第18話 バイバイ翠くん
嬉しくない、全然嬉しくないよ
◆第18話 360゜回ったらもとに戻っちゃうじゃん
「へぇー、弟くんかぁ」
一通り理解したらしい姫乃は、感嘆符と共に漏らす。翠くんはぺこりとお辞儀して、よろしくお願いします、と言った。礼儀正しい子だな。感心するよ。
「それにしても、沙良すごいねぇ。異界人ふたりと同居してるなんて」
……不可抗力だけどね。
「本当にすみません。僕が湖に落ちたばかりに……!しかも姉みたいな変態と寝てるなんて、申し訳ないです」
頭をうなだらせ、謝罪の言葉を述べる翠くん。
「ちょっと翠、人の事言えないでしょ。アンタだって紫音の時は自分以上に危ないじゃんっ!」
タルトの欠片を口の横付けて反論する朱鳥。っていうかコイツ、ひとりで食べ過ぎじゃね?私のぶんは?
「仕方ないじゃん、記憶ないんだから。昼も夜も変態道突っ走ってる朱鳥に言われたくないよ」
「その道極めてるもん」
「よして!!」
ボケとツッコミを披露するふたり。姫乃はそれを笑顔で見つめてる。なんだかなぁー。
「それに沙良ちゃんは嫌々言ってるけど、夜じゃ結構その気なんだぞ。ただ明るいうちは恥ずかしいから照れ隠しに暴言を吐くだけさ♪」
何言ってんだこのアマ。
「ええっ!本当ですか!?」
え、そこ信じちゃうの?
「沙良かわいい〜」
天然姫め。意味わからないくせに乗じるな。
私は順にこの馬鹿たちの頭を叩いた。『痛い』と嘆く3人は、とりあえずシカト。
「酷いよ沙良ちゃーん」
涙声ですがりついてくる朱鳥。本当、うっとうしいな。翠くんを見習え。
「ねぇねぇ、沙良」
「ん?」
朱鳥と言い合いしてたら、不意に姫乃が話しかけてきた。
そして笑顔で衝撃発言。
「翠くんは私の家に居候したらどうかなぁ?」
「………えぇ!!?」
数秒遅れて、リアクションする翠くん。
え、ちょっと待って。今この娘なんて言った?
私の聞き間違いだよね?
そんな私の思いとは裏腹に、姫乃は続ける。
「だって家なら広いからちゃんとお布団で寝れるし。お母様には秘密で私の部屋にさ。あ、見付かったら適当に誤魔化して……」
「えっ、いや、だけど、そんな迷惑かけられません!」
「迷惑じゃないよ?」
翠くんすごい動揺してる。まぁ、初対面の人にいきなりそんな事言われたら驚くか。
それに翠くん、確かに今はリビングのソファで寝てるんだよ。しかも、夜は紫音さんだから余計にきつそう。
「駄目だよ姫乃ちゃん。翠なんかと同じ屋根の下で暮らしたら、お嫁に行けなくなっちゃうよ?」
「うるさいぞ朱鳥!」
翠くんには失礼だけど、朱鳥の言うことにも一理ある。ほら、紫音さんには前科があるしさ……。
「よくわからないけど、多分平気。それに私、弟ほしかったんだ〜」
のほほん、と言う姫乃。全然平気そうじゃないんだけど。
「何言ってるの姫乃ちゃん!今はかわいい男の子だけど、夜は卑猥な危ないお姉さんだよぉ?」
「否定はしないけど、かなりムカつく」
「本当のことじゃん。前だって自分の沙良ちゃんを襲ったし」
いつからお前のになった。それに襲われたのは未遂だ。
……さて、どうしよっか。姫乃はすっかり乗り気だし、ちゃんと紫音さんにも言えば大丈夫かな?
だけど、猩色族はとことん人の話聞かないしなぁ。
「でも沙良。襲われたのは1回きりなんでしょ?」
「まぁ、そうだけど。」
「じゃあ大丈夫♪」
──それもそうか。それ以来、何もされてないし。何よりいい子だからね。心配いらないかな?
「じゃあ、そうしてもらう?翠くん。」
「ですが……。」
「もう、子供は遠慮しなくていいの。」
渋る翠くんをなんとか説得し、姫乃の家に居候することになった。早いほうがいいという事で、帰る姫乃と一緒に行った翠くん。
でも、いざ考えるともったいなかったな。翠くん、癒し系だし、家事できるし、いい子だし。
たまには遊びに来てもらおうっと。
「これで、朝昼晩ふたりきりだね♪」
!! み、翠くんやっぱ戻ってきてぇぇぇぇぇー!