第36話 update
「美少女肉人形ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
とても残念な叫び声と共に姉さんが身を起こした
この人と血が繋がってなくてホントによかったと思わずにはいられない
「えーと、一応おはよう、姉さん。・・・もう夕方だけど」
姉さんが身を起こしたソファーの対面
そこに座っていた俺は読んでいた雑誌から顔を上げ半眼を送る
「あれ?えっと・・・けーくん、美少女肉人形ちゃんは?」
姉さんは起き抜けの台詞としては並ぶ物が無いくらい残念な言葉を発した
「何言ってるの姉さん?寝ぼけてる?」
俺は溜息混じりにそう答えた
「だってほらさっき、あたしが帰ってきてリビングに入ったらソファーに美少女肉人形ちゃんが座ってて・・・」
「姉さん、それどんなエロファンタジーだよ?夢じゃないの?」
「え?夢?」
俺の答えに姉さんはその目をぱちくりとさせる
「そうだよ・・・だいたい姉さん、帰ってきてリビングに入ったら、すぐにソファーに倒れ込んで寝ちゃったんじゃないか」
「あ、れ?・・・・そうだっけ?」
姉さんはしきりに首を傾げている
・・・・ふう、なんとかごまかせそうだな
俺は内心ホッと胸を撫で下ろす
姉さんが酔っていたのを逆手にとり園崎との対面は夢だったと思わせる目論見はどうやら上手くいきそうだ
「おかしーな・・・、微かに美少女の残り香がするんだけど・・・」
そんな事を言いながら鼻をヒクヒクさせる姉さんに冷や汗が背中を伝う
どんな嗅覚してんだよ!?
変態か?
念の為あれだけ念入りにファ●リーズしたのに
「姉さんシャワーでも浴びたら?ちゃんと目が覚めるよ。・・・・俺は部屋に戻るね」
あまり話し込んでボロがでたら元も子もない
俺は早々にリビングを後にした
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ふう・・・」
部屋に入りベッドに腰掛けた俺はひとつ吐息を漏らす
それにしても・・・思わぬ厄介事が増えたもんだ
今後俺は今まで以上の自制心を持たなきゃな・・・・
俺は今日のことを思い返しながらそう思った
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「もう・・・人形なんて呼ばせない!!」
園崎が姉さんに向けて高らかに宣言した
その言葉に姉さんの存在を思い出した俺は恐る恐る後を振り返る
ソファーの上、すでに寝息を立てている姉さんの姿を見て俺は心から安堵した
そして園崎は、と振り仰ぐと姉さんに対し『ズビシッ』と人差し指を向けた体勢のまま固まっていた
まあ、無理も無い
園崎にしてみればいきなり梯子を下ろされたようなもんだ
素でこの園崎を翻弄するなんてさすが姉さんというべきか・・・
固まっていた園崎は突然バッと両の手の平でその顔を覆い隠すとストンとソファーへと腰を下ろした
そして・・・
パタム
そのまま身を横にしてしまった
髪の間から覗く耳たぶが真っ赤だ
顔は両手で覆い隠したままで判らないが・・・たぶん耳たぶと同じ色だろう
えーと・・・
なんて言葉をかけていいかちょっと判らない
少しそっとしておいたほうがいいかな・・・
俺はとりあえず立ち上がるとひとりキッチンの方へと移動した
・・・・・・・・・・・
改めて思い返すととんでもない事しちゃったよな
さっきは真っ白なふとももに目が釘付けになっててあまり考えなかったけど、俺が唇を触れた僅か数センチ横には園崎の××××があったわけで・・・
さっきの体勢を客観的に見ると、まさにそこに顔を埋めてたみたいな格好だったんだよな
それを園崎は上から見下ろしてた訳で・・・
そりゃあ我に返れば赤面してうずくまるよなあ
食器棚からコップを二つ取り出しテーブルの上に置く
冷蔵庫に向かい扉を開けると水出しの麦茶がピッチャーに入っていた
それを取り出しコップに注ぐ
二人分のコップを手にソファーに戻った
あ、復活してる
リビングに戻ると園崎は身を起こして座っていた
すでに顔の赤みもほとんど引いている
・・・立ち直り早いな。さすが中二病だ
「えっと・・・、ゴメンな園崎。姉さんが変に煽ったせいで妙な事になって」
園崎に片方のコップを手渡しながらそう謝った
「んーん、ボクは大丈夫。ボクの方こそゴメンね経吾。さっきは・・・してくれてありがとう」
お礼を言われた!?
てか、こっちがお礼する立場です
ありがとうございました
素晴らしい体験をさせて頂きました
夢のような気分です
「ふふ、これからよろしくね・・・・・・マスター」
園崎がはにかむように微笑む
・・・・あれ?
「えっと・・・・・、園崎?」
「ホントにありがとう経吾。ボクみたいな出来損ないのマスターになってくれて」
え?
まだ続いてる?
「それと・・・お姉さんにもお礼を言わなきゃ。おかげでボクのもう一つの前世を思い出すことが出来た」
「もう一つの・・・・前世?」
何を言ってるんだ園崎
困惑する俺の前で園崎はコップを両手で持ち、それに向かって話すように語り出した
「そう・・・ボクはかつてクオン・エターナルとして生まれ変わる前、『赤月のセカイ』において名も無いシリコン・ドールの一体だった・・・その時はとうとうマスターを得ることは出来なかったが・・・転生したこの世界でやっとマスターに巡り会うことが出来た・・・もちろんこの世界ではボクはただの人間だ。だがドールとしての因子は身に宿している・・・だから契約は有効だ。経吾がボクのマスターであることには変わりない」
いつかの・・・保健室でのことを思い出す
あの時も園崎はこんなふうにぽつりぽつりと語っていた
えーと、これはつまり・・・
園崎の中二病に新しい設定が加わった!!?
混乱する頭でこの現状を自分なりに分析してみる
多分園崎は姉さんが振ってきたマンガかアニメのネタに乗る形で掛け合いを始めたんだろう
そしてキャラに入り込み過ぎた末、ノリのまま俺に契約・・・ふとももへのキスを求めた
しかし、いきなり中断させられ我に返る
そして冷静になった途端、溢れてきた羞恥心に耐え切れなくなり・・・
その結果、さっきのは前世における人格の表出である、と思い込むことでその羞恥心を抑え込んだ
・・・大まかにはこんなところか?
あくまで俺の推理だが当たらずとも遠からずじゃないだろうか
しかし確実に言える事がある
それは・・・さらにややこしいことになったって事だ!
これまでのクロウとクオンの関係に加え、ドールとマスターという関係までもが追加されてしまった
中二病が改善するどころかさらに拍車がかかったぞ
しかもその原因にまたしても姉さんが大きく関与することになるとは・・・・
やはり接触させるべきではなかった
どんな化学反応を起こすか解らない劇薬みたいな二人だ
それが解っていながら俺は・・・
俺は己の迂闊さを呪った
溜息つきつつ向かい側のソファーに眠る姉さんに半眼を送る
ぐっすり寝てるようでしばらくは起きないだろうが、気分的に落ち着かない
場所を変えるか
「えっと・・・俺の部屋行くか?園崎」
コップの麦茶を飲み干し、立ち上がりながらそう提案する
園崎は首肯すると俺に続いて立ち上がった
二人で階段を上がり部屋の前へと
「園崎。俺ちょっと着替えるから・・・待っててくれるか?」
さすがにいつまでもパジャマ代わりのスウェットじゃだらし無い
園崎にそう断って部屋へと入った
続いて園崎も入り、ドアを閉めた
「って、園崎?俺の話聞いてた?」
一緒に入ってきた園崎に振り返って尋ねると彼女は不思議そうに小首を傾げる
「ああ、着替えるんだろ?」
「そうだよ。分かってるなら悪いけど・・・」
「うん、ちゃんと手伝うから安心して」
「・・・・え?」
予期せぬ答えが返ってきた
「ドールとしてマスターの着替えを手伝うのは当然でしょ?」
「当然なの!?」
ドールってメイドみたいなこともするもんなのか?
「じゃあ経吾、『ばんざーい』して」
そんな子供に言うような指示をしてくる園崎
「いや、でもな?」
「ば、ん、ざ、あ、い」
顔は笑顔だが一言一言区切るような言い方に有無をいわせぬ迫力がある
精神的圧力に負け俺は両手を上に上げた
万歳というよりはホールドアップに近い
俺が両手を上げると園崎は満足げに微笑みスウェットのすそに手をかけた
そしてするすると捲くり上げていく・・・って、肌着も纏めて掴んでないか!?
「ちょ、園崎!?」
抗議する間もなく捲くり上げられたスウェットにより視界が奪われる
そして捲くり上げる手が俺の肘の辺りで動きを止めた
視界を奪われた上、両手を上げた体勢で俺は身動きが取れなくなる
「そ、園崎?・・・・・・・うっ!?」
背中がゾクゾクした
何も見えず困惑するなか、露出した胸の・・・・左側の乳首に微かに吐息を感じた気がした
もしかして園崎・・・唇を寄せてる?
気のせい・・・か?
視界が奪われてるせいで淫らな想像が湧いては消える
何これ?
目隠しプレイ?
「・・・と、うわっ!」
失った視界に平衡感覚があやふやになった俺はバランスを崩し尻餅をつくような格好で後ろに倒れた
ずぼっ
その勢いで頭と両腕がスウェットから抜ける
ぼふ
尻餅をついた先はベッドで、そのおかげで俺は床に腰を打ち付けずに済んだ
回復した視界にスウェットを掴んだまま動きを止めた園崎がいた
微かに紅潮した頬と・・・何故か舌を突き出したまま、目を丸くしている
「あ、えっと・・・その、・・・ほら、ボクの身長だと途中までしか手が届かなくて・・・経吾に少し屈んでって言おうと思ったんだけど・・・」
慌てた声でそう説明してくる
「そ、そうか。ゴメンな園崎。俺、気が利かなくて」
・・・その会話の間も園崎は視線をずっと俺の乳首に固定したままなんだが
「じゃ・・・・・次は下ね?」
視線がゆっくりと動きスウェットのズボンに注がれる
「ちょ、待って・・・さ、先に着替えを用意しよう?」
「え?そう?・・・どこにあるの経吾」
「そ、そこのタンスの一段目、長袖のTシャツが入ってる」
「そっか・・・ボクが選んであげるね」
そう言って園崎が背中を向けたその隙に、俺は急いでスウェットのズボンを下げる
そして脱ぎっぱなしで椅子に引っ掛けたままだったジーンズを引っつかんだ
縺れる足をそれに突っ込み、引き上げる
わずかに硬化したアレに引っ掛けないようにジッパーを上げベルトを締めた
はあ・・・園崎が背中を向けているうちになんとか全て済んだ
「へえ・・・やっぱり経吾はトランクス派なんだね。・・・あ、これこの前はいてたやつだ・・・屋上で見たのもある。懐かしー」
「って、なんで俺のパンツチェックしてんの!?一段目って言ったのに、なんで二段目開けてんの!?なんで過去に見たパンツの柄覚えてんの!?」
間髪入れず発した俺のツッコミにも園崎は全く動じることなくしれっとしている
「ボクは経吾のドールだ。ドールとしてマスターの下着の趣味は把握しておく義務がある」
しゃあしゃあとそんなことを言ってきた
『ドールだから』でなんでも済まそうと思ってないか?
万能の免罪符を与えてしまったんじゃないか?これ
「な!?・・・経吾!?いつの間にズボンを着替えた!?」
俺の姿を改めて見た園崎が愕然とした声を上げる
「ボ、ボクがして上げるつもりだったのに・・・」
心底残念そうな様子に軽く引く
「じ、自分で出来るから・・・そこまでしてくれなくていいよ」
「・・・メインディッシュが・・・じゃなくて!マ、マスターのお世話をするのもドールとしての大事な仕事なんだ!それを拒絶されるとドールとしてのアイデンティティが・・・!」
やっぱりメイドみたいなことをするのかドールって
「えーと・・・、マスターの身の回りの世話をしたりするのがドールなのか?」
「うむ、それも大事な仕事の一つだが最も重要なのはマスターを危険から守る事だ!たとえ自らの命と引き換えにしても!!」
自分の命と引き換えって・・・重い設定だな
ボディーガード兼メイド・・・みたいなもんか?
「も、もちろんマスターが望めば、と・・・伽の相手なども・・・いや、むしろそちらの方がより重要・・・」
まだ何か園崎がモゴモゴと言っているが、要は今までのクオンの設定にメイド的な設定がプラスされたような感じと思えばいいのだろうか
クオンの時も、俺の為ならその手を血で汚すのも厭わない、なんて言ってたけどこの日本で暮らしてる限りそんな状況に陥るなんてことないだろうし、それほど心配することも無いのかなあ
「あ、念のため言っとくけど、そのドールとかマスターってのも・・・」
「分かってるさ。他人の前では口にするな、って言うんだろう?」
・・・分かってるなら、いいけどさ
「と、取り敢えずTシャツくんない?」
いつまでも上半身ハダカじゃ落ちつかない
俺の乳首をガン見する視線を受け流しつつそう言うと園崎はやっとタンスの二段目を閉め一段目を開けた
ゴソゴソと中を少し探ったあと
「じゃあ、このVネックのにするね。鎖骨よく見えるし」
そんなことを言いながらTシャツを一枚取り出す園崎に俺はまた引き攣った笑みを返すしかなかった
その後も園崎はやたらと俺の世話を焼きたがった
まあ、正直女の子に色々身の回りの事をしてもらえるなんて男としては嬉しい限りなんだが、何しろ相手はあの園崎だ
いつ暴走が始まるかと考えると気が気じゃない
断るのに一苦労だった
園崎はドールとしてのアイデンティティが、などと言って不満そうに頬を膨らませていたがなんとか宥めすかした
そうこうするうち時計の針が12時を回り昼食をどうしようかという話しになった
ボクが何か作ろう、と園崎が提案してきたが背後のリビングにはソファーで寝ている姉さんがいる
物音で目を覚ましたらさっき以上の騒ぎになりそうだ
コンビニで何か買って公園辺りで食べないか?と提案すると園崎は素直に同意してくれた
二人で階段を下り玄関へ
靴を履こうとした時、園崎が突然顔色を変えた
「こ、これは・・・!?」
それを目にした園崎が動揺して身を引く
それとは・・・傘立てに突っ込まれたままの姉さんが持ってきたバールの事だ
まあ、玄関の傘立てにバールがあったら『なんだ!?』って思うよな普通・・・
「ああ、それか?それは・・・」
「こ、これはまさか・・・最凶の魔導器、ルシフェリオン・ロッド・・・!」
「えーと・・・・・あ?」
俺は咄嗟に声が出ない
「『赤月のセカイ』を破滅へと導いた呪われし7つの魔導器・・・その中でも最凶と畏れられたルシフェリオン・ロッドが何故ここに・・・この禍々しいまでの赤い色・・・『バーニング・ルビー』の二つ名が表す通りだ・・・」
・・・面倒臭いな、これにも合わせなきゃなんないのか?
しゃーねーな・・・
「安心しろ園崎。それの力は封印してある・・・来るべきその時までその力が解放されることはない・・・今のそいつには精々・・・鍵の見つからない宝箱をこじ開ける程度の力しかないさ」
「そ、そうか・・・それを聞いて安心した。・・・だがいくら力を封印してあるといってもこんな凶器を無造作に玄関先に置いておくとは・・・さすがはクロウ。大胆な男だ」
「・・・・はは」
青ざめた顔で冷や汗を拭う園崎に、俺は曖昧な笑いを返すしかなかった
・・・・・・・・・・・・・・
家を出て、二人連れだって駅前方向へ歩く
隣を歩く園崎は上機嫌で時折チラチラと俺を見上げては頬を緩ませた
なんかこうしてるとホントに恋人同士になったような気分になってくる
今日の天気は昨日までとは打って変わって快晴だった
「もう少しで夏だねえ、経吾」
そんな台詞に俺も相槌を返す
「そうだな、暑くなってきたよな最近」
そんな会話を交わしながら十字路に差し掛かった時、右側の道からやって来た自転車がブレーキ音と共に急停止した
「わ、ゴメンなさい!・・・あれ?経ちゃん?」
「おっと・・・、ああ、オーナーんとこの・・・」
自転車にまたがったままそう言ってきたのは見知った顔の少女だった
「わー、久しぶりだね経ちゃん」
「おう。・・・てゆーか経ちゃん言うな」
俺がそう言うとオーナーの娘はニカっと笑った
「それにしても久しぶりだな。もう中学に入ったんだっけ?」
「経ちゃん、親戚のおじーちゃんみたいなこと言わないでよ・・・、あたしもう中三だよ」
「ああ、もうそんなになるんだ・・・って!?」
うおっ!?
いきなり背中に寒気が走った!
なんだ?さっきまで暑いくらいだったのに・・・
突然感じた冷気に背後を振り返ると柔らかく微笑を浮かべた園崎と目が合った
・・・でも、目が笑ってない
「ねえ経吾・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・この女、誰?」
抑揚の無いその声に心臓が縮こまる
「ふう、ん・・・経ちゃん、とか、呼ばれて、るんだ?・・・ずい、ぶん、仲良し、なんだ?・・・もしか、して、幼なじみ、とか、なのかな?かな?」
園崎・・・顔は笑顔なのにスゲえ怖いぞ!?
なんでぶつ切りで喋ってんの!?
かな?ってなんで二回言ったの!?
「こ、この子はちょっとした顔見知りで・・・ほら、前に会った事あるだろ?駅前のコンビニの・・・、そこのオーナーの娘さんで・・・、オーナーが俺のこと経ちゃんって呼ぶから真似してて・・・しょ、小学校で通学班が一緒だっただけで幼なじみってわけじゃ・・・ないぞ。その程度で幼なじみにカウントしてたら近所の同じ小学校だったやつら全員幼なじみになっちまうだろ!?」
俺はしどろもどろにそう説明する
なんで俺、浮気がバレた男みたいな状況になってんの?
そんな会話を交わす俺達にオーナーの娘は興味深そうな視線を向けていたが
「経ちゃん、もしかしてこの人がおとーさんが言ってた『経ちゃんの美少女すぎるカノジョ』さん?」
などと聞いてきた
なんだその表現?
あのオッサンなに吹聴してんだ!?
「ボクは・・・経吾のカノジョじゃない」
オーナーの娘の言葉に園崎が答えを返す
う・・・。
確かにその通りなんだけど、そうハッキリ否定されると・・・ちょっとヘコむな
だが、園崎はさらに言葉を続ける
「・・・ボクはカノジョ・・・なんて、俗っぽい存在じゃない・・・そう、ボクは経吾とは固い約束で結ばれた唯一無二の特別な存在・・・この身の全てを経吾に捧げると誓った・・・経吾の為だけの人間だ」
園崎の言葉にオーナーの娘が唇に指を当て考え込む
「えっと・・・固い約束で結ばれた?・・・特別な?・・・捧げると誓っ・・・て!?こ、婚約!?フィ、フィ、フィ・・・フィアンセって事!?」
ちょ、ちょっと待て!?何故その答えに行き着く!?
「すごーい!経ちゃん凄過ぎるよ!?」
「いや、あの、だからな?」
「あ!・・・ゴメンねあたしってば。デート中なのに声かけちゃって。もう行くね。末永くお幸せに~!!」
訂正する間もなく、オーナーの娘はそんな訳のわからぬ挨拶と共に慌ただしく去っていった
脱力した俺は追いかける気も起きず、ただ深い溜息をつく
「どーしたの経吾?早くいこ?」
いつの間にか機嫌の直った園崎が笑いながらそう促してくる
「・・・そうだな、行くか」
俺は気を取り直し、再び駅前方向へと歩き始めた
・・・・・・・・・・・・・・・・・
駅前に着き、横目でそこにあるコンビニに視線を送る
そこは先程出会った少女の父親がオーナーをしている店だ
あんなやり取りがあった後、そこに入るほど俺は強者ではない
あからさまになんか良からぬフラグの様な気がする
今日は駅向こうの店にしよう
・・・・・・・・・・・・・
踏切を渡り反対側の駅前へ
そちら側のコンビニに入り二人分のサンドイッチやおにぎりを買う
飲み物は俺はペットボトルのほうじ茶、園崎はパックの牛乳だった
それを手にいつも待ち合わせ場所にしている公園の中へ
今日は遊歩道途中のベンチではなく、庭園のようになってる場所の東屋にした
そこでも園崎は甲斐甲斐しく俺の世話を焼いてきた
おにぎりやサンドイッチの袋を開けてくれるところから始まり、『あーん』で食べさせようとしたり、おしぼりで口許を拭いてくれたり・・・
第三者が見たらイチャイチャし過ぎのバカップルにしか見えなかったろう
おまけに園崎が身を寄せるたび、二の腕に柔らかいものが押し付けられ昨日見た映像が甦ってくる
俺はほとんど夢心地で宙を浮くような酩酊感を味わった
「あ、もうこんな時間か・・・」
園崎がスカートのポケットから取り出した懐中時計で時間を確認して眉を寄せる
どうでもいいけど懐中時計とか好きだよな、中二病って
「今日は夕方から家族で食事会なんだ。ウチは父親が忙しい身でな。時間が取れる時は集まって食事することになってるんだ」
「そうなのか」
まあウチも結構、家族はバラバラで全員集まることは少ないけど、それでも一人暮らししてる姉さん以外とは、ほぼ毎日顔は合わせてる
園崎の父親は会社社長らしいからわざわざ時間を作らないとならないんだろうな
「すっぽかしてもいいんだが、そうするとヘソを曲げて小遣いを減らされたりするんだ。ボクは姉みたいに物をねだるのが上手くないからな。こんなときに媚びを売っとかなきゃならないんだ」
園崎はそう言うと肩を竦めて見せた
「明日も少し用事があるから・・・今度経吾に会えるのは学校でだな」
「そっか・・・あ、園崎。学校では・・・」
「判ってるよ。『マスターとか言うな』ってゆーんだろ?ちゃんと人前ではドールとしての行動は控えるから安心してくれ」
「判ってるなら・・・いいけどさ」
今みたいな事を教室内で始めたらそれこそ大パニックが起きかねない
「でもそのかわり・・・」
そう言うと園崎はその身を俺に寄せてくる
「・・・二人っきりの時は色々シテあげるね」
「い、色々?」
「うん・・・、経吾もあたしにシテ欲しいことあったら・・・遠慮しないでなんでも言ってね・・・どんなことでも・・・シテあげるから」
そう言うと妖艶ともいえる表情で微笑んで・・・身を離した
「じゃあね経吾、また学校で」
手を振りながら去って行く園崎に手を振り返しながら、俺は今まで味わったことのない浮遊感の中にいた
それからぼうっとする頭のままフラフラする足取りで家まで帰り着いた
リビングに入ると姉さんがまだソファーで寝ている
「むにゃむにゃ・・・・うーん・・・もう食べれないよ・・・・」
ベタ過ぎるだろ!?それ!
反射的に頭の中でツッコミを入れた時、やっと少し冷静さを取り戻した
だが、リビングの中に園崎の甘やかな匂いが残ってるような気がして、また何かが高ぶってくる
それから俺は、沸き上がる煩悩を消し去ろうとするかのように一心不乱にリビング中にファ●リーズをスプレーした
それが終わって人心地ついてから、今度は姉さんが起きてからどう誤魔化すか・・・その対策に考えを巡らせた
そしてその結果思いついたのが夢オチ作戦というわけだ
取り敢えずその作戦は成功したといえる結果だった
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ふとテーブルに置きっぱなしにしておいたそれに目が止まる
女性服のブランド名と思われるロゴがプリントされたビニール製の袋
園崎が持ってきた物で中には俺が忘れたTシャツが入っている
わざわざ洗ってくれなくてもよかったのに・・・
でも、そういうところがなんだかんだ言っても女の子なんだろうな
とりあえずタンスにしまっとこう
中身を取り出そうと袋を開くとほのかにイイ匂いが広がった
ウチのとは違う洗濯洗剤の香り・・・それに混じって僅かに園崎の身体の匂いがしたような錯覚を覚える
そんなわけないのに
アホか俺は
これは俺のTシャツだ
園崎がこれを身につけでもしない限りそんな訳はない
一瞬、脳裏にTシャツ姿の園崎が浮かぶ
男物のTシャツを羽織った女の子、というのは男なら誰でもときめくシチュエーションだろう
もちろん下はノーブラがベストだ
Tシャツの表面に浮かび上がる二つの突起・・・
すそから覗くふともも・・・
先程の園崎のセリフが耳の中に甦ってくる
なんでもシテあげるね・・・
シテ欲しいことあったら・・・言ってね・・・
もし仮に・・・
あくまでも仮にだが・・・
ヤラせてって言ったら・・・
って!!なんてこと考えてんだ俺は!?
不意に湧いた自分のサイテー過ぎる欲望に俺は激しい自己嫌悪に陥る
そんなこと・・・万が一にも口走ることがないよう俺は肝に命じなければ・・・
多分・・・
そんな要求でも・・・今の状態の園崎だったら受け入れてしまうかもしれないから
それにつけ込むのは男として
いやそれ以前に人間として最低の行為だ
俺は自分の劣情を閉じ込めるように園崎を想起させるそのTシャツを引き出しの中へと押し込んだ
(つづく)
【あとがき】
お読みいただきありがとうございます
お気に入り登録数も50件を超え、嬉しい限りです
これからもよろしくお願いいたします
追記
バーニング・ルビー 略して バー・ル




