子めったに病気しないんだけど、一度熱出すとダメになっちゃうのよ。4日くらい前に真っ赤な顔してふらふらしながら帰ってきたんだけど・・・そのまま次の日から寝込んじゃったの」


園崎叔母はそう説明してきた


4日前っていうと・・・サツキの部屋であのことがあった日か


言われてみれば帰り際、確かに顔が赤かったかもしれない


どこかぼうっとしてたし・・・


「取りあえず立ち話も何だし・・・入って頂戴」


そう言うと園崎叔母は門の傍らの通用口の扉を開けた


「えっと・・・」


これは・・・入ってしまっていいのか?


アポ無しでいきなりやってきたりして、迷惑がられないだろうか


そう考えると躊躇して足が止まる


「?・・・どうかした?」


先に通用口をくぐった園崎叔母が振り返って尋ねてきた


予告もなくやってきた俺に園崎はどんな顔をするだろうか


恋人でもない男に突然押しかけてこられて・・・


もし迷惑な顔をされたら・・・

そう考え不安が沸き起こる


・・・いや、違うぞ


俺と園崎は・・・『親友』じゃないか


親友がその親友の見舞いに来るのは当然の事だ


そうだ、これは友情に基づく行動なんだ


俺はそう自分に言い聞かせることで不安を払った


意を決した俺は園崎邸へと足を踏み入れる


「もう、柚葉ったら・・・。ボーイフレンドがお見舞いに来てくれるんならそう言ってくれればいいのに・・・、お茶菓子とか何も用意してないじゃない」


そんなことをぶつぶつと言いながら歩く園崎叔母の後ろをついて、玄関に入る


「あ・・・お、お構いなく・・・。お、お邪魔します」


出されたスリッパに履きかえ、園崎叔母の後に続き二階への階段を上がった


一番手前右側のドアが園崎の部屋だ


「柚葉~、彼氏がお見舞いに来てくれたわよ」


ガチャリ


うおっ!?この人ノックもなしにいきなり開けたぞ

着替え中とかだったらどうすんだ!?


・・・園崎の叔母さん・・・美人な外見に騙されそうになるが、なんか中身はズボラというか、かなり大雑把な人な気がする・・・


「柚葉~・・・・あら?寝てるの?」


その言葉に部屋の中へと視線を向けるとベッドの上、タオルケットを身体に掛け横になった園崎の姿が見えた


「まったく、少し良くなったからってまた・・・」


溜息混じりのそんなセリフで肩をすくめる園崎叔母


一歩部屋に入り、園崎叔母の肩越しにのぞき見ると園崎の枕元にはマンガや携帯ゲーム機などが散らばっていた


「しょうがないわね・・・ま、いいわ。義川くん、私これから仕事で出なくちゃいけないの。お茶も出せなくてゴメンね。この子もそのうち起きると思うから・・・じゃあゆっくりしていってね」


「あ、はい・・・・・・・・・・はい?!」


思わず反射的に返事を返したあと、その意味を改めて考え理解した俺は慌てて振り返るが・・・


パタム


目の前でドアが閉じられ・・・・俺は園崎の部屋に取り残された




おい・・・




おいおいおいおい!!


こんな簡単に男を女の子の寝てる部屋に置きっぱなしにしていいのか?


そのうえ二人きりの状態にして出掛けるとか・・・保護者としてどうなんだ?


俺のこと、そんな深い仲の恋人だとでも思い込んでるのか?


・・・・・・・。


このままここに残っていいのだろうか?


また出直してきた方がいいんじゃ・・・・



だけど



せめて一言くらい言葉を交わしたい


再びベッドの方へと視線を戻す


園崎はすうすうと安らかな寝息を立てている

顔色も特に悪くない


園崎の顔、とても・・・久しぶりに見たような気がする


急にほっとした気分になり力が抜けてきた


それまで胸に渦巻いていた不安が嘘みたいに消えていく


安らかに、規則正しい寝息を立てる園崎


俺は部屋の真ん中に置いてあるテーブル脇へと腰を下ろした


そうすると、ちょうど目の高さに園崎の横顔が見える


俺はテーブルに肘を乗せ、頬杖をついてその横顔をぼんやりと眺めた


『スリーピングビューティ』


そんなベタな言葉を頭に浮かべながら



◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「ん・・・・ぁ・・ぅく・・・・・・」


微かに耳に届いたくぐもった声に、俺は浅い眠りから目を覚ました


しまった・・・


園崎の顔を見て安心したら、急に今までの精神的な疲労が襲ってきて・・・

いつの間にかうたた寝していたみたいだ


「ふぅ・・・・ん・・・ぅあ・・・・・・・・」


再び呻くような声が聞こえた


声の元はベッドの上


こちらに背を向けて横になった園崎からだった


!?


園崎・・・もしかして、うなされてる?


まさか具合が悪くなったんじゃ?


「う・・んぁ・・・・・・け・・ご・・・・・けーごぉ・・・あっ・・・・んぅ」


タオルケットの中、身体をもぞもぞと動かしながら、微かな声で途切れ途切れに俺の名を呼ぶ園崎


「園崎、大丈夫か?・・・俺、ここにいるぞ」




「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。!!!?」



俺がそう声をかけると園崎はびくりとして体の動きを止めた


そして、ゆっくりと頭を動かし俺の姿を確認すると、驚いたように目を見開いた


「えっ?・・・・・・ええっ!?けっけけけけけけけけーごっ!?ななななななんでここにいるの!?」


ガバッと身を起こすと狼狽えたように目を泳がせた


「なんでって・・・」


俺がいることに気がついてなかった?


じゃあ俺の名を呼んでたのは無意識で・・・ってことなのか


園崎はまた熱が上がったのか、顔は紅潮してうっすらと汗ばんでいた


片側だけ長くした前髪が汗で顔に張り付いている


それを目にした俺は不謹慎にも色っぽいと思ってしまった


病人に発情するとか・・・最低だぞ、俺


「えっと・・・園崎の叔母さんに偶然会って・・・園崎、風邪ひいたって聞いて・・・み、見舞いのつもりで・・・」


どこで、なぜ会ったかとか微妙な部分をぼかしつつそう答えた


「そ、それより平気か?今、うなされてなかったか?」


「えっ!?・・・・・あっ、う、うん。少し苦しくなっちゃって・・・ヘンな声出ちゃってた、かも・・・あは、あはは」


そう言って園崎はどこかぎこちなく笑った


「大丈夫か?少し顔赤いぞ・・・」


俺はそう言いながら立ち上がり、園崎へと歩み寄ろうとするが・・・


「っ!?・・・・・嫌ッ!!それ以上近寄らないで!」


鋭い声で拒絶された


「う、ぐ・・・・!?」


その言葉の意味を脳が理解した瞬間・・・


胸を締め付けられるような苦しさとともに足元が傾いたような感覚を覚えた


わずかに身体のバランスを失い、軽くよろめく


言葉って・・・これ程人間の精神にダメージを与えるものなのか?


「あっ、違うの。けーごが嫌って事じゃなくて・・・」


俺の反応を見た園崎が慌てた声を上げた


「あの、あたし・・・、か、風邪ひいてたから・・・ちゃんとお風呂、入ってなくて・・昨日、シャワーだけ、浴びたけど・・・・髪、とか、ずっと洗って、ないから・・・に、におうかも、しれないから・・・・」


そう説明するうちにも、園崎の顔はみるみる赤くなっていき、声も消え入るように小さくなっていって・・・とうとう俯いてしまった


「ご・・・ごめん、園崎。俺、デリカシーなかった」


俺は、好きな女の子に恥ずかしい思いをさせた自分の無神経さを悔やんだ


「あ、・・・んーん。そんなこと・・・あたしこそ、ごめんね。急に怒鳴って」


園崎はそう言って眉を寄せ苦笑した


言われてみればいつもサラサラな園崎の髪はわずかに濡れたようにしっとりとした質感で、片方だけ長く伸ばした前髪は顔の半面に纏わり付くように覆っていた


でも正直、それは不潔というより逆に淫靡ともいえる色気を醸し出していて、俺は妙な興奮を覚えた


病み上がりの女は色っぽいって聞いたことあるけど確かにその通りだと思える


ベッドの上、上体を起こした園崎


身に着けているのはキャミソールのような薄手の服だ


露出したなめらかな両の肩に思わず目が奪われる


胸元へと視線を滑らすと丸みを帯びた膨らみの頂上で、うっすらと二つの突起が生地を押し上げていて・・・ノーブラであることが判った


そのままガン見しそうになるのを理性で無理矢理視線を外す


偉いぞ俺。よく我慢した


だが・・・、外した先にはタオルケットの裾から覗く、すらりと伸びた二本の脚


白いすね


適度な肉付きのふくらはぎ・・・・


「!?」


足首まで視線を滑らせた時、それに気づいた俺は再び目を逸らした


心臓の動悸が急速に高まる


「けーご」

「は、はい!・・・何?」


かけられた声に心臓が止まりそうになる


「えっと・・・悪いけど少し部屋の外、出ててくれる?」


「あ、ああ。わかっ・・・わかった」


縺れる舌でそう答え、俺はドアを開け廊下へと転げるように出た


ドア脇の壁に背中を預け息を整える


耳の奥で動悸が耳鳴りのように五月蠅く鳴り響いていた


さっき見た園崎の・・・片方の足首・・・




そこに巻き付いていたピンクの水玉柄の布地・・・



あれって・・・


・・・・・・・・・・。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



シュ・・・シュシュだな!


そうだ、そうに違いない


あー、びっくりした


以前にもウチで風呂の脱衣所に落ちてた姉さんのシュシュを『ソレ』と見間違えて心臓が止まりそうになったことがあったが・・・ホント紛らわしいよな



・・・・・・。


・・・・・・・・・・・・・。


これ以上考えるな!


あれはシュシュだ!シュシュだったんだ


俺はそう思い込む事でかろうじて精神の均衡を保った


カチャリ


「け、けーご。どうしたの?」


ドアから顔を出した園崎が壁にもたれた俺に不思議そうな顔を向けた


「いや、別に、なんでも」


たどたどしく答えながらこっそりと足元へと視線を滑らす


どちら側の足首にも、もう『シュシュ』は巻き付いていなかった


「あたし・・・おフロ・・・入って来ちゃうから・・・。けーご、部屋で待っててくれる?」


そう言った園崎は胸の前に着替えと思しき畳まれた服を抱いていた


「ん。わかった」


「遅くなったらゴメンね。マンガとか適当に読んでていいから」


園崎はそう言うとパタパタと階段を降りていった


「・・・・・。」


俺は再び園崎の部屋へと入り・・・


パタン


ドアを閉じた


「・・・・。」


いや、少し落ち着こうか。俺


様々な情報が脳内に溢れ、リソース不足でフリーズしそうだ・・・


(つづく)




------------------


おまけ小説

【ある残念な令嬢とその下僕】


「まア、少し散らかってるガ遠慮なく入りなヨ」


「ほ、ほんとにいいの?」


「僕って人間を知って貰うにはこれが一番だからネ。ま、その結果幻滅しても責任は持たないけド」


芽衣はそう言いながらドアを開けると壁のスイッチを押した


パチリ


部屋に蛍光灯の明かりが灯る


照らし出された部屋の状態は、二文字で表すなら・・・『惨状』


6畳ほどの室内には真ん中にコタツがあり、正面には大型の液晶テレビ


床にはそこかしこに散乱したマンガ・・・DVDソフト、ゲームソフトなどのパッケージ


コタツの上には空になったペットボトル、お菓子の袋・・・


「おお・・・おおおお・・・・」


そんな部屋の有様に言葉を失う亮平


予想通りの反応を横目で見てメイは肩を竦め・・・


「くんかくんかくんか・・・甘いぃ!メイちゃんの部屋ッ、スッゲ甘い香りやぁ!ふはーふはー、まるでき●この山とバー●ロールとエンゼ●パイ、ファ●タオレンジとカル●スソーダと20種類以上のフルーツフレーバーの香りをブレンドしたような甘く芳醇なええ匂いがするぅ!!うはぁ~~~~」


興奮した声を上げる亮平に芽衣は肩を竦めようとした体勢のまま顔をわずかに引き攣らせる


「・・・この部屋を初めて見た人間の反応ハ、だいたいドン引きするのが普通なんだけド・・・相手の反応に僕がドン引きしたのは初めてだヨ」


「マジ!?それじゃ俺、メイちゃんの『初めての相手』ってこと?」


拡大解釈で自らに都合の良い称号を冠する亮平


「オイオイ・・・。僕も大概だけド、キミもなかなかに残念な奴だネ」


そう言って溜息混じりの苦笑を浮かべる芽衣


だがその苦笑にはどこか嬉しさが混じっているようにも見えた


「ところデ、僕はこれから今日買ってきた新作乙女ゲーをプレイするつもりでネ。君の相手をしてるヒマはないからよろしク」


「うはぅ、放置プレイ御馳走様デス。いいよ、俺。ゲームしてるメイちゃんのこと見てるから。俺のことは置物かなんかだと思って気にしないで。好きにゲームしてよ」


満面の笑みで下僕発言する亮平


「フン・・・ただ突っ立ってられても目障りだシ、この部屋の酸素がもったいないじゃないカ・・・そうだナ、じゃあ君はそのあいだ僕の『椅子』になっててもらおうカ?」


意地悪くニヤリとした笑みでそんなセリフを吐く芽衣


しかし亮平は瞳を輝かせ床に両手両足をついた


「こ、光栄です。さあどうぞ!」


普通なら怒り出すような言葉にも、嬉々として四つん這いになる亮平


そんな亮平の姿に芽衣は呆れると共に・・・妙な感情が沸き起こる


「バカか君ハ。そんな不安定な椅子じゃ落ち着いてゲームなんて出来るわけないだロ」


「す、すみません。じゃあ、どうすれば・・・」



「僕は『座椅子』になってくれって言ったんダ」



「・・・・・え?」


「あぐらをかいてここに座っテ」

「は、ハイ!」


瞬時にあぐらの体勢になる亮平


その両足の間へとメイは腰を下ろす


「うは、うはぁあああ!!?メイちゃんのお尻、やわ、やわ、やわらかああぁあぁ!」

「こ、声に出すナ!バカ!!」


柄にも無く思わず赤くなった顔で怒鳴る芽衣


「まったク・・・、だがなかなか悪くない座り心地ダ」

「あ、ありがとうゴザイマス」


「じゃ、ゲームが終わるまでこうしてて貰おうカ?・・・言っておくがキミは『椅子』なんだからネ。ヘンなことしようとしたら即、廃棄処分だヨ」


そう釘を刺す芽衣に亮平は神妙に首を縦に振る


「こ、心得ました」

「ちょ、髪に鼻を埋めるナ!」


「す、すみません!すはーすはー」

「ぐあぁあああ!匂い嗅ぐなあああぁ!」


亮平の変態度はどうやら芽衣の中二病を凌駕しているようだった


【ある残念な令嬢とその下僕】おわり




【あとがき】

いつもお読み頂きありがとうございます


前回より大幅に遅れて申し訳ありません

やっと更新出来ました


恒例の言い訳をしますと・・・・


最近寒いじゃないですか


布団、温かいじゃないですか


布団は電気代も灯油代もかからない最高の暖房器具なわけですよ

そりゃあ寒けりゃ取りあえずもぐりますよね


布団にくるまってヌクヌクしてるとウトウトしてくるわけですよ


すると不思議なことに夜の9時半だったはずなのに一瞬で朝の6時半になってるわけですよ


そんなわけで天使の姿をした悪魔…布団との辛く厳しい戦いの末にやっとの思いで更新することが出来たわけです


これからはますます布団との戦いは熾烈なものになっていくはずです


更新の遅延は免れないと思いますが、どうかよろしくお付き合い下さるようお願いいたします


お気に入り登録してくれている方々、ありがとうございます

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