第16話 来客は幼馴染み
もうなにも言わないよ
◆第16話 『驚くなよ!?』って言われたから無反応なのになぜか怒られた
そうだよね。人生、大小なりに個人差は有れど、いろいろ起こると思うよ?
空から美少女が降ってきたり、遅れて弟がやって来たり、そのふたりは昼と夜で性別が変わったり、その上変態だったり。
人生一度きりだもんね。いろいろ体験した勝ちだよね。
だからもういいの。こうなったら最後まで付き合うさ。こんな心広い私には拍手〜。
なんて思うかぁぁぁぁぁぁ!!
嫌だよ、ものすごい嫌だよ!なんで私がそんな疲れる真似しなきゃいけないわけ!?
私ほど平凡を愛してる女はいないよっ!
え?なんでこんなに荒れてるかって?
聞いて!ぜひ聞いて!
だって、だってこの朱色変態美少女が……!
男連れこんでるぅぅぅ(私の部屋)。
しかもその男っていうのが、私の幼馴染みなわけ!いつのまにそんな仲良くなったの!?
「沙良ちゃん、顔恐いよ?」
ひょこ、と私の顔を覗きこむ朱鳥。そんな朱鳥の隣には、やや困惑気味の純が。
「……朱鳥、説明しなさい。この状態はなに?」
「この状態って?」
「あんたが純を連れてきた理由よ!だいたい何なの?久しぶりに、学校から別々に帰れたと思ったら、あんたは純と帰ってくるし。純も純よ!なんで当たり前のように此処に座ってるわけ!?」
ビシッ、と指差して責めよると、純は煮えきらない返事をする。彼自身、状況を理解できてないようだ。
「もー、沙良ちゃんったら、ヤキモチ?大丈夫。自分が好きなのは沙良ちゃ──痛ッ」
全部言いきる前に頭を叩いてやる。自意識過剰にも程がありすぎだわ。
「あの〜、おふたりさん」
不意に、純が言葉を発する。私と朱鳥は一緒に振り向いた。
「朱鳥ちゃんに呼ばれて来たけど、此処に俺いていいの?」
……きっと強制的に引っ張ってきたんだろうな、朱鳥。その光景が目に浮かぶ。
「ああ、帰っていいよ。ごめんね、うちのバカが迷惑かけて」
思えば、朱鳥と純って何気初対面?クラス一緒だから会ったことあるだろうけど。前は朱鳥、男だったしね。
「いや、迷惑じゃないけど。久しぶりに沙良の部屋来れたし」
「……そ?」
そういえば、あれからはお互いの部屋行き来してなかった。……もう、必要ないと思ってたし。
「え、なになに?ふたりはどういう関係?」
私と純の間に入りこんで、首を傾げる朱鳥。除け者にされたのが嫌だったのか、眉が下がってる。
かわいいなチクショー。黙ってりゃ美人なのに。
「……別に、ただの幼馴染みだよ。ね?」
「え、あっ、うん」
純の発言にあわてて同意した。少しだけ、胸がチクリと痛むのは、きっと気のせい。
「……純くん」
朱鳥がふと言う。え?と漏らした純の手を引っ張り、玄関へと連れていった。
「ちょっ、朱鳥!?」
置いてきぼりをくらい、ふたりを追い掛ける。そこには純を外へ出している朱鳥がいた。
「えっと、朱鳥ちゃん?」
戸惑っている純に朱鳥は更に素っ頓狂な言葉を放つ。
「帰って」
はぁぁぁぁぁ!?
何言ってんのコイツ!自分から連れてきて、さっさと門前払い!?
「朱鳥!なにバカなこと──」
「だって……」
小さくなる朱鳥。らしくなくてなんだか困る。いつもはものすごいポジティブで自己中で我が道を突っ走る朱鳥よ?控え目なんて似合わなすぎる。
「いや、いいよ。元々俺は用なかったし。帰るって言っても直ぐ隣だしね」
ハハッ、と爽やかに笑って、純は去って行った。閉められた扉がバタンと響く。
純、なんて良い奴なんだ……!さすが私の幼馴染み!
「ふーんだ。」
後ろで朱鳥がこぼす。なんだか不機嫌な声。なに?めずらしい。
「どうしたの朱鳥。」
そう聞くと、朱鳥は口を尖らせそっぽを向いた。頬は淡い薔薇色に染まっている。
「朱鳥?」
「だって、自分だけ除け者にするし。しかもなんか純くんと沙良ちゃん意味深な発言してさ。」
その後もぶつぶつと呟く彼女。
これはもしかして……
「ヤキモチ?」
朱鳥は黙って頷いた。
うわっ、ヤバイ。今の朱鳥ものすごく可愛い。なんだこの可愛さ。
コイツはあれだよ?あの朱鳥だよ?平然とセクハラしたりうちの食費を吸い付くす最悪な悪女だよ?
なのになんでこんないじらしいのーーーー!?
「…自分で連れてきたのに?」
「だ、だって!」
朱鳥はバッと顔をあげる。
いや、なんか意地悪したくなっちゃって。私サドなのかな。
私をうるんだ瞳で見上げる朱鳥。ヤバ、心臓がかなり働き者になってるよ。
「目が合ったから、これは招くしかないなと──」
「待て待て待て。招くもなにも私の部屋だぞ?いや、その前にお前は目が合ったら誰でもかれでも連れこむのか?」
「誰でもじゃないもん!フィーリングが合った人だけだよ!」
「偉かねえッ!!」
やっぱバカだわこの娘!
「沙良ちゃんは朱鳥のなんだからね!」
そう宣言して、私の腰に腕を絡めてくる。
普段なら『んなわけあるか!』って言って殴るところだけど、なんかかわいくてそんな気になれない。
……かなりの重症だわ私。
「仕方ないな」
ため息混じりに漏らして、朱鳥の頭を撫でてあげると、彼女は無邪気に笑った。
――キッチン――
「あれ、お客さん帰っちゃったんですか?」
お盆にカップを3つのせ、どこから出したのかお菓子まで用意してる翠くん。
「あ、あのさ、そんな家政婦みたいな真似しなくていいよ?」
「いえ、居候の身分ですからこのくらいさせて下さい!」
「……健気だね」
ずいぶん家庭的な男の子だな。まぁ、朱鳥の弟やってるんだから、反動かもね。