第19話 さくらんぼ
久しぶりの銀登場!
後悔先に立たず、覆水盆に返らず?
◆第19話 そんなの迷信でしょうが
「沙良、何食べてるの?」
PM8時、私がリビングで果物を食べてると、興味をひかれたのか銀が尋ねてきた。
「さくらんぼ。純から貰ったんだ。銀も食べる?」
「純……。あぁ、沙良の幼馴染みで隣の部屋の」
「そうそう。そしてあんたが無断で私の部屋に入れた人。」
にこ、と笑顔で嫌味を言ってやれば、銀は苦笑いした。
「……まだ根に持ってんの?」
「そんなことないよ?もう全然気にしてないよ?」
笑みを深くして言い放てば、困り気味の銀。朱鳥も銀も同一人物なんだから、まだ常識の伝わる銀のほうに嫌味言わせてよね。
朱鳥じゃダメ。怒るだけ、体力の無断だわ。
「いや、本当にごめんって。でも大丈夫、俺なら絶対入れたりしないから。」
大丈夫っていうか、それが当たり前なのよ。一応ここは、私の部屋なんだから。好きでマンションに独り暮らししてるわけじゃないし。
「俺は沙良との二人の時間大切にしたいから、他の男なんか部屋にあげない」
サラリと恥ずかしい台詞を言ってのける。ただでさえ美形なんだから、止めてほしい。私の心臓こわす気か。
「あんたね、そういうこと簡単に言わないでくれる?純粋な私には毒よ。」
「純白を自分で汚してくのって、快感じゃん?」
「悪趣味。変なことしてきたら、はっ倒すわよ。」
実をひとつ摘みながら睨めば、銀は『へぇ』と片眉をあげた。……嫌な予感。
「変なことって、どんなこと?」
私が持っていたさくらんぼを奪い、ずいっと迫ってくる。
前の私なら真っ赤になって慌ててたわね。でもその甘いメロメロマスクにも、もう慣れてきたのよ!
「だから………そういうことだっつーの!!!」
パァンッ!
思いきりビンタしてやったら、派手な音が室内に響く。
この整いすぎた顔に平手を喰らわせるのは躊躇ったけど、手が反射的に動いてた。成長ね、こりゃ。
「いたたた……。まったく、沙良は手厳しいな。ま、そういうところがイイんだけど。」
「……マゾ。」
「いや、俺はどっちかって言うとサド寄り。」
そんなキラキラした笑顔で言われても。だいたいなんで性的嗜好の談義してるのさ、私等は。
なんだか馬鹿馬鹿しくなって、私はまだ何か言ってる銀を無視して、さくらんぼを口に含んだ。
う〜ん、美味しい♪純に感謝だな。私がさくらんぼ大好物って知ってるなんて、さすが幼馴染み歴13年!明日学校でお礼言っとかなきゃ。
あまりの美味しさにほっぺた落としてると(例えよ例え)、不意に肩を叩かれた。首を回せば、笑顔満面のセクハラ銀頭。
「……なにさ」
警戒心120%の目を向けると、彼はさくらんぼのヘタ(くき?)を私の目前に差し出す。
いや、意味分かんないし。
そんな私の心情を読んだのか、彼は口を開いた。
「これ、口の中で結べる?」
「……………は?」
素っ頓狂なその言葉に、ついマヌケな声がこぼれた。
あ、いや、でも待てよ。なんか聞いたことある。確か結べると、───キスが巧いとか。
「……嫌」
「ええ、なんで!?」
「だってくだらないじゃない、そんなの。」
そうだよ、くだらない。いったい誰が考えたんだか。だいたい、そんな器用な真似できる人いるわけ?
私は銀から渡されたヘタを、指先でキュッと結んでみた。
口の中でこれができるって事は、舌使いが巧いって事よね。
(………。自分で思ってなんだけど、かなり恥ずかしい発言してしまった)
私はため息をつき、結んだヘタをテーブルに乗せた。ヤバイ、顔赤くなってるかも。
「でも、これって案外簡単だよな」
そう言って銀は、ペロ、と舌を出して私に見せた。舌の上には、見事に結ばれたヘタが。
「う、うそ……。」
ついさっき否定した事を、あっさりやってのけたよコイツ。
「き、器用ね」
「そうか?でも紫音のほうが凄いよ。5秒以内で、みっつくらい結べるから」
恐ろしき、猩色族…。っていうか紫音さん、見た目を裏切らない。いかにも百戦錬磨って感じだもんね。
「あ、ふたつ目できた」
そう言って、銀はまたさくらんぼのヘタを舌で結んだ。
………。
…………。
「銀、今日からアンタ、床で寝て」
「ええっ!!」
ものすごい反応する銀。
(いや、だってねぇ?)
「ちょっ、それは無いんじゃない、沙良」
「うるさい。身の危険を感じたのよ」
「大丈夫だって、沙良が寝てる間は手を出さないから!たぶん!!」
「曖昧さ強調してんじゃねぇぇぇぇ!」
結局その夜、嫌がる銀を無理矢理床に転がしときました。
(朝にはすでに隣で寝てたけど)
こんな人と暮らしてて、私お嫁に行けるかな……。
なんかそういう話、聞いたことあったので。ついでに私はできません!