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ゆめの欠片

作者: 里桜菜

夢の世界ってふわふわしたマシュマロみたいところで空からあめが降ってきたり、虹の橋が掛かってたり、メルヘンなところなのかなーって、思ってた。

小さいころからおとぎ話が大好きで、わたしの頭の中にはわたしなりの夢の世界がある。

いつか行ってみたいって思ってたし、

苦しくなったときにずっと夢から覚めたくないとも思ってた。

でもね、まさかほんとに来ることになるなんて思ってなかったよ?

目の前には

みたこともないぱすてるカラーの植物。

きらきら光る川に掛かった虹の橋。

浮いているきらきらした星みたいなもの。

とにかく「夢の世界」が広がってる。

これは、夢。

わたしの体は今ベッドの上

の、はず。

……夢がこんなにリアルなことってあるの?

いつもの夢のようにどこかが曖昧だったり途切れたりしてなくて、

リアルだ何もかもくっきりしてて

たしかにそこにある。

夢、夢、夢だ。

絶対、夢。

「そう、ここはゆめだよ」

甘い声が背後から聞こえて、

わたしは仰け反った。

誰⁉

「ここはゆめだよ」

声はもう一度繰り返す。

声を発しているなにかを見ようと

振り返るそこにいたのは

女の子。

ふわふわした腰まである栗色の髪の毛を片手でいじっているその少女は、

浮かんでいた。

「えぇ⁉」

思わず叫ぶ。

わ、どうしよう。

妖精……だ!

だって、羽がある。

いや、翼?

「あたしのことじろじろ見て、

泣きそうな顔するのやめてよ」

翼のある少女……妖精のようななにかのいる夢の世界。

わたしの描いてた通りのところ。

「ほんとにここ、夢の国なの?おとぎ話にでてくるところなの?」

なにか言うべきだと思ってわたしは聞いた。

「さっきからそう言ってるじゃない。

ここは、ゆめ。君のゆめ。」

「わたしの……夢⁉」

「あたしはここの住人。

そっちの世界のニンゲンは妖精って呼んでるわ。ニンゲンがこっちに来るのは初めてなの、大地の記憶に初めて刻まれたニンゲンがこんな冴えない女の子なんてついてないわ」

まったく状況が読めない。

“妖精”はリラと名乗り、この世界についてざっと話してくれた。

ニンゲンが描くゆめが現実になったのがこの世界で、ニンゲンが大人になってゆめを見ることをやめてしまうと、消えてしまうらしい。

たいていのゆめは思春期、反抗期を迎えたころになくなってしまう、だけどわたしのゆめへの思いはどんどん強くなっていって、普通ならぼんやりしたままできて、消えていく世界がくっきりしている。だからこのリアリティーはこっちの世界でも稀ならしい。

そしてもっとも大切なこと、

わたしがここにいる理由。

「この世界は、今危険なの」

「なんで?」

ありがちな展開だけど、

わたしは驚いた。

このあと世界を救えるのはあなただけなの!とか言われて旅をして大魔王を倒すことになったらどうしよう……わたしそんなことできない

「この世界に大魔王はいないわよ」

くすりと笑ったリラは言った

「あんたのゆめはいつもふわふわしてるだけで悪役なんてでてこないじゃない」

「あ、そっか。ここはわたしのゆめだからわたしの想像してないものはいないのね」

わたし、納得。

「この世界の危機はね、

あんたのゆめの欠片のせいなの」

「なにそれ」

「ゆめの欠片って言うのは、忘れちゃった記憶のこと。小さいころ大事にしてた人形とか、一日だけのお友達とかね」

「それがなんでこの世界の危機につながるの?」

「ゆめの欠片はだいたい、星になる。

だけどあんたのゆめは多すぎて収まりきらないのよ」

「え、収まらないって?」

「この世界はニンゲンの想像で大きくなっていくけど、限度があるの」

「じゃあ、わたしの世界はもう最大サイズになってるってことか」

「そう、入りきらなくなった欠片は

大地に降りそそぐ」

「なにがいけないの?」

「大地に降った欠片は、世界を壊す。

そっちの世界……チキュウって惑星に隕石が衝突したみたいになるの」

なるほど……わかりやすい例だ。

「それじゃ、この世界はどうなっちゃうの!」

「このままだと、消えてなくなる。

あたしも、あの橋も、大地の記憶も、ここに住む動物も、なにもかも」

「嘘……」

「たいていこの世界はニンゲンが自らゆめを捨てたり、忘れてしまったりしてあっち側から穏やかに消えていく、少しずつ薄れていって、霧みたいになってから完全に消滅するの。でもあんたのゆめはこっち側からなくなる」

「ゆめの世界が内側から壊れちゃうの⁉

そしたらわたしはどうなるの⁉」

「わからない。こんなことは初めてだから。だからあんたをこっち側の世界に呼んだの」

「そんな……」

わたしのゆめを欠片が原因で

この世界がなくなる。

世界が壊れたときわたしがどうなるかもわからない。

最悪のシナリオだ。

「この世界とあんたのゆめを守って!」

はちみつ色の瞳がわたしをまっすぐ見つめて必死に頼んでくる。

「どうすればいいの……?」

「ゆめの欠片を大地に降らないようにするの。欠片を外の世界に……ほかのゆめが被害を受けないように……流すか、欠片そのものをなくすの」

そのとき、

ぱすてる色の空に異変が起きた。

もこもこの雲はすっかりなくなって、

代わりにきらきらした星々が姿を表した。

「あの星が、降ってくるの?」

信じられない……。

返事がないので空から目を離して

リラのほうを向くと、

リラはなにか唱えていた。

指先でなにか書いてる……魔法陣?

魔法陣が完成して、呪文(?)を唱え終わるとリラは言った。

「これで、ここを守るの。

世界全部はあたしの力じゃ守れないけど、ニンゲンのあんたにあれがあたったらどうなるかわからないから」

リラのおかげで、わたしとリラを中心に結界が張られた。

間近でみる結界は思い描いていたようなものじゃなくて、これから起こることがとても怖くなった。

「……来るよ」

リラが小声で呟く。

なにが?どうなるの?

結界の外を見てみると、

流れ星みたいな欠片が大地に降ってくるところだった。

さっきまで明るかった世界は灰色に染まってる、まるでわたしの今のこころみたい。

「ここが暗くなったのは、あんたのこころが今こんな感じだからだよ」

「え……じゃあ」

わたしの感情まで現れるこの世界なら、わたしが欠片を無くしたいって必死に願えば、そうなるんじゃ……。

わたしがそういうとリラは驚いたような顔になって、

「昔……聞いたことがある。

ニンゲンがゆめの一部、溢れた欠片のぶんだけそとに流せればゆめの世界はもっと違うものになるはずだって」

「そと……?」

「あっち側、チキュウに流すの

ゆめの世界に打撃を与える欠片は

チキュウでは小さな星になる。」

「それだ!それでこの世界を救える!」

わたしがそう言ったとき、大地が揺れた

欠片が大地にぶつかった衝撃。

「もう、限界かも。溢れた星が今にも暴走しそうなの。できる?」

「やるよ」

「記憶を呼び起こすの。

すっかり忘れてしまったゆめを、思い出して。欠片になったゆめを思い出したらそれをあっち側に、あんたにとって現実の世界に流すの」

「わかった」

わたしは目を閉じた。

小さいころの記憶……。

ずっと大切にしてたくまのぬいぐるみ。

家族で出掛けたときに買ったお土産のストラップ。

いろんな、記憶。

わたしは懐かしい気持ちでいっぱいになった。

この思い出を、現実に帰す。

この世界を失わないために。



あたりが光につつまれた。

結界はどこかにいってしまって、

世界は一瞬だけ真っ白になった。

まだなにも描かれていないキャンパスみたいなまっさらなところ。

それから世界に大地ができた。

それから川が、森が、姿を表す。

ぜんぶ、元通り。

なのに、リラがいない。

わたしは記憶を呼び覚ますとき、

思い出した。

三歳の誕生日プレゼントに両親からもらった人形のこと。

その人形は栗色の髪をしていたこと。

いつもいつも一緒にいたこと。

大好きな妹だったこと。

そのうち本当の妹が生まれたこと。

妹が病気で死んでしまったこと。

いつのまにか人形を手離していたこと。

その人形の名前はリラだったこと。




わたしが目を開けると白い天井があった。

見回すとそこは、

見慣れたわたしの部屋。

帰ってきたの?

クローゼットを開けて、小さいころのおもちゃをしまっている箱を探る。

……いた。

ちゃんといた。

ずっとずっと、わたしが忘れてしまってもここにいた。

わたしの手には、古ぼけた人形。

栗色の髪をした女の子。

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