第17話 倒錯の世界?
誰か私を助けて……。
◆第17話 前回同様、状況確認してみよう
それは休日の昼下がりの事──
「ねー沙良ちゃ〜ん」
ベッドに寝転がり、本を読む私をつつく朱鳥。返事するのが面倒で無視してたら、沙良ちゃん沙良ちゃんとしつこく私を揺さぶる。
「……なによ?」
さすがに鬱陶しくなって、上体を起こし、床にぺたりと座りこむ朱鳥に尋ねた。
相手にされたのが嬉しかったのか、朱鳥はパッと表情を輝かせる。
そして放った言葉はコレ。
「ひ・ま」
「…………」
「あぁ、シカトしないで!」
再び本を読み始めた私に焦る朱鳥。それさえも無視してると、本を取り上げられた。
(もうっ、良いところだったのに!)
渋々私はうるさい彼女の方へ向く。
「暇なら翠くんと遊んでくれば?」
「翠は買い物。今日はタイムセールなんだって」
……どこまであの子は家庭的なんだ。
家事もほとんどやってくれるし。嬉しいけど、私の料理の腕落ちそうだな。
「ね、だから沙良ちゃん一緒に遊ぼ?」
濡れた瞳で上目使い。演技と理性では分かってるんだけど、ぐっとくる。
可愛いなぁ……。
「聞いてる?沙良ちゃん」
首をかしげ、顔を近付けてきた。だから、あんたのアップはヤバイんだって!
「沙良ちゃん、顔赤い」
赤くもなるでしょうが!猩色族だかなんだか知らないけど、なんでそんな無駄に美少女なの!?
「いやん、それほどでも♪」
!? 心読まれたっ!
「ふふ。ね、遊ぼう……?」
いつもより数倍甘い声で耳元に囁かれる。体がゾクリと跳ねた。
朱鳥がベッドに乗り上げ、ゆっくりと私の肩を押してゆく。背中が柔らかい布団に触れて。朱鳥は私の足を跨ぐように四つん這い。
「ちょっ──」
上から見下ろされ、心臓が高鳴る。慣れない角度。
(いや、何この状態。なんで私朱鳥に押し倒されてるわけ?)
思考が上手く回らない。
彼女の綺麗な微笑に、背筋がゾクゾクする。そして、次第に朱鳥の顔が近付いてきて────。
「って、ストップストップ!アンタ何しようとしてんのよ!?」
「そんな野暮な事聞かないでvV」
私は本能的に身の危険を感じた。
(お、犯されるぅぅぅぅ!!)
「いやぁー!翠くん助けてぇぇぇぇ!」
「翠は買い物中」
「主婦かあの子はぁっ!!」
なんで肝心な時にタイムセール!?誰かコイツを止めて!
朱鳥は慌てふためく私を見て、クスクスと笑う。チクショー殴りたい。だいたいこの変態、なんかやけに怪力なんだけど?
「沙良ちゃん、可愛い」
そう言って、朱鳥は私の頬にチュッと音をたてて軽くキスする。
「……ッ」
一瞬のその感触に、肩が揺れてしまった。
(私、ノーマルなのにぃっ)
そっちの趣味はない。
そもそも、今まで手を出された事はなかったのに、なんでいきなり……。過去最高のセクハラも、言葉だけだった。いや、アレとかソレとかは銀だったし。
あり?もしかして銀の時のほうが変態度アップしてる?
「って、結局はどっちも変態じゃん!」
私はそう叫び、朱鳥の顔を押し返す。
「おとなしくして沙良ちゃん」
「できるか!──あっ」
振り回した腕が、朱鳥の手によってベッドに縫い付けられた。布団が乱れ、シーツに皺ができる。
(え、何コレ。そういう展開?そういう展開なの!?)
汗ダラダラの私とは対照的に、笑顔満面の朱鳥。なぜそんな楽しそうなわけ?
「あ、朱鳥……待って」
「い・や♪」
こっちが嫌じゃボケェェェ!
心の中でツッコミを入れている間にも、朱鳥の顔が再び下りてくる。
「いただきまぁ〜す」
「───ッ」
もうダメだ、そう思ってきつく目を瞑った瞬間
ガラッ
「沙良〜、入るよぉ?」
扉の開く音と、ゆったりとした緩いソプラノが顔を出した。
「ひ、姫乃」
「あ……、おとりこみ中だった?」
私達を見て、扉を閉める仕草をする姫乃に向原私は必死に首を振る。よく分からないけど、こんなにもグッドタイミングなんだ。去ってもらっては困る。っていうか、この変態と二人きりは嫌だ。
「ほ、ほら朱鳥!姫乃来たから退いてっ」
「え?自分は見られてても気にしな──ぐはぁ!」
危険なことをほざく朱鳥の腹に、蹴りをかましてやる。かなりの力を込めたからか、朱鳥はお腹を押さえてのたうちまわった。
(調子乗りすぎだバカ)
涙目の彼女を横目で睨み、私は体を起こす。
きょとん、とした表情をしてる姫乃を手招きした。
「相変わらず愛されてるね」
姫乃はストン、とベッドの上、私の隣に座りながらそんなことを言ってのける。私はため息混じりに
「からかわれてるだけよ」
と返した。
だってこんな変態、どうせ私じゃなくてもいいんだよ。人をおちょくるのが好きなだけ。
(そんなのに巻き込むなっつーの)
生憎、倒錯の世界に興味はない。いや、銀ならいいって訳じゃないよ?
「酷いよ沙良ちゃ〜ん」
私のふくらはぎに腕を回し、膝に頬をすり寄せてくる。
チッ、もう復活したか。治癒力高ぇな。
「ところで姫乃。なんで私の家に?」
気になってた事を聞く。いや、迷惑なんかじゃないけど。むしろナイス。
「えっと、ケーキ焼いたから食べてもらおうと思って」
そう答え、持っていた箱を私に渡す。う〜ん、ケーキ焼くなんて女の子らしい。本当かわいいわこの娘。
ありがとう、とお礼し、私は箱を開けた。中にあったのは、美味しそうなベリーパイ。色鮮やかで、キラキラした光がとっても綺麗。
「わぁ、すごい。早速食べよ!」
私が立とうとした時、
「ただいまです」
ガチャッ、という音と共に玄関から聞こえてきた。
「あ、翠帰ってきた〜」
そう言って、朱鳥はパタパタと彼のもとに走っていく。ああ、やっとタイムセールから帰ってきたのね。夕飯、なんだろう。
「沙良、ミドリって誰?」
首を傾げる姫乃。
……また説明しなきゃ駄目?
あーなってこーなってこーなったのォォォ!
ちょっとお色気♪前回とは打って変わって、朱鳥攻め攻めです。次回に続きますよ。