第5話 猩色族の条件
もう全てが有り得ない
◆第5話 ファーストキスを幼稚園児ですると後悔しない?
結局ベッドに並んで寝る事に。枕の主導権は、なんとか私が握った。
「ねぇ、今夜って満月?」
もう寝たと思っていた朱鳥から、突然聞かれた。どうりでイビキが聞こえないわけだ。
「いや、今日は三日月あたりだったと思うけど…。」
「ふーん。」
(じゃあ、ギリギリだな。まぁ、遅かれ早かれバレるけど。)
教えたわりには、薄い反応。理解不能…。
「なんかあるの?」
「うん。猩色族は、月によって変わるから。」
「セイシキゾク?」
聞いた事もないキーワードが出てきた。
「自分たちの種族の名前。見た目は、髪・瞳の色以外人間と同じ。あ、あとみんな美形!数少ない種族なんだよ。」
(あ、美形って自覚あるんだ。そういえば、朱鳥の正体聞いてなかった。だけど、なんていうか…)
「異界人にしては、特徴少ないね。」
そう言うと、朱鳥はムッ、とした口調で答えた。
「そんなことないよ!猩色族だって特異体質だよ!」
「どんな?」
当然の疑問を口にすると、朱鳥はフッ、と笑い
「そのうち分かるよ。」
と、意味深に言った。
「へぇ…?」
正直気になったけど、聞いたって教えてくれなそうだから、私は何も言わなかった。
この時聞いておけば良かったというのに―。
――――――――――――――
すっかり寝静まった部屋。イビキで眠れなそう、と思っていたけど隣からは寝息しか聞こえてこない。
カーテン越しに光を感じて、私は目を開けた。
(ん…もう朝?)
眠たい目をこすり、近くにある時計を見た。
(なんだ、まだ5時半じゃん。もう少し寝よ…。)
そう思い、朱鳥のほうへ寝返りをうった。
すると、目の前に綺麗な銀髪が…。
「銀髪ゥ!?」
驚いて飛び起きると、隣には見知らぬ男が眠っていた。
(誰!?)
大声を出したせいか、その銀髪男は『ん…』と言いながら、目を覚ました。
ビクッッ
驚いた事に、瞳が朱色だった。しかも朱鳥の髪の色にそっくりな…。
(まさか…)
しばらくお互い見つめあっていたけど、不意にその男が有り得ない言葉を吐いた。
「あー、沙良おはよう。何?もう朝?」
「!」
「?どうした?」
不思議そうに見てくる銀髪くん。
この男、銀の髪に朱色の瞳。朱鳥とは逆…。しかも美形顔。そして、昨日朱鳥が言ってた特異体質。まさかとは思うけど、なんたって、異界人だ。万が一もある。
私は思いきって、聞いてみた。
「あ、朱鳥…?」
ゴクリ、と唾を飲む。
「え?当たり前じゃん。何言って…あ、」
言葉を途中で言いかけた。自分の姿に気付いたらしい。
気まずい沈黙が続いた。
そしてそれを破いたのは目の前の男だった。
「あー!もうバレたッッ!」
(…は?)
「一日でバレるとかつまらな!マジ有り得ねぇし!」
「あ、朱鳥…。」
呆気にとられた。だって見た目だけじゃなく、声、口調も違う。
「あ、驚いてる驚いてる♪そう、これが猩色族の特異体質の正体。昼と夜で性別が変わるんだ。ついでに今は朱鳥じゃなくて銀。」
性別が?確かにある意味すごい。しかも名前まで変わるのか。でも、そんなヤツと同居ってかなりマズイんじゃ…。
「ま、こんな俺だけどよろしく☆」
そう言って、男版朱鳥、もとい銀は私の唇に軽くキスした。
(…え)
「いただき♪」
ポカン、としている私にイタズラに笑う銀。
怒りボルテージ上昇。
パンッ!と鈍い音が響いた。