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プロミステイク ~俺と彼女の中二病的恋愛遊戯~  作者: 阿津沼一成
第1章 スプリング×ビギニング
34/90

第34話 ウズマク ナヤミ

「ただいま」


玄関で靴を脱いでいると、ちょうどリビングから出て来た母さんに会った


「遅かったじゃない。いくら明日が休みだからって、あんまり遊び歩いてるんじゃないわよ」


そう呆れ顔で言う母さんに俺は苦笑を返す


「ゴメン、気をつけるよ・・・夕飯は?俺、もう腹ペコ」

「いま温め直すから待ってなさい。お姉ちゃん、今日は帰れないみたいね」


そう言いながら母さんはキッチンへと向かった



夕飯は肉じゃが、長ネギと油揚げのみそ汁、切り干し大根とさつま揚げの煮物などだった


食事を済ませると風呂へ

身体を洗いゆったりと湯舟に浸かった


ああ、やっぱり風呂はいい

一日の疲れが湯の中に溶け出すようだ・・・

十分温まってから上がる


ほっこりした気分でキッチンの冷蔵庫へと

風呂上がりにコップ一杯牛乳を飲み、自室に戻ろうとしたとき母さんに声をかけられた


「経吾、デザート食べる?」

「ん?じゃあ貰おうかな。なに?」

「んふふ~桃缶よ桃缶」


母さんのテンションが妙に高い


桃缶・・・つまり桃の缶詰のことだが、これはウチではちょっとした贅沢品だ

国産品だとなにげに500円以上するし


そんな頻繁には食べられない物だ

何故か風邪ひいた時には必ず食べられるけど・・・


苦笑しながらテーブルにつく


「今日は特別、2つあげる」


そう言って目の前に置かれた皿には半割りになった白桃のシロップ漬けが2個並んでいた



だがそれを目にした瞬間、俺の脳に強烈なフラッシュバックが起こった


二つ並んだ丸い膨らみ


綺麗な薄桃色の二つの・・・


ガタン


「う、あ、う・・・」

「経吾?」


突然椅子を鳴らし腰を浮かした俺に母さんが怪訝そうな顔を向ける


「なんでも、ない・・・・ゴメン、やっぱり今日はいいや。もう俺、寝るね」


俺はそう言うとふらつく足取りでリビングを後にした


覚束ない動きで階段を上り、やっと自室に辿り着く


そしてドアを閉めたあと、俺は床にがくりと膝をつき・・・



ぬうあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



声にならない叫びを上げながら床をのたうちまわった


もうダメ!もう無理!もう限界!!


だって生チチだよ!?ナマ乳!?

初めて見たよ女の子のナマのおっぱい


エッチなグラビアなんかとは比べものにならないその存在感!!

それが確かな質量を感じさせるように・・・揺れた!


ぷるん、とかじゃなくて、ゆさって・・・


たわわに実った甘い果実を思わせるそれが、自己主張するかのように・・・

かなり大きい方だよな、とは思ってたけどあそこまでとは・・・


ずっと平静を装ってたけどもう無理!!


俺は数刻前の記憶を思い返した


◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆


電車の中だということを思い出し、俺達は慌てて身を離した


そして一瞬見つめ合った後、急速に顔を赤くした園崎が逃げるように列車を降りた


俺もその後を追い掛けるように身を動かしかけ、園崎が荷物を置いたままなのに気付いた

それを引っつかんで、飛び降りるようにドアをくぐる


急いで園崎を追い掛けないと


焦燥感に頭が真っ白になる


無理矢理に唇を奪って・・・どうするつもりだったんだ、俺は?

たった一度の過ちが取り返しのつかない結果に繋がることもあるってのに・・・


俺は欲望に支配された数瞬前の自分自身を呪った


とにかく急いで園崎を探して・・・

焦り駆け出そうとした足が視界に園崎を認め、止まる


園崎はまだすぐそばにいた


ホームのベンチの傍ら

こちらに背を向けて立っていた


ほっと安堵の吐息が漏れる


「・・・園崎」


恐る恐るその背中に声をかける


怒っているだろうか?

とにかく謝ろう


そう思った時、園崎が振り向いた


「さ、さっきは危なかったね経吾。転ばなくて、よかった」


真っ赤な顔でしきりに目を動かしながらそう言ってきた


「あ、ああ。園崎のお陰で、助かった。ア、アリガトな」


ぎこちない笑顔でそう答える


「・・・い、家まで送らせてくれるか?」

「う、うん。お願いします・・・」


微妙な気まずさを残したまま変な言葉を交わし歩き出す



暗くなった道を二人並んで歩く

俯き歩く園崎の表情は見えない


園崎は先刻の俺の行動を責めることはしないでくれた

俺はそれに甘え、考えていた謝罪の言葉を飲み込んだ


さっきの状況は俺が園崎の肩を掴んだ、というところまででそれ以上の事はしていない


謝るってことは、そのあと無理矢理に唇を奪うつもりだったことを認めることになる

そのことに園崎は気付いていたかもしれないが、言及しないでくれた


恋人でもない相手の唇を奪ったりしたら、それまで通りの関係でいられる訳がない


そうならないように園崎は俺のとった軽はずみな行動に目をつぶってくれたんだ


園崎のその気遣いに応えるためにも俺は、これからは今まで以上に気を引き締めてこの関係の現状維持に努めよう


俯き隣を歩く園崎を横目で見ながら、俺はそう自分を戒めた



無言のまま歩いているうちに園崎の家まで着いた


「じゃ、じゃあな園崎」


そう別れを告げて立ち去ろうと背中を向けた時、袖口を掴まれた

振り向くと真っ赤な頬の園崎が


「きょ、今日はアリガト経吾。ま、またね」


そう言ってはにかんだような表情で笑ってくれた


まだ、ぎこちなさは残っていたが怒っているわけではないと解ると心底ほっとした


「あ、ああ。また学校で」


俺もそう言って笑い返し、軽く手を振ってから今来た方向へと足を向けた


しかし、一人になった途端に今日の事があとからあとから脳裏に浮かび、くらくらしてきた


◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆


なんとか記憶の一部を意識の外に無理矢理押し出し精神の均衡を保っていたのだが・・・さっきの桃缶で脆くも崩れ去った


初めて見た女の子のナマのおっぱい


色といい形といい・・・とても・・・綺麗だった


見ただけならまだしも・・・俺は衣服越しとはいえその感触を知ってしまった


柔らかい、他の何物にも例えようのない弾力感

そしてその柔らかさの中に存在した僅かに固い一部分


あの時、唇に感じた感触を思い出すと血液が沸騰する錯覚を覚える


そしてそれを唇で弾いた瞬間上がった甘い声

上がった声は確かに俺がそこに与えた刺激に反応したものだった


声の響きからそれは痛みなどではなく、快感。それも性的な


意図したことではないとはいえ・・・俺のした行為により園崎の身体に性的な快感を与えた


その事実に僅かな罪悪感と同時に抑えようのない興奮が沸き上がる


俺が


園崎を


感じさせた!!


もっと、


もっと感じさせてみたい


あの声をもっと上げさせてみたい


俺が


俺の指で


俺の唇で


俺の舌で


俺の×××で!!


・・・ああ、本格的にヤバいぞ俺


今まで何度自分を戒めても同じ事を繰り返してる

次に何かあったら俺は自分を抑えられるだろうか?


欲望のままに園崎の身体を求めるような真似をしてしまわないだろうか


事実、今日はその唇を奪いそうになった

電車の中だってことも忘れて・・・


いつから俺はこんな性欲に狂ったサルみたいになっちまったんだ?

恋人でもない女の子にこんな欲望を抱くなんて


恋人・・・


園崎を恋人にすればこの欲望は正当なものになる?


なに言ってんだ俺は?

恋人でもない女の子に性的な行為をするのがマズイなら、恋人にすればいいって?


性欲を満たすのを目的に恋人を作るなんてそれこそ最低な奴だ


恋人っていうのはもっとこう純粋な感情からの・・・


・・・・・・

・・・・・・・・・・


純粋な・・・恋愛感情って、どういうものなんだ?


性欲とどう違うんだ?


綺麗な言葉で取り繕ってるだけで本質は同じなんじゃないのか?


・・・・・わからない


答えを出せないまま、ぐるぐると思考の渦に飲まれるうち、俺はいつしか眠りの中に落ちていった


◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆


ぴろろろろろ・・・


電話が鳴ってる?

俺は受話器を取り耳に当てた


『もしもし?聞こえるかにゃ?』


--はい


誰だ?

聞き覚えがあるような、ないような・・・


『今日はお休みにゃ。遊びに行ってもいいかにゃ?』


--うん、いいよ


『手ブラで行っても大丈夫かにゃ?』


--ああ。かまわないよ


『じゃあ楽しみに待ってるがいいにゃ』


ブツッ・・・ツーーー


誰だっけ?思い出せない

そう思いながら受話器を置いた


受話器を置いた瞬間、部屋のドアがバタンと開いた


「来たにゃーーーーーー!!!」


・・・早いな


そちらを振り向いた俺は思わず言葉を失った


現れたのはネコ耳を付けた美少女だった。トップレスの


な!?ななななな!?


予想外の事に思考が混乱する


下は膝下丈のタイトスカート


しかし上は何も着けておらず、その豊満な二つの膨らみを自分の両の手の平で覆い隠した状態だった


「言ったとおり『手ブラ』で来たにゃ」


--手ブラってそういう意味かよ!?


俺は目のやり場に困りながらもそうツッコんだ


「にゃふふ、今日はこれを使って遊ぶにゃ」


彼女はそう言って両手を添えたそこをふにふにと上下に動かした


・・・・・え?


「にゅふふ、モミモミするにゃ?パフパフするにゃ?ペロペロするにゃ?」


・・・マジですか?


「今日は特別に・・・はさんでスリスリしてあげてもいいにゃよ」


え?はさんで・・・スリスリ?


--なにを、でしょうか?


思わず敬語になる


「にゅふ、それはもちろんキミの棒状になったアレに決まってるにゃ」


な!?


・・・女神?


・・・このネコ耳少女の正体は・・・女神だったというのか!?


俺は目の前の少女のあまりの神々しさに思わず平伏した


ああ、まるで夢のようだ

男子にとっては皆が憧れるその行為を・・・俺も体験できるというのか!?


最高だ

本当に夢のようだ


〈いや、まあ・・・、夢なんだけどね・・・〉


どこからかそんな申し訳なさそうな声が聞こえた


え?


顔を上げると目の前のネコ耳少女がぼんやりと霞んで見えた


ちょ、待って。マジ?ここで終わり?そんな・・・


◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆


「う、むう・・・」


モヤモヤとした気分で目が覚めた

悶々としている内にいつの間にか寝てしまったらしい


薄ぼんやりとした視界の中、時計を確認すると時刻はいつも学校に行くのに起きる時間だった


何故か、無駄に正確な体内時計に対して沸々と怒りが沸いてきた


あともうちょっとだったのに・・・・


何が?


せめて少しはさむくらい・・・・


だから何が!?


・・・・・・・・。


くっ・・・、今日は休みだ

もう少し寝よう


もしかしたら続きが見られるかもしれない


だから何の!?


俺は僅かな苛立ちを覚えつつ頭から布団を被った


◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆


「う・・・・・・ん」


瞼に感じる光の刺激に俺は薄く目を開けた


カーテンの隙間から差し込む陽射しは結構な高さになっていた

時計で時間を確認してみると9時近くを指している


二度寝したら結構な時間寝てしまった


今日から三連休だ

別に昼過ぎまで寝ていようが問題ないんだが、あまりリズムを崩すと休み明けがキツイ


そろそろ起きなきゃな


身を起こしカーテンを開ける

天気は快晴だった


明け方くらいまでは眠れなかったし、おかしな夢でも見ていたらしく熟睡したとはいえないが、それでも少し睡眠を取ったお陰で気分は昨日より落ち着いていた


悩みの多くは時間が解決してくれる物・・・らしい


黙っていても時間は過ぎ去るものであり、すなわち大概の悩みは勝手に解決するもの、とも言える


俺の抱いている悩みもこの三日間の内に小さくなってくれる事だろう


休み明けには俺の中で膨れ上がった園崎に対する感情も元通りになってる、はずだ


そんなことを考えながら部屋を出て階段を下りた


ぼおっとする頭で一階に下りるとリビングから話し声が漏れ聞こえてきた


母さんと・・・姉さんか?

よかった、帰ってきてるようだ


昨日、急に放り出されたから鞄が姉さんのクルマに置いたままだったんだ

今週帰って来なかったら休み明けの学校はどうしようかと心配だったが、なんとか回収できそうだ


「おはよう。姉さん俺の鞄だけど・・・」


そう言いながらリビングのドアを開けながら発した言葉は、予想外の光景に途切れる事になった


ソファーに並んで座ってお茶を飲んでいたのは、確かに片方は母さんだったがその隣にいたのは姉さんではなく・・・


園崎が固い笑顔で座っていた


「え?あ・・・・なんで?」


俺は急な事に言葉が出てこない

そんな俺に母さんが半眼で軽く睨む


「経吾、あんたいつまで寝てるの?柚葉ちゃん、ずっと待ってたのよ」

「だ、だったら起こしてくれればよかったじゃないか」


気まずさと嬉しさの混じり合う妙な気分を気取られないようにそう悪態をつく


「あたしもそう言ったんだけどね。柚葉ちゃんが『気持ち良く寝てるのに起こすのはかわいそうだから』って、『起きるまで待ってます』って、そう言うから・・・ホント、健気でいい子ねえ」


母さんのセリフに園崎が赤面して俯く


「でも、どうしたんだ?園崎」

「忘れものを、届けにきました」


俺の発した疑問に園崎がたどたどしい喋り方で昔聞いた映画のキャッチコピーみたいなセリフを言った


「忘れもの?・・・・経吾、アンタ何忘れてきたの?・・・・ゴメンね柚葉ちゃん、わざわざ・・・」


・・・忘れもの?・・・・って、Tシャツか!?


「か、母さん!今日仕事は?もう時間じゃないの?」


母さんが忘れものについて追求しないうちに俺は慌てて話題を変えた


「あらやだ、もうこんな時間?もう行かなきゃ・・・経吾、ゴハンはあるもので適当に食べてね。じゃあ柚葉ちゃん、ゆっくりしていってね」

「は、はい。ありがとうゴザイマス」


慌ただしく出ていく母さんに園崎がたどたどしい言葉と共にぎこちなく頭を下げた




「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


母さんが姿を消すと園崎は長い溜め息と共に全身を弛緩させた


「き、緊張した・・・・」

「ゴ、ゴメンな園崎。俺の母さん、しつこかったろ?」


俺がそう言うと園崎は眉を寄せて苦笑した


「んーん、そんなことないよ。ただ・・・あのくらいの年代の人とはあまり話した事がないから・・・慣れてなかった、だけ」

「そっか」


最近気付いたが、園崎は結構人見知りだ

クラスメイトなんかや先生達などに対しては尊大な態度を取っているが、初対面の人間には固まることが多い


「いいお母さんじゃないか、経吾が羨ましいよ」


そう言って園崎はちょっと寂しそうに笑った

あ、そうか。園崎のお母さんて・・・


ぐーーーーーー


微妙な空気が流れそうになった時、俺の腹が鳴り、その音に園崎が顔をほころばす


「くはは、経吾、お腹が鳴ったぞ」

「朝メシ、まだだからさ・・・食う物、何があるかな?」


頬を掻きながらそう言ってキッチンへと向かう

鍋の中に昨日の残りの肉じゃが、そして小鍋の中には豆腐とワカメのみそ汁があった


「経吾、僕が用意しといてやるから顔でも洗ってきな」


ガス台に火を点けながら園崎がそう言ってきた


「え、でも・・・」

「はは、温め直して皿によそうだけだろ。たいした事じゃないよ」


そう言って片目を閉じる園崎


「悪いな・・・、ありがとな園崎」


有り難い厚意に甘え、俺は洗面台へと向かった



顔を洗って歯を磨き戻ってくると台所からは小気味よい包丁の音が響いていた


「園崎?」


俺が声をかけると園崎が振り返り微笑んだ


「あ、経吾。ここにあったこれ、借りたぞ」


そう言って身につけていたベージュ色のエプロンの肩紐をつまんだ


「それはいいけど・・・何してんだ?」

「んー、これだけじゃバランス悪いかなと思って」


園崎の手元を見るとまな板の上でキャベツを切っているところのようだ

千切りではなく、ザク切り


軽やかなその包丁さばきはなかなかのものだ


「上手いな園崎」


そういえば前世の記憶が目覚める前・・・つまり中二病になる前は料理が趣味だったって言ってたな


「くふ、僕のクラスはアサシンだからな。ダガーとショートソードのスキルは持っている。刃渡り35センチまでの刃物なら手足のように扱う自信があるぞ」


そんなセリフと共に薄く笑う園崎


刃渡り35センチって・・・ドスとかかよ!?


俺は背筋がちょっと冷たくなった


◆    ◆


「美味い・・・・・」


それを一口頬張った俺は思わずそう漏らした

俺の反応に、向かいに座った園崎が相好を崩す


「お、大袈裟だな、経吾。ただ塩で揉んだだけのキャベツだぞ」


確かにそれは園崎の言う通りの物だった


俺は傍らでその作業を見ていたが園崎はキャベツを刻んだ後、それをキッチン用のポリ袋に入れ、そこに一つまみの塩をふり入れることしかしなかった

そしてそれを手でしばらく揉んだあと、小鉢へ入れただけだ


それが凄く・・・美味い


塩加減が絶妙でキャベツの甘味と相まってシンプルだが後を引く味だった


「園崎・・・ホントに料理得意なんだな」


俺がそう言うと園崎はますます顔を赤くする


「け、経吾の母君こそ凄いじゃないか。その肉じゃが、温め直したとき味見させて貰ったけど砂糖と醤油のバランスが素晴らしかったぞ」

「そ、そうか?まあ、息子の俺が言うのも何だけど確かに母さんの肉じゃがはなかなかの物かな。もっともこれが母さん唯一の得意料理なんだけど」


他の料理も別に不味いわけでは無いんだがな


「ふーん、でも経吾にとってはこの味が一番好みの味付けなんだろ?」

「まあ、そうなるのかな。て言っても他と食べ比べたことなんてないんだけど」

「そっか、肉じゃがは僕も割と得意なんだぞ。じゃあそのうち御馳走しようか?」

「!」


かちゃん


「経吾?」

「は、はは、ちょっと手が滑った」


園崎のセリフに思わず取り落とした箸を慌てて掴み直す

内心の動揺を悟られないよう、みそ汁を啜る


肉じゃが・・・それも女の子による手作りの・・・

それは改めて説明するまでもなく日本人男性にとっては特別な意味を持つ料理だ


もし不用意にそんなものを口にしたら・・・

そしてそれが俺の好みとピタリと一致してしまったら・・・


俺は無意識の内に、条件反射で園崎に結婚を申し込んでしまうかもしれない

手作りの肉じゃがにはそれ程の危険性が潜んでいるのだ


園崎・・・なんて軽はずみな・・・


女にとってそのセリフは、嫁になってもいい相手以外には言うべきものじゃないんだぞ

それこそ肉じゃがと共に自分の身体を御馳走するくらいの覚悟をもって口にすべき言葉といえる


・・・・・・・っ!


「園崎!お前、それ。俺以外の誰かに言った事あるか!?」

「なっ!?・・・そんなこと、あるわけないだろう!」

「そ、そうか・・・なら、いいんだ」


瞬時に返った否定の言葉に俺はホッと胸を撫で下ろす


「いいか園崎。そういう事は軽々しく言うもんじゃない。他の奴には言うなよ」


相手に変な誤解を与える事もあるからな


「!?・・・・う、うん。わかった」


多少横暴な意見だったかもしれないが俺の言葉に園崎は素直に頷いてくれた


だが、なにやら口元を緩めるとぶつぶつ呟き始める


「うぇへ・・・俺だけに肉じゃがを作ってくれ、なんて・・・なんかそれって・・・遠回しな、プロ、プロ、プロ・・・」


うーん・・・さっきはああ言ったが、この中二的反応を見た大概の男はドン引きするだろうから、俺の余計な心配なのかな・・・・


◆    ◆


「はい。経吾」


食事を終えソファーでくつろぐ俺の前に園崎がお茶の入った湯飲みを置いてくれる


「ありがと園崎」


俺は礼を言ってそれを一口、口に含んだ


これも・・・すごく美味い

ウチのお茶の葉をウチの急須で淹れたもののはずなのに・・・


なにかコツが違うんだろうか?

ホント園崎って手先が器用だよな


料理もそうだけど、それ以外のことも

何でも上手にこなす


・・・まあ、ピッキングは褒められたことじゃないが


「ん?僕の手になんかついてるか?」


園崎が俺の視線に気付きそう言ってくる

いかん、つい凝視してた


「いや、その・・・、園崎って爪とか伸ばさないよな。マニキュアとかネイルとかもしないし」


園崎の手はこじんまりとした手の平に、きっちりと短く切り揃えた爪で子供みたいで可愛らしい


なんか中二病って爪伸ばしてマニキュアとかネイルアートとかしてそうだけど

まあ、俺の勝手なイメージなんだが


「んー?まあ、爪長いと挿れたとき痛・・げふん!ごふん!げふん!・・・何でもない何でもない。・・・・・け、経吾はそういう手の女が、好みなのか?」

「え、俺?・・・うーん、俺はそうだなあ・・・マニキュアくらいなら可愛いと思うけど、あんま長いのは・・・苦手かな」


「ふーん、・・・・・・・・・・・・・僕の姉は・・・結構長いぞ」

「あ、ああ。そういえば、そうだったな」

「・・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・。」


だから何でお姉さんが出てくる!?

まだ俺が惚れたんじゃないかって疑ってんのか?


だいたい既に名前すら覚えてないのに・・・・・・


この、お姉さんに対する警戒心はちょっと過剰じゃないか?


前に園崎は『好きな相手が出来たら教えろ。協力するから』みたいなことを言ってたけど自分の姉は別ってことか?


まあ、そうかもな


俺だって仮に誰かから『お前の姉さん紹介してくれよ。上手くいくように仲を取り持ってくれよ』なんて言われたら複雑な心境になるだろう


例えどんなに仲のいい友達からの頼みでも素直に協力など出来ないと思う

園崎もそういうことなんだろう


「そ、それにしても昨日は散々だったな。まだ噴水の水の、苔臭いニオイが染み付いてるような気がする」


妙な空気になったのを切り替えるように、園崎が自分の二の腕辺りに鼻を寄せながらそんなことを言った


「はは、気のせいだろ?そんなことはないと思うぜ。いつもと同じ匂いしかしないよ」


苦笑混じりに俺がそう言うと何故か園崎はその身体の動きを止めた


「ホ、ホント?」

「え?まあ・・・たぶん」


「たぶん?・・・・・・・・じゃあ・・・ちゃんと確かめて」

「へ?確かめる?」

「うん、あたし、臭く、ないか。確かめて?」


そう言うと目を閉じ顔を横に向ける

そして身体を反らすようにして衿元の辺りを俺の方に突き出してきた


「園・・・・・崎?」


俺は園崎のその突然の行動に困・・・・・すぅぅぅ、思い切り鼻から空気を取り込むと甘い園崎の香りが肺の中に満ちた


ボディシャンプーの残り香・・・


衣類からの洗濯洗剤の残り香・・・


そして、ベースにある園崎自身の素肌の香り


肺から取り込んだそれが血液中に溶け込み全身を巡る錯覚を覚える


・・・って、何やってる俺!?

彼女の行動に困惑する思考を置き去りにして身体の方が勝手に動いてた

ほとんど脊髄反射的に


理性を奮い立たせて身を離す


「だ、大丈夫だと、思うぜ。別にヘンな匂いは、しない」


上擦った声でやっとそう言う


「ホント?あたし、ヘンな匂い、しない?」

「ああ」


「イヤらしい雌の匂いとかも?」

「ああ・・・って、お前なに言って・・・!?」


発言の異常性が増してるぞ!?


「そっか、よかった。・・・・・・・・・・・・・じゃ、次は僕の番だな」

「え?なにが・・・・・って、うわ!?」


押し倒された!?

ソファーの上、強引に身体を横に・・・仰向けの形にされた


その上に園崎が自分の身体を重ねるように乗せてくる

てゆーか色々なところが押し当てられてる


腹の辺りに二つの膨らみ、太ももの上に跨がるように乗った下半身、右膝は両側からそれぞれの太ももで挟み込まれている


かつて無いくらいの密着状態だ


マ・・・マズイって

園崎のお腹・・・おへその辺りには既に八割がた硬化が完了したアレがあるのに


「くふ・・・・・経吾の匂いだ」


俺の胸に鼻先を当てた園崎がそんな呟きを漏らす



「経吾の匂い・・・・好き。すごく・・・安心する」



園崎の言葉に胸の奥から性欲とは別の欲求が沸き起こってくる

それはちょうど、幼い子供や小動物に抱く感情に近い・・・保護欲、といった情動だろうか


そのお陰で硬化していた部分も落ち着いていく


うん、ちゃんと純粋な感情だってあるじゃないか、俺

園崎に対して抱いてるのは性的な欲望だけじゃないんだと、俺は自分自身にほっと安堵する



まだ園崎は俺の胸に顔を当てたまま、何か呟きを漏らし続けている

独り言のようで、その言葉はよく聞き取れない


「不思議・・・他人の身体の匂いなんて・・・・・・嘔吐感しか感じたことなかったのに・・・・・やっぱり経吾は特別・・・・・どうすれば僕のものに・・・僕だけのものに、出来るのかな・・・マンガなんかだったら・・・無理矢理犯して・・・凌辱しちゃえば・・・いいだけなのに・・・僕には×××ついてないし・・・あぁ生えてこないかなあ・・・ホント、リアルって間怠っこしい・・・・」


「そ・・・の崎・・・?」


声の響きに苛立ちが混じり始め俺は少し困惑する

俺、何か園崎を苛立たせることしたか?


「なあ、園・・・うくっ!?」


思わず変な声が出た


胸に当てられていた園崎の右手

その人差し指が苛立ち紛れのように俺の胸を引っ掻いた


何故か的確に乳首の位置を


「ん?どうかしたか経吾」

「いや、別に・・・・・・うっ!」


また引っ掻いた、同じ位置を


「んー?なんで変な声出してるの経吾?ここに何かあるのかな」


くりっくりっ


含み笑いの混じった声でなおも同じ位置を指先で責めてくる

明らかにわざとだ


「ちょ・・・園崎・・・止めろって・・・・・・・ふくっ!」


「経吾・・・いい声だ・・・実にいい声で鳴くな、お前は・・・最高だよ・・・ククッ」


ヤバい・・・、なんかまた変なスイッチ入ってるぞ


こ、このままでは俺の身体が園崎の手によって色々と開発されてしまう


・・・・・・・・・・。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・夢のようじゃないか!!


じゃなくて!


マズイって、このままじゃ・・・


俺だって抑えが・・・・・



ガチャガチャ・・・バタン!!


「たあっどぅわいむわぁ~~~!!!」


その時、玄関ドアが開くと同時にそんな脳天気な帰宅の挨拶が上がった


言うまでもなく姉さんだ


その声に園崎がびくりとして身を起こす



俺はほっとしたのと同時に・・・もの凄く惜しい事をしたような・・・モヤモヤとした妙な感覚が胸に渦巻いた


(つづく)


※今回の話で園崎が言っていた刃渡り35センチの刃物とは刺身包丁の事です。彼女は職人並の技術で刺身切れます。舟盛りとかも出来ます


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