第15話 二重人格
プラスマイナスゼロ?
◆第15話 分からなくてもとりあえず『うん』って言っとけ
またいつもの様に、目を覚ます。だけど今日は朝日の光ではなく、キッチンからただよう香ばしい匂いの所為だった。
(コーヒー…トースト……?)
香りのもとを予想しながら、隣に寝る異界人を見る。満月を過ぎたせいか、もう女の子に戻っていた。少しホッとして、傍らに置いた携帯を見ると、時刻は6時半。
(朝食作らなきゃ…アレ?でもこの香り………アレ?)
寝惚けていた意識が、だんだんとクリアになる。私は異常に気付いた。
バコピンッ!!
急いで飛び起き、かなり乱暴に扉を開ける。なにか変な音がしたが、この際気にしていられない。
(私以外に誰が朝食を作るっていうの!?)
すっかり目覚めた頭は、冷静になんてなってくれない。驚きの原因を突き止めるべく、私はリビングに走った。
「あ、おはようございます。」
「…おはようございます?」
私が見たものは、13,14くらいの少年がコーヒーを煎れてる姿だった。
「パンとサラダ作ったので、どうぞ食べて下さい。あ、コーヒー砂糖いれますか?」
「はぁ、どうも…じゃあミルクだけ……。」
私はそう頼んで、椅子に座り、並べられた食事を、口に運ぶ。
「……おいしい。」
つい言葉に出てしまう程それは美味しかった。私より料理の才能ありそうだ。主婦業女子高生のプライドが傷つき軽くショック。
「本当ですか?口にあってよかったです♪コーヒーどうぞ。」
「ありがとう。」
満面の笑顔がかわいいな、なんて思いながら、その少年からコーヒーを受け取った。
(ふぅ…落ち着く。)
………………ん?
なんかおかしいよね?
「―ってそうだよ!!和んでる場合じゃないッッ!君誰!?」
私がそう叫ぶと、少年は『え?』と、目を丸くする。
私よりいくつか年下に見える少年は、黄緑の髪に、紫の瞳という人間上有り得ない容姿。
───なんかこれ、デジャブ
「どーしたの沙良ちゃん?目玉焼き作ろうとしたら、玉子から鶏出てきた?」
長い朱色の髪を垂らし、大きく欠伸しながら起きてきた朱鳥。
「あ、朱鳥助けて!」
「アレ?ツッコミなし?って、あ、翠じゃん。朝食作ってくれたの?」
朱鳥は目の前にいる少年に驚きもせず、さも当然かの様に振る舞う。おいしそー、とか言ってサラダに手伸ばしてるし。
「ちょ、ちょっと!どういう事?この男の子誰?」
「んん〜?あ、そっか。昨日ちゃんと説明してなかったね。」
朱鳥が呑気にそう言うと、黄緑の少年はまたもや『えっ』、と声を零す。
「朱鳥僕の事言わなかったの?」
「だって昨日はゴタゴタしてたんだもん。」
なんだか言い争ってる。どういう事?
「じゃあ、改めて紹介します。朱鳥の弟で【紫音翠】といいます。これから色々とよろしくお願いします。」
ペコ、とおじきする少年。
え?紫音?弟?…え?
「混乱してるね沙良ちゃん。」
「だ、だって紫音さんは私より年上で朱鳥の姉…」
言いかけたところで、再び私の脳で等式ができた。
紫音さん=朱鳥の姉
朱鳥の姉=猩色族
猩色族=朝と夜で性別転換
――つまり、夜女性だった紫音さんは昼は男になるので…
「えええぇぇぇぇぇ!!!」
「ナイスリアクション★」
パチン、とウィンクして親指をたてる朱鳥。
だって昨日と性別どころか年齢や人格まで違うじゃん!!
「えっと、沙良さん。昨晩はなにかご無礼な事しましたでしょうか?なんか僕、性別変わると人格まで変わって、その上記憶もとぶもので……」
遠慮がちに、うつ向いて頬をかく。なるほど、朱鳥以上に二重人格なのね。
「昨日沙良ちゃんを押し倒したんだよ?」
「えええっ!!」
しかも純情少年。朱鳥の発言に顔真っ赤にして慌てる姿はなんか可愛い。
(あら?でも……)
「…翠くん。なんで昨日はずっと女だったの?」
「あ、それはきっと時差ボケの様なものだと思います。」
時差ボケ!!?
異世界と外国って似てるの!?異文化コミュニケーション!?
って、私自分で言っておいて意味不明だよ。
「あ、そういえば朝食作ってくれてありがとうね。」
ふと思い出し、感謝の言葉を述べる。
「いえ、住ませて頂けるのですから、これくらい当然です!!」
はにかんだ様に笑う。
朱鳥と同じ血が流れてるとは思えない!!感動して泣きそう!
「でも沙良ちゃん気を付けたほうがいいよ?紫音は平気でセクハラするし、翠だって純情とはいえ思春期真っ盛りだもん〜。」
おどけて言う朱鳥。お前は存在そのものがセクハラだ。
「うるさいよ朱鳥!存在自体がセクハラの朱鳥に言われたくない!!」
「…翠くん、ツッコミ属性?」
「まぁ、どっちかといえば―」
好感度、倍率ドン!!