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プロミステイク ~俺と彼女の中二病的恋愛遊戯~  作者: 阿津沼一成
第2章 サマータイム・ラプソディ
46/90

第46話 Freeze Drive & Memory (フリーズドライ・メモリー)

「お、出てきた・・・、こんなとこにしまってたんだな」


押し入れから引っ張り出したプラスチックの衣装ケース

その奥深くから去年使った水着をやっと発見した俺は一人ごちた


まあ、これでまたプールに行くことになっても大丈夫かな


先週の事を思い出すと複雑な気分が胸に渦巻く

あの後、俺の使った水着は一体どうなったのだろう


・・・・・・・・・。


・・・深く考えるのはやめよう


「うぐ、これは・・・」


えらく懐かしいものまで発掘してしまった

ところどころ破れ目のついた黒いダメージTシャツ


これは今から3年前・・・


夏のイベントで俺が着た・・・いや、着せられたものだ


「思えばあん時は死にかけたよな・・・」


それは大袈裟な比喩的表現ではなく、ほとんどマジな話だ


姉さんのサークルの同人誌の売り子を頼まれた俺は、ビジュアル系バンドみたいな格好をさせられた

このTシャツの他に下は黒の革ズボン、頭には銀髪のウィッグ・・・


真夏にそんな格好してたら熱中症にならないほうがおかしい


おまけに例のドラマCDのコピー作業で徹夜してたから体力的に最低だった


あの時通りすがりの女の子から貰ったスポーツドリンクが無かったら、俺は冗談抜きで死んでいたかもしれない・・・


「おっと、いかん。そろそろ寝なきゃ」


明日から夏休みだが、俺はバイトがある

初日から寝坊して遅刻する訳にいかない


俺はTシャツを衣装ケースに押し込み元のように押し入れへと戻した



それにしても園崎は運が悪かったな


結局規定の点数に僅かに及ばなかった園崎は補習が決定した

愕然とする園崎に『まあ午前中は俺もバイトで動けないし、お互い自分の事を頑張ろうぜ』と言って宥めた



電灯を常夜灯にしてベッドに横になる


そういえばあの格好をさせられた時、逆十字架形のイヤリングまでつけられたがあれはどこにしまったんだっけ?


園崎にあげたら結構喜びそうだよな

あとで探してみるか


そんな事を考えているうちに俺は眠りの中に落ちていった


◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇ 


「だ、大丈夫ですか?」


怖ず怖ずとかけられた声に頭を上げると心配げに覗き込む顔と目が合った


ここは姉さん達に強引に連れて来られた国内最大級の同人誌即売イベントの会場だ


徹夜でCDの焼込みとレーベルプリントを終わらせた俺は、『人手が足りないのよー、売り子もお願い』とか言われ、クルマに押し込まれて無理矢理ここに連れて来られた


『ほらこれに着替えて』とか言われて渡されたのは黒いTシャツと黒い革ズボン


拒否することも許されず、車内でモゾモゾ着替え終わった俺の頭には、さらに銀髪長髪のウィッグが被せられた


『あはは、似合うじゃん。髪型少し変えてみよーか?』なんてセリフと共に片目を隠した鬼●郎みたいな髪型にされたり、十字架形のイヤリング付けられたり・・・俺は年上女共に会場に着くまでの暇つぶしとしてイジられ尽くされ、寝る事も出来なかった


・・・俺で遊ぶなっての


その上、結局売り子の手伝いは午前中で終わってしまった


販売物が無くなったからだ


姉さんの所属してるサークルがかなりの有名サークルだってのは知ってたがあれほどとは思わなかった

一冊千円くらいの本が飛ぶように売れ、千円札の束がいくつか出来上がり正直ビビった


メインライターのカスガさんは『印刷代と描く手間と時間を考えると儲けなんてほとんど無いんだけどねー。その儲けも打ち上げでパーっと飲んじゃうから結局プラマイゼロだしー』なんて事を言っていた


だがまあ、好きだからこそ出来ることなのだろう


・・・だから好きでもない俺を巻き込むな


ともかくお払い箱となった俺は帰る予定時間までやることが無くなった


睡眠不足なんだからサークルのスペースで寝てればよかったんだが・・・

そこは性欲溢れる中学生男子だ


噂に聞く18禁エロ同人誌とやらに興味が引かれるのは当然と言えよう

俺は抑えることの出来ないスケベ心に突き動かされ、男性向け同人誌の売っている別の館へと足を運んだ


だがそれが間違いの元だった


そこはまさに・・・カオスだった

視界を埋めるエロ絵と男共の波

汗臭いじっとりした空気が満たすこの世の地獄・・・


徹夜明けの身体は瞬時にHP、MP共に大ダメージを受け、残り僅かとなったゲージが赤い点滅を始めた


命からがらそこから這い出しサークルのスペースに戻る途中、すれ違う人波に弾かれた俺はふらつき通路端に両手両足をついてしまった


クラクラと目が回り立ち上がることも出来ない


そこにかけられた声・・・


「だ、大丈夫ですか?」


心配げに覗き込む端正な顔の少年・・・いや、声の質からいって少女か?

年は俺と同い年くらい

中性的な顔立ちと体つきの・・・女の子


「ありがとう大丈・・・」


そう答えるが足に力が入らない


これは本格的にヤバいな

周りの喧騒が遠くに聞こえる


「熱中症・・・みたいに見えますよ。早く水分を摂らないと危険です」

「ああ、そう・・・だよね」


全く同意だが俺は飲料はおろか財布すら持っていない


「あの、これ・・・どうぞ」

「え?」


その少女は逡巡するように視線をさ迷わせた後、そう言ってスポーツドリンクのペットボトルを差し出してきた


「あの、私の、飲みかけで申し訳無いんですが・・・」

「え?でも・・・」

「水分摂らないと・・・ホントに危険ですよ」


確かに・・・この状態はかなりヤバいかもしれない


「あ、ありがとう。じゃあ遠慮なく」


俺は彼女からボトルを受け取るとキャップをあけ、口に含んだ


瞬間、女の子の顔がたちまち朱に染まる


そうか、女の子にとっては自分が口をつけた物を見ず知らずの男に差し出したわけだから・・・


でも今更どうしようもない

それに本気で俺の身体はかなりヤバい


躊躇いと共にボトルの中身をゴクゴクと飲み込んだ


水分が身体の中に染み込んでいく


・・・身体がだいぶ楽になってきた

さすがは水分補給を目的に作られてるだけはあるな


「ありがとう。君は俺の命の恩人だよ」


人心地ついて、俺は礼の言葉と共に彼女に笑いかけた


「そ、そんな・・・大袈裟ですよ」

「いいや、そんな事はない・・・死の淵にあった俺の命は君によって救われた」


ん?ちょっと変な言い方になったぞ


この前のドラマCDでの演技が身体に染み付いてるのか?


だが多少大袈裟でもこう言っておけば、彼女のしたことは人命救助だ

これで少しは彼女の恥ずかしさが和らげばいいけど・・・


「・・・あ、そうだ。ちょっと待ってて下さい」


少女は何やら思い出したように自分のリュックを探った


「あ、あった。・・・ちょっと前髪上げて貰えます?」

「え?・・・こう?・・・冷たっ!?」


額に何やら冷たい物が貼りついた


それは風邪なんかひいた時に使う、下熱用のジェルシートだった


「どうですか?少し楽になりました?」

「うん。すごく気持ちいい・・・用意いいね」


優しくていい子だなあ・・・あの女共も見習ってほしいぜ


「実は私・・・このイベント来たの初めてなんですけど、連れてきてくれた友達が詳しくて。色々持たせてくれたんです」


そう言って少女はにっこり微笑んだ


「いい友達だね」

「はい、親しくなったのはつい最近なんですが・・・ちょっと変わった人ですけど優しくて親切なんですよ」

「そっか」


「でも途中ではぐれちゃって・・・」

「え!?大丈夫なの?」


こんな人だらけの場所ではぐれたら見つけ出すのは不可能じゃないか?


「はぐれた時の待ち合わせ場所は決めてあって・・・そこを探してたとこなんです」

「そうなんだ・・・ゴメンね、俺なんかに時間取らせちゃって」

「いえ、気にしないで下さい」


優しいなあ、惚れるぞ?


ナンパな奴ならこういう時、すかさず連絡先を聞いたりするんだろうが、俺にそんな度胸はない


「あ、『緑の玉』ってわかりますか?そこが待ち合わせ場所なんですけど・・・」


「緑の・・・ああ、それなら来る途中見たな。・・・俺、案内するよ」

「え、いいんですか?」


「うん。戻り道だし」


そう言って俺は立ち上がった


目眩は治まっている

貰ったスポーツドリンクとジェルシートのお陰だな


色々して貰ったのになんのお礼も出来ないのが心苦しい


「あ、そうだ。ちょっと待って」


俺はたすき掛けに持ってたバックの中をゴソゴソ漁った


着替える前に着ていた服と数枚のルーズリーフ、マジックペン・・・


「お、あったあった」


取り出したのは一冊の同人誌


姉さんのサークルで販売してた物だ

俺は関係者ってことで一冊貰っていた


「これさ、結構有名なサークルの本なんだ。買い取りしてくれる店に持ってけばそれなりの金額で引き取ってくれると思うよ。限定品だし」

「え?」


俺の言葉に彼女が目を丸くする


「色々してもらって、これぐらいしかお礼できる物がなくてゴメンね」

「お、お礼だなんてそんな・・・」


彼女は頬を赤らめながら顔の前で手のひらを振った


「気にしないで。もともとこれは貰い物だから」


そう言って彼女に本を手渡す

受け取った彼女はページをめくって瞳を輝かす


「綺麗な絵・・・あ、CDがついてる」

「・・・そのCDについてはスルーで」


「はい?」

「いや、なんでも・・・じゃ、案内するよ」


俺は彼女にそう言って先に立って歩き出した


・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・


「ほらあそこ。わかる?」


俺は人波の向こうに見える2メートルくらいの大玉を指し示した


「あ、はい。・・・・ありがとうございました」

「俺の方こそ」


「あ、いた。友達いました」


彼女が弾んだ声を上げる

やはり知らない場所で迷ったのは不安だったのだろう


「よかったね。・・・じゃ、俺行くね」

「はい。・・・本、ありがとうございました」


彼女は頭を下げると背中を見せ大玉の方へと歩いていった


友達とおぼしき女の子が、近づいていく彼女に気付いて手を振って駆け寄ってくる


「よかっタ・・・。心配したヨ、だからあれほど僕を見失わないように気をつけなって言ったロ?」

「うん、ごめんね。こんなに人がいっぱいだとは・・・」

「まあでも、見つかってよかったヨ」


彼女がちゃんと友達と会えたのを確認した俺は一安心して背中を向けた


彼女から貰ったペットボトルをあおる

ふた口ほどで空になった


俺はそれを僅かな名残惜しさと共に壁際のごみ箱へと入れると、姉さん達のサークルへと足を向けた


◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇ 


ジリリリリリリリリリリ・・・・


鳴り出した目覚ましを止めて時間を確認する


5時15分

バイトは6時からだ


・・・ずいぶんと懐かしい出来事を夢で見てた気がする

寝る前に昔の物を見たせいだろう


あれはたしか3年前のイベントでの出来事・・・


ピロピロピロ、ピロピロピロ


今度はケータイが鳴り出した

俺は考えを中断してケータイを手にする


液晶の表示は・・・【園崎】

瞬時に頭が覚醒する


「もしもし」


通話ボタンを押して返事をする


『もしもし・・・・。けーご?』

「あ、うん・・・。どうした」


こみ上げる感情を抑え、努めて冷静を装った声で応える


『・・ご、ゴメンね?朝、早く、から・・・』


相変わらず電話は苦手らしい園崎は途切れ途切れに喋る


耳元から聞こえるたどたどしい声

それが〈あの時〉の声を連想させ、妙な興奮が沸き起こる


・・・断っておくが俺の肉体の一部がすでに100%硬化完了してるのは朝における男子特有の生理現象によるものだからな


『けーご、今日から・・・バイト・・なんだよね?・・ちゃんと・・・起きれたかな、と思って』

「それでわざわざかけてきてくれたのか?ありがとな園崎」


なんか・・・すげえ嬉しいぞ

まるで甲斐甲斐しいカノジョみたいな行動じゃないか


『けーご終わるの・・・11時、なんだよね?』

「ああ、園崎は?」

『ボクは・・・11時半』


「そっか・・・、午後から何かするのか?部活ってやつは」

『ん・・・、今日は・・・勉強会・・しない?』


「勉強会?」

『うん・・・、これでも・・補習になったの・・・反省・・してるし・・・・宿題も・・二人で・・早く・・・終わらしちゃえば・・後が・・ラクでしょ?』


「そうだな・・・。いいぜ、どこでやる?また・・・図書館とか?」


そう言ってからあの時の・・・園崎の指の感触と反応が脳裏に甦る


あの時暴走した俺は園崎の指を嬲るように弄んだ


『・・・の・・・屋』

「え?」


過去の映像に気を取られ聞き逃した言葉を聞き返す


『・・・・けーごの部屋・・・・じゃ、ダメ?』

「・・・ごきゅ」


『・・・今の音、なに?』

「なんでもないなんでもないなんでもない」


思わず生唾を飲み込み、喉を鳴らしてしまった


『・・・ダメ、かな?』

「ダ、ダメじゃないよ。・・・い、いいぜ。俺の部屋で」


冷静を装うものの声がどうしても上擦る


『ホント?アリガト・・・けーご』


頭の中に様々な淫らな妄想が湧いては消える

ベッドの中、園崎の声が耳元で聞こえるこの状況はついついそういう行為を思い浮かべてしまう


『・・・あたし・・・イクね、けーご・・・』


「はあ!?」


『え?・・・だから・・補習終わったら・・けーごの家・・行くね?』

「あ、ああ、そういう意味・・・。わ、分かった。待ってる」


ばくばく鳴る心臓を必死になだめ、呼吸を落ち着かせる


「・・・あ、園崎昼メシは?」

『んー・・・じゃあ何か・・・買ってから行く』


「うん、じゃあ頑張れよ補習」

『・・・ん、けーごもね』


プツッ、ツー・・・・・


・・・・・。


はあ・・・、相変わらず園崎との電話は妙な気分になるよな・・・


っと、いかんいかん。バイトに遅れる


俺は身を起こすとジーンズに足を入れ、棒状になったままのそれを無理矢理押し込みジッパーを引き上げた


今日は園崎がこの部屋にやってくる・・・


変な物は目に見えるとこには出してないけど・・・バイトから帰ったら速攻で部屋の片付けしなきゃな


(つづく)



【あとがき】

アンケート終了しました。お答え下さった方々、ご協力ありがとうございました。

合計18名の方々からお答え頂きました。


さてその結果ですが

設問1:あなたの性別は?

男性17名、女性1名

・・・やはり男性読者の方が大多数ですが女性の方もいらっしゃるようですね。

一応この作品は男性対象には書いてますが女性が読んでも差し支えないような表現にはしてるつもりですので今後もよろしくお願いします。


設問2:年齢層は?

15歳以上 14名、15歳未満 4名

・・・15歳未満の方も一定数いらっしゃるようですね。

この作品はR15指定にしてないですが内容的にちょっときわどいでしょうか?このくらいはセーフですよね?


設問3:読んでいる端末は

PC 4名、携帯 7名、スマホ 7名

・・・ケータイ、スマホで読んでる方の割合が多いですね。ケータイでも読みづらくないようにはしてるつもりですが、私、スマホ持ってないのでスマホではどう表示されてるか確認できてません。


設問4:何でお知りになりましたか?

小説家になろう及び小説を読もうの検索 18名

・・・全員ですね。口コミやブログの紹介でという方は皆無でした。


以上アンケート結果でした。

またそのうちこんなアンケートを行うかもしれませんが、そのときはまたご協力お願いいたします。


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