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プロミステイク ~俺と彼女の中二病的恋愛遊戯~  作者: 阿津沼一成
第1章 スプリング×ビギニング
38/90

第38話 自縛² (ジジョウジバク)

「で?経吾的にはどれがいいと思う?」


「そうだな・・・、園崎の白い首筋には赤い色が映え・・・じゃなくて!・・・・・と、とにかくここは出るぞ」


「え?でも・・・」


このままでは本当に園崎をリードで連れ歩くことになってしまう


そんなインモラルな状況は魅惑的ではあるが公衆の面前で実行出来るほど俺は強者ではない


俺は園崎の腕を取って店の外へと連れ出した


・・・・・・・・・・


さて、この妙な思い込みをどうにかしなければ


経験上、園崎を納得させるには全否定するより、都合よく解釈を変えた方がいい


「えーとな園崎・・・首輪、というのは比喩的表現であってだな、別に本当に首輪の形状をしている必要はないんだ。むしろあからさまな首輪のカタチでは目立ちすぎるだろう?あくまでもそれと解らないモノであるほうが望ましい。・・・首輪を想起させるものであれば魔力的拘束力は発生する」


「そ、そうか・・・なるほど、さすが経吾だ」


俺もだいぶデタラメ設定を即興で考えるのにも慣れてきたなぁ・・・


園崎の尊敬するような眼差しを受けながら、俺は己の無駄な技術向上に溜め息を漏らした


◆    ◆    ◆


結局、首に巻き付けるモノとして単純に連想するものといえばネックレスだろう


そんなわけで俺達はペットショップの数軒隣にあるアクセサリーショップに入った


なんかいつの間にか俺が買ってやる流れになっており、園崎に好きなデザインの物を選ばせることにした


先日のヘアピンに続いて今度はネックレスとか・・・まるで恋人にあげるプレゼントみたいなんだが・・・


まあ、そんなに高い金額の物じゃないからいいけど・・・


「経吾!これ!これがいい!!」


並んだ商品をしばらく熟考していた園崎が、選び取ったそれを鼻息荒く俺に見せてくる


園崎が選んだのはヘッドが錠前をモチーフにしたデザインの物でハートの型をしていた・・・


って、オイ!?


ホントに恋人にやるプレゼントみたいになってるぞ!?


錠前とかハートとか・・・色々と意味深すぎる


「えっと・・・、ダメ?」


俺の複雑な表情を読んで園崎が眉を寄せる


「いや、ダメなんかじゃないよ。園崎がよければそれで」


女の子にこんな顔されてダメとか言えるわけないだろ?


「ホント!?ありがとう経吾」


俺の答えに園崎が相好を崩す


ヤバい、凄え可愛い


例え恋人じゃないとしてもこんな嬉しそうに笑う顔が見れるならネックレスの一つや二つ安いものに思えてきた


ああ、俺・・・絶対キャバ嬢とかに入れ込んで破産するタイプだな・・・


◆    ◆    ◆


「初めては、経吾がつけて?」


店を出ると園崎がヘアピンの時と同じ事を言ってきた


気恥ずかしいが特に断る理由もない


公園の遊歩道、木陰になった場所で立ち止まり、園崎からネックレスを受け取った


金具を外しながら改めてヘッドの部分を見る


シルバーでできたハート型の錠前・・・よく見るとアルファベットが彫られている


Love・・・・Slave・・・


意味は考えないでおこう・・・


「マスター、お願いします」


そう言いながら園崎が背中を向ける


俺は背中越しにネックレスを持った両手を園崎の身体の前にまわす


その手を頭の両側から首の後ろに・・・


金具を留めるのに少し髪の毛が邪魔になるな・・・


「園崎、少し髪上げてくれる?」

「ん」


俺の指示に園崎が後ろ手に髪をかき上げた


甘い香りと共に・・・白いうなじがあらわになる


「!?」


その瞬間、俺の中に今までに無い位の劣情が湧き起こった


無防備に背中を向けた女の子・・・


甘い香りのする髪の毛・・・


真っ白なうなじ・・・


綺麗な首筋・・・


「?・・・経吾?どうかした?」


園崎の言葉に我に返る


「な、なんでもない。ちょっと待っててくれ」


微かに震える指で留め具をはめる


今・・・物凄く園崎を抱きしめたい衝動に駆られた


背中越しに抱きしめて・・・そのうなじへと唇を這わせてみたいと・・・


そうした時、園崎はどんな声を上げ、どんな反応をするだろうか・・・


「出来た、ぞ・・・」


俺は理性を奮い立たせ身を離す


「ふふ、アリガト経吾」


振り返った園崎が微笑む


俺の事をカケラも疑ってはいない、信頼に満ちた笑顔に罪悪感を覚える


それにしても、後ろ姿に欲情するなんて・・・俺ってかなりヤバいな


ネックレスを指先でつまんで弄りながら、園崎が頬を染める


「ねえ経吾」

「ん?」


「これ・・・細いけど鎖だよね」

「え?・・・まあ、そうだな」


金属製のネックレスは大概は鎖状になっているものだろう


「ふふ・・・ボク、経吾に首に鎖を巻かれちゃったんだね」


そんなセリフと共に微笑んだ顔は嗜虐心を煽るような煽情的なもので、俺の中に再びサディスティックな劣情が目を覚ましかける


だがその時・・・


「ヒュウヒュウ、見せつけてくれんじゃんかヨ?」


背後からそんなセリフがかかった


今時マンガでも出てこないようなヤンキー台詞にビクリとして振り返る


そこに居たのは・・・


他校の制服を着た・・・女子だった


えーと・・・、なんで俺、女子に絡まれてんの?


どう返すべきか返答に困る俺の傍らで園崎がさっと顔色を変えた


「サ、サツキ!?・・・お前、何故ここにいる!?」


「ムフ、昨日久しぶりに会ったキミの様子がおかしかったからちょっと気になってネ。キミの学校のまわりを張ってたんだヨ。・・・でもまさかキミに男がデキてたなんてネ」


園崎にサツキと呼ばれたその女生徒は妙な喋り方でそんな事を言った


「け、経吾は!・・・そ、その・・・」


俺の顔をチラリと見て言い澱む園崎


「えーと・・・、園崎の知り合いか?」


それ以外考えられないんだが一応確認を取る


「う、その・・・中学の時の・・・」


つまり、昔からの中二病仲間ってことか?


園崎とも通ずる斜に構えた表情と痛い口調をしたその女生徒は薄笑いと共に口を開く


「ボクの協力の頼み・・・返答を渋ったのはその男とのデートが理由ってわけかナ?」

「きょ、協力しないとは言ってないだろう!?」


「フン、・・・しかしキミも懲りない女だナ。性懲りもなく現実の男にうつつをぬかすなんて・・・」

「だ、黙れ・・・」


「リア充気取りで浮かれて・・・見てられなかったヨ」

「黙れと・・・言っている」


「ボクはキミを心配してるんだヨ?リアルの男なんかに入れ込んで・・・裏切られてまた泣くことに・・・」


ヒュゴ


俺の傍らの位置から神速の速さで園崎の身が動く


真っすぐ伸ばした右腕の手刀が相手の首筋手前で止まっていた


「いくら貴様でも・・・それ以上言ったら・・・許さん」

「フヒヒ、怖いなあ・・・まあいい、ボクはキミが協力さえしてくれればそれでいいんだ」


その女子はニンマリ笑うと数歩後ずさり身を翻す


「じゃあ、また改めて連絡するヨ。・・・キミ、早くまたケータイ使えるようにしてもらえないかナ。PCのメールじゃ不便過ぎダ」

「・・・。」


「じゃ、またネ。ゆずっち」


そう言って背中を向けると手を振りながら去って行った


彼女達の痛い口調でのやりとりに、かなり引き気味に聞いてたが・・・その話の内容はかなり気になるものだった


・・・男がどうとか言ってなかったか?


裏切られて泣いたとかなんとか・・・


「ゴ、ゴメン経吾・・・。気を悪くしたか?」

「い、いや。そんなこと・・・」


「あ、あの女が言ってた話を説明するとだな・・・」

「え!?あ、ああ・・・」


ちょ、ちょっと待ってくれ、心の準備が・・・


「あの女は趣味でマンガを描いていてな・・・た、たまにその手伝いをしてやってるんだ」

「そ、そうなのか・・・」


「ま、まあ、ベタ塗りとかその程度なんだがな・・・また少しアシスタントとして協力して欲しいと、昨日久しぶりに会った時・・・頼まれたんだ」

「へ、へえ・・・園崎、手先器用だもんな」


「ん。まあ、そういう事なんだ」

「そ、そっか」


「ん、そうなの」

「・・・」


え?


それで終わり?


現実の男がどうとか、裏切られて泣いたとかいうのは・・・


「まあ、ケータイはまた欲しいなとは、思っては、いるんだがな。と、父さんに思い切ってねだってみるかな。うん」


そう言いながら園崎は駅への道をまた歩き出した


俺はモヤモヤとした物を抱えたままその後をついて歩くしかできなかった


◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆


結局、駅に着くまでそれ以上の話が出ることはなかった


気にはなるが俺の方から問い詰めるわけにもいかない

恋人でもない俺にそんな資格はない


何も聞けないまま園崎と駅で別れた


「ホントに有り難う経吾。これ、一生大事にするね」


別れ際、俺があげたネックレスをつまんでそう言った園崎は心底嬉しそうな笑顔で・・・俺は心の中に愛おしさがとめどなく沸き上がるのを感じた


だが園崎と別れ一人になった途端、その感情とは別の・・・妙な気分が心中に渦巻いてきた


なんだ?


この胸がムカムカして気持ちの悪い・・・車酔いみたいな感覚は・・・


軽い頭痛と・・・吐き気


・・・・・・・・・・・・。


・・・解ってる


これは・・・嫉妬だ


俺は会ったこともない相手に嫉妬しているんだ


園崎が『裏切られた』っていうその男に


思えば今まで誰かに嫉妬するなんて経験・・・なかった


今まで俺は園崎にとって自分が『一番』の存在だと思っていた


そう思って自惚れていた


例え恋人じゃなくても俺は園崎にとって最も近い存在なんだと・・・


だが、かつて園崎には本当の一番がいたんだ・・・


しかしそいつはそんな羨ましい状況にありながら園崎を裏切って・・・泣かせた


園崎をフッた・・・ってことか?


付き合ってたのに他の女と浮気した・・・とか?


園崎はその男と・・・どこまでいってたんだろう・・・


キスとかは・・・したんだろうか?


まさか・・・それ以上のことまで、とか?


いくら考えたって答えなど解るわけもないことをひたすらぐるぐると考えて・・・


俺はその日はほとんど眠ることが出来なかった


(つづく)

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