第32話 シスタアズ アトヘン
「どうぞ」
「・・・どうも」
ソファーに座る俺の前に湯気の立ち上るコーヒーカップが置かれる
向かい側にはモデル並の美女
園崎の姉が座っていた
この状況に物凄いデジャヴュを感じる
昨日は園崎の叔母さんだったが今日はお姉さんか・・・
ちなみに園崎本人は着替えと、冷えた身体を温めるためにバスルームだ
この人のマンションの前で俺は園崎と別れて帰るはずだったんだが・・・
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「えっと・・・、ゆず。こちらの方は?」
「あ、その・・・、友達」
走り寄ってきた美女が俺に興味深そうな眼差しを向けると、それに対して園崎はぶっきらぼうに答えた
「こ、こんばんわ。俺は、園崎さんのクラスメイトで・・・義川っていいます。園崎さんを送ってきました」
俺は慌てて自己紹介する
「へえ・・・、友達・・・クラスメイト、ねえ」
園崎姉は意味ありげに呟き、目を細め微笑んだ
「私は柚葉の姉の茉莉華よ。よろしくね、義川クン」
「は、はい。こちらこそ・・・・じゃあ園崎、またな?」
「うん、ありがとう経・・・って、何してるのよ!?お姉ちゃん!!」
踵を返そうとした俺の左腕に園崎姉の両腕が絡み付いていた
「わざわざ送ってくれたのに、お礼もしないで帰す訳にもいかないでしょ?・・・お茶でも飲んでいって頂戴」
そう言うと園崎姉は抱き抱えた俺の腕を引っ張って歩き出した
「ちょ・・・、だからってそんなにくっつくことないじゃない!離れて!離れなさいよ!」
しかし、園崎姉はわめき立てる妹など、どこ吹く風でニヤニヤ笑いながら俺を引っ張っていく
しかし・・・さすがは姉妹だ
左腕を包み込む弾力は園崎に勝るとも劣らない
と同時に華やかな香りが鼻腔をくすぐる
男を虜にする術に長けた仕種と表情
だがそれに男としての本能を刺激されると同時に言いようのない危険を感じた
「わ、解りましたよ。行きますから・・・放して下さい」
そうやんわりと腕の解放を要求すると、園崎姉は一瞬意外なものを見たような顔になった
しかしすぐに元の微笑に戻ると俺の腕を解放し背中を向ける
「じゃあ着いてきてね」
そう言って歩き出す後に溜息をつきつつ従った
「?」
ふと腕に微かな抵抗を感じてそこに目をやる
園崎が俺の制服の袖口辺りを指先で摘んでいた
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「・・・頂きます」
俺はそう断ると、シュガーポットから砂糖をすくう
取り敢えず1、2・・・3杯入れた後、コーヒーをかき混ぜる
「ふうん、義川クン甘党なんだ?苦いのキライ?」
「すみません、コドモなもんで」
多少、憮然な声になってしまった
「ふふ・・・、大人ぶるコドモよりずっといいと思うけど?」
俺の不機嫌な声にも園崎姉は余裕の笑みでコーヒーカップを傾ける
・・・。
そもそも俺は『年上の女』というものが苦手だ
中学時代、姉さんの友人達に散々おちょくられたからな
あいつらは『年下の男』など人間の男と思っていない
犬かなんかと同じ扱いで、ペット感覚で馴れ馴れしく接してくる
その態度に対して変な期待を持つのは厳禁だ
相手はハナからこちらを恋愛対象としては見てないのだから
それを勘違いして、ときめいたりすると恥をかくことになる
「んー?キミ、なんか警戒してる?あたし別に何か企んでるわけじゃないわよ」
クスクス笑いながらそんなことを言う園崎姉
「それにしても今日は驚いたわ。ずっとあたしを避けてたゆずがいきなり電話をかけてきて、『ずぶ濡れになったから服を貸してくれ』・・・なんて、そのうえ友達と・・・それも男の子と手を繋いで現れるなんてね」
ずっと避けてた?
まあ、先刻の口ぶりから姉に対してコンプレックスのようなものがありそうではあったが・・・
姉妹とは言え、年頃の女同士には色々あるのかも知れない
「あの子、キミに随分懐いてるみたいね。一体どうやって手なずけたのかしら?」
窺うような視線とそのセリフにトゲがある
「っ・・・、手なずけてなんかいませんよ。・・・最初はあいつが勝手に俺のこと勘違いして絡んできたんです。その後もずっと纏わり付いてきてて・・・」
「迷惑してる?そのわりにはこんなとこまで送り届けたりして」
「成り行きです」
そうぶっきらぼうに答えコーヒーを口に含む
「まあ、あの子アタマの中はともかく見てくれはいいものね?それで、もうヤッたの?エッチ?」
「ごふっ!?」
吹いた
「まあ、高校生くらいの男子だとやりたい盛りだもんね。仕方ないと思うわ。でも避妊はちゃんとしてね?それは男の責任だから」
「し、してませんよ!そんなこと!!」
むせつつも慌ててそう怒鳴る
「なっ!?してない!?あなた鬼畜!?確かに男の人はつけないほうが気持ちいいかもしれないけど!」
「だーかーら!避妊の話じゃなくて!エ、エッチの話ですよ!・・・俺達はそんなことしてません!!」
なんなんだこの人は・・・頭痛くなってきた
俺の態度に園崎姉は可笑しそうに笑い出した
「アハハハ、ゴメンゴメン。ちょっとからかっただけだから怒らないで?ゆずが随分とキミに懐いてるみたいだったから、ちょっと嫉妬したの」
そう言って舌を出した
「あの子、昔はお姉ちゃん子でねえ。ずっとべったりだったのに、今じゃ凄い冷たいのよ?だから貴方に少しヤキモチ妬いちゃったの」
そして僅かに眉根を寄せる
「中学の時までは素直ないい子だったんだけどねえ・・・」
素直でいい子な園崎?ちょっと想像つかないぞ
「彼女はいつからあんな風に?」
あんな風というのは・・・つまり中二病のことだ
「んー?そうね・・・あの子、前に失踪したことがあってね」
「失踪!?」
「というか・・・家出かな?」
家出と失踪じゃかなり違うような・・・いや、意味合い的には同じか?
「あの子が中二の夏休みの時だったわ。予備校の夏期講習に行ったまま夜になっても帰って来なくてね。心配になって、もうそろそろ警察に連絡しようかって頃、電話がきたの・・・友達の家に居るから心配しないでって。何かの手伝いをしてるから2、3日帰らないからって・・・それだけ言うとすぐに切れちゃって・・・4、5日して無事に帰っては来たんだけど変によそよそしくて、その後しばらく部屋に篭っちゃったのよ。夏休み明けにはもうあんな感じになっちゃってたかな?」
「そうなん・・・ですか、その時友達の所で何かあったってことですか?」
「わからないわ、あの子何も話してくれないから。何か人生観変わっちゃうようなショッキングな事があったのかもね・・・それからはそれなりに高かった学校の成績も下がっちゃって、雇ってた家庭教師もクビにしちゃって・・・なんとか今の高校には入れたんだけど」
中二の夏休みにそんなことがあったなんて・・・、俺が姉さん達に振り回されて黒歴史を刻んでる時に園崎の家では結構大変なことが起きてたんだな
「でもあの子、前に会った時よりだいぶ昔のあの子に戻ってきてるみたい。貴方のおかげかな?あたしが貴方の腕にくっついた時のあの子の顔ったら・・・くくくく」
あれはやっぱり園崎をからかう為にワザとやったことか
「結局、女が変わるきっかけってオトコなのよね。キミがあの子の女の部分を刺激してくれれば現実に目覚めて変な妄想から抜け出てくれるんじゃないかな?」
園崎姉はそんな事を言うが、そもそも園崎は俺のことを妄想とダブらせて見てるんだけど・・・
「で、実際のところはどうなの?エッチはまだとしてキスくらいはもうしたんでしょ?」
「してませんよ。そもそも俺達はそういう関係じゃありません」
「ふーん?じゃあどういう関係?」
そう改めて聞かれると・・・
「俺と園崎は・・・彼女の言葉を借りるなら、親友、です」
うん、園崎が求めているのは・・・男同士の友情。男女の性愛ではない、はずだ
「男女の間に友情なんて有り得ないと思うけど?そもそもあの子のいう『親友』ってのがどういう関係を指してるのか判らないけど・・・まあ、ゆずがキミの事をどう見てるかはとりあえず置いといて・・・キミ自身はどうなの?」
「・・・俺?」
「ゆずの事、男と思って接してる?」
「そ、それは・・・」
俺は思わず口ごもる
「まあ、無理よねえ?あの子、あたしの妹だけあって結構美少女だし、身体つきもオンナって感じになってきてるし。ムラムラくる時あるでしょ?」
「う・・・、」
否定出来ない
「だけど、仮にあの子と恋人同士になるなら・・・キミはちょっと覚悟が必要かもね?」
覚悟?
「それはつまり・・・園崎と俺とじゃ身分違いって事ですか?」
しかし俺のセリフを聞いた園崎姉は『へ?』という顔になった
「いや、だから、お金持ちの御令嬢の園崎と庶民の俺とじゃ身分違いだって事でしょ?」
「ぶふっ・・・・あはははははは」
俺がそう言うと園崎姉は吹き出し可笑しそうに笑い出した
「な、なんですか。何が可笑しいんですか!?」
「ふふふふ、ゴメンなさい。・・・そっか、そんなこと気にしてたんだ。まあ、あたしは相手の家がお金持ちか、そうでないかなんて気にしないけど?それにたぶんウチのお父さんも。・・・もっとも相手がウチの財産目当てで付き合うようなゲス野郎なら論外だけど」
そんなセリフで唇を歪ます園崎姉
「あたしが言ってるのはあの子自身の事。ゆずってね、物凄く依存心が強いのよ。それは精神力の脆さからきてるものなんだけど・・・依存する物が無くなると途端にダメになるの、あの子。小さい頃はそれが母さんだった。その次はわたし。でも理由は解らないけどわたしに依存出来なくなったあの子は想像の、空想の中の相手に依存するようになっちゃったの」
それが園崎が中二病になってしまった原因・・・?
「だからあの子と付き合うって事はあの子の脆い心と付き合うって事なの・・・あの子の愛は、重いわよ?もし浮気とかしたら・・・・」
そう暗い声音で言って目を細め、ニンマリと笑った
「・・・・・。」
俺の背中を冷たい汗が伝う
俺が黙り込むと園崎姉は急に立ち上がりテーブルを回り込んできた
そして困惑する俺の隣へと腰を下ろし上目遣いで見つめてくる
華やかな香りが鼻をくすぐった
「キミ、童貞クンでしょ?もしかしてキスの経験もないとか?」
俺はそれには答えず視線を外す
「やっぱりそうなんだ?それでエッチはおろかキスもまだなのね?・・・じゃあ、あたしで練習してみる?」
「は!?な、何言ってんですか!?」
突拍子もない事を鼻にかかった甘い声で囁いてくる園崎姉
「さすがにエッチは問題あるけど、キスくらいなら練習相手になってあげてもいいわよ?」
いやいや、それだって問題あるだろ
「じゃあ早速・・・はい、どうぞ」
園崎姉は事もなげにそう言うと目を閉じ唇をつき出して来た
「・・・・・・。」
これだから年上の女はヤなんだ
今、この人は薄目を開けて俺がどうするか観察しているに違いない
そして喜んでホイホイ唇を近付けようものなら途端に笑い出しバカにしてくるんだ
そんな手に乗るかっての
俺の『対年上女スキル』を甘く見ないで貰いたい
この手のタチの悪い冗談は中学時代に姉さんの友人達から散々やられたんだ
「悪ふざけはやめてくだ・・・」
「貴様!なにやってる!!?」
突然上がった鋭い声に俺のセリフが遮られる
と同時に目の前の空間を何かが鼻先を掠めて飛んで行った
ビタッ!!
叩きつける音に右に顔を向けると壁に何かピンクの物体がへばり付いていた
そして、それが自重でずるりと落ちる
えーと、・・・バスタオル?
そして左に顔を向けるとそれを投げた態勢の園崎がいた
その怒りの形相に全身が総毛立つ
そして肩をいからせながら詰め寄ってくる姿に、俺は恐怖のあまり反射的に土下座しそうになった
だが俺の目の前まで来た園崎は背を向け姉の方へ向き直る
そして俺を背中に隠すようにして、
「経吾にヘンな事したら・・・許さないぞ!!」
と、姉を怒鳴り付けた
「ちょ、ちょっとゆず。そんなに睨まないでよ。は、話をしてただけじゃない」
「ただ話しするだけであんなに顔を近付ける必要ないでしょ!?大体なんで隣に座ってるのよ!!」
「そんな睨まないでよ。あ、その服丁度いいじゃない。よく似合ってるわよ」
「ごまかさないで!」
「ごまかしてないってば・・・、ほら義川クンはどう思う?」
「え?」
いきなりこっちに振られても・・・
しかしそう言われ、改めて園崎の格好に目をやり息を飲んだ
姉から借りたその服はだいぶ大人びたデザインで首元が大きく露出したニットのサマーセーター
下は下半身のラインがよく判るタイトスカートで、裾がひらひらしたエレガントなシルエットだった
髪がまだ生乾きでヘアピンをつけていないので、左半面が前髪で隠れてて色っぽい
「え、と・・・、なんかいつもと違う雰囲気で、新鮮っていうか、イイんじゃないかな?さすが・・・」
姉妹だな、と言いかけて止める
園崎は姉に対してコンプレックスのようなものを持っている
比べるような言い回しは良くない
「・・・園崎、スタイルいいもんな。こういう服もよく似合うよ」
たどたどしい俺の褒め言葉に園崎が目を丸くして赤面する
「ふあ・・・ホント?似合っ・・・てる?あたしスタイル、いい?」
「ホント、エロい身体つきになってきたわよね。中学の時なんて男の子みたいな身体だったのに」
園崎姉がそんなセリフを吐き園崎に再び睨まれる
「と、とにかく!着替えを貸して貰った事には感謝するけど、それとこれとは別。・・・経吾にヘンな事したり、言ったりしたら・・・絶対承知しないから」
「わかったわよ、もお」
そう言いながら肩をすくめる園崎姉
「・・・ホント、嫉妬深いんだから・・・」
「何か言った?」
「別に」
白々しく顔を背ける姉に半眼を送る園崎
「フン・・・・、濡れた服入れるのに何か無い?」
「そうね・・・、何か探して来るわ」
そう言って園崎姉がソファーから腰を上げた
「まったく・・・。あ、経吾。今、帰る支度するからもう少し待っててくれるか?」
その言葉に俺は無言でコクコクと頷く
二人が部屋を出ていくと俺はやっと緊張を解き長い息を吐いた
そして自分がいつの間にかソファーの上で正座してる事に気付いて足を下ろす
女同士のケンカは怖い
そうなった時は空気になっているのが一番だ
下手に介入するとろくなことにならない
仲裁していた筈なのに何故か双方から責められるなんてことが平気で起きるからな・・・
男はただ、嵐が過ぎ去るのをじっと待つしかないのだ
それにしてもさっきは肝が冷えた
視線をそちらに向けると落ちたままになっているバスタオルがあった
歩み寄って拾い上げる
「しかし、これが目の前を飛んで行った時は心臓が止まるかと・・・」
ひとり漏らした悪態がそれに気付き止まる
・・・ちょっと待て
何故このタイミングでお前が出てくる
俺は右の虚空を睨みつけた
そこにはフワフワ浮いている小さな俺
ニヤニヤと下卑た笑いを張り付かせた悪魔俺の姿があった
―――何とぼけてんだよ?お前もそれに気づいてんだろ?
―――だからこそ俺達が現れた。俺達はお前の欲望の代弁者なんだからな
そして左側から堕天使俺
な、なんのことだ?
―――あくまでとぼけるなら代わりに言ってやろう。俺達の目的は今お前が手にしてるそれだよ
俺はギクリとして動きを止める
バスタオル・・・
―――ああ・・・だが、ただのバスタオルじゃあないよなあ?
うぐ・・・
―――それは園崎がその全身をくまなく拭いたバスタオルだ。もちろんあんなところやそんなところも・・・
や、やめろ!
―――ちょっと顔を埋めるだけだろ?きっとスゲェいい匂いすんぜ?
右側から悪魔俺
うぐう・・・
―――よーし、じゃあこの一番湿ってる辺りをちょっと口に咥えてみようか?
そして左の堕天使俺はかなりの変態だった
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「待たせたな、経吾・・・って、何やってるの?四つん這いでプルプルして・・・ハッ!?まさかまたもう一つの人格に身体を!?」
戻ってきた園崎の声に失いかけていた俺の理性が目を覚ます
「だ、大丈夫だ、園崎。俺は自分を見失ったりしていない・・・・。俺はちゃんとお前の知っている俺だ」
俺は自分でもよく解らないセリフを口にしながらフラリと立ち上がる
「け、経吾・・・カッコイイ・・・・・」
俺の意味不明なセリフは園崎のツボにハマったらしく何故かうっとりと頬を染めた
その後ろでは園崎姉が目を半眼にしてそんな俺達を見ていた
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「じゃあ・・・世話になった。礼を言う」
「・・・・『ありがとう、お姉ちゃん』でしょ?・・・まあいいわ、今日は突然だったけど楽しかったわ。今度はゆっくり会いましょ?」
姉のそんなセリフに園崎は何も答えずそっぽを向いている
姉の方には心当たりがないようだが園崎の中には姉に対してわだかまりのようなものがあるのを感じた
その理由は知る術もないが
園崎の家出にはそのへんが絡んでるのだろうか
家出していた時に何かがあったのか
それとも何かあったから家出したのか
気にはなるがそれは園崎本人にしか解らない
「じゃあ、もう暗いから二人とも気をつけて帰ってね・・・あ、そうだ」
突然、園崎姉が唇を俺の耳に寄せてきた
「さっきの話だけど・・・要するにゆずってば物凄く甘えん坊で物凄くヤキモチ妬きなのよ。だからもし恋人として付き合うなら、ゆずのそういう性格に覚悟してって事」
「だ、だからっ!何くっついてるのよッ!?」
俺に身を寄せる姉に園崎が吠えた
園崎姉は苦笑いを浮かべ『ほらね?』という顔をした
園崎姉に見送られながら二人並んで歩き出す
隣を歩く園崎はいつもと違う雰囲気を纏っていて二人きりになると急にその存在を意識してしまう
大人っぽい服装に加えて、今その髪型は後ろで纏めて俺があげたヘアピンで留めてアップにしている
いつもは隠れて見えないうなじが色っぽい
俺の頭の中では先程の園崎姉のセリフがぐるぐると回っていた
もうヤッた?エッチ?
キスくらいはしたんでしょ?
男女間に友情なんて有り得ないわ
女が変わるきっかけって結局、オトコなんだよねえ
俺との付き合いの中で園崎が変わってきてる?
確かに最初に会った時よりかなり女の子の部分が現れる事が多くなっているのは事実だ
でもそれが俺の事を恋愛対象として見ているから、と考えるのは自惚れが過ぎるだろう
園崎はあくまでもクロウという架空のキャラクターの影を俺に重ねてるだけだ
そこに付け込んで俺の欲望を満たそうとするのは道義的に間違ってる、よな
でも、女が変わるきっかけがオトコっていうんなら・・・
園崎が中二病になったのもオトコがきっかけってことも有り得るんじゃ・・・
もしかして家出の原因もオトコ?
う・・・、なんだ?
胸の辺りが急にモヤモヤしてきた
ムカムカして・・・気持ち悪い・・・
「経吾?どうかした?」
「えっ?」
「なんかちょっと顔色悪い気がして・・・さっきから全然喋らないし・・・」
「な、何でもない。ちょっと考え事してて」
慌ててそう言い訳する俺に怪訝そうな視線を送る園崎
「経吾、まさかお前・・・」
園崎が何か言いかけた時、不意に俺のケータイが着信音を鳴らした
液晶の表示は知らない番号だ
「・・・もしもし?」
『あ、義川クン?』
電話の声は先程別れた園崎姉だった
なんで俺のケータイ番号を知っているんだ?
あ、そうか。園崎が使ってかけたから、着信履歴に残っていたんだな
「はい、そうです。どうしたんですか?」
『ウチのバカ妹。まだ一緒にいる?』
「はあ」
なんだ?
声が少し怒ってるっぽい
『ちょっと代わって』
「お前の姉さんから・・・代わってくれって」
怪訝そうな目をしている園崎にそう説明してケータイを渡す
「ああ、僕だ。・・・ああ。・・・そうだ。・・・いくら洗ってあっても他人のものなんか気持ち悪くて穿けるか!!」
俺からケータイを受け取った園崎はそんな会話を交わした後、通話を切ると荒い鼻息で俺にそれを返してきた
何なんだ、一体
困惑しつつも肩をいからせ歩いていく園崎の後に続き歩き出す
しかし数歩進んだところで再びケータイが鳴った
また園崎姉からだ
やれやれ、なんだってんだ
「はい」
「ねえ義川クン。悪いんだけどウチのバカ妹のこと、家まで送ってくれない?」
「家まで・・・ですか?まあ、いいですけど。どうかしたんですか?」
「あの子ね、いまノーパンなのよ」
・・・
・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・は?」
一瞬、俺の思考がフリーズする
「つまり・・・パンツ穿いてないの。着替えを用意したときに下着までずぶ濡れだったからあたしのを置いておいたんだけど、さっきバスルーム見たらそのまま残ってるのよ。で、今確認したら『いくら洗ってあっても他人の物なんか気持ち悪くて穿けるか!』ですって・・・そんな訳であの子いま下着着けてないの。・・・まあ、貸したスカートは膝下丈だしタイトだから風でめくれちゃうなんてことはないと思うけど、ほら最近ってスカート内の盗撮とかってあるでしょ?電車に乗るなら痴漢とかも心配だし・・・あの子、頭の中身はともかく外見は人並み以上だからさ。そういったヒトタチの恰好のターゲットになりそうじゃない・・・そうゆうわけで、ボディーガード。お願いね?」
言うだけ言うと、その電話は一方的に切られた
(つづく)




