第52話 Preparation Twister part 2
「話というのは他でもなイ・・・まずはこれを見てくれないカ?」
そう言うとサツキは傍らのバックから一冊の薄い本を出し、手渡してきた
「ん?・・・・・・っ!?」
危うく吹きそうになった
てゆーかバニラシェイクが変なとこに入って俺は激しくむせた
その本の表紙は・・・二人の美形男子が上半身裸で抱き合う美麗なイラストだった
いきなりナニ見せやがる!?
嫌がらせか!?
「お、お前なあ・・・・・!?」
むせながら文句を言おうとして開いた口をそのままに、俺は言葉を失う
サツキの表情はそれまで俺が見たものとはまるで違う、至極真剣なものだった
「・・・僕の描いた作品ダ」
「え!?」
「君の感想が聞きたイ。客観的ナ」
「・・・わ、わかった」
サツキの纏う神妙な雰囲気にのまれた俺は、改まった気持ちで本のページをめくり始めた
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「・・・スゲーな。正直こんな上手いとは思ってなかったよ」
読み終えた俺は、抱いた正直な感想をサツキに言った
本の内容は・・・まあいわゆるBLってやつだったのだが・・・
サツキはだいぶ描き慣れているようで、雑誌で連載されてるようなマンガと比べても遜色の無い出来だった
どことなくカスガさんの作風に似ていたが、これがいま流行りの絵柄ってことなんだろうな
ストーリーは小柄で大人しい少年、有樹が鬼畜俺様系男子のクラスメイト、圭人に好き勝手されてしまう・・・というもので、この手のマンガでは定番の内容なんだろう
「絵も上手いしコマもちゃんと割れてるし・・・話の流れも悪くない。素人の俺からしたらプロの漫画家並に見えるな」
「そ、そうカ?・・・まあ、僕はこれでもプロを目指してるからナ」
俺の賞賛の言葉にサツキは僅かに頬を赤らめる
「まあ、正直ストーリーは俺にはわかんないけど・・・えっとBL?・・・ってのだと、こういう展開がお約束なのか?」
「ふム・・・まあ色々なパターンは存在するガ・・・ちなみにこの脚本を書いたのはゆずっちダ」
「え!?・・・そ、そうなのか?」
まあ園崎は前にも腐女子的嗜好だってこと言ってたしな
「キヒヒヒ、あの子のレイプ願望が滲み出てる秀逸なストーリー展開だよネ」
「レ・・・!?な、なに言ってんだオマエ!?」
さっきからコイツは男の前だってのに、はしたないセリフを・・・・
「キヒヒ、脚本は本人の本質を映す鏡だヨ。・・・まあ、ゆずっちの精神分析は置いといテ、今は僕の絵についてダ」
「絵?デッサンとかそういう事か?」
「うム、どうも僕は等身の高いキャラを描くのが苦手でネ」
言われてみれば確かにユウキに比べてケイトの方がキャラのバランスが悪かったかもしれない
「そこで本題なんだガ・・・君に頼みがあル」
「断る」
「即答かイ?話くらい聞いてくれてもいいじゃないカ」
「いや、絶対ロクなことじゃないだろ」
コイツからの頼み事なんて悪い予感しかしない
「君にデッサンのモデルになって貰いたいんダ」
「ぜってーイヤだ」
ほら、やっぱりな
「いいじゃないカ。別にヌードになれなんて言わないヨ?」
「それでもイヤな物はイヤだ」
俺は頑として拒否するとシェイクのストローを口に咥える
これを飲み終えたら席を立って帰ろう
「なんだイ。ケチだなア。君は優しくて頼めばなんでも言う事を聞いてくれる人だったんじゃないのかイ?」
「誰が言ったそんなこと!?」
「ゆずっち」
「・・・・・・・。」
「『けーごは優しくてボクのゆーことなんでも聞いてくれるんだ』・・・ってニヤけながら言ってタ」
「・・・・・・・・・。」
「なんダ。ゆずっち限定カ・・・。てっきり女相手なら誰でも言う事を聞くんだと思ってたのニ・・・・・・ナニ赤くなってんだイ?」
「いや・・・別に・・・」
なんか顔が熱いぞ
「キヒ、仕方ないネ。それならそれでプランを変更するだけサ・・・将を射んと欲すればまず馬・・・ってネ」
そう言うとサツキはニンマリと笑った
・・・どういう意味だ?
その時、サツキのバッグの中から電子音が響いた
「おっト、ちょうどいいタイミングだネ。前持って布石を打っといてよかったヨ」
そう言いながらバックから取り出したスマホを耳に当てるサツキ
液晶の画面には『公衆電話』の文字が見えた
「ああ、僕ダ。キヒヒヒ、補習は終わったのかイ?」
まさか電話の相手は・・・・・園崎か?
「ちょっと用事があるんだガ・・・・。え?ゆずっちもこれから用があル?・・・・ふーン。どんナ?・・・キヒ、言えないのかイ?・・・・・おっとまだ切らないでくレ。・・・いま僕が一緒にいるノ、誰だと思ウ?・・・・・え?興味無イ?そうかイ・・・これでもそう言えるかナ?」
そう言うとスマホを俺に突き出してくるサツキ
なんか言えって事か?
「・・・えっと・・・園崎?」
『・・・え?・・・け、けーご!?なんでサツキと!?・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・二人で何してるの』
「いや・・・あのな?」
俺が口を開き言葉を発する前に、サツキはそのスマホを引っ込めてしまった
「どうかナ?これで興味出てきたんじゃないのかナ?・・・・キヒヒ、安心しなヨ。まだ何もしてないヨ。まだネ・・・・さア、それはどうだろうネ?・・・・・いまは駅前のハンバーガーショップにいるヨ・・・・あア・・・・じゃ、待ってるからネ。キヒヒ」
そんな言葉を電話の向こうにした後、サツキはスマホの通話を切った
「キヒヒヒ、これでゆずっちは飛んでくるヨ。・・・・補習が終わったら電話してくれって昨日言っといてよかっタ」
「・・・お前な」
俺はそんなサツキに半眼を送る
「実にいいタイミングでかけてきてくれたヨ。ゆずっちがケータイ持ってればもっと楽に話が進んだのにネ」
「お前、園崎を呼んでどうするつもりだ?」
「ン?・・・僕が頼んでも無理そうだからネ。ゆずっちから君に頼んで貰おうかと思っテ」
「園崎が言う通りにすると思うか?」
俺のそんなセリフにもサツキは余裕の笑みを返してくる
「・・・キヒ、ゆずっちの扱いは僕の方が心得てるヨ。あの子はネ、ああ見えて押しに弱いのサ。親しい相手にしつこく頼みこまれたらイヤと言えない性格なんダ。断ることで相手が離れてしまうことを恐れてるんだろうネ・・・・君も覚えておいて損は無いヨ」
そこで言葉を切ったサツキは身を近付け俺の耳元に唇を寄せてくる
「君なラ・・・頼めばどんなコトでもシテくれると思うヨ・・・どんなコトでも、ネ・・・キヒ」
サツキはそんな悪魔の囁きにも似た言葉を吐くと再び身を離した
耳に残ったサツキの言葉が呪いの様に意識の奥に染み込む
園崎が・・・・どんな・・・コトでも・・・
「キヒヒヒ・・・イロイロとあるんじゃないのかイ?ゆずっちにシテ欲しいコト・・・ゆずっちにシたいコト・・・ゆずっちとヤリたいコト・・・キヒ、キヒヒ」
「う、ぐ・・・やめろ!」
サツキの言葉に、俺の脳内に様々な園崎との淫らな妄想が漏れ出てくる
普段は心の奥底に閉じ込めているモノ・・・
『プライベートな時間』に密かに解放するその妄想が・・・堰を切ったように溢れ出てくる
「キヒ・・・それは悪いコトじゃないヨ。誰でも心の中にある欲望サ・・・・もちろんゆずっちの中にモ・・・おっト、お喋りが過ぎたかナ?・・・あまり余計なことを言うとゆずっちに殺されル」
サツキはそんな物騒な事を言うと、可笑しそうに肩を揺すって笑った
「ン?・・・・・・・・おおー、さすがゆずっち。速い速イ」
サツキのセリフに我に返り、窓の外に視線を移すと道の向こうに園崎の走ってくる姿が見えた
有り得ないくらいのスピードでグングン近づいてくる
「・・・あレ?なんか逆上してル?・・・話し聞いてくれるかナ・・・」
サツキが苦笑いでそんな事を言った
そうこうしている内に園崎は既に店の目前へと迫っていた
振り乱れた髪の間から覗いたその目が一瞬見えた時、俺の全身にぞくりとした寒気が走った
あれ?店内の冷房、急に強くなった?
そんな事ないよな?
自分の身体に起きた妙な変調に小首を傾げていると、園崎が勢いのまま店のドアを荒々しく開き入ってきた
「やア、ゆずっち。早かったネ」
サツキが片手を挙げ、しゃあしゃあとそんなセリフを吐く目前に、園崎は足音も荒く歩み寄る
そして俺とサツキ、並んで座るカウンター席の丸椅子の間に無理矢理身体を割り込ませてきた
「・・・貴様・・・何・・・してる?・・・」
少し上がった息でサツキにそう問い詰める園崎
「別に何モ?・・・ただ隣同士座って飲み物飲んでただけサ」
静かな怒りを纏った園崎にもサツキは余裕の表情だ
「けーごにヘンな事したら・・・いくら貴様でも、絶対、許さないからな・・・」
俺を背中に隠すようにして押し殺した声でそう言う園崎に、サツキはニンマリした笑みで返す
「キヒ、恐いなア・・・。ま、安心しなヨ、ゆずっち。君の大事なよっしぃには指一本触れてないからサ。君を差し置いてヘンな事なんてしないから安心しナ」
「・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・。」
無言で対峙する女二人に、俺は口を挟む事もままならず身を固まらせた
俺としてはサツキがいま口に出した『よっしぃ』ってのが俺を指してるのかについて問い詰めたいところなんだが・・・
それはそれとして・・・
無理に身を挟んできた園崎の・・・
お尻がさっきから太ももの辺りに押し付けられてて気持ちイイんですけど・・・
その柔らかくてあったかい感触に加えて・・・
目の前にある園崎の背中は、汗で濡れたシャツが張り付いて・・・
ブラ線がくっきりと刻まれていた
まるで修羅場じみた緊迫した状況だというのに・・・俺の肉体の一部分は男の本能に忠実に従い、硬化して棒状になっていく
見境ないな!少し空気読めよ!
「けーご!ホントに何もされてないんだな?」
「うおぅ!?」
園崎が身を反転させると、今度は俺にそう確認してくる
「あ、ああ。何も。されてない。大丈夫」
俺は動揺して強張る舌で途切れ途切れにそう答えるが・・・
えーと、今度は二の腕辺りにその豊満な胸が押し当てられてきてるんですけど・・・
熱を帯びた二つの膨らみ・・・
その谷間の辺りから立ち上る、いつもの園崎の甘い匂いに加えて・・・
微かな汗の匂いが混じり、物凄く官能的な香りが醸成されている
はっきり言って・・・スゲェエロい匂いだ
それはオスの本能を刺激する・・・芳醇なメスの匂い・・・
「けーご?」
園崎の少し困惑の混じった声に我に返る
「どーかした?」
「な、なんでもないなんでもない!・・・そ、園崎、汗すごいぞ。ほら・・・」
園崎の匂いに発情してしまったことを気取られないか焦り、俺はそう誤魔化しながらハンカチをポケットから取り出した
そしてそれで彼女の額と、あごを伝う汗を拭ってやる
「ふあ・・・・アリガトけーご・・・優しい」
園崎の顔がとろんと緩む
あー、めちゃくちゃ可愛い
・・・めちゃくちゃにしたい可愛いさだ
「・・・ふうン。キミってやっぱ『たらし』なんだネ。ゆずっちメロメロじゃン」
「だ、誰がたらしだ!?」
「メ、メロメロってなんだよ!?」
背後から半眼を送ってくるサツキに、俺と園崎は焦った声で同時に吠えた
「まあイチャつくのはその辺にしてサ、僕の話しに戻させてくれないカ?」
「こふんこふん・・・、そもそも話ってなんだ?大体けーごとどんな関係がある?」
「いや、それがな・・・」
俺は先ほどサツキから持ち掛けられた頼みを、かい摘まんで園崎に説明した
「フン・・・話にならんな・・・。経吾が断ったんだ。ボクが一顧だにする価値も無い」
話を聞いた園崎はそう無下に言い捨てた
「そんなこと言わずにゆずっちからも頼んでくれヨ。彼をモデルにデッサンすれば僕の作品の完成度は飛躍的に向上するはずダ。・・・それにゆずっち、そもそも圭人のモデルは・・・」
「わーっ!わーっ!わーっ!!!・・・・と、とにかく無理な物は無理!・・・い、行こう、けーご」
なおも言い縋るサツキに対し、園崎は俺の腕を取り歩き出そうとするが・・・園崎のその腕と逆の腕をサツキが掴んできた
「しつこいぞ、サツ・・・!?」
掴んできた腕を振り解こうとした園崎がその言葉を思わず途中で止める
サツキの表情は・・・先ほど俺に見せたものと同じ、とても真剣なものだった
「夏は受験生にとって重要な時期ダ」
「・・・何を言っている?」
突然関係無い話を始めたサツキに、その真意が計りかね困惑する園崎と俺
しかしサツキは俺達に向け、静かな・・・しかし確固たる意思の光の宿る瞳で言葉を紡いでいく
「一流の国立大学志望ともなれば二年生の今から合格を目指し努力を重ねる者もいル」
俺の脳裏に先日の委員長との事が浮かぶ
「僕はこれでもプロの漫画家を目指していル。真剣ニ。・・・しかしプロになど簡単になれない事も承知していル。漫画家を目指す者は多いが、なれるのは実力のある一握りの者だけダ。それはある意味一流大学の合格率より僅かかもしれなイ・・・・大学進学を目指す者と同じく、僕はこの夏の時期を重要に考えていル・・・来月に開催される国内最大の同人誌イベント。僕はいま、そこで出す新刊の原稿を描いていル。自分の実力がどの程度のものか・・・買い手の反応でそれを確かめるつもりダ・・・」
サツキはそう一気に喋ると、目を伏せ静かに長い息を吐いた
そうしてから再び目を上げ、園崎の瞳に眼差しを向ける
「ゆずっち・・・この僕の夢、キミも他の連中みたいに低俗でくだらないものだと・・・嗤うカ?」
微かに気弱な響きを含んだ声のサツキに、園崎は正面からその瞳を見つめ返す
「そんなことは・・・そんなことはない!サツキがマンガを描く事に対してどれだけ真剣なのか、手伝ったことがあるボクはよく判る!それは決してくだらないことなんかじゃない!大学に進学することと比べ、なんら劣るところなどない素晴らしい目標だ!」
「ありがとうゆずっち。キミなら・・・そう言ってくれると思った」
サツキは園崎の力強い言葉に、柔らかく顔をほころばす
「その上での頼みダ・・・協力、してくれないカ?」
そう言うとサツキは真摯な顔で頭を下げてきた
それを見た園崎の表情には、先ほどまでとは明らかな違いが見て取れた
その要求が園崎自身に対しての要求だったら、彼女は間違いなく聞き入れていたろう
しかしこの頼み事の決定権は俺にある
「・・・けー・・・ご・・・」
園崎がどこか縋るような眼差しを向け、弱々しく俺の名を呼んだ
ここで俺は・・・あくまでも断り、立ち去ることは出来る
だがそうした場合、園崎はサツキに対して多少の心苦しさを感じるだろう
なんだかんだ言って園崎は根が優しいからな
好きな女の子にそんな気持ちを抱かせる展開は、俺としては望むところではない
「はあ・・・」
俺は観念して溜め息をひとつついた
「・・・判ったよ。協力する。俺の出来る範囲内でだけ、な」
「けーご・・・」
俺の言葉に園崎が自分の事のように顔をほころばす
「よっしぃ・・・」
そしてサツキも表情を明るくする・・・って、やっぱり『よっしぃ』って俺の事なんだな!?
「ありがとウ、ゆずっち。キミのお陰ダ」
「た、ただし!その場にはボクも立ち会わせて貰う。それが絶対条件だ」
サツキの礼の言葉に頬を赤らめながら園崎はそう言った
「そりゃあ構わないけド・・・別に心配しなくても二人っきりになったからってヘンな事しないヨ?・・・まあ、よっしぃの方からしてきたら考えるかもだけド」
「な!?」
いつもの調子に戻ったサツキがニンマリ笑いながらそんな事を言い、園崎が絶句する
「し、しねえっての!」
サツキの失礼な言い掛かりに俺は全力で否定した
「でも、ゆずっち今日は用事あるって言ってなかったかイ?」
「う、それは・・・無くなった」
サツキの問い掛けに園崎が一瞬言葉を詰まらせたあと、そう答える
「ふーン・・・どんな用事だったんだイ?」
「・・・サツキには関係無い」
なおも突っ込んだ質問をしてくるサツキに、園崎はそう言って突き放した
どうやら俺の部屋で勉強会してるのは秘密にするつもりようだ
まあ、サツキがそれを知ったら、あること無いこと勘ぐられておちょくられるのは目に見えてるからな
俺もだんまりを決め込むのが吉だろう
「・・・ま、いいけどネ」
顔を赤らめそっぽを向く園崎にサツキが見透かしたような視線を送りニヤニヤと笑った
サツキの『お礼の前払いとして奢るから』との提案で、俺達はその場で昼食をとることになった
ハンバーガーもたまには悪くない
俺、実はこれに入ってるピクルスは結構好きなんだ
「あ、けーご。ついてる」
園崎が俺の口元についたケチャップを紙ナプキンで拭いてくれた
「あ、ありがとな、園崎」
「ダメだナ、ゆずっち」
俺の言葉に被せてサツキが口を挟んでくる
「そういう時は舌で舐め取ってあげるもんだろウ?」
「な!?・・・そ、そんなこと人前で出来るか!」
「人前じゃなきゃやるんダ?」
「うぐ」
園崎が真っ赤な顔で絶句する
やはりこの二人の関係はサツキのほうが一枚上手のようだ
園崎がいいように弄ばれている
「よっしぃだってそれを期待してわざと付けたのニ・・・気が利かないなア、ゆずっちは」
「そ、そうだったのか!?けーご」
「おい!?変な言い掛かりは止めろサツキ!園崎もコイツの言うことを真に受けるな!」
サツキと園崎、双方にツッコミを入れる
・・・サツキの奴、俺までからかいの対象に考えてやがるな・・・
はあ・・・先が思いやられる
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「え?ここ?・・・・・・・・・・・マジ?」
サツキと園崎、並んで歩く二人の後をついて歩いていた俺は、彼女達が入っていった建物の入り口を前に、呆然として二の足を踏んだ
昼食を済ませた俺達はそのあと駅から電車に乗り込んだ
降りた駅は園崎の家がある街
園崎の家の方と反対方向の改札から駅舎を出て徒歩数分
目の前にそびえ立つ高級感溢れるマンション
・・・なんかテレビのワイドショーとかで見る『有名芸能人の自宅』みたいな雰囲気だ
その入り口の自動ドアを、前を歩く女子二人が躊躇いもなく入って行った
「ん?どうかしたかイ?」
足を踏み込めず立ちすくむ俺に、サツキが不思議そうな顔で振り向いた
「念のため聞くけど・・・ここがお前んち?」
「んー?家っていうか部屋?実家は別にあるかラ」
事もなげにそう言うサツキに俺はただ絶句するしかなかった
「経吾、サツキはボクみたいな『社長令嬢のスペア』なんかと違って正真正銘の『社長令嬢』なんだ。そもそもこのマンションの建物自体がサツキの親の持ち物でな。ここの13階ワンフロアがまるまるサツキの部屋なんだよ」
「・・・・・・・・。」
園崎の説明に俺はコメントの言葉が見つからず、ただ驚き呆れるしか無かった
意を決し恐る恐る自動ドアをくぐる
やたらと広い玄関ロビーの先
奥にもドアがある
ドア脇にあるセキュリティの認証パネルらしき物にサツキが番号を入力すると奥の自動ドアが開いた
そこを越えるとエレベーターホールになっており、左右2つずつドアが並んでいる
その内のひとつに歩み寄ったサツキが『上昇』のボタンを押す
ほどなく開いた扉からサツキを先頭に箱に乗り込んだ
・・・あれ?13階って言ってなかったか?
行き先を示すボタンは12までしかない
困惑する俺の前でサツキは『閉める』のボタンを押しながら『10』、『4』、『10』、『10』 と順番に押していく
最後に『閉める』ボタンを離すとエレベーターは静かに上昇を始めた
「キヒヒ、いいだろウ。パパにねだって特注で作って貰ったんダ」
・・・なんというか・・・ツッコむ気力すらくじかれた
「・・・まるで秘密基地だな・・・・」
俺が呆れてそう言うとサツキは満面の笑みで笑った
それはいつもの不敵さを演出した、作られたものと違って・・・子供が見せる悪戯っぽい笑顔に近い
「サツキは戦隊モノとかも大好物だからな・・・」
隣で園崎がため息混じりにそう言った
電光パネルのデジタル表示が『12』を過ぎ『13』になり、エレベーターが静かに止まった
扉が開き、降りるとそこは足が沈み込むくらいのフカフカなカーペットの床、目の前には両開きの木製のドア
「・・・まさかメイドとかもいるんじゃないだろうな?」
呆れ返った俺は冗談のつもりでそう言ったのだが・・・
「まさカ。せっかくの独り暮らしにそんなのが居たら息が詰まるだロ?・・・まあ、月に1、2回掃除には来て貰ってるけド」
「って、居るのかよ!?」
「実家の方にはネ。でも3、4人だよ。萌えアニメみたいに十数人居るなんてこともないシ」
・・・なんか色々と一般人とは掛け離れ過ぎてて、もうツッコむ気力も湧かない
「と言うわけで他に誰もいないから気兼ねしないで入りなヨ」
サツキに促され俺は園崎と共にサツキの『部屋』へと足を踏み込んだ
あれ?・・・そういえば女の子の部屋に入るのって園崎に続いてサツキが人生2人目なんだけど・・・・・
なんのときめきも感じない・・・
「まア、少し散らかってるけど気にしないでくれヨ」
そう言ってサツキが俺達を通したのは、アホみたいに広いリビングだった
まるで旅館の宴会場だ
もちろん畳敷きじゃなくてフローリングだけど
窓際にソファーとテーブルの一揃えがあるくらいで意外と殺風景な感じだ
「別に散らかってもいないじゃないか」
俺が素直に感想を述べると隣の園崎が溜め息を一つついた
「そりゃサツキはいつもコタツのある部屋に篭ってて、ここはほとんど使ってないからな・・・あの部屋なんて酷いもんだぞ。服は脱ぎ散らかしてあるしコタツの周りにはマンガやらCDやらDVDやら、お菓子の空袋にペットボトルなんかが散乱してる・・・」
「おいおいゆずっち、乙女の部屋の秘密を簡単にバラさないでくれヨ」
園崎の解説にサツキがさして気にもしてない声でそう言った
「・・・コタツ?」
今は真夏だぞ?
「判ってないネ。冷房をガンガンに効かせた部屋でコタツに入ってヌクヌクするのが最高なんじゃないカ」
・・・なんて電気代の無駄・・・金持ちには関係無い話なのか・・・
「そしてそこから一歩も動かず手の届く範囲に物を置くとあのレイアウトになるんだから、仕方ないことだロ?」
・・・ズ、ズボラ過ぎる
「まあそんなことはどうでもいいじゃないカ。それより早速始めていいかナ?」
「・・・分かったよ」
こっちとしてもさっさと始めてさっさと終わらせたい
「キヒ・・・奢った分は働いて貰うからネ。・・・じゃ、二人ともよろしく頼むヨ」
「・・・へいへい・・・・・・・・・・二人とも?」
俺はサツキのセリフに違和感を感じ、聞き返した
「ああ、せっかく二人いるんだからさ・・・・・・
カラミをやって貰おうと思って」
「・・・カラミ?」
「・・・・・・・。」
「・・・・・・・。」
俺と園崎はサツキの言葉に、しばし見つめ合う
カラミ・・・からみ・・・・・絡み!?
「「なんだとおぉぉぉ!!??」」
俺と園崎、驚愕する二人の声が、ハモった
(つづく)
【あとがき】
いつもお読みいただきありがとうございます
お蔭様で累計PV100,000アクセスを超えました
これからもよろしくお願いします
学生の方々はもう夏休み終わりですよね。
しかし物語中ではまだまだ続きます。てゆーかまだ7月…
お察しでしょうが次回は少々えっちぃ成分が増加いたします
苦手な方はご注意下さい




