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プロミステイク ~俺と彼女の中二病的恋愛遊戯~  作者: 阿津沼一成
第1章 スプリング×ビギニング
31/90

第31話 シスタアズ アトヘン ノ マエ

「えへへぇ、ありがとう経吾。嬉しいなぁ、経吾に買って貰っちゃった。えへへへへぇ」


店から出たあと、アクセサリーの入った袋を渡すと園崎は満面の笑みで顔を緩ませた

こんなに喜んでくれるとプレゼントした俺の方も幸せな気分になる


「早速つけてもいい?」


そう聞いてくる園崎に笑って頷く


とめてあるテープを丁寧に剥がし、袋を開けそれを取り出す園崎


しかし、

「あ・・・、」

と言って動きを止めた


「ん?どうかしたか?」


そう問いかけると上目遣いで、


「初めては、経吾が僕につけて」


と言ってきた


「え?」

「その方が・・・経吾に貰ったって事、もっと実感できるから。・・・ダメ?」


その言葉と、はにかんだような表情に俺の中の独占欲が刺激される


「わ、わかった。いいぜ・・・」


俺の返事に柔らかく微笑み、軽く頭を傾けてくる園崎

そこにある元々つけていた方の髪留めを外す


纏まっていた髪が滑り落ち、顔の半面を覆い隠した


なんか妙に色っぽいんだよな。この髪型・・・

以前俺のベッドに潜り込んでた時の事を思い出す


外した方を園崎に渡し、新しい方を受け取る

そしてそれをつけるため、顔に落ちた髪を右手でかき上げた


サラサラとしたきめ細かな髪の毛


こんなふうに女の子の髪に触れたことなんか、思えば初めての事だ


指の間をすべる髪の毛の感触

くすぐったくて・・・気持ちいい


「・・・ふぁ」


園崎が小さな吐息を漏らす


「経吾の指・・・くすぐったいけど・・・気持ちいい」


その言葉に僅かに沸き上がる性的な興奮を抑えつつヘアピンを留めた


「アリガト、経吾。ふふふ、経吾につけて貰っちゃった。なんか経吾の人形(ドール)になった気分」


クスクスと笑いながらそんなマンガネタと思われる発言をする園崎


やれやれ・・・翻弄されてるな俺・・・


園崎が踊るような足取りで歩を進める後を2、3歩遅れて付いて歩く


「あ、そうだ経吾。あそこ行ってみないか」


不意に立ち止まり、そう言って園崎が指差した先は高台にある公園だった


◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆


二人並んで道を歩くと、すれ違う大抵の人間は園崎へと視線を送ってくる

特に男の方が


理由は言わずもがなだが・・・


しかも今日の笑顔はとびきり輝くほどで、その視線の集め方は半端じゃなかった


こんな時、俺は少し居心地の悪さを感じてしまう

ルックス的にだいぶ釣り合いが取れていないだろうから


美少女である園崎に比べると俺はかなり見劣りするし・・・


二人っきりの時は気になったりしないのだが、こういう他人の目がある場所では、ついそんな卑屈な考えが頭をもたげて来てしまう


本来、超がつくほどの美少女でおまけに家はお金持ちの社長令嬢である園崎だ

中二病じゃなかったら俺なんか声をかけるのも躊躇われる相手だったろう


なんともまあ、因果なものだ

一体なにがきっかけで中二病なんかになってしまったのか・・・


「ん?どうかしたか、経吾?」


俺の顔を覗き込むようにして園崎が振り仰ぐ


「いや、なんでも・・・」


その屈託のない眼差しに俺の卑屈な感情が霧散する


まあ、俺は園崎の彼氏じゃあない

友達同士に、見た目の釣り合いなんか心配する必要ないよな?


◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆


「ほら経吾、海だ。海が見えるぞ」


公園に着き、眼下に広がる景色を見下ろす

園崎は柵から身を乗り出して、はしゃいだ声を上げた


陽はだいぶ傾き、もうしばらくで沈む時刻だ

遊園地の大観覧車にライトが点り始めた


「あ、見ろよ園崎。綺麗だぞ」


俺が指差すと園崎が感嘆の溜め息を漏らした


「おぉ・・・・・・・・ん?あ、そうか・・・あそこは・・・」


そして、なにかに思い当たったような声を漏らした


どうかしたのか?と声をかけようとするが、それより早く園崎は身を翻すと今度は公園の中央に足を向けた


「経吾、経吾。噴水だ、あっちに噴水があるぞ」


やれやれ、まるで小さい子供だな

苦笑しながら後を追うが・・・


「あ、と、・・・・うわっ!?」


前を歩く園崎が足を滑らせバランスを崩した

昨日降った雨で地面が少しぬかるんでいたのだろう


「園崎っ!!」


俺は咄嗟に園崎の身体へと手を伸ばした


「・・・やっ・・・・ゃぅん!」


その身体を両腕で後ろから支えた瞬間、園崎が色っぽい声を上げた


・・・断っておくが『後ろから支えようとしたが誤って胸を鷲掴み』・・・なんてベタな事をやらかした訳ではない


そこは俺も心得ていた

ラブコメマンガなんかじゃお約束のパターンだからな


だから俺はそんなことにならないよう、咄嗟に胸より下の部分を支えた


・・・たのだが・・・・


左手の指先からスベスベした柔らかい感触が伝わってくる


腰の辺りへと伸ばした俺の両手


その片方が園崎のブラウスの合わせ目からその中に・・・・入ってしまっていた


園崎のお腹

その柔らかい感触が指先に感じる


薬指が触れているこの窪みは・・・おへそだろう


・・・・・・・。


「う、うわわわわわわわわ!!ゴ、ゴ、ゴ、ゴメン!!」


俺は慌てて園崎の腰を両手から解放した


「ゴ、ゴメン園崎、わざとじゃ無くて・・・」

「んーん、大丈夫。平気。ちょ、ちょっとくすぐったくて・・・ヘンな声出ちゃっただけ」


そう言いながら園崎は真っ赤な顔の前で両の手の平を振った

そして作り笑顔のまま気まずそうに後ずさる


「!?・・・・園崎!ダメだ!」


それに気づいた俺はそう呼び掛け、慌てて再び園崎に手を伸ばした

しかし、つい今し方の状況を思い出して伸ばす手を一瞬躊躇してしまった


「え?・・・・わわわわ!」


園崎の背後には噴水があった


その縁の部分に足を取られた園崎は、


バランスを崩し・・・・


背中からその中へ・・・・


どぼん!!


派手な水しぶきが上がった


「そ、園崎!!」


駆け寄ると園崎は噴水の中に尻餅をついたような格好で浸かっていた


「大丈夫か!?園崎?」

「あ、はは・・・・情けないな・・・僕としたことが・・・不覚だ・・・」


俺の手を取って立ち上がりながら園崎が自嘲する


その身体は肩の辺りまでずぶ濡れになっていた

髪の毛も下の方が濡れてしまっている


「ゴメンな、間に合わなくて・・・」

「経吾のせいじゃないさ。僕が不注意だったんだ。ちょっと浮かれ過ぎてたな・・・」


そう言いながら疲れたような笑みを浮かべる


しかし、どうしたものか・・・

寒い季節ではないとはいえ早くなんとかしないと風邪をひいてしまうだろう


「・・・とりあえずちょっとトイレで服を搾ってくる・・・」


園崎は力無くそう言うとトイレへと歩いていった


・・・・・・・・・


園崎を待つ間、俺はこの後の事を考えていた


いくら搾ってもずぶ濡れになった服はすぐには乾かないだろう

しかし、着替え一揃えを買ってやれるほどの持ち合わせはないし・・・


そう考えていた時、見下ろした街中のそれが目に入って心臓がどくんと跳ねた


そして急速に鼓動が高まっていく


ピンクや青のネオンサインで描かれたアルファベットの看板


HOTEL・・・


ゴクリと喉が鳴った


マンガなんかで何度も読んだことがあるような定番の展開

だけどいくらなんでもそんな・・・


でも、確かお風呂があるから冷えた身体を温められるしドライヤーなんかもあるだろうから濡れた服を乾かすことも出来そうだ


り、理には適っている

いや、でも・・・


だいたい『宿泊』はともかく『ご休憩』っていくらぐらいなんだ?

そもそも、制服姿の高校生が入れるものなのか?


えーと、フロントには自販機みたいのがあって、金を入れて借りたい部屋のボタンを押せばいい・・・んだっけ?

当てになるのか!?タナカ情報


こんなことなら男性誌とかでちゃんと調べとくんだった


前にオーナーから貰ったアレは一個財布に入れてあるけど、サービスで部屋にも2、3個置いてあるんだっけ?


ちゃんと、いざというときスムーズにつけられるよう2、3個使って練習はしといたけど・・・って、服を乾かすのが目的なんだからアレは必要ないだろ!


いや、でももしそんな展開になったら・・・


「経吾?」

「うわああああああ!!!」


いきなり背後から声をかけられ俺は心臓が止まりそうになった


「す、すまない経吾、驚かせたか?」

「い、いや、俺の方こそゴメン。大声出して、・・・か、考え事してたから」


俺は慌てて取り繕った


戻ってきた園崎はさすがに水滴が滴ってたりはしてないが服はまだぐっしょりとしていた


「これが水没しなかったのは不幸中の幸いだったな」


そう言いながら園崎は鞄を開けて手帳を取り出した

鞄は噴水に落ちるとき手から離れたため水の中には落とさないで済んだのだ


「経吾、すまないがケータイ、貸してくれないか?」


手帳を開きながら園崎がそう言ってきた

俺がポケットから取り出して渡すと園崎は手帳を見ながら番号を入れ始めた


「もしもし、僕・・・柚葉だけど・・・うん・・・実はちょっと困ってて・・・うん・・・近くにいるんだけど・・・うん・・・その、服をかなり濡らしてしまって・・・着替えを、貸して貰いたいんだ・・・」


そんな会話を電話の向こうとやりとりした


「実は姉がこの街に住んでるんだ。着替えを貸して貰えるように頼んだから・・・」


園崎がケータイを俺に返しながらそう説明してきた


「そ、そうなのか。よかった・・・」


焦ったけど何とかなりそうだ

だけど、なんだこのほっとした気分と残念な気分が混じりあった妙な感覚は・・・


『大丈夫ですよ先輩!またチャンスありますって!だから気を落とさないでください!』


脳内で数刻前に聞いたサクマのセリフが再生される


うるさいよ。気を落としてなんかいないよ


「すまない経吾、僕の不注意でこんなことになって・・・もう大丈夫だから経吾はここで帰ってくれていいぞ・・・」


苦笑混じりでそんなことを言う園崎


「そんなこと出来るわけないだろ。そのお姉さんのとこまでちゃんと送るよ」

「あ、ありがとう・・・、経吾」


俺のセリフに園崎が微笑んだ


◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆


公園から戻る道でもやはり園崎は周りの視線を集めていた

ただし、来た時とは逆の意味で


蔑むような憐れむような遠慮のない視線が園崎に集中して俺は居たたまれない気分だった


中身は何も変わらない園崎なのに見かけが変わっただけでこれほど周りからの目が変わるなんて


まあ、人間なんて所詮そんなものなのかもしれない


「・・・経吾、もう少し離れて歩いた方がいいよ。経吾まで変な目で見られる。それに僕、臭いし・・・」


俯きそんなことを言う園崎

俺はそんな園崎の手の平を、多少強引に掴んだ


「け、経吾!?」


「お、俺達は親友・・・なんだろ?恥をかくなら一緒にだ。それにお前がいま臭いのは噴水の汚れた水に落ちたせいだ・・・いつもの園崎はスゲェいい匂いするの、俺は知ってるから。大丈夫だ」


「け、経吾・・・・・あ、あ、あ、ありがとう・・・」


そう言って真っ赤な顔になった園崎は再び顔を伏せるとそれきり無言になった

握り返してくる手の平が微かに熱を帯びていた


◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆


「あ、見えてきた。あれだ」


園崎の指差す先、そびえ立つような高層マンションが見えた


「・・・す、凄いな」


その威圧感に軽く圧倒されつつ歩を進める



「もうここで大丈夫だ。ホントにありがとう経吾」


手前の道でそう言ってにっこりと微笑む園崎に俺は笑顔を返す


「ああ、じゃあまた…」

「ゆず!?」


…学校でな。と続けようとしたセリフが突然の呼び掛けに遮られた


マンションの方向から小走りに走り寄って来る人物がいる


歳は二十代前半くらいの物凄い美人だった


「ずぶ濡れになったって、一体どうして・・・」


息せき切って近づきながら発した言葉が途中で止まる


その目は驚いたように開かれ俺の顔に向いていた


そしてその視線がゆっくりと下がり・・・繋いだままになっていた俺達の手に注がれる


その視線に俺と園崎は慌てて手を解き、弾かれたように身を離した


(つづく)

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