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プロミステイク ~俺と彼女の中二病的恋愛遊戯~  作者: 阿津沼一成
第2章 サマータイム・ラプソディ
50/90

第50話 Summer Date act.1 B-side 〈Movie Theater〉

「そろそろ行くか・・・」


園崎が壁の時計に視線を向けるとそう言った


「ん、そうだな」


俺はグラスに残ったカフェラテを飲み干すと椅子から腰を上げた


「・・・・・っ!?」


立ち上がる瞬間・・・前屈みの姿勢になった園崎の胸元に視線が引き寄せられる


・・・っと、マズイ

つい反射的に目が行ってしまった


見咎められてないか恐る恐る園崎の顔を見ると・・・・何故か園崎は目を見開いてその身体の動きを止めていた


「・・・・今、チラッと・・・けーごの・・・ちく・・・見え・・・・おふぅ・・・」


俺のやらしい視線には気付かなかった様だが・・・何故か口元を緩ませ謎の呟きを漏らしている


「・・・えっと・・・園崎?」

「はうっ!?・・・・なんでもないなんでもないなんでもない!!」


俺が声をかけると園崎は弾かれたように動きを再開させた


「べ、別になんでもないから・・・き、気にしないで?」


挙動不審にそう言いながら立ち上がり、テーブル脇に出た園崎の姿に俺は改めて目を奪われた


テーブルに座っている時はその陰で気付かなかったが、今日の園崎の格好はいつものお嬢様然とした装いとは異なり、活動的なオシャレ女子っぽい姿だった


上は黒のキャミソールに白い半袖シャツ、そこにブラウンのベストを重ね着している

下はダークブラウンのショートパンツ、足元はちょっとヒールの高いブーティー


はっきり言って物凄く可愛い


俺は声も出せず呆けたように見惚れてしまった


そんな俺の態度をどう受け取ったのか、園崎は急におろおろと所在なげに瞳を揺らし始める


「あの・・・・・・あたし、変?・・・・・おかしい・・・?」

「いや・・・その・・・・」


俺は咄嗟に言葉が見つからず口籠もる


「やっぱり!?・・・・・あたし・・・・この服、し・・・失敗した!?」

「いやいやいや!変じゃない、変じゃない!ってゆーかスゲえ似合ってる。メチャクチャ可愛い!!」


園崎の目尻に涙が滲み始めたのを見た俺は思わず思い付く限りの賛辞を口にした


「ふ、ふわっ!?か、可愛・・・・・!?」

「う・・・いや・・・その・・・・」


俺のセリフに園崎は目を丸くしたあと・・・・顔を真っ赤にして俯いてしまった


・・・・俺ってば咄嗟になんて恥ずかしいセリフを・・・・

だが、一度口に出した言葉を取り消す事など出来ない


「そか・・・・変じゃない・・・か、・・・・・・か、か、か、かわ・・・い・・・・、えへ、えへへ・・・」


園崎は両手を頬にあて身をよじるようにしてそんな呟きを漏らしている


スゲえ恥ずかしいこと言っちゃったけど・・・・園崎喜んでるみたいだし・・・

勢いで口走った甲斐はあったと思っておこう


「えっと・・・その・・・・いつも『姉のお下がり』というのもどうかと思って・・・初めて自分で買ってみたんだ・・・と言ってもよく分からなかったから、マネキンの着てたのをそのまま全部買ったんだけど・・・」


園崎は目を泳がせながらこのコーディネイトの種明かしをしてきた


まあ、慣れない買い物だろうし自分で考えるよりその方が無難と言えるだろう

てゆーか、並のファッション誌モデルなんかが着るより園崎の方が数倍カワイイんじゃないだろうか?


少なくとも俺にはそう見えた


「そ、そうなのか・・・、でも、よく似合ってる、うん。悪くない・・・・てか、すごくイイ」


いまさら恥ずかしい褒め言葉の一つや二つ追加するくらい・・・どおってことねえ

開き直った俺はそんな言葉で園崎に笑いかけた


「う・・・あ・・・あ・・・アリガト、けーご・・・」


俺の追加投入したセリフで園崎の顔は茹でダコのように真っ赤になり目がとろんと緩む


・・・その表情を目にした俺はセリフを言う恥ずかしさを超えた妙な満足感と・・・えもいえぬ快感を感じた


俺の発した言葉が園崎を悦ばせたという・・・そのことに


◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆


「けっこう混んでるな」


夏休みということもあり映画館のロビーはかなりの人で溢れていた


「くく・・・・自分たちがモルモットにされるとも知らず・・・・愚かな連中だ」


園崎がそんなセリフで周りを睨め回す


・・・やれやれ


しかしホラー映画という内容から客は家族連れではなくカップルが大半だ

否が応にも傍らに立つ園崎を意識してしまう


俺達も周りから見ればカップルに見えるのだろうか?

そんな事を考えていると・・・


「!?・・・そ、園崎!?」


不意に園崎が俺の腕に自分のそれを絡めてきた

突然のその行動に狼狽える俺に園崎が潜めた声で説明してくる


「け、けーご・・・・こ、これは・・・・・・カモフラージュだ」

「カ・・・、カモフラージュ?」


「そうだ。ボク達の実験を悟られる訳にはいかない。怪しまれないように・・・ま、周りの連中に合わせるんだ」


そ、それってつまり・・・・恋人同士のフリをしろってことか?


「わ、分かった」


人前で身を寄り添うことに多少の気恥ずかしさがあるものの、周りは皆んな同じような状態だ


誰も俺達に気を止める者はいない

この際、恋人気分を味わうのも悪くないだろう


「園崎は映画とか、よく観るのか?」


俺は取り敢えず無難な話題を園崎に振った


「いや・・・・。経吾は?」

「俺もあんまり。映画はテレビで放送されるのを観るくらいかな。映画館に来たのも数年ぶりだし」


中学の時はたまに姉さんに付き合わされた


「そうか。ボクは映画館自体初めてなんだ」

「そうなのか?」


「うん、だからちょっと憧れてたんだ。マンガなんかでは定番の舞台だからな」


確かに定番だな。ラブコメなんかのデートの舞台として


・・・・考えたら俺だって女の子と映画館なんて人生初の経験だ(姉さんを除く)


カノジョのいない男子としてはマンガでそんなシーンを読むたびに主人公に自分をなぞらえ、いつかは俺も・・・なんて夢膨らませたりする憧れのシチュエーションだ


それが不意にタナボタ的に我が身に訪れようとは・・・・


もちろん園崎の意図は別にある


これはあくまでも園崎の言う『部活』であり、恋人同士の行う『デート』なんていう甘い行為ではないのだ


俺はそれを十分に心得て舞い上がらないようにしないと・・・・・

変に浮かれて勘違い野郎と思われるのはみっともないしな


◇  ◇  ◇  ◇  ◇


ホールに入り、二人並んでシートに座る


・・・・いかん、緊張してきた


思えば俺、あんまりホラー物見ないから耐性低いかも・・・・

園崎の前でビビって情けない姿を晒さないよう気を付けなきゃな


「けーご、どうかした?」


俺の緊張を読み取ったのか園崎が声をかけてきた


「いや、なんでも」


俺は平静を装いそう答えた


ホール内の照明が落ち、暗闇が訪れる

そして長い新作予告の後、映画本編が始まった


・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・結構。


いや・・・・





かなり怖えェ!





館内のそこかしこで悲鳴が上がっている


薄暗がりの中、女の方が男の腕にしがみついたり、男が女の肩を抱いたりしてカップルの密着度が増している



よし、『恋人同士のフリをしろ』って園崎もさっき言ってたし、肩でも抱くか


・・・って、出来るか!


自慢じゃないが俺にそんな度胸は無い!



しかし、さすがは園崎だ


周りの女達がきゃあきゃあ言う中、微動だにしていない


やっぱ中二病、耐性高・・・・・



・・・・・・?



園崎・・・・固まってないか?


微妙に目も涙目になってる気がするし


暗がりの中でも分かるくらい青ざめた顔色をしている




・・・えっと




「園崎?」

「ひゃああああああああああああああああああ!!??!!!?」


うわっ!?


耳元に口を寄せ名前を呼んだ途端、園崎はホール内に響き渡る悲鳴を上げた


「きゅ、きゅ、急に声かけないでよぉ!びっくりするじゃない!!けーごのばかぁ!」


「ご、ごめんな園崎。驚かすつもりじゃ・・・」


取り乱す園崎に俺は慌てて謝った


「うそだ!けーごのいじわる!うああああああああぁぁあぁん!!もうやだ!こんなとこ出る!わあぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」


大粒の涙を流しながら泣きじゃくる園崎を、俺は必死に宥めながらロビーへと連れ出した


◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「えっと・・・・落ち着いたか園崎?・・・・ご、ごめんな?」


ロビーの片隅にあるソファーで俺は俯く彼女に何度目かの弁解の言葉をかけた


ホールの暗がりから出ると園崎は多少の落ち着きを取り戻した

ソファーに座らせると俯いたまま黙り込んでしまい、俺はおろおろとするばかりだった


「なあ、園さ・・・・」


何度目かの呼び掛けの後、園崎が突然むっくりと顔を起こした


「だ、大丈夫か?園崎」

「へ、平気だ・・・・・心配かけたなクロウ」


よかった、いつも通りの園崎のようだ


「ま、まさか人の感情のうねりがこれ程のものとはな・・・・」


赤い頬でそんな意味ありげな事を言い出す園崎に俺は僅かに戸惑う


「えっと・・・・なんだって?」


「ひ、人々の生み出す恐怖感の波動が強すぎて、あてられてしまったようだ・・・・まさかあれ程とはな・・・・取り込もうとした感情の塊にこの身を支配されようとは思いもよらなかったよ・・・」


そう言いながら園崎は僅かに赤みの残る頬でニヒルに笑った


・・・あー、なるほど・・・・


さっき取り乱したのは本当の自分じゃないと・・・・そう言いたい訳ね・・・・


回りくどい照れ隠しだな

可愛いっつーの


ま、合わせてやるか・・・


「じゃあ実験は失敗って訳か?」

「そ、そうだな・・・もう少しで何か掴めそうだったんだが・・・」


「じゃあ戻って続き観るか?」

「ひうっ!?」


俺の言葉に園崎が短い悲鳴と共に顔を引き攣らせる


「いや・・・でも・・・それは・・・・」


あからさまに狼狽え始める園崎


そんな園崎の姿はちょっと貴重で可愛いらしいが、あまり苛めるのも可哀相だ


「それとも少し時間早いけど、昼メシでも食べに行くか?」


俺が代替案を出すと園崎は迷わずそちらを選択してきた



そんな訳で、女の子との初めての映画は途中退場という形で終わった


映画館を後にした俺達は食事の後、折角なので夏の街へと繰り出した


久しぶりにゲーセンに入ったりいろいろと店を覗いたり・・・


たっぷり夕方まで遊んだ後、俺達は駅前で別れた


◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆


自分ちの方の駅に戻り、駅舎から出たところで犬を連れたサクマに会った


「あ、先輩。今日はお仕事お休みだったんですね」

「ああ・・・、お前は犬の散歩か?」


サクマの格好はオレンジのキャミソールにデニムのホットパンツだった


それなりに露出度の高い格好なのにあまり色気を感じないところが流石サクマだ


「・・・・先輩。いますごい失礼な事考えてますよね?」

「・・・・・・なんのことだ?」


相変わらず勘の鋭い奴だな


「・・・・まあいいですけど・・・・そんな事より先輩、靴紐ほどけかけてますよ」

「今日の靴に靴紐はねえよ!それセクハラか!?セクハラだろ!?」


なんか午前中にも誰かに同じ事言われたぞ


「な、何言ってんですか先輩。そんな訳ないじゃないですか・・・・・チッ」

「なんだ今の舌打ち・・・・」


「いえ別に・・・・見えたところで減るもんじゃあるまいし・・・・」

「なんか言ったか?」


「いえ別に・・・・」


俺がジト目で睨むとサクマは目を逸らした


・・・・・ったく、俺の周りの女どもは・・・・


「あー、先輩はどこかお出かけだったんですか?」


並んで歩くサクマが話題を変えてくる


「んー、まあな」


まさか『部活』なんて言える訳もなく俺は曖昧な返事を返した


「あ、そっか。なるほど分かりました!園崎センパイとデートだったんですね」


そんな事を言い出したサクマに俺はジト目を送る


「・・・違うっての。ただ一緒にお茶飲んで映画観て食事して街をぶらついて来ただけだって」


俺の返事に冷たいジト目を返してくるサクマ


「先輩・・・・・、それを世間じゃデートって言うんですよ」

「・・・・え?・・・・・あれ?」


言われてみれば・・・・そうなのか?


・・・いや、だけど・・・・・


「どーしたんですか先輩?・・・・・あ、二人でのお出かけが自然過ぎてデートって自覚が無くなって来てるんじゃないでしょーね?」


「へ?」


「倦怠期ですか!?マンネリ感じちゃってるんですか?まさか・・・園崎センパイに飽きちゃったんですか?・・・・・・いえ、それ以前に女の子に飽きちゃったんですか?新しい気になる人とか出来ちゃったんですか?例えばバイト先とかで!!!!素敵な男性とかに出会って心奪われてしまったりとか!?」

「ナニ言ってんの、オマエ!?」


矢継ぎ早に意味不明な事を口走るサクマ


ちょっと目がイっちゃってて恐い


「こふんこふん・・・・スミマセン、ちょっと妄想が現実世界に侵食してくるのを制御できませんでした」


・・・・大丈夫かコイツ

暑さで脳がやられてんじゃないだろうな・・・


「とにかく!身の入ったデートをしてあげないと園崎センパイに失礼ですよ。いくら園崎センパイの方が義川先輩にベタ惚れだからってそれに胡座をかいてたら、いつか愛想を尽かされますからね!?」


なにかを誤魔化すようにそんな説教を半ギレでしてくるサクマ


園崎が俺にベタ惚れとか・・・相変わらずサクマの勘違いは激しい


俺の方はともかく・・・園崎は俺に対してそんな感情は・・・持ってない・・・ハズで


そもそもあれは『部活』であって『デート』なんて男女の甘い行為じゃない


それなのに俺がそんなに気合い入れてたら引かれるかもしれないじゃないか

園崎にとっての俺は・・・『親友』・・・なんだから


・・・・・・・・・・・・・。


この休みの間に・・・俺は園崎との関係が変わるような『何か』を思い切ってすべきなんだろうか


それとも安全策を取って・・・現状維持?


答えの出せないまま俺はサクマと別れ家路へとついた


(つづく)


【あとがき】


お盆です・・・仕事はお休み。

せっかくの5日間の休日、有意義に過ごさねば・・・


自分を高める為にはやっぱり修行ですよね。


武道家にとって修行といえば「山籠もり」・・・

俗世から自分を切り離し、ただひたすらストイックに心身を研ぎ澄ます・・・


でも自分は武道家ではないので山ではなく家に籠もることにしました。


「家籠もり」・・・・俗世から自分を切り離し、ただひたすらストイックに心身を研ぎ澄ま・・・あれ?なんか違う?


これただの引き籠も・・・・


え?・・・休み明日まで?・・・・・


なんか気付けば無為に過ごしてましたよ・・・・

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