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《君の名は?》 ~煙草と清酒のある風景~

「あなた」から「わたし」に

作者: 白い黒猫

「こんにちは~マメゾンの相方(さかた)です!」

 いつものようにお客様に挨拶をして入ると、田崎設計事務所の人が笑顔で迎えてくれた。

「相方くん、いつも元気ね~暑かったでしょ、はい麦茶!」

 暑い中歩いてきた事で流れた汗をハンカチで拭っていた俺に、女性事務員の(あなた)さんがそっと冷たそうに汗をかいたブルーのコップを差し出してくれた。珈琲サーバーを置かせてもらっている立場の俺は本来ならコチラが美味しい珈琲を作り振る舞わないといけないのに、思わず満面の笑みでコップを受け取ってしまう。だってそれだけ外は暑く喉がカラカラだったから。

「ありがとうございます! (あなた)さん! 生き返りました!」

 出された冷えた麦茶を一気飲みして、俺が元気にお礼を言うと、英さんは目を細めて俺を見つめてくる。そして何故か英さんは困ったような、何か考えているような微妙な表情を返す。いつも朗がで優しいお姉様という感じの英さんにしては珍しい表情。しかし直ぐにいつもの笑顔に戻る。

「実はね私苗字が変わってもう英ではなくなったの!」

 俺はその言葉に、戸惑う。まず()英さんの薬指を確認するけれどそこには指輪はなし。しかし元々指輪をつけている人だったかも今となっては思い出せない。()英さんは聞いた事はないけれど年齢は三十四・五くらいだろう。そして既婚者なのか未婚者なのかは気にした事がなかったから分からない。この晴れ晴れとした表情はどういう意味にとって良いのか……。

「では、今度から何とお呼びすれば宜しいのでしょうか?」

 もっとも無難な質問をしてみる。

「渡るに武士の士と書いて渡士(わたし)になったの! こっちもチョット呼びにくい名前ね」

 ケラケラと笑う()英さん改め渡士さん。

「『あなた』から『わたし』って凄い変身ですね!」

 取りあえず一番突っ込みやすい所から入る事にする。凄く気になる事は分からず心は気持ち悪いまま。

「そうなのよ~本当に笑っちゃうわよね」

 二人でハハハハと笑いつつ周りの反応を見るが、周りはニコニコしている。

「まさに『わたし』の新しい人生が始まったというやつたな!」

 田崎所長の言葉に事務所のみんなは『うまい!』と笑うが、俺は『そのあたり、もう少し分かりやすく表現してください!』と心の中で訴える。

 皆、この珍名から珍名となった面白さをネタに盛り上がるだけだったので、この方がどちらの意味で名前が変わったのか分からない。コチラからストレートに聞く訳にもいかずモヤモヤしたまま、気を使いながらの疲れる会話を続ける事になる。

 結局大きな謎を抱えたまま事務所を後にして、俺は大きな溜息をついた。

英さんは、日本苗字ランキング3895位で765世帯いらっしゃいます。ハナブサ、ハヤブサ、アナタ、アガタ、エイとも読むようです。

渡士さんは日本苗字ランキング17254位で75世帯いらっしゃるそうです。トシ、ワタシと読まれています。

相方さんは、日本苗字ランキング15301位で92世帯数の苗字です。

サカタ サガタ サガカタ アイガタ アイカタ という読み方をされています。

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