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プロミステイク ~俺と彼女の中二病的恋愛遊戯~  作者: 阿津沼一成
第2章 サマータイム・ラプソディ
49/90

第49話 Summer Date act.1

「いらっしゃ・・・っ!?」


俺のバイト先であるコンビニ


そのドアを開け入ってきた人物にレジカウンター内からかけた声を俺は思わず途中で途切れさせた


身を包んでいるのはゴスっぽい漆黒のサマードレス、手には折りたたんだ黒の日傘


「キヒヒ、なんだイ?その意外そうな顔ハ。僕の顔に何かついてるかイ?」


そんな妙な喋り方でニヤリと不敵な笑みを浮かべる少女は・・・


「お前、確か・・・・サツキ!?」

「キヒ・・・覚えててくれたんダ?良かったヨ、忘れられてなくテ」


サツキは動揺する俺を愉快そうに眺めながらそんなセリフを吐いた


いや、こんな強烈な個性持った奴、忘れようとしたって無理だろ


「な、何しに来たんだ?どうやってここを嗅ぎ付けた?」

「キヒ・・・嗅ぎ付けたとは心外な物言いだネ。・・・なあに、僕の情報網を使えば造作もないことサ」


そんな大仰な言い回しでくつくつと笑うサツキ


・・・園崎から聞いたのか?

いや、違うか?


園崎なら話すどころか逆に隠すような気がする


「キヒヒ、言っておくけどゆずっちじゃないヨ。・・・まあきっかけはゆずっちの不審な態度だったんだけどネ」


俺の疑念を読み取ったようにサツキはそんな言葉を吐く


「でもどんなに探りを入れてもゆずっちは口を割らなかったんでネ。他のルートから情報をリークして貰ったのサ」

「他の・・・ルートだと?」


「クク・・・僕の息の掛かったエージェントはあらゆる所に居るのサ・・・キミの周りにもネ」

「き、貴様一体・・・」


得体の知れない薄気味悪さに背中を冷たい汗が伝う


「しかし成る程ネ・・・情報にあった通りダ。これはなかなかに・・・キヒ・・・キヒヒ・・・・」


サツキはそんな呟きを漏らしながら唇を舌で舐める


そして熱の篭った目で俺と・・・・何故か隣に立つマキさんを交互に見た


「ヒヒ・・・・なかなか創作意欲を掻き立てられる構図だネ・・・いいヨ・・・・実にいイ・・・キヒ・・・キヒヒ」


どこかうっとりした表情で気味の悪い笑いを漏らし続けるサツキ


サツキの放つ異様な雰囲気に俺の精神は耐え切れなくなってきた


「お、お前な・・・用が無いなら帰れよ。営業妨害だぞ」

「なんだイ、つれないなア・・・。まあいイ、今日の所は退散するとしよウ・・・。礼を言うヨ。実にいいものを見せて貰っタ」


サツキはそんな言葉と共に身を翻すと、来たときと同じように飄然と出て行った


・・・何しに来たんだアイツは


去って行くサツキの背中を疲れた気分で見送る


「なあ、今のコってさ・・・義川のカノジョじゃないんだよな?」


マキさんが昨日と同じようで微妙にニュアンスの違う質問をしてきた


「まあ、当然違いますけど・・・」


今のやり取りが恋人同士に見えたらどうかしている





「スッッッッゲエ可愛い娘だったな!!!!」





「・・・・・・・・・・・・・はい?」


ゴメン、ちょっと脳が理解できてない


気を落ち着けて冷静に考えてみる


・・・・・・・・。


・・・・・・・・・・・・・・あれ?


改めて言われてみればいつもそのインパクトに気を取られてそういう風に見たことないけど・・・・・・確かにサツキは顔立ちもスタイルも悪くはない


いや、むしろいい方か?


「あの娘いいよ・・・・すげえイイ・・・・。俺、ソバカスのある娘ってツボなんだよね。あぁ・・・・・あんな可愛い娘に踏んで貰えたら最高だろうな・・・・・」


「はあ!?」


ダメだ!この人色々とダメな人だ!!

俺は本気でドン引きした


「なあ義川、あの娘カレシとか居るのか?」

「・・・・・・・・さあ?俺、そんな親しくないんで・・・・」


「でも知り合いなんだろ?また来るかな?」

「・・・・・・・・さあ?どうでしょうね・・・・」


俺的には二度と来て欲しくないけどな


その後、どうやらサツキに一目惚れしたっぽいマキさんは、何かと彼女について聞いてきた


だが俺の知っている事など名前と年齢(たぶん同い年)くらいだ


何か彼女の事で新しいことが分かったら教えてくれ、と懇願された

バイト先で今後しばらくこの話題が続くのかと思うと気が滅入る・・・


◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆


「ふう・・・今日も暑くなりそうだな」


すでに朝とはいえない時間帯


駅へと向かう道を歩いていた俺は雲ひとつ無い夏の空を見上げて一人ぼやいた


今日は日付の上では日曜日

バイトは休みだった


そのバイト先であるコンビニを横目に駅舎へと入る


切符を買って改札を抜けるとちょうど列車がホームへと入ってくる所だった


・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・


「あら?義川くん?」


開いたドアから車内へ入ると不意に斜め下から声をかけられた


視線を向けるとそこには眼鏡をかけた同級生、委員長とその親友フジモリさんが並んで座っていた


「ああ、委員長。それとフジモリさんも・・・。私服なんて見慣れないから一瞬誰だかわからなかったよ」


委員長は清楚な雰囲気の水色のワンピース、フジモリさんはオレンジ色のキャミソールにデニムのショートパンツ姿だった


「んふふ、見違えた?どう?」


フジモリさんが上目遣いで聞いてくる


「ああ、二人とも夏っぽくていい感じだよ。よく似合ってる」

「んふふ、アリガトー」


フジモリさんはそう言うとにっこりと笑った


あっけらかんとした感じで喋るフジモリさんには、少し気恥ずかしい褒め言葉も軽い気分で言うことができる


「でもあたしも義川くんの私服見るの初めてかも。んー、鎖骨がなかなかセクスィーだね」


今日の俺の格好は首元が開いたVネックのTシャツだ


「セクシーって・・・、それは男として喜んでいいことなのか?」

「もちろん。男のコには男のコのセクシーさがあるんだよ。広い背中とか骨張って長い指とかね・・・まあ、あたし個人の趣味だけど」


「ふーん」


「あ、義川君。そのTシャツだと、かがんだら乳首見えちゃうから気を付けてね」


「・・・・見えたところで誰得?」


フジモリさんのよく分からない忠告に俺は目を半眼にする


「あ、義川君。靴紐緩んでるよ。結び直した方がいいんじゃない?」


「・・・・・・・今日の靴には靴紐なんかないよ・・・」


「ちっ」


・・・・・セクハラか?


「もう・・・ミナってば何言ってるのよ。・・・義川くんはお出かけ?」


委員長がフジモリさんを嗜めながらそう聞いてきた


「んー、まあ・・・ちょっとね」


「あ、ハッキリ答えないってことは・・・・デートとかだったりして?」


曖昧な俺の返事にフジモリさんがそんな事を言ってきた


「・・・だったらいいんだけどね」


俺は視線をそらしながらそう返す


「友達・・・と待ち合わせなんだ。何するかは・・・会ってから決める・・・みたいな感じ、かな」


「あはは、男のコらしーね」


俺の言葉にフジモリさんが可笑しそうに笑う


「フジモリさん達は?買い物?」


これ以上深く聞かれないように今度はこちらから質問を返す


「予備校でやってる夏期講習に行くの。ま、あたしはただの付き合いなんだけど・・・ゆっこは国立大志望だからさ」


「え?・・・・・って、大学受験の!?そんな先の事・・・凄いな二人共」


受験とか進路のことなんてまだ先の事だとタカをくくっていた俺は軽いショックを覚える


「だからあたしはただの付き合いだって・・・凄いのはゆっこ。ゆっこの将来の夢は弁護士になることなんだから」


「弁護士!?・・・・・・すげえ」


でも、なんか委員長のイメージぴったりだ


「そーだよ、ゆっこは凄いんだよ。なにしろ幼稚園の頃からの夢なんだから」

「ちょ、や、やめてよミナ」


「幼稚園!?そんな子供の頃から?」

「・・・その・・・ドラマで見た弁護士に憧れて・・・子供っぽいでしょ?」


そう言って委員長は赤くなるが、弁護士に憧れる幼稚園児って・・・


アイドルや看護婦さんとかじゃなくて弁護士ってあたりが委員長らしいといえば委員長らしい


「でも委員長なら・・・・なれると思うぜ、俺」


「あたしもそう思うよ。義川くんも将来弁護士になったゆっこに弁護してもらう時がくるかもしれないね」


「ちょっと待ってくれ。それは一体どういう状況だ?」


「大丈夫だよ。どんな不利な状況でも、ゆっこなら必ず義川くんの無罪を勝ち取ってくれるよ」


「だからなんで俺が被告人ポジション!?」


そんなやり取りを交わしつつ電車に揺られ、次の駅で彼女達は降りて行った


・・・・・・・・・・。


もう既に委員長は卒業後の進路を定めてそれに向かって努力している


俺には将来なんてまだ漠然としていて想像も出来ない

来年の今頃くらいには大まかにでも見えるようになってるんだろうか?


・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・


・・・・ま、なんとかなるか


しっかり目標を定めて生きるのも人生だが、流されるように生きるのだって人生だ


先生達が聞いたら説教されそうな考えだがこれだって一つの真理だと思う


あまり立派過ぎる目標を設定しちまうと、ダメだった時の挫折感は相当なものになるしな・・・


俺はその都度小さな目標を決めてそれに合わせて頑張ればいい


遠い所に目標を定めてずっと頑張り続けるとか俺には無理だし


◇  ◇  ◇  ◇  ◇


目的の駅に着き列車を降りる


駅を出て大通りから少し入った辺りにその喫茶店はあった

個人経営と思われる落ち着いた雰囲気の店だ


カウベルを鳴らしてドアを開けるとカウンターから『いらっしゃいませ』と声をかけられた


白髪混じりの初老の男性が一人

ワイシャツに蝶ネクタイという出で立ちだ


店の中を見回すと奥のテーブル席に相手の姿を見つけた


カウンターの男性に軽く頭を下げてからそちらへと歩を進める


開いた文庫本に目を落とすその姿は物静かな文学少女然としていた


凛とした美しさを纏ったその姿は一枚の絵画のようにすら見え、このままずっと眺めていてもいいくらいだ


近づいていく俺に気付いた彼女が本に注いでいた視線を上げる



「やあ、おはようクロウ。よく来たな」



予想通りの残念な挨拶に思わず苦笑が漏れる


「おはよう園崎。悪い、待たせたか?」

「いや、お前は時間通りだ。僕が早く来過ぎた」


園崎が壁の時計にチラリと視線を移してからそう言った


「30分ほど前に来たのだが・・・なかなかに待っている時間というのも悪くないものだな」


そう言ってニヤリと笑うと向かいの椅子に座るよう手で促してくる


俺が椅子に腰を落とすと園崎がメニュー表を目の前に広げてきた


「クロウは何にする?」


園崎の前には既に半分ほどになったメロンソーダらしきものが入ったグラスがある


せっかく本格的な喫茶店だし俺はコーヒー系のものを頼むかな・・・


・・・・・・・・・・


・・・・・・・


「で、今日は何をするんだ?『部活』とやらは」


注文を済ませたあと、俺は園崎にそう切り出した


今日は前世研究会の部活をすると言われ、ここに呼び出されたのだ


数日前の勉強会でのこと


土日は補習が無いという園崎に、次の日曜はバイトの休みであることを告げると『じゃあ一日空いてるか?』と問われた


特に予定はないと言うと『じゃあ部活をやろう』ということになった


しかしその場では具体的に何をするかは教えられず、昨日の夜になってから電話でこの喫茶店まで来るよう指示してきたのだ


「うむ、今日は僕達の・・・魔力を補給する方法について実験を行おうと思う」


園崎がおもむろにそんな事を言い出す


「魔力の・・・補給?・・・一体どうやって?」

「うむ・・・その方法だが・・・」


園崎が言いかけた言葉を一旦飲み込む


「・・・失礼します」


初老の店員が俺の注文した飲み物を運んできた


「こちらアイスカフェラテになります」


グラスとガムシロップの小瓶が俺の前に置かれる


「どうぞごゆっくり」


店員は伝票を置き笑顔と共に頭を下げるとカウンター内へと戻って行った


再び園崎が口を開く


「・・・魔力補給のその方法についてだが・・・ある文献を紐とき精読したところ非常に興味深い記述に行き当たった」


「ある文献・・・ね」


俺はグラスにガムシロを注ぎながら園崎がテーブルに置いたカバーのかかった文庫本と思しき本へとチラリと視線を向けた


たぶん・・・ラノベだろう


「それによると魔力の源とは人の心にある恐怖感や不安感など、負の感情であるという」


「・・・へえ」


頷きながらストローでカフェラテを一口吸う


うん、上品な苦みとほどよい甘味だ

美味い


「で、その負の感情をどうやって魔力に変えて身体に取り込むんだ?何か儀式でもするのか?」

「・・・具体的な方法の記述は無かった」


「そうか。じゃあどうするんだ?」

「これは僕の考えだが・・・恐怖感や不安感で満たされた空間に身を置けば、本能的にそれを取り込み吸収して魔力に変換するのではないだろうか・・・例えるなら人間が肺から酸素を取り込むように」


・・・嫌な肉体機能だな


残念ながら俺の身体にそんな器官は無いはずだ


「例えるなら森林浴でリラクゼーションする感じかな?・・・マイナスイオン的な?」


「・・・。」


負の感情でリラクゼーションするって・・・

『負の』感情だけに『マイナス』イオン・・・


いや、これ以上考えるまい


「で、その恐怖や不安で満たされた場所ってのはどこにあるんだ?」


俺はジト目のままストローを吸いながら疑問を返す


「うむ・・・・・まず首都圏において大規模なテロを起こす」

「ゴフッ!?」


吹いた


「・・・というのはもちろん冗談だ」

「シャレにならない冗談をサラっと言うなよ!?カフェラテが変なとこ入ったじゃないか」


むせながらそうツッコむと園崎は愉快そうに笑う


「くはは・・・まだ実験の段階でそんな大掛かりな事はしないさ。確証もないまま行動して当局にマークされるのは得策と言えん・・・日本の警察は優秀だからな。僕達の存在はまだ知られるわけにはいかない」


・・・やれやれ、どこまで本気なんだか


「今回はあくまでも実験に過ぎない・・・誰にも気取られずに行わねばならん」


そう言いながら園崎が傍らのショルダーバッグから紙片を取り出す


「人々の恐怖感と不安感で満たされた閉鎖された空間・・・この近くにおあつらえ向きな所がある」


その紙片をテーブルに置くと指先で滑らすようにして俺の前へと動かしてくる


「今日はこれから・・・二人でここに行くぞ」


不吉なデザイン文字の並んだその紙片は・・・・



新作ホラー映画のペアチケットだった



(つづく)



【あとがき】

なんとか、やっと更新できました。

最近暑いせいか体力低下著しいです。

起きてられません。気付くと寝ちゃってて全然書けない・・・

更新滞りがちですが今後もお読みいただければ幸いです。


お気に入り登録100件超えました。ありがとうございます。

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