第48話 Sleeping Input
「いらっしゃいま・・・せ・・・?」
俺のバイト先であるコンビニ
その入口のドアを開け入ってきた人物に向け、営業スマイルと共に発した言葉を途中から淀ませた俺はそのスマイルを維持したまま目だけ半眼にした
「やあやあ、頑張っとるかね?義川くん」
ニヤニヤ笑いでそんなセリフを吐いてきたのは、この店のオーナーの娘イソハラワカ・・・ワカ・・・えーと・・・イソハラだった
「なんだよイソハラ・・・、どうしたんだ一体?」
「にひひ。いやー、けーちゃんがウチの店でバイトしてるっておとーさんから聞いてね。様子見に来たんだよ」
「・・・からかいに来た、の間違いじゃないのか?」
俺はげんなりとした目でイソハラにそう言った
「酷いなーけーちゃん。あたしはこの店のオーナーの娘。つまりはけーちゃんの雇い主の娘だよ。それなりの態度と言葉遣いってのがあるんじゃないの?」
そんなセリフと共に頬を膨らますイソハラ
「・・・あのな、お前がオーナーから仕事の邪魔だから店には来るなって言われてるの俺が知らないとでも思ってるのか?」
「うぐ!?」
男の職場は聖域であり女子供が無闇に立ち入ることは許されない、というのがオーナーの主義らしい
「わかったら帰った帰った。後でオーナーが来たら言いつけるぞ?」
「くうぅ・・・、けーちゃんの意地悪!覚えてろよ!」
イソハラはそんな捨て台詞と共に店を出ていった
やれやれ、何しに来たんだあいつは・・・
去っていくイソハラを目で追いながら溜息をついていると隣からの視線に気付いた
「?・・・どしたんすか?マキさん」
視線の主は俺と同じくバイトの男性、マキさんだった
歳は俺よりたぶん2、3歳上
大学を中退してフリーターをやってるらしい
「えーと、義川ってさ・・・もしかして和夏奈ちゃんと付き合ってんの?」
「ごふっ!?」
吹いた
「なんすかそれ!?付き合ってないですよ」
マキさんが口に出した素っ頓狂な質問に対し、俺は全力で否定の言葉を返す
「そうなのか?なんか随分親しげだったよな?」
「まあ、お互い小学生の頃から知ってますからね・・・、でもアイツまだ中学生ですよ?コドモと付き合うとかありえないでしょう?」
「そんなことないだろ?和夏奈ちゃんだってもう立派なレディだ。彼氏だって欲しい年頃だろ?」
「・・・アイツがレディ・・・ですか?」
小学生時代の印象が強すぎてガキにしか思えないんだが・・・
「俺なら十分OKだけどなあ・・・」
「・・・通報しますよ?」
マキさんの言葉に軽く引きながら、俺は正義を執行する用意があることを告げる
「なんでだよ!?未成熟な少女を自分好みに作り上げるのは男のロマンだろ?」
うわ!この人、真性か?
ちょっと本気で引くぞ?
「アイツに変な事しようものならオーナーに殺されますよ・・・・太平洋で魚の餌になりたいんですか?」
あの人はかなり重度な娘ラブの親バカだからな・・・
昔、魚屋だった時の人脈で漁師の知り合いが多いらしいし、ちょっと船で目撃者の存在しない場所へ連れて行くことなど造作もないことだろう
「変なことなんてしねーよ!俺はピュアな愛をだな・・・と、いらっしゃいませー」
「い、いらっしゃいませ」
お客が店内に入ってきて俺達の会話は中断された
マキさんは雑談モードから瞬時に仕事モードへとチェンジし俺も慌ててそれに合わせる
切り替え早いな・・・
なんだかんだ言ってもさすが先輩だ
この人のこういうとこは見習うべきだよな。他のとこはともかく・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
「お先にしつれいしまーす」
バイトの時間が終わり、俺はオーナーに向かって上がりの挨拶をかけた
「おう、お疲れさん。・・・大丈夫か?慣れない仕事で疲れたか?」
「いや、平気ですよ」
多少の疲労感を誤魔化しそう答える
「そうかい?ちょっと顔色悪くないか?」
「えーと・・・実は少し寝不足で・・・」
寝不足の原因は・・・詳細な説明は控えさせて頂きたい
思春期の男子には複雑で単純な事情が色々とあるのだ
「そりゃいけねえな。睡眠は健康の基本だ。夏バテしねえように帰ったらしっかり食って昼寝でもして身体を休ませな」
「は、はい。わかりました」
俺はオーナーの言葉に素直に頷くがそれはちょっと出来そうになかった
今日もこのあとは園崎がウチに来る
昨日できなかった勉強会をするためだ
「よっし、今日は特別に俺の奢りだ。店の弁当どれでも好きなの1個持ってっていいぞ」
オーナーは白い歯を見せニカッと笑うとそう言った
「マジすか?ありがとうございます。・・・どれにしようかな」
さっぱりとソーメン?いや、ピリ辛の冷やしラーメンとかも美味そうだよな
そんな事を考えながら選んでいると、
「けーちゃん、そんなんじゃスタミナつかねえぞ・・・よし、これにしときな」
そう言ってオーナーが突き出してきたのは特製鰻重&焼肉弁当だった
「ちょ、オーナー。俺こんなの貰えませんよ」
コンビニ弁当なのに3000円とかするぞ!?
国産鰻と和牛使用とか書いてあるし!
どんな購買層をターゲットにしてんだよ?
「遠慮することねえぞ、けーちゃん。これ食ってスタミナつけて明日からもバリバリ働いてくれよな」
強引に持たされた
「そーいやけーちゃん、例の別嬪さんのカノジョとは上手くいってんのかい?」
「・・・カノジョじゃないですって・・・まあ、普通ですよ。今日もこれからウチで勉強会する予定ですけど」
「へえ!上手くやってんじゃねーか。・・・あー、そーかそーか、寝不足の原因はそれか。つまり昨日はカノジョが寝かせてくれなかったってワケか?けーちゃん、色男も大変だな」
「な!?何言ってんすかオーナー!俺とあの子はまだ・・・」
俺はオーナーの下品な軽口を必死に否定した
・・・まあ、寝不足の原因が園崎だってのには間違い無いんだが・・・
「じゃあなおさらスタミナつけなきゃなあ、すぐにへばっちまうようじゃ、せっかくの別嬪なカノジョに愛想尽かされちまうぞ」
俺の否定など聞いてもいないオーナーはオヤジトークをますます加速させていく
「いいかいけーちゃん。オンナを満足させられるかどうかで男の価値ってのは決まるんだぜ。まあ若いうちは自分が満足することばっかに夢中になっちまうのは仕方ねえ事だがな。だけど、きっちりオンナを満足させてやってこそ一人前の男なんだぜ」
・・・オッサン、ここは居酒屋のカウンターじゃねえぞ
「・・・有り難いアドバイス心に留めておきますじゃあ俺はそろそろ失礼します」
俺はげんなりした気分でそう一息で言うと頭を下げ踵を返す
「よおし、けーちゃん。じゃあこれもサービスしといてやろう。頑張るんだぜ」
オーナーはそう言って弁当の袋に何か強引に突っ込むと白い歯を輝かせサムズアップして見せた
袋の中に視線を落とすと・・・それは栄養ドリンクの小ビンだった
・・・ホントこのオッサンは
げんなりした気分で外に出ると容赦ない日差しが俺を襲った
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――・・き
声が聞こえる
――・・・・き・・・・・けー・・・・き・・・・
混濁した意識の中で・・・微かに誰かの声が聞こえる
――・・・・けーご・・・・好き・・・大好き・・・・・
聞き覚えのある・・・愛らしい声・・・
――けーご・・・あたしのけーご・・・せかいで・・・いちばん好き・・・
甘い声音で甘いセリフが繰り返される
――ずっと一緒にいようね・・・一生一緒にいようね・・・・
くすぐったいくらい甘えた声・・・
――けーご・・・好き・・・好き・・・愛してる・・・
「・・・・俺も好きだよ・・・・愛してる・・・・」
――ふわぁっ!?
・・・・ん?・・・ふわあ?
甘い囁きが急に素っ頓狂なものに変わった
朝もやが晴れるように意識が徐々にはっきりしてくる
俺はゆっくりと瞼を開けた・・・
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ここは・・・・俺の部屋・・・・か?
ぼやけた視界と記憶が段々とくっきりしてくる
ああ、そうだ俺は・・・・
直前までの自分の状況を思い出しながら横に視線を滑らすと・・・驚いたように目を見開き俺を見つめる制服姿の園崎と目が合った
その顔は・・・何故か耳たぶまで真っ赤になっている
・・・・・・・・・。
ああそうだ、俺は園崎と勉強会をしてたんだっけ
バイトを終え家に帰ってしばらく後、園崎がやって来た
昨日のように二人で食事を済ませたあと、部屋に移動して・・・勉強会を始めたんだ
でもしばらくして今日は俺の方が眠くなってきて・・・
睡魔に耐え切れなくなった俺は『10分位眠らせてくれ』って言って・・・ベッドにもたれ掛かった体勢で寝ちゃったんだっけ
「・・・ゴメン園崎・・・・・俺、どのくらい寝てた?」
伸びをしながら園崎にそう問い掛けるが、何故か園崎は慌てたように口をあわあわと動かした
「け、け、け、けーご。い、今・・・・」
「ん?」
「いや・・・あの・・・その・・・・・・・・・なんでもない」
園崎は赤い頬のまま視線をさ迷わせる
「そ、そんなに長くは寝てなかったよ。20分くらい、かな?」
「そっか・・・あ、園崎。これかけてくれたんだ、ありがとな」
視線を下に向けると腹の上にベッドの上にあったタオルケットが掛けてあった
これは俺が寝る時に使っているものだ
「う、うん。エアコンついてるし・・・お腹冷やすといけないと思って・・・」
そう言って微笑む園崎
優しい気配りが嬉しい
「少し寝たおかげでだいぶ頭がスッキリしたよ。園崎ノド渇いてないか?何か飲み物でも・・・」
そう言いながら立ち上がろうとしてタオルケットを持ち上げた俺は、それに気付き再び元に戻した
・・・・・・。
・・・・タオルケットの下で俺のソコはそれとわかるくらい内側からズボンを押し上げていた
あぶねえ・・・これが掛かってなかったら、とても気まずいことになっていただろう
でも、朝でもないのになんでだ?
昼寝くらいじゃこんな状態にはならないはずだが・・・・
まさか・・・あれか!?
せっかく貰ったからと弁当の後に飲んだ栄養ドリンク!
効き目ありすぎだろ!?
スゲえガチガチになっててすぐには収まりそうにないぞ?
「?・・・・けーご、どうかした?」
動きを止めた俺を普段の様子に戻った園崎が怪訝そうに見ている
こ、この状態で立ち上がるのはヤバい
収まるまで時間稼ぎしないと・・・
「えっと・・・さっきの話しじゃないけど・・・寝てる間に色々覚える事が出来たら楽だよなあ」
俺は寝る前に少し話していた話題を園崎に振った
「え・・・・・ふえっ!?」
園崎は何故かまた顔を赤らめた
「ほら、さっき話してた〈睡眠学習〉の話だよ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あーあ・・・、なんでこう暗記しなきゃなんない事が多いんだろーな?・・・・こんなの覚えても社会に出たらなんの役にも立たないだろーに」
テーブルを挟んだ向かい側に座った園崎がそうぼやいた
昼食を食べ終えた後、二階の俺の部屋に移動した俺達は、今日はすぐに勉強を始めた
初めのうちは真面目にやっていた園崎だが、解けない問題の公式を調べながらそんな身もフタも無いこと言い出した
「なんかこう・・・ラクに覚えられる方法はないもんかな」
「そんなのあるわけないだろ・・・地道に書いたり音読したりして暗記するしかないさ」
「脳に直接データを書き込めたりすればいいのに・・・〈テス●メント〉みたいに」
・・・また中二的なことを・・・・SFかなんかのネタかよ・・・・あ!
「そういえば昔、〈睡眠学習枕〉なんてのがあったな」
「睡眠学習!」
俺のセリフに園崎が瞳を輝かすが、
「・・・・枕?」
最後についた単語に眉を寄せる
「人間は睡眠中に記憶が固定される・・・って研究結果があってな」
「ふむ、それはボクも聞いた事があるな」
俺の言葉に園崎が頷きを返す
「なら、覚えたい事をあらかじめ録音しておいて、それを聞きながら眠れば寝てる間に自動的に脳に記憶させる事が出来るだろう・・・って理屈で作られた枕でな。要するにラジカセ内蔵型枕だ」
「おおー、すごいな」
園崎は感心したような声を漏らす
「それで?実際にどのくらいの効果があるんだ?」
興奮気味に身を乗り出してくる園崎に俺はげんなりした目を向ける
「あのな・・・もしそんなすごい効果があればバカ売れして有名になってるはずだろ?・・・まあそういうことだよ」
「なんだ・・・効果無しなのか」
俺のセリフに肩を落とす園崎
「全く無いって事はないかもしれないけど・・・そんな劇的な効果は無いんだろうな」
「ふーん・・・多少の効果は・・・あるのかな?」
「んー、そうだな・・・無意識下には記憶されるのかもしれないけど・・・公式とか年号とか、複雑なものは無理なんじゃないかな?」
「・・・・無意識下・・・か・・・・」
園崎は考え込む様な表情で顎に手を当てた
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
・・・・・さっきそんな会話を交わしていたんだった
「寝てる間に頭に色々インプット出来れば便利なんだけどな」
「・・・そ、だね」
俺が振った話題に園崎は曖昧な返事を返すと目を泳がせた
ん?このネタへの食いつきがさっきと違うな
なんか考え込んでたし『後で試してみよう』とか言い出すと思ったのに
「け、けーご・・・もしかして・・・今までと、何か変わったこと・・・無い?」
「え?変わったこと?」
「誰かに・・・対する・・・感情・・・とか・・・・」
俯きがちにモゴモゴと喋る園崎
なんの事を言ってるんだ
話の流れが見えない
「えっと・・・」
意味を問おうと俺が口を開きかけた時、部屋のドアがコンコンとノックされた
「経吾、開けていい?」
そんな母さんの言葉に考えを止め返事を返す
「ああ、いいよ」
「ホントに?ちゃんと二人とも服着てる?」
「どういう意味だよ!?ちゃんと着てるよ!」
アホなセリフにツッコミを入れると、開けたドアの隙間から母さんがニンマリした顔を出した
「あら?ちゃんと真面目に勉強してるのね。偉い偉い」
「だから勉強会だって言ったろ?・・・・何?」
「んふふふ、柚葉ちゃん真っ赤になっちゃって可愛いー」
母さんの言葉に園崎がますます顔を赤らめ俯く
「からかいに来たのかよ!?勉強の邪魔するなら出てってくれよ」
「差し入れよ差し入れ。ほら」
そう言って母さんが差し出してきた袋にはカップアイスが二つ入っていた
「柚葉ちゃんもバニラで良かった?」
「え?あ、はい」
「経吾はアイスだとバニラが一番好きなのよー」
「そう、なんですか・・・・けーごはバニラが好き・・・ふむ」
母さんの言葉に園崎は何故か真剣な顔で頷く
そんなどうでもいい話に律儀に返す事無いのに・・・
母さんの乱入は予想外だったがそのおかげで俺の肉体の一部の膨張率は危険域を脱し非常事態宣言は解除された
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「いらっしゃい・・・ませ?」
バイト先のコンビニ店内
レジカウンター内から入口に向けてかけた言葉を、俺は途中から困惑したものへと変えた
「おおー、ホントに先輩が店員さんしてる」
そんなセリフと共に店内に入ってきたのは後輩女子サクマだった
「・・・なんでお前がここに?何しにきたんだ一体」
「うぐ。つれないですねー先輩。磯原から先輩がここで働いてるって聞いて、せっかく暑い中わざわざ見ぶ・・・売上に貢献しに来たというのに」
いま見物って言おうとしたよな・・・
「そりゃどーも。・・・向こう側にもコンビニあるのに、ヒマな奴だな」
サクマの家は確か駅向こうにあったはずだ
俺の店員姿を見るために暑い中わざわざ踏切を越えてやってくるとか、ヒマな奴としか言いようがない
「でも夏休みの間だけとはいえ、ちゃんと仕事してお金を稼ぐなんて先輩立派ですねえ」
「・・・そ、そんな大した事じゃ・・・、み、みんなやってることだろ?」
急に面と向かって褒められると・・・ちょっと照れくさい
「まあカノジョがいるとデート代やらプレゼント代やらで男のヒトはお金がかかりそうですもんね」
「・・・いや、別にそんな理由でバイトしてる訳じゃ・・・」
そもそも俺にそんなことをするカノジョなんていない
こいつは誤解したままだが園崎はカノジョじゃないし・・・
確かに一緒に出掛けることもあるし、プレゼントのような物をあげたりしたこともあったけど、それは成り行きだ
決してカノジョとするような甘い行為とは違う・・・と思う
「誤魔化さなくてもいーんですよ先輩。わたし知ってますよお。園崎センパイに色々アクセサリーとかプレゼントしたりしてるの」
サクマはそう言うとニンマリ笑った
「いや、だからそれこそ成り行き・・・あ、いらっしゃいませ!」
俺はサクマへの言い訳を中断し、ドアを開けて入ってきた客へと言葉をかけた
「いけない。ここで長話してたら迷惑ですよねー」
サクマはそう言うとレジ前から離れてスナック菓子などのコーナーへと移動していった
・・・・・・・・・。
・・・・・。
「可愛い娘だねー、カノジョ?」
客がレジ前から引けたタイミングで隣からそう声を掛けられた
「マキさん、昨日もそんなこと聞いてきましたよね。・・・あの子はただの高校の後輩で、カノジョとかじゃないですから」
俺がそう答えるとマキさんはなおも疑うような眼差しを向けてくる
「そうなのか?それにしちゃ随分と親しげだったよなあ?」
「そんなことないですよ、普通です」
親しげに見えるのはサクマが人懐っこいタイプだからだろう
妹キャラ的というか・・・親戚の子的というか・・・
端的に言うと・・・『オンナ』を感じさせないタイプだ
「・・・先輩、今すごく失礼な事考えてません?」
掛けられた声に振り向くとジト目のサクマがレジ前に立っていた
「失礼な事って・・・何が?」
俺は平静を装いそう答える
・・・この妙な勘の良さは確かに『オンナ』と言えるかもしれない
「・・・ま、いいですけど。はい、会計お願いします」
促されカゴに入れられたお菓子やジュースをレジに打ち込む
「・・・はい、210円のお返しです。・・・結構な量だな。全部食べるのか?」
お釣りを渡しながら俺はげんなりした視線をその袋に向ける
サクマの買った量は軽く二人分はあった
「そんな訳ないじゃないですか。・・・実はこの近くに友達の家があって、そこに遊びに行く途中に寄ったんです。これはその子と二人で食べるんですよ」
「そうだったのか」
まあ、ホントに俺の店員姿を見るだけが目的だったら相当ヒマな奴だよな
「じゃ、先輩お仕事頑張って下さいねえ。・・・あ、先輩。女の子の立場から一言言わせて貰いますとね。確かにお金の掛かったプレゼントやデートもいいですけど、ただ好きな人と一緒にいられるだけで女の子は十分嬉しい物なんですよ。その時間がなによりのプレゼントでありデートでもあるんです。お仕事以外の時間はちゃんと園崎センパイと一緒にいてあげて下さいね。園崎センパイは凄く淋しがり屋さんなんですから」
そんなセリフを残しサクマは店を出ていった
・・・アイツたまに大人のアドバイスじみたセリフ吐くよな
しかし、園崎が淋しがり屋?
サクマの奴、また何か勘違いしてないか?
俺にはそんな風には見えないし、考えたことも無かったぞ
・・・・・・・・。
しかし何気にサクマの指摘は的を射てる時が多々ある・・・
俺が鈍感なだけで・・・本当は、そうなのか?
不意に昨日の園崎のセリフが耳に蘇る
「け、けーご。あ、明日、とかも・・・勉強会、大丈夫?」
「え?明日もか?」
「ゴ、ゴメン。・・・・毎日じゃ、やっぱり、迷惑?」
「・・・・いや、そんなことないぜ。特に予定あるわけじゃないし・・・いいぜ、明日も」
「ホント!?・・・・ありがと、けーご」
あの時は園崎のたまに垣間見せる慎ましい表情とセリフに萌え狂って条件反射的に承諾したんだが・・・毎日俺の家に来たがるのは淋しいからなのだろうか?
園崎はあの広い家にほとんど一人きりみたいだし・・・
色々絡んでくる母さんの事も・・・『慣れてないだけで嫌な訳じゃない』って言ってたのは自分に母親が居ないから接し方が判らなくて戸惑ってるだけで・・・
俺は園崎と随分親しくなった気でいたけど・・・
まだまだ知らない事だらけなんだよな・・・
(つづく)
【あとがき】
いつもお読み頂きありがとうございます
毎日暑い日々が続きますねえ・・・
今回も四苦八苦しながら何とか更新出来ました
この作品は、個別のシーン(場面)しか描けない自分が何とかそれを繋ぎ合わせてストーリー(物語)の体を無理矢理形作って完成させてるのが実情です
今後更新の滞る事もあると思いますがよろしくお付き合い下されれば幸いです




