第44話 プレ・サマーホリデー
「ふう、やっと全部終わった」
手にしたシャープペンを机に置き、凝り固まった首をコキコキさせながら俺は長い息を吐いた
夏休み直前のテスト期間、今日はその最終日だ
出来はともかく取り敢えず全ての教科が終わり、俺はその開放感に浸った
隣に目をやると園崎も魂が抜けたような表情をしている
「どうだった?出来のほうは?」
「ふ、全ては済んだ事だ・・・。既に回収された答案の中身など、今さら気にしても仕方あるまい?」
無駄にニヒルな表情でそううそぶく園崎に溜息と共に苦笑を向ける
「ま、でも園崎前回はかなり点数よかったんだろ?今回も頑張ってたみたいだし、俺が心配することでもないのか」
俺がそう言うと園崎は不思議そうな表情を向けてきた
「うん?頑張ってた?何を?」
「え?・・・だってお前、『ここんとこ毎日寝るのが遅いから眠い』って・・・。試験勉強してたんだろ?」
「ああ、あれは・・・夏休み中の部活の活動計画をな」
ガンッ
園崎のセリフに俺は額を思い切り机へと打ち付けた
「・・・大丈夫か?経吾。今の反応、マンガみたいだったぞ」
そんな心配をする園崎に俺はジト目を向ける
「お前なあ・・・」
「くはは、心配するな経吾。僕はいつもギリギリ赤点にはならないくらいの点数はキープしている。今回だって・・・」
「あのさ、今回のテストは赤点じゃなくても、ある一定の点数に達してない奴には補習があるだろ?」
俺の言葉に愕然とした表情になる園崎
「・・・・え?・・・なにそれきいてない」
「言ってたって先生・・・。補習になったら夏休み最初の一週間は、午前中だけとはいえ毎日学校だぞ?」
「な!?そ、そんな・・・そんな事になったらせっかく立てた活動計画に遅延が!」
心配するのそっちかよ!?活動の進捗にノルマでもあるのか?
「・・・ま、まあいい、そんなものはバッ・・」
「バックレるとか言うなよ?後で困るのは自分だぞ」
俺は前もってそう釘を刺した
「うぐ!だ、だがまだ補習になると決まった訳じゃない・・・、いずれ解る結果にいま考えを巡らせても時間の無駄だ!そんなことより今日、今からのことだ!せっかく午後の授業が無いんだからな。これを有効に使わねば!!」
切り替え早いな・・・
無駄に前向きな方向にテンションを上げる園崎に、俺はやれやれと溜息をついた
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「アルバイト?けーごが?」
学校から駅へと歩く道すがら、その話をすると園崎はそう言って眉を寄せた
「いつ?どこで?」
「夏休みの間だけな。ほら、園崎も知ってるだろ。向こう側の駅前のコンビニ」
「・・・あそこか」
「時間は朝から昼前までだし毎日って訳じゃないから、『部活』とやらにも影響ないだろ?」
不服そうに唇を尖らす園崎に対し、俺はそう言ってなだめた
「む・・・そういう事を心配してるんじゃないけど・・・」
俺の説明に、なおも不満げな顔のままの園崎
・・・一応誘っといた方がよかったかな?
実はバイトが決まったとき、オーナーから園崎も一緒にどうか?と提案を受けたのだ
「けーちゃんのカノジョ、すげえ別嬪さんだからなあ。あの子がウチの店で働いてくれれば売り上げ倍増間違いなしだ」
なんてことを言っていた
確かに客は増えるかもしれない。男性客のみだが
「彼女はお客相手の仕事には向いてないと思いますよ」
俺はそう言ってやんわり断った
あの園崎がまともな接客が出来るとは思えない
「そうかあ・・・確かに大人しそうな子だったもんなあ、客商売は苦手かもなあ・・・なんならレジに立ってくれてるだけでも構わんぞ。他の仕事は全部けーちゃんがやるってことで」
「それで給料が同じだったら俺がキレますよ」
メチャクチャな提言に俺がジト目を送るとオーナーは愉快そうにガハハと笑った
それに・・・それ以上の心配もある
高校生にとって学校以外で異性と知り合う場所の定番はバイト先じゃないだろうか
同じ仕事をやってるうちに意気投合して付き合い始める、なんてのは男女交際お決まりのパターンだ
中にはそれを目当てにバイトを始める奴すらいる
具体的に言うとタナカとかタナカの兄貴とかだ
そんな状況にみすみす園崎を引き込むなんて愚を犯すわけにはいかない
「じゃ、じゃあけーご。たまに監視・・・じゃなくて・・・よ、様子見に行っても・・・いい?」
「え?・・・ああ、仕事の邪魔しなければ構わないよ」
「ん、じゃあ、まあ、・・・わかった」
よかった
まだ少し歯切れは悪いものの納得はしてくれたようだ
「で、今日は何をするんだ、その・・・『部活』ってやつは?」
俺のバイトの件はそれで切り上げて話題を変える
いま俺は『今日は校外で活動を行う』などと言い出した園崎に引っ張られ、よくわからないまま駅へ向かっている途中なのだ
「うむ、その事だが・・・詳しい話は移動してから話そう」
園崎は微かに頬を赤らめつつ、そんな曖昧な言葉を返してくる
そして、肩からかけたバックの紐を掴んだ手に・・・僅かに力をこめた
今日、学校は午前中だけでテストしかないというのに、園崎はいつものスクールバック以外にトートバッグを持ってきていた
これから行う活動とやらに関係するものでも入ってるんだろうか
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
目的もわからぬまま俺は園崎について歩き、電車に揺られ数駅離れた街へと着いた
そして駅前にあるデパートに入り地下一階へ
そこのフードコートで昼食をとることになり、二人で冷やしうどんをずるずるとすする
食べながら園崎がおもむろに口を開いた
「・・・我々の夏休み期間中における活動についてだが・・・折角なので『魔力強化月間』としたいと思う」
「・・・なんだって?」
日常生活においてはまず耳にしない単語に、俺は思わず聞き返した
「いま魔力って言った?」
「ああ、我らの前世における力の源・・・それが魔力だ。残念ながら今のボク達の身体の中の魔力はすでに枯渇してしまっている」
枯渇っていうか最初から全く無いと思うんだが・・・
「前世における記憶の回復も急務ではあるが・・・同時進行的に魔力の蓄積にも力を注ぐべき、と考えてな。当面の目標として魔力の回復と行使法の確立を最優先事項としたい」
うどんをすすりながら大仰にそんな事をのたまう園崎に、俺はげんなりした視線を送る
「・・・どうやって?」
「い、色々と・・・方法は考えてある・・・きょ、今日行う活動も・・・あくまでも魔力行使感覚の回復が、目的だ」
僅かに上擦った声でそんなことを言ってきた
まさか魔法陣とか描いて変な呪文唱えたりするんだろうか・・・
「魔力による浮遊・・・それはもっとも基本的な魔力行使現象の一つだ」
箒に跨がって飛ぶ、的なことか?
「逆に考えると・・・宙を舞う感覚を体感することにより、魔力を使用した飛行法・・・すなわち基本的な魔力制御法を思い出すことが出来るかもしれない」
んー、いつもの寸劇と基本的な考え方は同じか
「しかしこの世界において自由に空中を舞うような状況は皆無だ。この惑星の重力に縛られている限りはな」
「そうだな」
「所詮、重力の井戸に捕われているうちは人の革新は起こりえないというわけだ・・・」
ちょっと待て、少しSFロボットアニメが混じってきてないか?
「今回の活動の主目的は重力から解放され宙に浮く感覚を体感することだ」
「宙に浮くって・・・まさかバンジージャンプでもするつもりか!?」
「くはは。成る程、それも一つの方法としてはアリかもしれないな。だがそれでは一瞬で終わってしまうし出来る場所も限られている」
そう言いながら園崎は傍らのバックから、折り畳まれた紙片を取り出した
「手軽に、ある程度長い時間、宙に浮く感覚を体感出来る場所・・・」
勿体振った言い回しと共にその紙片を広げる園崎
「・・・すなわち、水中だ」
テーブルに広げられた紙片は・・・プールをメインとした遊興施設のオープンチラシだった
「くふ、今日はここで遊・・・じゃなくて・・・活動を行うぞ!」
微かに紅潮したドヤ顔で園崎が・・・そう高らかに宣言した
(つづく)
【あとがき】
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これからもよろしくお願いいたします
物語の季節も変わり本格的に夏
とゆーことで一区切りつけて第2章開始です
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